平23(レ)1828号 リース料等請求控訴事件

裁判年月日  平成24年12月13日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平23(レ)1828号
事件名  リース料等請求控訴事件
裁判結果  控訴棄却  文献番号  2012WLJPCA12138017

要旨
◆被控訴人会社が、控訴人会社に対し、被控訴人会社が本件会社からセキュリティシステムを購入して控訴人会社に貸し付けるリース契約(本件リース契約)を締結したが、控訴人会社はリース料の支払を怠って期限の利益を喪失したとして、リース料残額等の支払を求めたところ、原審が請求を認容したことから、控訴人会社が控訴した事案において、本件リース契約締結において信義則上被控訴人会社を本件会社と一体と解すべき事情は見当たらず、被控訴人会社が同リース契約の時点で控訴人会社の主張する本件会社の詐欺行為を知っていたと認めるに足りないとして、同リース契約の詐欺取消しの主張を排斥するとともに、錯誤無効、及び情報提供義務違反による債務不履行解除を否定し、また、控訴人会社の営業のために締結された同リース契約は、特定商取引に関する法律9条1項に基づいて解除できないと判断したほか、同リース契約の公序良俗違反及びリース料請求の信義則違反等に係る控訴人会社の各主張をいずれも排斥して、控訴を棄却した事例

裁判経過
第一審 東京簡裁 判決 平23(ハ)135266号

参照条文
民法1条2項
民法90条
民法95条
民法96条2項
民法541条
消費者契約法4条
消費者契約法5条
特定商取引に関する法律9条1項
特定商取引に関する法律26条

裁判年月日  平成24年12月13日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平23(レ)1828号
事件名  リース料等請求控訴事件
裁判結果  控訴棄却  文献番号  2012WLJPCA12138017

岡山県倉敷市〈以下省略〉
控訴人 有限会社共栄土木
代表者代表取締役 A
上記訴訟代理人弁護士 今田俊夫
同 佐々木正有
同 清野彰
同 片山裕之
同 千田卓司
同 保津大輔
東京都港区〈以下省略〉
被控訴人 三井住友ファイナンス&リース株式会社
代表者代表取締役 B
上記訴訟代理人弁護士 星野隆宏
同 金子文子
同 三浦修
同 和田宣喜
同 岡田裕貴
同 小口智

 

 

主文

1  本件控訴を棄却する。
2  控訴費用は,控訴人の負担とする。

 

事実及び理由

第1  控訴の趣旨
1  原判決を取り消す。
2  被控訴人の請求を棄却する。
第2  事案の概要
本件は,被控訴人が,控訴人に対して,リース契約に基づき,リース料残額163万9180円及び控訴人が期限の利益を喪失した後の平成21年12月27日以後の遅延損害金年14%の支払を求める事案である
原審は,被控訴人の請求を全部認容したため,控訴人がこれを不服として控訴した。
1  前提事実
(1)  当事者等
ア 控訴人は,土木工事業等を目的とする有限会社である。
イ 被控訴人は,賃貸借及びリース業務,中古物品の販売,メンテナンス業務等を目的とする株式会社であり,平成19年10月1日,訴外三井住友銀リース株式会社(以下「訴外会社」という。)を吸収合併した。
ウ 訴外ティティコム株式会社(以下「訴外ティティコム」という。)は,複合機,セキュリティシステム等の販売を行う株式会社であったが,平成22年8月23日に,同社につき,破産手続開始決定がなされた。
エ 訴外株式会社ニモ・コーポレーション(以下「訴外ニモ」という。)は,複合機,セキュリティシステム等の販売を行う株式会社であったが,実質的に廃業し,同社の岡山営業所の事業を訴外ティティコムが引き継いだ。
(2)  控訴人と被控訴人は,平成19年10月4日,以下の内容で,被控訴人が訴外ニモから,セキュリティシステム(型式:SG-3000,メーカー:ダイドーエンタープライズ)(以下「本件リース物件」という。)を購入し,控訴人に対して,本件リース物件を貸し付けるリース契約(以下,「本件リース契約」という。)を締結した(甲1)。
ア リース期間
平成19年10月4日から平成26年10月3日までの7年間
イ リース料
月額3万1710円(消費税込み)の84回払い
総額266万3640円(消費税込み)
ウ 支払方法
毎月27日限り,月額リース料を支払う。
ただし,第1回と第2回の支払は,平成19年11月26日に併せて6万3420円を支払う。
エ 遅延損害金
年14パーセント
オ 期限の利益喪失
控訴人が,リース料の支払を1回でも怠ったとき,本件リース契約の契約条項(以下「本件リース条項」という。)の1つにでも違反したときなど,本件リース条項17条1項各号に定める事由に該当したときは,被控訴人による何らの通知・催告なしに,残債務につき期限の利益を喪失する。
カ 解除事由
本件リース条項17条1項各号に規定する期限の利益喪失事由が生じた場合,被控訴人は,催告なしに本件リース契約を解除することができる。
(3)  控訴人は,被控訴人に対し,平成21年11月分までのリース料を支払ったものの,同年12月26日の支払を怠った。その後,控訴人は,被控訴人に対して,本件リース契約のリース料として,合計20万円を支払っている。
2  争点
(1)  本件リース契約を詐欺により取消しできるか。
(2)  本件リース契約は錯誤により無効か。
(3)  本件リース契約を債務不履行により解除できるか。
(4)  本件リース契約を特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)第9条1項に基づき解除できるか。
(5)  本件リース契約を消費者契約法第5条1項,同4条に基づき取消しできるか。
(6)  本件リース契約は公序良俗違反により無効か。
(7)  本件リース契約に基づくリース料支払請求は信義則違反か。
3  争点に対する当事者の主張
(1)  争点(1)(詐欺取消の可否)について
(控訴人)
ア 控訴人の従業員であるC(以下「C」という。)は,平成19年2月21日頃,訴外ニモの営業社員であるD(以下「D」という。)から,本件リース契約のリース料は,月額3万1710円であるが,訴外ニモが控訴人に対してキャッシュバックを行うため,控訴人の実質的な負担は月額5000円であるなどとの虚偽の説明を受けたため,リース期間中,訴外ニモから確実にキャッシュバックが受けられるなどと誤信し,被控訴人との間で,本件リース契約を締結した。
イ 控訴人は,平成23年2月8日に送付した通知書により,被控訴人に対し,本件リース契約を取り消す旨の意思表示をした。
ウ 被控訴人は,訴外ニモを自己のリース契約締結補助者として利用し,利益を拡大していたのであるから,被控訴人と訴外ニモは一体として評価されるべきであり,訴外ニモは民法96条2項の第三者には該当しない。
(被控訴人)
ア 訴外ニモによる詐欺の事実及びCの誤信の事実は不知又は否認する。
控訴人においては,本件リース契約書記載のリース料の負担があることについては誤信はない。
イ 被控訴人は,控訴人と訴外ニモとの間の本件リース物件にかかる交渉には一切関与しておらず,また,被控訴人と訴外ニモは,本件リース物件に関する売買契約当事者以上の関係にはないから,両者を一体として評価することはできず,訴外ニモは民法96条2項の第三者に該当する。
そして,被控訴人は,訴外ニモによる詐欺の事実を知らなかったのであるから,控訴人は本件リース契約を取り消すことはできない。
(2)  争点(2)(錯誤の有無)について
(控訴人)
ア Cは,リース期間中,訴外ニモから確実にリース料のキャッシュバックが受けられるなどと誤信したため,被控訴人との間で,本件リース契約を締結した。
イ 控訴人が本件リース契約を締結するに至った上記動機は,訴外ニモの営業社員であるDに表示されているところ,被控訴人と訴外ニモは一体として評価されるべきであるから,被控訴人に対しても上記動機が表示されていたものといえ,上記動機は本件リース契約の要素になっていたといえる。
(被控訴人)
ア Cの誤信の事実は知らない。
イ 訴外ニモからリース料のキャッシュバックを受けられるという認識は本件リース契約を締結するに至る動機にすぎず,かかる動機は,被控訴人の預かり知らないものであり,本件リース契約の要素ではない。
被控訴人と訴外ニモを一体として評価することはできず,上記動機が訴外ニモに表示されていたことにより,被控訴人にも表示されていたということはできない。
(3)  争点(3)(債務不履行解除の可否)
(控訴人)
ア 被控訴人は,契約勧誘段階において,契約締結補助者である訴外ニモを通じて,控訴人に対し,本件リース契約に関して,適切な情報提供を行う義務があった。
それにもかかわらず,訴外ニモの営業社員であるDは,Cに対し,訴外ニモから確実にリース料のキャッシュバックを受けられるなどと虚偽の情報提供を行ったのであり,被控訴人に情報提供義務違反が認められる。
イ また,一般に,リース契約においては,販売店は商品販売代金を一括でリース業者から受領できるため,社会的信用のない悪質業者が入り込む可能性が高いこと,販売店による違法行為が横行していたことから,リース業者である被控訴人は,本件リース契約締結段階においても,販売店である訴外ニモの不適切勧誘行為を是正するため,自ら情報提供する義務を負っていた。
それにもかかわらず,被控訴人は,本件リース契約を締結する際,訴外ニモの勧誘行為の適切性等について何ら確認を行っていないのであり,被控訴人に情報提供義務違反が認められる。
ウ 控訴人は,平成23年2月8日に送付した通知書により,被控訴人に対して,本件リース契約を解除する旨の意思表示を行った。
(被控訴人)
控訴人の主張ア及びイは否認又は争う。
訴外ニモは,被控訴人の契約締結補助者ではないし,控訴人主張の情報提供義務は,本件リース契約の内容となるものではない。
(4)  争点(4)(特商法上の解除の可否)
(控訴人)
ア リース業者は,販売店と一体をなして,一つの訪問販売を形成していることから,特商法第2条1項1号の販売業者等に当たると解釈されており,被控訴人は,同項の「販売業者」に当たる。
イ 本件リース契約は,訴外ニモの営業社員であるDが控訴人事務所を訪れ,締結されたものであり,同法第9条1項の「営業所等以外の場所」で締結された契約に当たる。
ウ 本件リース物件は,本件リース契約締結当時の同項の「指定商品」に当たる。
エ 控訴人は,土木建築業を営むもので,セキュリティを営業の対象とするものではなく,本件リース契約によって利潤を得る目的はなかったこと,本件リース物件は,控訴人の事業に不要のものであり,実際に使用していなかったこと,本件リース契約締結当時,控訴人の従業員は,5~6人程度で,半数は控訴人代表者の親族であり,収益状況は,従業員の賃金を支払うとほとんど残らない程度のものであったことから,本件リース契約は,同法第26条1項1号の「営業のために若しくは営業として」締結された契約ではない。
オ 控訴人は,平成23年2月8日に送付した通知書により,被控訴人に対して,本件リース契約を解除する旨の意思表示を行った。
(被控訴人)
控訴人主張ア及びエは否認又は争う。
ア 控訴人は,販売店である訴外ニモと一体となって,被控訴人から利益を詐取する関係にあり,特商法による保護を享受するに値せず,被控訴人と訴外ニモが一つの訪問販売を形成していると評価することは出来ないから,被控訴人は,同法第2条1項1号の販売業者には当たらない。
イ 本件リース物件は,セキュリティシステムであり,主として個人用に使用するためのものではないこと,控訴人は,本件リース契約当時,約3000万円もの年間売上を計上し(乙12),創業以来10年もの間土木事業を営み(甲1の1),自宅とは別の営業所を有し,かつ総勢10人もの従業員を雇用していたのであり,会社としての実体を有していたこと,控訴人は,事業所において本件リース物件を利用していること,本件リース契約のリース料を控訴人の決算報告書の「販売費及び一般管理費」の「賃借料」に計上していることから,本件リース契約は,営業のために若しくは営業として締結されたものである。
(5)  争点(5)(消費者契約法上の取消の可否)について
(控訴人)
ア 控訴人は,零細事業者であったのであり,実態は個人と異ならないから,情報の質・量及び交渉力の格差から生じる不公正の是正を図る同法の趣旨からすると,同法第2条の消費者に当たる。
イ 被控訴人は,訴外ニモに対し,被控訴人と控訴人との間の本件リース契約の締結について媒介を委託しており,同法第5条1項の「第三者に対し,当該事業者と消費者との間における消費者契約の締結について媒介をすることを委託をし」たものといえる。
ウ 訴外ニモの営業社員であるDは,Cに対し,訴外ニモから確実にリース料のキャッシュバックを受けられるなどと虚偽の説明を行ったのであり,かかる行為は同法第4条1項1号の重要事項についての不実の告知に当たる。
エ 将来において,控訴人が訴外ニモからキャッシュバックを受けられるかは不確実な事項であるにもかかわらず,Dは,Cに対して,本件リース契約が終了するまで,控訴人が訴外ニモから確実にキャッシュバックを受けることができるとの勧誘を行ったのであり,かかる行為は同項2号の断定的判断の提供に当たる。
オ Dは,Cに対して,訴外ニモが破綻した場合は,月々のリース料の負担が高額になること,リース契約を中途解約した場合は残リース料を一括して支払わなければならないこと等について何も説明しなかったのであり,かかる行為は,同法第4条2項の不利益事実の不告知に当たる。
カ Cは,Dの上記行為により,本件リース契約につき,リース期間中,訴外ニモから確実にキャッシュバックを受けることができるなどと誤信した。
キ 控訴人は,平成23年2月8日に送付した通知書により,被控訴人に対して,本件リース契約を取り消す旨の意思表示を行った。
(被控訴人)
ア 控訴人主張のDの行為については知らない。
イ 控訴人は,事業者であり,同法の消費者には当たらない。
(6)  争点(6)(公序良俗違反の有無)について
(控訴人)
本件リース物件の販売価格(以下「本件リース物件の実勢販売価格」という。)は,せいぜい70万円程度のものであるにもかかわらず(訴外ニモの代表者はその仕入価格は20万円程度と話していた。),本件リース契約におけるリース総額は266万3640円であり,その差は社会的に是正できない程に不均等なものであって,本件リース契約を存続させることは被控訴人の暴利行為に該当する。
(被控訴人)
本件リース契約において,物件の選定と価格の交渉及び決定は,販売店である訴外ニモと控訴人の間で行われ,被控訴人は全く関与しておらず,リース料の設定は,訴外ニモと控訴人で設定した物件代金に金利,動産保険料,リース会社手数料等を織り込んで被控訴人が算定したものである。
本件で,本件リース物件の仕入れ価格と本件リース料との間に過大な差があったとしても,被控訴人は訴外ニモに対し,訴外ニモと控訴人の間で設定された物件代金211万3965円を平成19年10月19日に支払済みであり,訴外ニモが利益を得ているだけである。
しかも,そうした利益は,控訴人と訴外ニモとの間の裏のキャッシュバック契約によって,結局は控訴人が享受しているのであるから,被控訴人に対して暴利などと主張することは信義に反する。
(7)  争点(7)(信義則違反の有無)について
(控訴人)
被控訴人は,訴外ニモの違法な勧誘行為を認識していたにもかかわらず,それを認容し,本件リース契約を締結した。
また,訴外ニモの違法な勧誘行為を認識していなかったとしても,リース契約の性質上,社会的信用のない悪質業者が入り込む可能性が高いこと,販売店による違法行為が横行しており,経済産業省による平成17年12月6日の特商法の通達改正や社団法人リース事業協会の発表等により,これを知り得る状態にあったことから,被控訴人には,訴外ニモの違法な勧誘行為について予見可能性があった。そして,被控訴人には,本件リース契約を締結するにあたり,訴外ニモによる勧誘方法を確認するなどし,控訴人が不測の損害を被ることを防止する義務があったにもかかわらず,被控訴人はこの義務を果たさなかった。
このように,本件リース契約は,被控訴人の違法行為によって成立したのであり,これに基づき,被控訴人が控訴人にリース料の支払いを請求することは信義則に反する。
(被控訴人)
被控訴人が訴外ニモの違法な勧誘行為を認識していた事実はないし,また,被控訴人は控訴人の主張するような義務を負わない。
本件は,むしろ,控訴人が,訴外ニモと一体となって,被控訴人から本件リース物件の代金を詐取し,その一部をキャッシュバックという形で受領することを目的とし,かかる真意を秘して,本件リース契約を締結したものである。
被控訴人においては,社団法人リース事業協会に正会員として所属し,同協会を中心として,悪質サプライヤー事案に対する取り組みはリース業界全体で真摯に対応しているものの,本件リース契約締結当時においては,こうした事案は全く想定外(悪質電話機リースの事案とは全く異なる形態のもの)であるし,全く顕在化していなかったのである。
また,本件リース契約は,あくまでユーザーのみに対してファイナンスを付与するものである以上,販売店に関して詳細な調査をする必要性はない。
第3  争点に対する判断
1  後掲証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)  被控訴人の事業内容(甲3,証人E)
ア 本件当時,被控訴人のリース契約締結手順は以下のとおりであった。
(ア) 販売店と顧客の間で,物件の選定,価格の決定等を行う。ここで決定された価格に,金利,動産保険料,リース会社手数料等を織り込んでリース料が算定される。
(イ) いわゆるワンライティングの複写式の契約書式に,物件名,数量,リース期間,月額リース料を含む所要事項を記入した上,販売店が,顧客の申込みを取り次ぐ形で,被控訴人に対し,上記契約書式の1枚目のリース契約申込書を送付し,これによりリース契約の申込みがなされる。
(ウ) 被控訴人は,リース契約申込書を審査して必要事項が記載されているかを確認した上,顧客やその連帯保証人について信用情報機関等に照会を行い,信用調査を行う。
(エ) 顧客が与信審査を通過した場合,販売店に通知がなされ,販売店は,顧客にその旨伝えると供に,被控訴人に対し,上記契約書式の残りの書式を送付する。
その後,販売店は,顧客と取り決めた日時に,リース物件を納入し,顧客はリース物件を検査し,瑕疵がないことを確認する。
(オ) 控訴人は,顧客に対して,リース契約の内容,契約意思,リース物件の納入等を電話で確認する。
電話確認において問題がなければ,被控訴人は,リース契約の申込を承諾し,リース契約書の契約日の欄に契約日を記載して,リース契約を成立させる。
イ 被控訴人は,本件当時,特定の販売店と取引を行う場合,最初の取引を行う際に,当該販売店が実在しているか等の調査を行い,他のリース会社やメーカーなどに当該販売店に悪い噂がないかなどの問い合わせを行った上,取引を行うかどうかの判断をしていた。控訴人が,特定の販売店と継続的に取引を行う場合,業務提携契約を締結することがあったが,訴外ニモとの間では,業務提携契約が締結されたことはなかった。
(2)  本件リース契約締結の経緯(乙14,証人C)
ア Cは,平成19年9月頃,訴外ニモの営業社員であったDから,電話でリース契約を締結するよう勧誘を受けた。Cがパソコンのリースができるか尋ねたところ,Dは,本件リース物件のリースを行えば,無償でパソコンを交付する,控訴人のリース料の実質的負担は約5000円である旨の説明をした。
イ Dは,平成19年9月21日,控訴人の事務所(以下「本件事務所」という。)を訪れた。その際,Cは,Dが持参したリース契約申込書に記入し,本件リース物件にかかるリース契約申込書を作成した(乙5)。
ウ なお,その際,Dは,Cに対して,グラントンファーストプレミアムという名称のパソコンソフトのリースの勧誘を行い,控訴人のリース料の実質的負担は,本件リース物件と併せて約5000円である旨説明した。
そこで,Cは,Dが持参したリース契約申込書に記入し,以下の内容で,上記パソコンソフトにかかるリース契約申込書を作成した(乙6)。
(ア) リース料 月額1万5015円
(イ) リース期間 72ヶ月
(ウ) リース会社 NECキャピタルソリューション株式会社
(エ) 販売店 訴外ティティコム
エ DとCは,同日,リース料のキャッシュバックを目的として,訴外ティティコムが控訴人から,控訴人所有のPIXUS-MP10を代金90万3000円(月額4万3000円,21回払い)で買い取る旨の商品売買契約書を作成した(乙8)。
オ その後,業者によって,本件事務所内に本件リース物件が使用可能な状態で設置された。また,本件事務所にサービスとしてのパソコンが郵送で届き,上記パソコンソフトはDにより持参された。
カ 被控訴人は,同年10月4日,控訴人に対して,本件リース契約に関し,契約意思,物件名,リース料,リース期間,本件リース物件の納入などを電話で確認し,本件リース契約が締結された(甲2)。
キ その後,上記エの商品売買契約に従い,訴外ティティコムから控訴人に対して,合計90万3000円が支払われた。なお,同契約はキャッシュバックを目的とするものであったため,PIXUS-MP10は本件事務所に置かれたままであった。
ク 本件当時の本件リース物件の実勢販売価格は,設置費用を含め70万円程度(税込み)であった(平成24年6月12日付け調査嘱託回答,弁論の全趣旨)。
ケ なお,控訴人は,平成19年5月にも,訴外ニモのDから,同様の加入を受け,コピー機及びパソコンソフトのリース契約を締結したが,これらのリース会社は,株式会社クレディセゾン及びNECキャピタルソリューション株式会社であった。
(3)  控訴人の事業の状況等(乙14,証人C)
ア 控訴人は,平成9年7月10日に設立され,平成21年3月末に廃業した。
本件当時,控訴人代表者が代表取締役を務めていたが,実際の業務は,同人の娘の夫であったCが取り仕切っていた。
本件当時,控訴人の従業員は少なくとも6人で,控訴人代表者及びCの外,控訴人の妻,娘2人及び親族以外の従業員1人がいた(なお,控訴人は,本件リースの申込みに際して,従業員は10名であると申告している(甲1の1)。)。
イ 控訴人は,本件当時,道路の拡幅工事や水路工事などの県や市の公共事業,民間の宅地の造成工事等を従業員及びアルバイトを使って行っており,本件事務所では,経理や書類の整理等の事務作業がなされていた。
また,控訴人代表者の自宅は,控訴人の事務所から50m程度離れた場所にあり,Cの自宅は本件事務所から10km程度離れた場所にあった。
ウ 控訴人は,その売上として,平成17年7月1日から平成18年6月30日までの決算期については4170万2137円(乙10),平成18年7月1日から平成19年6月30日までの決算期については3764万9677円(乙11),平成19年7月1日から平成20年6月30日までの決算期については3108万0712円(乙12)を計上していた。
エ 控訴人は,本件リース契約に基づくリース料を経費として計上していた(争いがない)。
(4)  リース契約に対する公的機関の対応
経済産業省は,平成17年12月6日,電話機等リース訪問販売において,販売店により「今の電話機が使えなくなる」,「電話代が安くなる」等の不実を告げる勧誘行為が行われた事例に係る苦情相談が増加したのを受けて,以下のような対応を行った(乙15)。
ア 以下のように,特商法の通達改正を行った。
(ア) 同法第2条の「販売業者等」解釈について,例えばリース提携販売のように,一定の仕組みの上での複数の者による勧誘・販売等であるが,総合してみれば一つの訪問販売を形成していると認められるような場合には,販売店及びリース会社のいずれも販売業者等に該当することが明示された。
(イ) 同法第26条1項1号の解釈について,契約の目的・内容が営業のためのものである場合に同法が適用されないという趣旨であり,契約の相手方の属性が事業者や法人である場合を一律に適用除外とするものではないから,事業者名で契約を行っていたとしても,個人用・家庭用に使用するためのものであった場合には適用され,特に実質的に廃業していたり,事業実態がほとんどない零細事業者の場合には適用される可能性が高いことが明示された(乙22)。
イ 社団法人リース事業協会に対する指導
社団法人リース事業協会に対し,電話機等リースの審査強化,提携販売事業者の総点検及び取引停止を含めた管理強化,苦情相談体制の整備等の取組を早急に講ずる旨の指導が行われた。
2  争点(1)について
(1)  控訴人は,訴外ニモによる詐欺があったとして,本件リース契約の詐欺取消を主張するのに対し,被控訴人は,本件は,民法第96条2項の第三者による詐欺であり,被控訴人が訴外ニモによる詐欺の事実を知らなかった以上,詐欺取消はできない旨主張するので,以下検討する。
(2)  本件のようないわゆるファイナンス・リースにおいて,販売店とリース会社との間の売買契約とリース会社と顧客との間の賃貸借契約との間には密接な関係にあるとは言えるものの,両者は,あくまで別個の当事者間における別個独立の契約関係であって,販売店とリース会社とが信義則上一体として評価されるべき特段の事情があるような場合でない限り,販売店は,リース会社と顧客との間の賃貸借契約においては第三者であり,同賃貸借契約の締結に際し,販売店に顧客に対する何らかの詐欺行為があったとしても,顧客は,リース会社においてその事実を知っていたときでなければ,これを取り消すことはできない(民法第96条2項)。
(3)  これを本件についてみると,前記認定事実によれば,被控訴人は,訴外ニモとの間で複数回の取引を行ったことはあったものの,両者の間に資本関係などはなく,業務提携契約も締結されていない。本件リース契約締結の手続においても,対象となる物件の選定や代金額等の取引条件の決定は専ら控訴人と訴外ニモとの間で行われ,被控訴人は,賃貸借契約の締結に際し,自ら控訴人の信用調査を行い,控訴人の契約意思,物件名,リース料,リース期間,対象物件の納入の有無等も自ら確認の上で,本件リース契約を締結し,訴外ニモに対し,対象物件の売買代金額全額を支払っている。また,控訴人は,訴外ニモの勧誘を受けて,本件リース契約を含め,4件のリース契約を締結しているが,本件リース契約以外は,別のリース会社との間で締結されたものである。
以上を総合すれば,本件リース契約締結において,信義則上被控訴人を訴外ニモと一体と解すべき事情は見当たらず,また,被控訴人が,本件リース契約の時点において,控訴人が主張する訴外ニモの詐欺行為を知っていたと認めるに足りる証拠もない。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
3  争点(2)について
控訴人は,本件リース契約に係るリース料の実質的負担が月額5000円程度であると誤信したため,本件リース契約を締結したのであり,控訴人が本件リース契約に至った上記動機は,被控訴人と一体として評価すべき訴外ニモに表示され,本件リース契約の要素になっていたとして,本件リース契約の錯誤無効を主張する。
しかし,前記2で述べたとおり,本件において,被控訴人と訴外ニモを一体として評価することはできないから,控訴人の上記主張を認めることはできない。
4  争点(3)について
控訴人は,本件リース契約の勧誘段階において,被控訴人の契約締結補助者である訴外ニモに情報提供義務違反があったとして,本件リース契約の債務不履行解除の主張をする。
しかし,前記2で述べたところによれば,訴外ニモに情報提供義務があるとしても,それを被控訴人のものと評価するに足りる事実は認められないし,被控訴人に,控訴人が主張する情報提供義務を認めることもできず,控訴人の上記主張を認めることはできない。
5  争点(4)について
(1)  控訴人は,特商法第9条1項に基づき,本件リース契約の解除を主張する。
前記1のとおり,同法第2条1項の販売業者等の解釈については,平成17年12月6日の通達改正により,リース提携販売のように,一定の仕組みの上での複数の者による勧誘・販売等であるが,総合してみれば一つの訪問販売を形成していると認められるような場合には,販売店及びリース会社のいずれも販売業者等に該当することが明示されるに至っており,同法が訪問販売等の取引を公正にし,購入者等の利益の保護を図ることを目的として(同法第1条),クーリングオフ等の制度を定めていることに鑑みれば,同法の適用に当たっては,販売店とリース会社を一体のものとして評価し,顧客がリース契約についてクーリングオフを行うことを認める余地があるものといえる。
(2)ア  被控訴人は,本件リース契約は,同法第26条1項1号の営業のために若しくは営業として締結するものに該当するため,同法第9条1項の適用は除外される旨主張する。
前記1のとおり,同法第26条1項1号については,上記通達改正により,契約の目的・内容が営業のためのものである場合に同法が適用されないという趣旨であり,契約の相手方の属性が事業者や法人である場合を一律に適用除外とするものではないから,事業者名で契約を行っていたとしても,個人用・家庭用に使用するためのものであった場合には適用され,特に実質的に廃業していたり,事業実態がほとんどない零細事業者の場合には適用される可能性が高いとされており,前記した同法の趣旨も鑑みれば,同号の営業のために若しくは営業として締結するものに該当するか否かは,当該事業者の規模,対象となる物件の性質,契約目的,事業者が行っている営業との関連性の程度といった事情を総合的に考慮して実質的に検討すべきであるといえる。
イ  そこで,本件について検討するに,前記1で認定したとおり,控訴人は,本件当時,少なくとも従業員は6人おり,アルバイトも使って県や市の公共事業,民間の宅地の造成工事等を行っていたこと,控訴人代表者の自宅とは別に本件事務所を置き,そこで,経理や書類の整理等の事務を行っていたこと,年間3000万円もの売上を計上していたことが認められ,実質的に廃業していたような事情や代表者1人の零細事業者であったというような事情は認められず,実態を伴った事業を行っていたものといえる。そして,本件リース物件は,本件事務所に設置され,本件リース契約に伴うサービスとして訴外ニモから提供されたパソコンも,控訴人の事業のために使用されていることからしても,本件リース物件が個人用・家庭用に使用するためにリースしたものというような事情は認められず,本件リース物件は控訴人の事業のためにリースされたものと認められる。
これに対し,控訴人は,本件リース物件は控訴人の事業ために必要なものではなく,実際に本件リース物件を使用していなかったのであるから,同号の営業のために若しくは営業として締結するものに当たらない旨主張するが,上記のとおり,本件リース物件は事業のためにリースされたものと言えるのであり,リース期間開始後,実際に使用していなかったという事情があったとしても,上記判断を左右するものではない。
また,控訴人は,セキュリティシステム自体を営業の対象にしていたものではないから,営業のために若しくは営業として締結するものに当たらない旨主張するが,リース物件自体を営業の対象にしていなくても,事務所の備品の購入など営業のための使用を目的とするものであれば,営業のために締結したと同様に言えるから,控訴人の上記主張を採用することはできない。
ウ  したがって,本件リース契約は,控訴人の営業のために締結したものといえ,同法第26条1項1号に該当する。
(3)  以上により,控訴人が,特商法第9条1項に基づき,本件リース契約を解除することはできない。
6  争点(5)について
控訴人は,本件リース契約を,消費者契約法第5条1項に基づき取り消す旨主張するが,控訴人は,本件当時,実態を伴う事業を行っていた法人であるから,同法第2条の消費者には当たらず,控訴人の主張は認められない。
7  争点(6)について
控訴人は,本件当時の本件リース物件の実勢販売価格はせいぜい70万円程度であるのに対し,本件リース契約のリース料総額が266万3640円であることから,本件リース契約の公序良俗に反し無効である旨主張する。
しかし,前記1で認定した事実によれば,被控訴人がリース契約を締結する際,販売店と顧客の間で物件の選定及び価格の決定を行い,その価格に,金利,動産保険料,リース会社手数料等を織り込んでリース料が算定され,被控訴人は,販売店と顧客の間で決定された物件代金を販売店に支払うこととされていることが認められる。
そうすると,リース物件の実勢販売価格とリース料総額に不均衡があったとしても,それは控訴人の関与したことにより生じたものではなく,むしろ顧客自身が販売店との間で価格を決定したことにより生じたものであり,しかも,被控訴人がその不均衡による利益を得ていたものでもない。そして,本件で,控訴人は,本件リース契約を締結するに当たり,訴外ニモからパソコンを無償で提供され,また,リース料のキャッシュバックを目的として,訴外ティティコムとの間で,PIXUS-MP10の売買代金という名目で90万3000円の支払を受けていることや本件証拠上,被控訴人が訴外ニモによる違法な勧誘行為を認識していたり,認識し得た事情も認められないことも併せて考えれば,本件リース契約が公序良俗に反して無効であるとはいえず,控訴人の上記主張を認めることはできない。
8  争点(7)について
控訴人は,被控訴人が,訴外ニモの違法な勧誘行為を認識していたにもかかわらず,それを認容し,又は,訴外ニモの違法な勧誘行為を予見し得たにもかかわらず,控訴人が不測の損害を防止する義務を怠ったのであるから,本件リース契約に基づくリース料の請求が信義則に反する旨主張する。
しかしながら,本件全証拠によっても,本件当時,被控訴人が訴外ニモによる違法な勧誘行為を認識し,又は,認識し得たというべき事情は認められない。控訴人は,本件リース物件の実勢販売価格と本件リース料の総額が不均衡であることから訴外ニモの違法な勧誘行為を認識し得たと主張するが,本件当時,被控訴人において,本件リース物件の実勢販売価格を把握していたことや,同価格を調査してこれを把握すべきであった事情も認められないから,同主張も理由がない。
したがって,被控訴人が,本件リース契約締結に際して,訴外ニモの勧誘方法等の確認をすべき義務を負っていたということはできず,控訴人の上記主張を認めることはできない。
9  以上のとおり,本件リース契約の効力を争う控訴人の主張は全て理由がない。
第4  結論
以上によれば,被控訴人の請求を認めた原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 廣谷章雄 裁判官 手嶋あさみ 裁判官 井町大慧)

 

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