平21(ワ)16980号 リース料等請求事件

裁判年月日  平成22年 3月23日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)16980号
事件名  リース料等請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2010WLJPCA03238013

要旨
◆訴外会社から同社の被告会社に対するビジネスフォンに係るリース債権回収の委託を受けた原告が、債権管理回収業に関する特別措置法11条に基づき、主債務者である被告会社及びその連帯保証人である被告Y1に対し、金員の支払を求めた事案において、本件リース契約は特定商取引法2条1項1号所定の訪問販売に該当し、また、契約書面には、同法5条所定の書面に記載すべきものとされている同法9条1項の規定による契約の申し込みの撤回又は解除に関する事項についての記載がないのであり、本件リース契約は被告会社のクーリング・オフによって解除されたとして、請求を棄却した事例

参照条文
特定商取引に関する法律2条1項1号
特定商取引に関する法律9条1項

裁判年月日  平成22年 3月23日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(ワ)16980号
事件名  リース料等請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2010WLJPCA03238013

東京都豊島区〈以下省略〉
原告 ジェーピーエヌ債権回収株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 武井洋一
同 中島雪枝
同 平井智子
同 小嶋順平
千葉県船橋市〈以下省略〉
被告 重光住建有限会社
同代表者代表取締役 Y1
千葉県船橋市〈以下省略〉
被告 Y1
同訴訟代理人弁護士 拝師徳彦
同 西村誠

 

 

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
被告らは,原告に対し,連帯して82万2987円及び内金58万8000円に対する平成20年11月26日から各支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  本件は,株式会社クレディセゾン(以下「クレディセゾン」という。)から同社の被告重光住建有限会社(以下「被告会社」という。)に対するリース債権回収の委託を受けた原告が,債権管理回収業に関する特別措置法11条に基づき,主債務者である被告会社及びその連帯保証人である被告Y1(以下「被告Y1」という。)に対し,連帯して82万2987円(未払リース料61万7400円(消費税込)とこれに対する期限の利益を喪失した日の翌日である平成18年7月5日から平成20年11月25日までの間に発生した遅延損害金20万5587円との合計額)及び内金58万8000円に対する平成20年11月26日から支払済みまで年14.6%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2  前提となる事実
(1)当事者
ア 原告は,債権管理回収業に関する特別措置法に基づき債権回収業の営業許可を受けた債権回収業を目的とする株式会社であり,平成14年4月17日,リース業者であるクレディセゾンから,債権の回収業務を受託した。
(当事者間に争いがない。)
イ 被告会社は,建築工事の請負,不動産の売買,仲介,管理,賃貸等を目的とする有限会社であり,被告Y1は,その代表取締役である。
(当事者間に争いがない。)
ウ 株式会社メディアサポート(以下「メディアサポート」という。)は,通信機器の販売等を目的とする株式会社であるところ,平成18年7月25日,経済産業大臣から,特定商取引に関する法律(平成18年法律第50号による改正前のもの。以下「特定商取引法」という。)8条1項に基づき,同法上の違反行為(不実告知,重要事項の不告知,勧誘目的等の不明示,適合性原則違反勧誘,契約書面への虚偽記載)を理由に,同月26日から同年10月25日までの3か月間,訪問販売に関する業務の一部停止を命ずる旨の行政処分を受けた。
(甲6,乙8,弁論の全趣旨)
(2)クレディセゾンとメディアサポートとの間のリース業務提携契約の締結
クレディセゾンは,平成12年9月29日,メディアサポートとの間で,メディアサポートが取り扱う商品についてリース制度を利用させて提携する旨のリース業務提携契約(以下「本件リース業務提携契約」という。)を締結した。
(甲6,弁論の全趣旨)
(3)クレディセゾンと被告会社との間のリース契約の締結
被告会社は,平成18年5月1日,クレディセゾンとの間で,日立製ビジネスホンET-6.10iAⅡ一式(主装置1台,電話機1台及び子機1台から成るもの。以下「本件リース物件」という。)について次の約定のリース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結した。
ア リース期間 平成18年5月1日から平成23年4月30日までの60か月
イ リース料 総額61万7400円(消費税込)
ウ 支払方法 平成18年7月4日限り2万0580円,同年8月から平成23年5月までの間,毎月4日限り月額1万0290円
エ 期限の利益 被告会社は,リース料の支払を1回でも怠った場合には,クレディセゾンからの通知,催告を要することなく,当然に期限の利益を失い,クレディセゾンに対して直ちに残リース料総額を支払う。
オ 遅延損害金 年14.6%(年365日の日割計算)
(甲1,乙1,弁論の全趣旨)
(4)クレディセゾンと被告Y1との間の連帯保証契約の締結
被告Y1は,平成18年5月1日,クレディセゾンに対し,本件リース契約に基づく被告会社の債務を連帯保証する旨を書面で約した(以下「本件連帯保証契約」という。)。
(甲1,2,乙1,弁論の全趣旨)
(5)本件リース契約に係る契約書の記載内容等
ア 本件リース契約及び本件連帯保証契約は,メディアサポートの従業員であるB(以下「B」という。)及びC(以下「C」という。)が被告会社の本店所在地にある賃借事務所(以下「本件事務所」という。)を来訪し,持参した契約書用紙を用いて上記各契約に係る契約書(甲1。以下「本件契約書」という。)を作成する方法により締結された。
(甲1,2,乙1,25,弁論の全趣旨)
イ 本件契約書には,特定商取引法4条4号,5条によって訪問販売の場合に交付すべき書面に記載すべきものとされている同法9条1項の規定による契約の申込みの撤回又は解除(いわゆるクーリング・オフ)に関する事項についての記載はない。
(当事者間に争いがない。)
ウ 本件リース物件のリースは,特定商取引法2条4項にいう「指定役務」に該当する(同法施行令3条,別表第3第2号ト)。
(当事者間に争いがない。)
(6)本件リース物件の引渡
被告会社は,本件リース契約締結後,本件リース契約に基づき本件リース物件の引渡を受けた。
(当事者間に争いがない。)
(7)リース料の支払経過
被告会社は,平成18年7月4日に支払うべきリース料を支払わず,期限の利益を喪失した。
(当事者間に争いがない。)
(8)被告会社によるクーリング・オフの意思表示
被告会社は,平成21年7月10日に発信した内容証明郵便をもって,クレディセゾンに対し,本件リース契約について特定商取引法9条1項の規定による申込みの撤回又は解除の意思表示(以下「本件クーリング・オフ」という。)をした。
(当事者間に争いがない。)
3  争点に関する当事者の主張
(1)本件リース契約の訪問販売該当性の有無
ア 被告らの主張
クレディセゾンは,メディアサポートとの間で,本件リース業務提携契約を締結した上,メディアサポートに顧客を訪問させてリース契約の勧誘や締結の取り次ぎを継続的に行わせてきたものであり,本件リース契約も,このような方法で締結された。クレディセゾンは,メディアサポートの従業員であるB及びCをいわば手足として利用して本件リース契約を締結したものであるから,本件リース契約は,特定商取引法2条1項1号所定の「訪問販売」に該当する。
イ 原告の主張
被告らの主張は争う。本件リース契約は,クレディセゾンが自ら被告会社の意思確認や与信判断を行った上で締結したものであり,メディアサポートの従業員を手足として利用して締結に至ったものではない。
(2)特定商取引法26条1項1号所定の適用除外該当性の有無
ア 原告の主張
被告会社は,社団法人千葉県宅地建物取引業協会の会員として事業活動を行っており,本件リース物件を使用して事業活動を行うために本件リース契約を締結したものである。したがって,本件リース契約は,特定商取引法26条1項1号にいう「営業のために若しくは営業として」締結されたものであるから,同法9条1項所定のクーリング・オフの適用はない。
イ 被告らの主張
原告の主張は争う。被告会社は,本件リース契約締結当時,全く事業活動をしておらず,宅地建物取引業の免許の更新を受けるのに必要であったため,形だけ本件事務所を維持して社団法人千葉県宅地建物取引業協会の会費を支払っていたにすぎない。被告会社には,従業員はなく,従前,本件事務所に設置されていた電話機は,被告Y1が故郷の両親に連絡をとる際に使用されていただけであったから,内線機能等の装備されたビジネスホンである本件リース物件を使用する必要は全くなかったところ,メディアサポートの従業員であるBが「今後,電話は,全て光回線に替わるので,電話機を新しく設置する必要がある。」旨の虚偽の説明をしたため,本件リース契約が締結されるに至ったものである。したがって,本件リース契約は,特定商取引法26条1項1号にいう「営業のために若しくは営業として」締結されたものではない。
(3)特定商取引法9条の2第1号,民法96条1項又は2項による本件リース契約の取消しの可否
ア 被告らの主張
被告会社は,メディアサポートの従業員であるBから,「今後,電話回線が全て光回線に替わるので,電話機を新しく設置する必要がある。光回線に替えると,電話代が安くなる。」旨の説明を受けたため,本件リース契約を締結したが,実際には,電話回線が光回線に替わることはなく,電気代も安くなることはなかった。したがって,被告会社は,特定商取引法9条の2第1号所定の不実告知による事実誤認又は詐欺による誤信によって本件リース契約を締結したものであるところ,前記(1)アのとおり,クレディセゾンとメディアサポートは一体的な関係にあるから,本件リース契約を取り消すことができるというべきである。
イ 原告の主張
被告らの主張は争う。
(4)本件リース契約の錯誤無効の成否
ア 被告らの主張
前記(3)アの事情からすると,被告会社は,メディアサポートに対し,電話回線の切替えによって従前の電話機が使用不能になるのを避けることを申込みの動機として表示した上で,本件リース契約を締結したものというべきであるところ,前記(1)アのとおり,クレディセゾンとメディアサポートは一体的な関係にあるから,本件リース契約は,要素の錯誤により無効である。
イ 原告の主張
被告らの主張は争う。
(5)本件リース契約の公序良俗違反による無効の成否
ア 被告らの主張
本件リース物件の市場販売価格は,18万8000円程度にすぎない。本件リース契約は,市場販売価格の3倍以上もの高額なリース料を徴収するものであるから,暴利行為に該当し,公序良俗違反により無効である。
イ 原告の主張
被告らの主張は争う。
第3  当裁判所の判断
1  前記前提となる事実に,証拠(甲1ないし8,乙1ないし11,13ないし15,18の1ないし5,19の1及び2,21の1ないし3,22,23の1ないし12,24,25,26の1及び2,27,被告会社代表者兼被告Y1本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(1)クレディセゾンとメディアサポートとの間の提携関係等
ア クレディセゾンは,平成12年9月29日,メディアサポートとの間で,本件リース業務提携契約を締結した。本件リース業務提携契約は,メディアサポートの側では販売促進を,クレディセゾンの側ではリース取引の拡大を図ることによって,双方の事業の発展に資することを目的として締結されたものであり,① メディアサポートは,クレディセゾンに代わって同社のリース制度を説明した上,顧客からリース申込書を受け取って同社に送付すること,② クレディセゾンがリース契約の締結を応諾する場合には,メディアサポートに対して顧客に付与する承認番号を通知すること,③ これを受けて,メディアサポートは,クレディセゾンに代わってリース契約の事務手続を行い,顧客が記名捺印したリース契約書や借受確認書等の必要書類を受領すること,④ 顧客に対するリース契約の承諾通知は,メディアサポートが上記③の事務手続の際に行い,これをもってリース契約が成立すること等が定められていた。
イ メディアサポートは,クレディセゾンを始めとするリース業者12社との間で,本件リース業務提携契約と同様の契約を締結した上,上記各リース業者のリース制度を利用し,ビジネスホンやファクシミリ等の通信機器の販売活動を行ってきた。このようなメディアサポートの販売活動に対しては,平成15年ころから,全国各地の消費者生活センターに多数の苦情が寄せられるようになり,平成16年以降は,毎年,200件以上の相談が持ち込まれる状況となった。苦情の多くは,メディアサポートが,既に廃業している事業者や,主として個人的な用途で電話機等を使用しているだけで,事業に利用することはほとんどない事業者等を訪問した上,「最近,回線が切れたりしているらしいので,それを改善するために確認をしている。」,「もう少ししたら,黒電話は使えなくなる。」,「大手電話会社から言われているので,電話機の入替工事をしないといけない。」,「うちの電話にしたら,電話の使用料が安くなる。」などと申し述べ,大手電話会社の電話回線事業の一環として訪問したかのように装い,実際とは異なる事実を告げて,電話機等のリース契約を締結させたという内容であった。このような事態を受け,経済産業大臣は,平成18年7月25日,メディアサポートに対し,特定商取引法8条1項に基づき,同法上の違反行為(不実告知,重要事項の不告知,勧誘目的等の不明示,適合性原則違反勧誘,契約書面への虚偽記載)を理由に,同月26日から同年10月25日までの3か月間,訪問販売に関する業務の一部停止を命ずる旨の行政処分をした。
なお,この間,クレディセゾンがメディアサポートに対して本件リース業務提携契約を解除するなどの措置をとることはなかった。
(2)本件リース契約締結の経緯
ア メディアサポートの従業員であるBは,平成18年4月末ころ,本件事務所を来訪し,被告Y1に対し,NTT東日本の「ひかり電話」のちらし広告(乙27)を交付した上,「おたくは光回線になっていない。今後はすべて光回線に替わり,今までの電話機が使えなくなるから,新しく電話機を設置する必要がある。」,「光回線になると,月額9000円を払うだけで,あとはいくら電話をかけてもタダになる。」旨の説明をした。被告Y1は,NTTの工事関係者から,近隣で光回線の敷設工事を実施する旨の挨拶を受けたばかりであったため,Bの説明を信じ,同年5月1日には,Bと共に来訪したCからも同様の説明を受けたこともあって,勧められるまま電話機を購入することにした。そこで,Bらは,被告Y1に対し,表題部に「リース契約書(クレディセゾン用)」,貸主欄に「クレディセゾン」の社名及び住所,売主欄に「メディアサポート」の社名及び住所が不動文字で記載されている定型用紙を示し,申込人欄に被告会社の記名印及び代表者印を押捺させ,連帯保証人欄に被告Y1自身の署名押印をさせて本件契約書(甲1)を作成するとともに,借受確認証(甲3)の借主欄にも,被告会社の記名印及び代表者印を押捺させた。その際,Bらは,被告Y1にカタログを示したり,本件リース物件の機種や性能等について説明したりするようなことはなく,上記各書面(甲1,3)のリース物件欄に本件リース物件の機種等を一方的に書き入れた。このため,被告Y1は,本件リース物件の設置工事が行われるまで,本件リース物件が内線機能や転送機能を備えた主装置1台,電話機1台及び子機1台から成る業務用のビジネスホンであることすら知らなかった。
イ 被告Y1は,平成18年6月ころ,本件事務所を来訪した他の電話業者から,光回線に切り替わっていない旨の指摘を受け,初めて従前の電話回線のままであることを知った。そこで,被告Y1は,直ちにメディアサポートに連絡をとったが,電話が全くつながらなかったため,クレディセゾンに対して本件リース物件の引取りを要求した。クレディセゾンは,電話の引取りを拒否し,第1回リース料の支払を求める請求書を送付したが,被告Y1は,被害者弁護団に所属する弁護士の助言に従ってリース料を支払わなかった。
ウ 本件リース物件の設置後,本件リース物件とは別に従前から設置されていたファクシミリ兼用電話機について,ファクシミリ送信及び通話が不可能となる事態が生じていたこともあって,被告Y1は,平成18年12月26日,NTT東日本に依頼して本件リース物件を取り外し,従前使用していた家庭用電話機に戻してもらった。その後,被告Y1は,クレディセゾンが本件リース物件の引取りを拒否し続けるのに業を煮やし,平成19年9月26日には,本件契約書に記載されていたクレディセゾンの取扱営業所に宛てて本件リース物件を送付したが,受取りを拒否された。
エ 原告は,クレディセゾンから債権回収の委託を受け,平成20年12月3日,債権管理回収業に関する特別措置法11条に基づき,本件訴訟を提起した。これを受けて,被告会社は,平成21年7月10日,クレディセゾンに対して本件クーリング・オフをした。
(3)被告会社の状況等
ア 被告Y1は,平成元年5月10日,自らを代表取締役に,妻を名目上の取締役にして被告会社(当時の商号は「重光建設有限会社」)を設立し,建築業を営んでいたが,バブル経済崩壊の影響を受けて工事の受注が困難になったため,被告会社の営業活動を停止して建設会社に就職した。その後,被告Y1は,勤務先を退職するのに伴い,宅地建物取引主任者の資格を活かして不動産業を営もうと考え,平成15年8月1日,被告会社の商号及び目的を変更するとともに,宅地建物取引業の免許を受けるために本件事務所を賃借して本店所在地とした。
イ 被告会社は,長期間休業していたため,建築工事を全く受注することができず,不動産業者としての経験もなかったことから,商号変更直後に被告Y1の友人の紹介でアパートの仲介業務を数件行ったのみで,ほとんど仕事のない状態が続いた。このため,被告Y1は,薬剤師である妻の給料や預貯金,両親からの援助,知人を手伝って運転手や農作業等の仕事をして得た収入等で生計を立てていたが,友人や家族に対する体面もあって被告会社を存続させることにした。そこで,被告Y1は,宅地建物取引業の免許更新を受けるため,本件事務所を維持して社団法人千葉県宅地建物取引業協会の会費支払を続けたが,実際には,被告会社は,営業活動を全く行っておらず,長年にわたって申告所得金額が0円の状態が続いていた。
ウ 本件事務所は,倉庫部分を含めて約10坪程度の広さしかなく,平成18年当時には,事務机2個,家庭用電話機1台及びファクシミリ兼用電話機1台が置かれていただけであって,専ら被告Y1の友人や昔の仕事仲間の溜まり場として利用されていた。被告Y1は,故郷にいる高齢の両親を心配して電話をかけることが多く,本件事務所の電話機も,両親や友人と通話するために使用されていた。また,被告会社には,従業員もいなかったため,本件事務所において,内線機能や転送機能を備えた業務用のビジネスホンを設置する必要は全くなかった。
2  争点1(本件リース契約の訪問販売該当性の有無)について
(1)特定商取引法が訪問販売業者に対して広告,勧誘行為,契約書面の交付等に関して行為規制を定めている趣旨に照らすと,同法2条1項1号にいう「販売業者又は役務提供事業者」とは,消費者に対して契約締結に向けた勧誘活動を実際に行う事業者を指すものと解するのが相当である。
(2)これを本件についてみるに,前記1で認定した事実によると,① 本件リース業務提携契約においては,メディアサポートがクレディセゾンに代わってリース制度の説明やリース契約締結のための事務手続を行ない,メディアサポートが顧客に対して承諾通知をすることによってリース契約が成立するものとされており,両者の間では,メディアサポートに顧客を訪問させてリース契約の勧誘や締結の取り次ぎを行わせることが予定されていたこと,② 現に,メディアサポートは,本件リース業務提携契約に基づき,クレディセゾンに代わってリース契約の勧誘や締結の取り次ぎを継続的に行い,ビジネスホン等を販売してきたこと,③ 本件リース契約も,同様の方法で締結されたものであり,メディアサポートは,あらかじめ表題部に「リース契約書(クレディセゾン用)」,貸主欄に「クレディセゾン」の社名及び住所,売主欄に「メディアサポート」の社名及び住所が不動文字で記載されている定型用紙を持参して被告会社を訪問し,これを使用して本件契約書を作成したこと等を指摘することができる。
これらの諸点に照らすと,クレディセゾンは,メディアサポートの従業員をいわば手足として利用して本件リース契約を締結したものであり,メディアサポートの従業員による本件リース契約の勧誘活動は,クレディセゾン自身によって行われたものと同視することができるから,本件リース契約は,特定商取引法2条1項1号所定の「訪問販売」に該当するというべきである。
3  争点2(特定商取引法26条1項1号所定の適用除外該当性の有無)について
(1)特定商取引法26条1項1号は,その文言からも明らかなとおり,契約の目的,内容が営業のためのものである場合にはクーリング・オフ等に関する規定を適用除外とする旨を定めたものにすぎないから,仮に,訪問販売における売買契約又は役務提供契約の申込者等が事業者であったとしても,その者にとって「営業のために若しくは営業として」締結するものではない場合には,同号所定の適用除外事由には当たらないというべきである。
(2)これを本件についてみるに,前記1で認定した事実によると,① 本件リース契約締結当時,被告会社は,営業活動を全く行っておらず,長年にわたって申告所得金額が0円の状態が続いていたこと,② 被告会社には,従業員もなく,被告会社の本店所在地である本件事務所は,僅か10坪程度の広さしかなく,専ら被告Y1の友人や昔の仕事仲間の溜まり場として利用されていたにとどまること,③ 従前,本件事務所に設置されていたのは,家庭用電話機であって,被告Y1は,これを両親や友人と通話するために使用していたにすぎないこと,④ このため,被告会社には,本件リース物件のような内線機能や転送機能を備えた業務用のビジネスホンを設置する必要は全くなかったこと,⑤ そもそも,被告Y1は,メディアサポートの従業員の説明によって電話機を交換する必要があると誤信して本件リース契約を締結したにすぎず,本件リース物件が設置されるまで,本件リース物件が内線機能や転送機能を備えた業務用のビジネスホンであることすら知らなかったこと等を指摘することができる。
これらの諸点に照らすと,本件リース契約が被告会社の「営業のために若しくは営業として」締結されたものということはできないから,本件リース契約について,特定商取引法26条1項1号の適用はないというべきである。
(3)この点について,原告は,被告会社が本件事務所を賃借し,社団法人千葉県宅地建物取引業協会の会員として会費を支払っていることや,被告会社の確定申告書に欠損金の記載があることを指摘して,被告会社は営業活動を行っていた旨主張する。
しかしながら,前記1で認定した事実によると,被告会社は,宅地建物取引業の免許の更新を受けるために本件事務所を維持して社団法人千葉県宅地建物取引業協会の会費を支払っていたにすぎないというのであり,また,証拠(乙21の1ないし3,25,被告会社代表者兼被告Y1本人尋問の結果)によると,確定申告書の欠損金の記載は,被告Y1が確定申告の際に税務署の助言に従って被告会社設立時に払い込んだ資本金や本件事務所の維持経費を書き入れたものにすぎないことが認められるから,原告の指摘する上記諸点をもって,被告会社が営業活動を行っていた証左であるということはできず,他に,上記認定,判断を左右するに足りる証拠はない。
4  結論
特定商取引法9条1項によると,訪問販売における契約の申込みの撤回又は解除(いわゆるクーリング・オフ)は,同法5条所定の書面を受領した日から起算して8日を経過するまでは行うことができるものとされているところ,本件書面には,同法5条所定の書面に記載すべきものとされている同法9条1項の規定による契約の申込みの撤回又は解除(いわゆるクーリング・オフ)に関する事項についての記載がないことは,当事者間に争いがない。そうすると,被告会社がクレディセゾンに対して平成21年7月10日に発信した内容証明郵便をもって本件クーリング・オフをしたことは当事者間に争いがないから,本件リース契約は,これによって有効に解除されたものというべきである。
以上によると,原告の本件請求は,その余の争点について判断するまでもなく理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 福井章代)

 

*******

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。