平21(ワ)10419号 リース料請求事件

裁判年月日  平成22年 3月24日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)10419号
事件名  リース料請求事件
裁判結果  認容  文献番号  2010WLJPCA03248041

要旨
◆亡CにパソコンとCADソフトをリースした原告が、亡Cを相続した被告に対し、リース料の支払を怠ったことにより期限の利益を喪失したと主張して、残リース料と遅延損害金の支払を求めたのに対し、被告が、上記リース契約はクーリング・オフにより解除されており、クーリング・オフの適用除外にもあたらないなどと主張して争った事案において、本件リース契約は、亡Cにおいては、いわば営業再開のための準備行為として締結されたものであり、このような開業準備行為に類する場合であっても、「営業のために若しくは営業として」締結されたものと解するのが相当であるから、特定商取引法26条1項1号所定の適用除外に該当し、その余の点について判断するまでもなく、亡Cを相続した被告による特定商取引法9条1項に基づく本件リース契約解除の意思表示は効力を有しないなどとして請求を全て認容した事例

参照条文
特定商取引に関する法律9条
特定商取引に関する法律26条1項

裁判年月日  平成22年 3月24日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)10419号
事件名  リース料請求事件
裁判結果  認容  文献番号  2010WLJPCA03248041

東京都中央区〈以下省略〉
原告 株式会社日本ビジネスリース
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 中村雅男
近藤暁
東京都千代田区〈以下省略〉
原告補助参加人 株式会社大塚商会
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 木村美隆
藍澤幸弘
広島県呉市〈以下省略〉
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 西岡哲也

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,121万2750円及びこれに対する平成20年3月28日から支払済まで年14.6%(1年を365日とする日割計算)の割合による金員を支払え。
2  訴訟費用は被告の負担とする。
3  この判決の第1項は仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
主文同旨
第2  事案の概要
本件は,亡CにパソコンとCADソフトをリースした原告が,亡Cを相続した被告に対し,リース料の支払を怠ったことにより期限の利益を喪失したと主張して,残リース料と遅延損害金の支払を求めたのに対し,被告が,上記リース契約はクーリング・オフにより解除されており,クーリング・オフの適用除外にもあたらないなどと主張して争った事案である。
1  前提事実
(1)原告は,ファイナンス・リース等を事業として行う株式会社である。
(2)平成19年9月13日,原告は,亡Cとの間で,原告を賃貸人,亡Cを賃借人として,次の約定により,リース契約を締結した(以下「本件リース契約」といい,同契約のリース物件を「本件リース物件」,リース料を「本件リース料」という。)。
リース物件 ヒューレット・パッカード製
デスクトップパソコン「dc5700」 1台
福井コンピュータ製CADソフト
「ARCHITREND Z Ver.2」 1本
リース期間 平成19年9月13日から5年間
リース料 総額 132万3000円(消費税込)
月額 2万2050円(消費税込)
同支払方法 別紙「請求額」欄記載のとおり,口座振替の方法により毎月27日限り支払う
期限の利益喪失特約 亡Cは,リース料の支払を1回でも遅滞したときは,当然に期限の利益を失い,原告に対し,残リース料(消費税込)の全額を直ちに支払う。
遅延損害金 亡Cは,リース料の支払を遅滞したときは,年14.6%(1年を365日とする日割計算)の割合による遅延損害金を支払う。
(3)平成19年9月13日までに,原告は,亡Cに対し,本件リース契約に基づき,本件リース物件を引き渡した。
(4)平成20年3月14日,亡Cは死亡し,妻である被告が亡Cを相続した。
2  請求原因
(1)被告は,平成20年3月分の本件リース料の支払を怠ったため,平成20年3月27日の経過により,本件リース料支払義務につき期限の利益を喪失した。
(2)亡Cは,原告に対し,別紙のとおり,本件リース料として合計11万0250円を支払ったから,本件リース契約の残リース料(消費税込)は,121万2750円である。
(3)よって,原告は,被告に対し,残リース料(消費税込)121万2750円及びこれに対する期限の利益喪失の日の翌日である平成20年3月28日から支払済みまで年14.6%(1年を365日とする日割計算)の割合による遅延損害金の支払を求める。
3  被告の抗弁
(1)パソコンのリースは特定商取引法施行令3条別表3第3号チに該当し,CADのリースは同別表15号に該当する指定役務であるところ,本件リース契約は,原告が同補助参加人を履行補助者として用いて,原告又は同補助参加人の営業所等以外の場所において締結されたものであるから,平成20年4月28日,被告は,原告に対し,特定商取引に関する法律(平成21年法律第49号による改正前のもの。以下「特定商取引法」という。)9条1項に基づき,書面により,本件リース契約を解除するとの意思表示をした(乙第1号証)。
(2)仮に,上記解除の主張が認められないとしても,本件リース契約は,平成20年4月29日の経過をもって解約済であるから,被告は残リース料の支払義務を負わない。すなわち,本件リース契約においては,リース期間満了日まで契約を解除することができないと定められているが,被告は,相続により本件リース契約を承継したのであり,建築士の資格がなく,本件リース物件を使用する利益を有しないことから,本件リース契約を解約する必要を生じたにすぎず,被告には何らの帰責性も恣意性もない。本件リース契約の解除を制限する上記約定がこのような場合についてまで適用されるとすれば,同約定は,賃貸人の利益を偏重し,賃借人の窮迫に乗じて不当な利得を得る行為を助長するものであるから,その限度で,公序良俗に反し無効であるというべきである。そして,平成20年4月28日,被告が原告に対してした本件リース契約解除の意思表示は,被告による解約の申入にあたるというべきであり,同日から1日後(民法617条1項3号)の平成20年4月29日の経過をもって,本件リース契約は解約された。
4  抗弁に対する原告の認否
(1)抗弁(1)については,被告から解除の意思表示がされたことは認めるが,その余は否認し,争う。本件リース契約は,原告の営業所において亡Cからの申込を受け,同営業所内で決済を受けることにより成立したものであり,営業所等以外の場所において締結されたものではない。また,原告は,同補助参加人とは独立の立場で営業活動を行っており,原告補助参加人を手足として用いる関係にはない。
(2)抗弁(2)については,本件契約にリース期間満了日まで契約を解除することができないとの定めがあることは認めるが,その余は争う。
5  原告の再抗弁
本件リース契約は,亡Cの「営業のために若しくは営業として」締結されたものであるから,特定商取引法26条1項1号所定の適用除外に該当し,同法9条1項に基づく本件リース契約の解除は効力を有しない。
6  再抗弁に対する被告の認否
否認する。本件リース契約締結当時,亡Cは病気等のため既に神田建築設計事務所を廃業していたから,本件リース契約は,亡Cの「営業のために若しくは営業として」締結されたものではない。
第3  当裁判所の判断
1  前提事実に本件各証拠,弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(1)本件リース契約書には,左上欄外に「リース物件を営業または事業の用に供する目的で契約をします。」との記載が印刷されており,賃借人欄については,「会社名及び代表者名(お名前)」と表題のある欄に亡Cの署名押印がされているものの,「会社住所(ご住所)」,「営業内容」,「営業年数」などと表題のある欄には記載がなく,「個人事業者の場合追加記入」と表題のある欄に「神田建築設計事務所」の名称とその所在地,電話番号が記載されている(甲第1号証)。
(2)本件リース物件は,建築設計業務等に用いられるCADソフトとパソコンであって,リース料総額は各57万0500円(消費税別)であり,合計で114万1000円(消費税別)に上る。
(3)亡Cは,平成11年,平成14年にも,原告以外のリース会社から,原告補助参加人を介して,パソコンとCADソフトのリースを受けており,本件リース契約は,平成14年のリース契約を中途で切り替えるものであった(丙第1,第2号証)。
(4)本件リース契約締結の経緯は,次のとおりである。
① 原告補助参加人担当者であるDは,顧客情報管理システムにより,亡Cに対してリースされていたパソコンとCADソフトが古くなっていることを知り,より安い月額リース料の支払で,より性能のよいものにバージョンアップすることができると考え,平成19年8月8日,亡Cに電話をかけて,上記提案をしたところ,翌日に呉駅駅前にある喫茶店で商談をすることとなった。
② 平成19年8月9日,Dは,亡Cと呉駅駅前で待ち合わせた上,すぐ近くにある喫茶店に移動し,改めて上記提案をしたところ,亡Cは,新規にリース契約を締結したいと応じたため,後日,リース契約書の記入等をすることとなった。同日のやり取りの中で,亡Cが通院しているため不在がちであるとの話が出たが,杖をついているものの,外観上,特に重病である様子はなかった。
③ 平成19年8月25日,Dは,再び上記喫茶店で亡Cと商談を行い,本件リース契約書に記名捺印してもらい,本件リース物件の納品予定日を確認した。その際,亡Cは,「契約の件は家内には内緒で進めるわ。」と述べた。
④ 平成19年8月下旬,Dは,納品先の機器類の状況を確認するため,神田建築設計事務所を訪問した。同事務所は,亡Cの自宅にあり,看板等は掲げられていない。事務所として用いている部屋は,亡Cの居室であり,ベッドのほか生活用品等が置かれているが,事務机やA3版対応のプリンタなども設置されていた(乙第6号証)。
⑤ 平成19年8月29日,本件リース物件が納品され,同年9月初め,DとCADソフトの製造元である福井コンピュータの担当者は,神田建築設計事務所に赴き,2時間ほどかけて,パソコン内のデータの移行作業とCADソフトのインストール作業を行った。
⑥ 平成19年9月13日,原告は,亡Cに対し,本件リース契約締結の意思を確認し,その際,亡Cから,営業年数が27年であり,事務所住所と自宅住所が同一であることを聞いた(甲第2号証)。
(5)亡Cは,原告補助参加人から,平成19年10月2日に,A3版用紙を1500枚,A4版用紙を2500枚購入し,平成20年2月1日に,A3版対応のレーザープリンタ1台を5万2000円で購入した(丙第1,第3,第4号証)。また,亡Cは,原告補助参加人に対し,本件リース契約締結後の平成19年10月26日から平成20年2月18日までの間,計7回にわたり,CADソフトの操作方法を問い合わせている(丙第5号証)。
(6)平成14年6月11日,建築士法23条の3第1項に基づき,亡Cが個人で経営する神田建築設計事務所が一級建築士事務所として登録されたが,その有効期間は,登録日から5年間であり(乙第2号証),その後は,再度の登録申請も,業務廃止の届出(同法23条の7第1号)もされていない。
(7)平成16年度以降,亡Cの所得はなく(乙第5号証の1ないし5),平成14年9月21日,亡Cは,同年8月13日から被告の健康保険の被扶養者と認定されている(乙第3,第4号証)。
(8)亡Cは,平成6年2月ころから糖尿病を患うとともに,平成13年4月5日には,心筋梗塞により倒れて入院し,冠動脈バイパス術を受けた。その後,腎機能悪化のため透析を受けるようになったが,一方で慢性心不全状態が改善せず,血圧が不安定なためしばしば転倒したり,透析が困難となるなど,不安定な病状が続き,入退院を繰り返していた(乙第7,第8号証)。なお,亡Cは,平成13年の手術直後,神田建築設計事務所の事業を再開したいと述べていたことがあった。
2  上記認定事実によれば,本件リース契約締結当時,亡Cは,現実には神田建築設計事務所の営業を行っておらず,病状が不安定で通院を繰り返す状況にあったものの,日によっては症状が軽いこともあり,妻である被告に内緒で,病気が回復して営業を再開することができるときに備え,本件リース契約を締結し,CADソフトの使用方法について問い合わせるなどしていたことが認められる。
そうすると,本件リース契約は,亡Cにおいては,いわば営業再開のための準備行為として締結されたものであり,このような開業準備行為に類する場合であっても,「営業のために若しくは営業として」締結されたものと解するのが相当であるから,特定商取引法26条1項1号所定の適用除外に該当し,その余の点について判断するまでもなく,亡Cを相続した被告による特定商取引法9条1項に基づく本件リース契約解除の意思表示は効力を有しない。
3  被告は,本件リース物件を使用する利益を有せず,何らの帰責性も恣意性もない被告による本件リース契約の解除を制限する本件リース契約の約定は,その限度で公序良俗に反し無効であると主張するが,本件リース契約は,いわゆるファイナンス・リースであると解され,リース物件の価格相当額をその償却期間に相当するリース期間内にリース料の形で分割払するという金融的側面を有するものであるから,契約締結後の事情変更により賃借人にとってリース物件が不要となった場合であっても,営業のためにリース契約を締結した賃借人からの解除を制限し,残リース料全額を支払うなどの事情がない限り契約の解消を認めないとすることには一定の合理性があるというべきである。そして,被告は,営業のために本件リース契約を締結した亡Cの地位を承継し,残リース料全額を支払っていないのであるから,被告からの本件リース契約の解除を制限する上記約定が公序良俗に反するとまではいえない。
4  よって,原告の請求は理由がある。
(裁判長裁判官 松本光一郎 裁判官 柳澤直人 裁判官 髙橋玄)

 

〈以下省略〉

 

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