平20(ワ)7646号・平20(ワ)15410号 リース料請求事件(本訴)、同反訴請求事件(反訴)

裁判年月日  平成21年 6月 2日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平20(ワ)7646号・平20(ワ)15410号
事件名  リース料請求事件(本訴)、同反訴請求事件(反訴)
裁判結果  本訴請求棄却、反訴請求棄却  文献番号  2009WLJPCA06028004

要旨
◆原告が、今は亡き訴外弁護士との間で、電話機等のリース契約を締結し、あるいは訴外弁護士の代理人被告Y2(相続人でもある)との間で同リース契約を締結したなどとして、訴外弁護士の相続人である被告らに対し、リース料請求権または保証債務履行請求権に基づき、金員の支払を求めた(本訴)のに対し、被告Y1が、原告に対し、リース契約は不成立あるいは訴外弁護士への効果不帰属であるなどとして、不当利得返還請求権に基づき、既払いリース料相当額の返還を求めた(反訴)事案において、訴外弁護士の代理人被告Y2と原告との間で締結された本件リース契約は訴外弁護士に効果帰属せず、また、被告Y2が、連帯保証責任を争うことは信義則に違反するとはいえないとして、本訴請求を棄却し、本件リース物件の使用利益は現実に発生していたことなどから、原告の利得額が、既払いリース料相当額であることの証明はなされていないとして、反訴請求を棄却した事例

参照条文
民法446条1項

裁判年月日  平成21年 6月 2日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平20(ワ)7646号・平20(ワ)15410号
事件名  リース料請求事件(本訴)、同反訴請求事件(反訴)
裁判結果  本訴請求棄却、反訴請求棄却  文献番号  2009WLJPCA06028004

本訴:平成20年(ワ)第7646号 リース料請求事件
反訴:同年(ワ)第15410号 同反訴請求事件

東京都豊島区〈以下省略〉
本訴原告・反訴被告 株式会社クレディセゾン(以下「原告」という。)
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 長島良成
伊藤健一郎
米林清
武山紫穂
淺沼貞光
神奈川県鎌倉市〈以下省略〉
本訴被告・反訴原告 Y1(以下「被告Y1」という。)
同所
本訴被告 Y2(以下「被告Y2」という。)
同所
本訴被告 Y3(以下「被告Y3」という。)
上記被告ら3名訴訟代理人弁護士 佐久間哲雄
新倉透
井上潮

 

 

主文

1  原告の被告らに対する本訴請求をいずれも棄却する。
2  被告Y1の原告に対する反訴請求を棄却する。
3  訴訟費用は,本訴反訴を通じて,これを2分し,その1を原告の,その余を被告らの各負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  本訴請求
1) 被告Y1は,原告に対し,被告Y2と連帯して,277万1265円及び内金263万9300円に対する平成18年9月5日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。
2) 被告Y2は,原告に対し,554万2530円,ただし,内金277万1265円部分で被告Y1と連帯して,被告Y1と連帯する部分以外の債務のうちの138万5632円部分につき被告Y3と連帯して,及び内金527万8600円に対する平成18年9月5日から支払済みまで年14.6%の割合による金員,ただし,そのうち263万9300円に対する平成18年9月5日から支払済みまで年14.6%の割合による金員の限度で,被告Y1と連帯して,そのうち131万9650円に対する平成18年9月5日から支払済みまで年14.6%の割合による金員の限度で被告Y3と連帯して,支払え。
3) 被告Y3は,原告に対し,被告Y2と連帯して,138万5632円及び内金131万9650円に対する平成18年9月5日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。
2  反訴請求
原告は,被告Y1に対し,125万4435円及びこれに対する平成20年6月11日(反訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  請求の類型(訴訟物)
1) 本訴請求
本訴請求は,原告が,高齢の弁護士で妹尾法律事務所(以下「本件事務所」という。)を開設していたB弁護士(以下「B」という。同人は,大正○年○月○日生まれで,平成19年7月27日死亡し,被告Y1は,Bの妻(法定相続分2分の1),被告Y2は,Bの長男,被告Y3は,Bの二男(法定相続分4分の1)で,いずれもBの相続人)との間で,平成16年7月28日から平成17年2月1日にかけて,電話機,複合機及びパソコンにつき,リース契約(後記2,3),アないしウの本件第1リース契約ないし本件第3リース契約)を締結し(主位的主張),あるいは,Bの代理人被告Y2との間で,上記各リース契約を代理(包括的代理)によって締結し,しからずとも,上記各リース契約に対する表見代理(民法110条の類推適用)の成立,Bによる上記各リース契約の追認によって,Bに効果帰属するとして(予備的主張),そして,被告Y2は,その各支払債務を連帯保証し(主位的主張),あるいは,被告Y2が自己の代理権の不存在を理由として連帯保証責任を否定することは信義則に違反するとして(予備的主張),相続人被告Y1に対し,リース料請求権に基づき,被告Y2と連帯して,消費税相当額を含めた残リース料合計の2分の1である277万1265円の支払及びその金額から消費税相当額を除いた金額である263万9300円について期限の利益喪失日の翌日である平成18年9月5日から支払済みまで約定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払を,連帯保証人被告Y2に対し,保証債務履行請求権に基づき,消費税相当額を含めた残リース料合計554万2530円及びその金額から消費税相当額を除いた金額である527万8600円について期限の利益喪失日の翌日である平成18年9月5日から支払済みまで約定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払を(なお,リース料元金の支払義務は,277万1265円の限度で被告Y1と,その余部分の内金である138万5632円の限度で被告Y3と連帯し,また,各連帯保証する部分の消費税額相当額を控除した金額に対して計算される遅延損害金の限度では,被告Y1,同Y3と連帯して),相続人被告Y3に対し,リース料請求権に基づき,被告Y2と連帯して,消費税を含めた残リース料合計の4分の1である138万5632円(円未満切捨て)及び各リース契約分の残リース料合計額から消費税部分を除いた金額の4分の1である131万9650円について,期限の利益喪失日の翌日である平成18年9月5日から支払済みまで約定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求める事案である。
本訴請求について,被告らは,原告及びB間の上記各リース契約の成立及びBへの効果帰属,また,被告Y2の信義則違反を争い,仮に,上記各契約が成立あるいはBに効果帰属するとしても,上記各リース契約は,Bにおいて,特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)9条によるクーリング・オフの権利を行使したから,リース料の支払義務はないと主張して争っている。
2) 反訴請求は,Bにおいて,原告に対し,リース料として,合計250万8870円の支払(内訳は,後記2,5)参照)をしているところ,上記各リース契約は,不成立あるいはBへの効果不帰属であるから,また,仮に,上記各契約が成立あるいはBに効果帰属するとしても,特商法9条によるクーリング・オフの権利を行使したから,Bは,原告に対し,上記既払いのリース料相当額合計250万8870円の不当利得返還請求権を有していたところ,Bの上記不当利得返還請求権を相続した妻被告Y1が,原告に対し,上記250万8870円の2分の1に相当する125万4435円及びこれに対する平成20年6月11日(反訴状送達日の翌)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2  争いがない事実等
1) 原告は,割賦販売,リース事業,消費者信用事業及びカードビジネス等を主として行う株式会社である(争いがない。)。
2) Bは,大正○年○月○日生まれの弁護士で,本件事務所を開設していたが,平成19年7月27日,死亡した。被告Y1は,Bの妻であり,被告Y2(長男)及び被告Y3(二男)は,いずれもBの子である。被告Y1の法定相続分は,2分の1,被告Y3のそれは,4分の1である(争いがない。)。
3) 本件では,原告とB名義の下記内容のリース契約(それぞれ,下記アの契約を「本件第1リース契約」と,下記イの契約を「本件第2リース契約」と,下記ウの契約を「本件第3リース契約」といい,これらを一括して「本件各リース契約」という。また,本件各リース契約のリース物件を「本件各リース物件」ということがある。)に係る契約書(甲1ないし3の各1・2)が作成されており,被告Y2は,その各契約書の連帯保証人欄(甲1ないし3の各1)に自己の署名・押印をした(争いがない。ただし,その各契約書(甲1ないし3の各1)のBの署名・押印の真正については争いがあり,本件各リース契約の成否についても,争いがある。)。

ア  本件第1リース契約
① 契約日 平成16年7月28日付け
② リース物件 日立ET-4.10IZⅡ 主装置 1台
日立ET-4.10IZⅡ 電話機 3台
③ リース期間 84か月(平成16年7月28日から平成23年7月27日まで)
④ リース料総額 243万6000円に消費税12万1800円を付加した255万7800円
⑤ 支払方法 毎月2万9000円に消費税1450円を付加した3万0450円を1回分として,平成16年9月から平成23年7月まで計84回の分割払いで毎月4日に口座引き落としにより支払う(ただし,4日が銀行取引日でなかった場合には,翌銀行取引日に引き落とし)。なお,初回の平成16年9月だけは2か月分を口座引き落としにより支払う。
⑥ 期限の利益喪失 リース料の支払を1回でも遅滞したときは,何らの通知・催告を要しないで,残リース料全額の支払につき期限の利益を失う。
⑦ 遅延損害金 年14.6%
⑧ 連帯保証 被告Y2は,原告との間で,平成16年7月28日,Bが原告に対し,本件第1リース契約に基づいて負担する一切の債務につき連帯保証をするとの合意をした。
イ  本件第2リース契約
① 契約日 平成16年8月4日付け
② リース物件 ムラテック複合機 Ⅴ-2300 1台
③ リース期間 72か月(平成16年8月4日から平成22年8月3日まで)
④ リース料総額 284万4000円に消費税14万2200円を付加した298万6200円
⑤ 支払方法 毎月3万9500円に消費税1975円を付加した4万1475円を1回分として,平成16年10月から平成22年8月まで計72回の分割払いで毎月4日に口座引き落としにより支払う(ただし,4日が銀行取引日でなかった場合には,翌銀行取引日に引き落とし)。なお,初回の平成16年10月だけは2か月分を口座引き落としにより支払う。
⑥ 期限の利益喪失 リース料の支払を1回でも遅滞したときは,何らの通知・催告を要しないで,残リース料全額の支払につき期限の利益を失う。
⑦ 遅延損害金 年14.6%
⑧ 連帯保証 被告Y2は,原告との間で,平成16年8月4日,Bが原告に対し,本件第2リース契約に基づいて負担する一切の債務につき連帯保証をするとの合意をした。
ウ  本件第3リース契約
① 契約日 平成17年2月1日付け
② リース物件 NEC パソコン バリュースター 1台
③ リース期間 60か月(平成17年2月1日から平成22年1月31日まで)
④ リース料総額 238万8000円に消費税11万9400円を付加した250万7400円
⑤ 支払方法 毎月3万9800円に消費税1990円を付加した4万1790円を1回分として,平成17年4月から平成22年2月まで計60回の分割払いで毎月4日に口座引き落としにより支払う(ただし,4日が銀行取引日でなかった場合には,翌銀行取引日に引き落とし)。なお,初回の平成17年4月だけは2か月分を口座引き落としにより支払う。
⑥ 期限の利益喪失 リース料の支払を1回でも遅滞したときは,何らの通知・催告を要しないで,残リース料全額の支払につき期限の利益を失う。
⑦ 遅延損害金 年14.6%
⑧ 連帯保証 被告Y2は,原告との間で,平成17年2月1日,Bが原告に対し,本件第3リース契約に基づいて負担する一切の債務につき連帯保証をするとの合意をした。
4) 本件各リース物件は,Bの本件事務所へ納品・設置された(争いがない。ただし,借受確認証(甲4ないし6)の借主欄のBの署名・押印の真正については争いがある。)。そして,本件事務所において,本件各リース物件は,現に使用されて書面の作成,裁判所,弁護士,依頼者等との電話連絡やファクシミリ送信等に利用されていた(争いがない。)。原告は,物件納入者であるサプライヤー(株式会社メディアサポート。以下「メディアサポート」という。)に対して,売買代金の支払を完了した(弁論の全趣旨)。
5) Bは,原告に対し,リース料として,本件第1リース契約につき,平成18年8月まで合計76万1250円(3万0450円×25回),本件第2リース契約につき,平成18年8月まで合計99万5400円(4万1475円×24回),本件第3リース契約につき,平成18年8月まで合計75万2220円(4万1790円×18回)の総計250万8870円を,B名義の銀行預金口座から自動引き落としの方法により支払った(争いがない。)。
6) Bは,本件第1リース契約について,26回目の支払期日である平成18年9月4日にリース料を支払わなかった(争いがない。)。Bの上記時点での残リース料額は,179万6550円(その内訳は,元金171万1000円及び消費税8万5550円)である(甲7)。
Bは,本件第2リース契約について,25回目の支払期日である平成18年9月4日にリース料を支払わなかった(争いがない。)。Bの上記時点での残リース料額は,199万0800円(その内訳は,元金189万6000円及び消費税9万4800円)である(甲8)。
Bは,本件第3リース契約について,19回目の支払期日である平成18年9月4日にリース料を支払わなかった(争いがない。)。Bの上記時点での残リース料額は,175万5180円(その内訳は,元金167万1600円及び消費税8万3580円)である(甲9)。
7) Bは,原告に対し,平成18年9月7日,特商法9条に基づき,本件各リース契約につき,クーリング・オフをする旨の意思表示をした(争いがない。)。
3  争点及び争点に関する当事者の主張(本訴・反訴共通)
1) 原告とBとの間における本件各リース契約の成否,効果帰属の有無及び被告Y2の信義則違反の有無
【原告の主張】
ア 主位的主張
原告は,Bとの間で,甲1ないし3の各1・2のとおり,本件各リース契約を締結した。
イ 予備的主張
本件各リース契約は,被告Y2をBの代理人として原告との間で結ばれたものであったとしても,下記のとおり,Bに効果帰属するものである。また,被告Y2が自己の代理権の不存在を主張して連帯保証責任を免れることは信義則に違反する。

(ア) 有権代理(包括的代理)
被告Y2は,本件事務所の唯一の事務員として,本件事務所の営業のために必要な事務全般について,Bから包括的代理権を授与されていた。
よって,本件各リース契約は,Bに効果帰属するものである。
(イ) 追認
Bは,本件各リース契約について,相当額のリース料を支払い,本件各リース物件は現実にBの本件事務所に設置されて使用され,かつ,Bは,原告に対して,本件各リース物件の引上げやリース料の支払停止などの措置を講じなかったのであるから,Bが本件各リース契約を追認していたことは明らかである。
よって,本件各リース契約は,Bに効果帰属するものである。
(ウ) 表見代理(民法110条の類推適用)
原告は,本件各リース契約の相手方(契約書の実際の作成者)がBであると信じ,かつ,そのように信じたことについて正当な理由があるから,民法110条の類推適用によって,本件各リース契約は,Bに効果帰属するものである(最判昭44.12.19民集23巻12号2539頁参照)。
(エ) 被告Y2が自己の代理権の不存在を主張して連帯保証責任を免れることは信義則に違反すること
仮に,被告Y2がBから本件各リース契約についての代理権を授与されていなかったにもかかわらず,本件各リース契約を締結し,原告との各連帯保証契約を締結したものであるとしても,自己の代理権の不存在を主張して連帯保証責任を免れることは信義則に違反するものというべきである(最判昭41.11.18民集20巻9号1845頁参照)。
【被告らの主張】
ア 主位的主張について
甲1の1及び甲2の1のB名義の署名は否認し,その名下の印影がBの印章によるものであることは認める。しかし,Bは,本件事務所において,「弁護士B」の職印を2本作成し,そのうち1本は,本件事務所に置かれて,Bのみならず,被告Y2も使用することができる状態にあったことからすると,その印影がB本人の意思に基づいて顕出されたものとの推定は働かず,甲1の1及び甲2の1は,民訴法228条4項の適用を受けることはない。
したがって,甲1の1及び甲2の1は,Bが作成した真正なものではないから,本件第1リース契約及び本件第2リース契約は,いずれも成立していない。
甲3の1の署名・押印は否認する(名下の印影は,Bの印章によるものではない。)。甲3の1は,Bが作成した真正なものではないから,本件第3リース契約も成立していない。
イ 予備的主張について
本件各リース契約は,被告Y2をBの代理人として結ばれたものであるとしても,下記のとおり,Bに効果帰属しない。また,被告Y2が自己の代理権の不存在を主張して連帯保証責任を免れることは何ら信義則に違反しない。

(ア) 有権代理(包括的代理)について
争う。知的能力がかなり低かった被告Y2に対して,Bが包括的代理権はもとより,本件各リース契約についての個別的代理権を授与していなかったことは明らかである。
(イ) 追認について
争う。そもそも,Bは,本件第2リース契約の直後,被告Y2がBに無断で,本件第1リース契約及び本件第2リース契約を締結したことに気付き,メディアサポートとの間で,変更合意をしたため(乙5の1・2),上記合意に反するリース料の引き落としがなされているとは思わず,また,上記の変更合意の後,被告Y2は,本件第3リース契約を締結していたが,そのことも知らず,平成18年9月に至るまで本件第3リース契約に基づくリース料引き落としの事実も知らなかったのであるから,Bが本件各リース契約を追認したとされる余地はない。
(ウ) 表見代理(民法110条の類推適用)について
争う。仮に,原告が,本件各リース契約の相手方(契約書の実際の作成者)がBであると信じていたとしても,そのことに正当な理由はないし,また,基本代理権など存在しない。
(エ) 被告Y2が自己の代理権の不存在を主張して連帯保証責任を免れることは信義則に違反することについて
争う。被告Y2が自己の連帯保証責任を否定することは,何ら信義則に違反せず,かえって,特商法違反を理由に経済産業省から平成17年7月26日から3か月間の業務停止の行政処分を受けた悪質な業者であるメディアサポートとリース業務提携契約を結び,特段の措置を採ってこなかった原告こそ,同被告に連帯保証責任を追及することは信義則に違反するというべきである。
2) Bが原告に対してした特商法9条に基づくクーリング・オフの有効性
【被告らの主張】
前記のとおり,本件各リース契約は,不成立ないしBへの効果不帰属であるが,仮に,本件各リース契約が成立ないしBへ効果帰属するとすれば,本件各リース契約は,特商法2条1項に規定する「訪問販売」に当たるから,次のとおり,特商法9条に基づくクーリング・オフが有効になされたことを主張する。すなわち,特商法2条1項にいう「訪問販売」とは,販売業者又は役務提供事業者が,購入者又は役務の提供を受ける者に対し,通常の営業所等以外の場所において,指定商品・指定権利・指定役務について,契約の申込みを受け又は契約を締結する取引形態をいい,そして,指定役務には,「複写機」「電話機及びファクシミリ装置」「電子計算機」の「貸与」が含まれる(特商法施行令3条,別表第3,2,ロ,ト,チ)。
本件各リース契約の形式は,原告が,電話機,複写機及びパソコンをメディアサポートから買い取り,当該物件の所有者としてこれをBに賃貸し,リース料を徴収するものとなっている。すなわち,本件各リース契約は,役務提供事業者である原告が,役務の提供を受ける者であるBに対し,電話機,複写機及びパソコンの貸与という指定役務を有償で提供するという役務提供契約であり,本件各リース契約は,原告(役務提供事業者)の営業所以外の場所でなされたものである。そうすると,本件各リース契約は,特商法2条1項の「訪問販売」に当たる。
よって,Bが原告に対してした特商法9条に基づくクーリング・オフは有効である。
【原告の主張】
争う。本件各リース契約は,特商法2条1項に規定する「訪問販売」に当たらない。
特商法2条は,「訪問販売」の定義について,「役務提供事業者」が営業所等以外の場所において契約の申込みを受け,若しくは契約を締結するものであると規定し,「役務提供事業者」と実際に営業所等以外の場所で契約の申込みを受け,若しくは契約を締結する者とが同一の主体であることを明確に要件としている。しかるに,本件各リース契約では,実際に本件事務所(B)を訪問し,Bから契約の申込みを受けたのはメディアサポートの担当者であって,原告ではない。すなわち,本件では,仮に,原告が「役務提供事業者」に該当するとしても,実際に営業所等以外の場所で契約の申込みを受けた者と「役務提供事業者」とが異なり,同一の主体ではないこととなるのである。
したがって,原告が「役務提供事業者」に該当するとしても,本件各リース契約は,特商法が規定する「訪問販売」には当たらない。
よって,Bが原告に対してした特商法9条に基づくクーリング・オフは効力を生じない。
3) 特商法26条1項1号の適否
【原告の主張】
本件各リース契約には,特商法26条1項1号が適用されるので,同法9条は適用されず,Bがクーリング・オフの権利行使をすることは許されない。すなわち,本件各リース物件は,年商4000万円という規模の本件事務所を営む(甲3)Bの自宅ではなく,本件事務所に設置されて使用されている上,ビジネス(業務)用の電話機,複合機及びパソコンであり,一般の個人用・家庭用としてではなく,事業用として使用されることを予定した機器であることからすれば,Bの業務上の必要性に応じて機器が選定され,一連の法的活動を行うにあたって利用するために本件各リース契約が締結され,本件各リース物件が設置されたことは明らかである。
そして,特商法26条1項1号の「営業」には,営利目的を要しないから(単なる事業で足りる。),本件各リース契約は,「営業のために若しくは営業として」締結されたものというほかなく,特商法26条1項1号の適用によって同法9条の適用除外とされるから,クーリング・オフの権利行使をすることは許されないのである。
【被告らの主張】
争う。弁護士業務には,営利目的が欠けるため,本件各リース契約は,「営業のために若しくは営業として」締結する契約に係るものではなく,したがって,本件各リース契約には,特商法26条1項1号の適用はない。
第3  当裁判所の判断
1  本訴請求について
1) まず,争点1)(原告とBとの間における本件各リース契約の成否,効果帰属の有無及び被告Y2の信義則違反の有無)に関する原告の主位的主張は,本件各リース契約が原告及びB間で直接締結されたというものである。しかし,証拠(甲1ないし3の各1,乙6,10,被告Y2)及び弁論の全趣によれば,本件各リース契約の各契約書(甲1ないし3の各1)の「お申込人」欄の「B」の各記載は,Bの自署ではなく,そのうち,甲1の1及び甲2の1については,被告Y2が記載し,甲1の3については,メディアサポートの担当者が記載したことが認められる。
そうすると,本件各リース契約の締結に関しては,いずれも,被告Y2が(その代理権の存否はともかくとして)Bの代理人として行動していたものと認められる。そして,被告Y2がその代理人であるとすると,上記各契約書(甲1ないし3の各1)のB作成部分は,いずれも,代理人作成(甲1の3の上記部分については,メディアサポートの担当者が代書しているが,それは,被告Y2の意思に反するものとは認められず,同被告の補助者として作成したものと認められる。)に係る真正文書と認められる(上記B作成部分が,同人作成の文書ではない以上,民訴法228条4項の推定は働かない。)。
したがって,真正に成立した上記各契約書(甲1ないし3の各1)のB作成部分(いわゆる処分証書である。)によって,Bの代理人被告Y2と原告との間の本件各リース契約の締結を認めることができる。原告の上記主位的主張は,理由がない。
2) 次に,Bの代理人被告Y2と原告との間の本件各リース契約締結の効果が本人であるBに帰属するのか否か,また,被告Y2は,連帯保証責任を争い得るのか否か,この点に関する上記争点1)の原告の予備的主張について検討を加えることとする。
ア  有権代理(包括的代理)について
確かに,争いがない事実に,証拠(甲10,被告Y2)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件各リース契約が締結された当時,Bは,80歳を超えた高齢で,心臓にペースメーカー(ICD植え込み型除細動器)を入れるなど体調は思わしくなく,本件事務所には,多くても週に2,3回,出勤する程度であり,被告Y2は,1人で,本件事務所の事務を執り行っていたこと,Bは,弁護士としての職印を2本有しており,そのうち1本を被告Y2に預託していたこと,本件各リース物件は,本件事務所で現に使用され,平成18年8月まで,B名義の銀行預金口座から本件各リース物件のリース料が自動引き落としの方法により支払われていたこと,以上の事実が認められる。
しかしながら,他方で,証拠(乙3ないし5の各1・2,10,被告Y2)及び弁論の全趣旨によれば,Bは,本件第2リース契約の直後,被告Y2がBに無断で,本件第1リース契約及び本件第2リース契約を締結したことに気付き,平成16年8月6日付けで,メディアサポートに対し,リース契約申込みの撤回通知書を内容証明郵便で送付し,その後,メディアサポートとの間で,変更合意をしていること(この変更合意は,Bがリース契約の当事者をメディアサポートであると誤解して,同社との間で締結したものと推認されるが,もとより,このような変更合意の効果が原告に及ぶものではない。),B名義の銀行預金口座からの自動引き落としの方法で,平成18年8月まで,本件各リース物件のリース料が支払われているが,Bは,上記変更合意をしたことから安堵して,本件各リース物件のリース料の金額が上記変更合意と異なり,また,本件第3リース契約のリース料の引き落としがなされていたことを確認せず,リース料を不払いにした平成18年9月までそのことに気付かなかったと推認されること(Bは,当時の年齢が80歳を超えていることや,銀行預金通帳をこまめに記帳していなかったこと(被告Y2)に照らすと,上記の推認は,不合理ではない。),以上の事実が認められるのであり,このことに,被告Y2は,知的能力がそれほど高くはなく(乙7ないし9。被告Y2は,その尋問においても,甲3の1の年商欄の「40百万」につき,4000万円と答えるべきところを400万円と答えている。),本件事務所の設備投資,備品の導入等につきBから任されていたとは認め難いことをも併せ考慮すると,Bが被告Y2に対して,本件各リース契約に先立ち,包括的代理権はもとより,個別的代理権も授与していたとは認められないというべきである。
よって,この点に関する原告の主張は,理由がない。
イ  追認について
確かに,B名義の署名・押印のある借受確認証(甲4ないし6)が存在し,また,上記アのとおり,本件各リース物件は,本件事務所で現に使用され,平成18年8月まで,B名義の銀行預金口座から本件各リース物件のリース料が自動引き落としの方法により支払われていることが認められる。
しかしながら,甲4ないし6の借受確認証のB作成部分は,被告Y2作成として真正であるとは認められるが(甲6の上記部分については,メディアサポートの担当者が代書しているが,それは,被告Y2の意思に反するものとは認められず,同被告の補助者として作成したものと認められる。),B作成に係るものではないので,これらの書証によっては,Bが本件各リース物件を確認した事実を認めることはできない(なお,甲5には,「1.○ 電話確認, 人・親族(名前:B)」の記載があるが,その作成者及び作成の真正の証明はなされていない。)。
そして,上記アのとおり,Bは,平成16年8月6日付けで,メディアサポートに対し,リース契約申込みの撤回通知書を内容証明郵便で送付し,その後,メディアサポートとの間で,変更合意をしていること,Bは,本件各リース物件のリース料の金額が上記変更合意と異なり,また,本件第3リース契約のリース料の引き落としがなされていたことを確認せず,平成18年9月まで気付かなかったことが推認されることからすると,Bが原告に対して,本件各リース契約を追認する意思がなかったことは明らかであり(Bが,メディアサポートとの間の変更合意と異なるリース料の引き落としや本件第3リース契約に基づくリース料の引き落としの事実に気付いていなかったと推認されるのであるから,原告に対して,本件各リース物件の引上げやリース料の支払停止などの措置を速やかに講じなかったとしても,上記の判断は,左右されない。),しかも,その追認の意思表示が原告に到達したことを示す的確な証拠もない。
よって,この点に関する原告の主張は,理由がない。
ウ  表見代理(民法110条の類推適用)について
前記アのとおり,被告Y2は,知的能力がそれほど高くはなかったから,本件事務所の設備投資,備品の導入等につきBから任されていたとは認め難く,このほか,同被告がBから基本代理権を授与されていたことを認めるに足りる証拠はない(被告Y2がBから,弁護士の職印の預託を受けていたことをもって,本件事務所の事務処理に必要な取引に関する授権を受けていたとはいえない。)。
さらに,本件各リース契約は,原告側の担当者と被告Y2が対面して締結されたものではないのに(乙10,被告Y2),本件各リース契約の各契約書の記載のみから,原告において,本件各リース契約の相手方の同一性についての誤信が生ずるような状況があったのかどうか疑問がある上(原告が引用する前掲最判昭44.12.19は,対面形式による契約締結の事案であり,本件とは事案を異にする。),その点を暫く措くとしても,本件第1リース契約及び本件第2リース契約の各契約書(甲1の1,2の1)の「お申込人」欄,「自動振替引落口座」欄及び「連帯保証人」欄の各筆跡を注意深く見ると,これらが同一人の筆跡によるのではないかとの疑念を生じさせるものであることは明らかであり(そうすると,本件第3リース契約についても,その契約書(甲3の1)の「お申込人」欄,「自動振替引落口座」欄及び「連帯保証人」欄の各筆跡が異なる(「連帯保証人」欄以外の部分は,メディアサポートの担当者が記載した)としても,本件各リース契約が一連の契約であることにかんがみ,同様にその相手方の同一性に疑念が生ずるはずである。),このことに,原告がリース業者であり,高度の注意義務が課せられていることに照らすと,この点について特段の調査をした形跡がない本件において,原告に本件各リース契約の相手方の誤信につき正当な理由があったとはいえないというべきである。
よって,この点に関する原告の主張は,理由がない。
エ  被告Y2が自己の代理権の不存在を主張して連帯保証責任を免れることは信義則に違反することについて
証拠(乙1,7ないし10,被告Y2)及び弁論の全趣旨によれば,メディアサポートは,特商法違反を理由に経済産業省から平成17年7月26日から3か月間の業務停止の行政処分を受けた業者であること(その後,メディアサポートは,大阪地方裁判所で破産宣告を受けている。),メディアサポートの担当者がBの不在時に,何度も本件事務所を訪れ,知的能力がそれほど高くはない被告Y2に対して,Bの代理権なくして,本件各リース契約及びその連帯保証契約の各締結をさせたものであることが,他方で,原告は,平成12年9月29日以降,メディアサポートとリース業務提携契約を結び,その間,その契約を解消したりすることなく,本件各リース契約の締結事務を代行させていたことが,それぞれ認められるのであり,このような本件各リース契約及びその連帯保証契約の各締結に至る被告Y2側の事情,そして,メディアサポートとリース業務提携契約を結んでいたという原告側の事情を総合考慮すると,たとえ被告Y2がBの代理権なくして本件各リース契約を締結し,かつ,その連帯保証人になった者であるとしても,自己の代理権の不存在を主張して連帯保証責任を否定することが,原告に対する関係で,信義則に違反するとはいえないというべきである(原告が引用する前掲最判昭41.11.18は,以上のような特別の事情がある本件とは事案を異にする。)。
よって,この点に関する原告の主張は,理由がない。
3) 小括
上記のとおり,Bの代理人被告Y2と原告との間で結ばれた本件各リース契約は,Bに効果帰属せず,また,被告Y2が,連帯保証責任を争うことが信義則に違反するとはいえないので,原告の被告らに対する本訴請求は,その余の争点について判断するまでもなく,いずれも理由がないことに帰する。
2  反訴請求について
1) 以上のとおり,Bの代理人被告Y2と原告との間で結ばれた本件各リース契約は,Bに効果帰属しない以上,Bが原告に支払済みのリース料相当額は全額不当利得になるとも解し得る。
しかしながら,当事者間の財貨移動の調整を図り,もって公平を実現しようとする不当利得の制度趣旨に照らすと,本件各リース契約に基づくリース料の返還に際して,その利得額を算定するに当たっては,上記各契約の反対給付の対価(本件各リース物件の使用対価)を差し引いた上で算定するのが上記制度趣旨(公平の実現)に合致し相当である(もっとも,特商法は,上記のような使用対価との差額清算を許さない趣旨とも解されるが(同法9条5項参照),本件では,B(実際には,事務員であった被告Y2)は,弁護士業務に本件各リース物件を使用していたから,たとえ,弁護士業務が非営利的業務であったとしても,本件各リース契約は,「営業のために若しくは営業として」(同法26条1項1号)締結されたものと認めざるを得ず,本件リース各契約が同法2条の「訪問販売」に当たるかどうかともかくとしても,同法の適用はなく,この点への考慮は,問題とならないと考える。)。
2) これを本件について見ると,本件各リース物件は,現実に本件事務所に納品・設置され,現に使用されて書面の作成,裁判所,弁護士,依頼者等との電話連絡やファクシミリ送信等に利用されていたから(争いがない。),本件各リース物件の使用利益が現実に発生しており,かつ,本件各リース契約で定められた約定のリース料が不当に高額な不適正なリース料額であることを示す証拠はないから(確かに,例えば,本件第3リース契約のパソコン1台のリース料総額が250万円を超えるというのは,弁論の全趣旨に照らして,高額であるとは認められるが,さりとて,その適正なリース料額はいくらかといったことを示す証拠はない。),結局,Bが支払ったリース料から本件各リース物件の使用利益と差し引くと,原告に利得額は存在しないものと評価せざるを得ず,原告の利得額が,Bにおいて既払いのリース料相当額であることの証明はなされていないものと言わざるを得ない。
したがって,Bは,原告に対して,支払ったリース料相当額の不当利得返還請求権を行使し得ないから,その相続人である被告Y1もまた,原告に対して,上記不当利得返還請求権を行使し得ず,同被告の原告に対する反訴請求は理由がない。
第4  結論
以上の次第で,被告Y2をBの代理人として原告との間で締結された本件各リース契約は,Bに効果帰属せず,また,被告Y2が,連帯保証責任を争うことが信義則に違反するとはいえないので,Bの相続人である被告Y1及び被告Y3並びにその連帯保証人である被告Y2に対する残リース料の支払を求める原告の本訴請求は,理由がない。
他方,Bの相続人である被告Y1の原告に対するリース料相当額の不当利得返還を求める同被告の反訴請求は,原告の利得額の証明がないから,理由がない。
よって,原告の被告らに対する本訴請求及び被告Y1の原告に対する反訴請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり,判決する。
(裁判官 河村浩)

 

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