平19(ワ)7480号 連帯保証債務履行請求事件

裁判年月日  平成20年 8月27日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平19(ワ)7480号
事件名  連帯保証債務履行請求事件
文献番号  2008WLJPCA08276007

出典
消費者法ニュース 77号182頁

裁判年月日  平成20年 8月27日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平19(ワ)7480号
事件名  連帯保証債務履行請求事件
文献番号  2008WLJPCA08276007

東京都港区〈以下省略〉
原告 NTTファイナンス株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 松田孝彦
大阪府和泉市〈以下省略〉
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 加納雄二
同 高橋正人
同訴訟復代理人弁護士 吉岡孝太郎

 

 

主文

1  原告の請求を棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
被告は,原告に対し,49万7960円及びこれに対する平成17年7月26日から支払済みまで年14.5%の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,リース業を営む原告(平成18年6月末日までの商号「エヌ・ティ・ティ・リース株式会社」)が株式会社a(以下「a社」という。)とリース契約を締結し,被告が同契約に基づくa社の一切の債務の履行につき連帯保証をしたところ,a社がリース料を支払わないとして,原告が同リース契約を解除し,被告に対し,上記連帯保証債務の履行として約定の解約損害金と遅延損害金の支払を求めた事案である。
1  争いのない事実等
(1)  原告は,平成16年12月14日,株式会社西日本通信(以下「西日本通信」という。)を通じて,a社との間で,次の約定によるリース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結した。
ア リース物件 NTT AX主装置 1台
同コードレス 1台
イ リース期間 平成16年12月14日から7年(84か月)
ウ リース料 総額52万0380円(消費税込)
(毎月6195円(消費税込)の84回分)
エ 支払方法 平成17年2月末日から毎月末日電話料金との合算請求(ただし初回は2か月分)
オ 遅延損害金 年14.5%
カ 契約の解除 リース料の支払を1回でも怠った場合は,原告は,催告を要しないで通知により本件リース契約を解除することができる。
キ 契約解除時の措置 契約解除があったときは,リース料総額から支払済みリース料を控除した額の解約損害金と遅延損害金の即時支払を求めることができる。
(2)  被告は,平成16年12月14日,原告に対し,本件リース契約に基づくa社の一切の債務を連帯保証した。
(3)  a社の代理人である司法書士Bは,平成16年12月21日,西日本通信に対し,本件リース契約を解除し,又は消費者契約法4条2項により取り消す旨を記載した書面を内容証明郵便にて送付し,同書面は,同年12月27日,西日本通信に到達した(乙2)。
(4)  a社は,平成17年2月末日請求分のリース料を支払わなかった。
(5)  原告は,平成17年7月15日,a社に対し,その当時滞納していたリース料を同月25日までに支払うよう催告し,同日までに支払のない場合は本件リース契約を解除する旨の意思表示をし,同催告及び同意思表示は同月17日ころ到達した(甲2)。
2  争点及びこれに関する当事者の主張
(1)  特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)9条1項に基づく解除の可否
(被告の主張)
ア 本件リース契約は「訪問販売」にあたる。
本件リース契約は,「特定商取引に関する法律等の施行について」と題する通達(乙6。以下「通達」という。)において「リース提携販売」と称される類型に属するところ,通達は,特定商取引法2条に関して,「リース提携販売のように,『契約を締結し物品や役務を提供する者』と『訪問して契約の締結について勧誘する者』など,一定の仕組みの上での複数の者による勧誘・販売等であるが,総合してみれば一つの訪問販売を形成していると認められるような場合には,これらの複数の者は,いずれも販売業者等に該当する。」との解釈を示している。
本件リース契約は,株式会社エヌ・エヌ・ティ関西支店(以下「エヌ・エヌ・ティ」という。)の代理店である西日本通信の従業員C(以下「C」という。)が,被告を勧誘して締結したものであるところ,原告は,エヌ・エヌ・ティと継続的な販売店契約の関係にあり,西日本通信とも極めて密接な関係にあったこと等から,本件リース契約においては,原告も特定商取引法2条1項の販売業者等に該当する。
また,本件リース契約は,指定役務のうち「物品の貸与(別表第3の2号)」にあたり,同契約に係るリース物件である電話機は指定商品にあたる(特定商取引法2条4項,同施行令3条別表第3第2号ト)。
したがって,本件リース契約は,特定商取引法2条1項の「訪問販売」により締結されたものといえる。
これに対し,原告は,本件はファイナンスリースであるから特定商取引法2条1項の「訪問販売」に該当しない旨主張する。しかし,ファイナンスリースとは,中途解約が認められているオペレーティングリースに対する用語であり,「リース提携販売」も中途解約が認められない以上,ファイナンスリースに分類される。したがって,原告の上記主張は意味をなさない。
イ 特定商取引法26条1項1号の適用除外規定は適用されない。
通達は,特定商取引法26条1項1号の適用除外規定につき,「本号の趣旨は,契約の目的・内容が営業のためのものである場合に本法が適用されないという趣旨であって,契約の相手方の属性が事業者や法人である場合を一律に適用除外とするものではない。例えば,一見事業者名で契約を行っていても,購入商品や役務が,事業用というよりも主として個人用・家庭用に使用するためのものであった場合は,原則として本法は適用される。特に実質的に廃業していたり,事業実態がほとんどない零細事業者の場合には,本法が適用される可能性が高い。」との解釈を示している。
被告は,本件リース契約の目的物たる物件(以下「本件リース物件」という。)のうち,主装置の電話については業務用にほとんど利用せず,子機については主として個人用・家庭用として利用していた。また,a社は,被告の自宅を事務所とし,被告のほかに従業員はおらず,被告以外の役員は実際には仕事をせず,報酬も受け取っていない。本件リース物件は,複数の従業員がいること等を想定した電話装置であるが,a社の業務を遂行するには,家庭用電話機1台で十分な状況にあった。被告は,もともと友人と経営していた法人を解散する際に,その法人と取引をしていた会社との関係で法人化したにすぎない。本件リース料を含んだ電話代の請求書の宛名も「株式会社a」という正式な会社名ではなく,「Y建築事務所」という個人事務所扱いになっており,本件リース物件の接続されていた電話回線も法人の資産ではなく,被告の亡父の名義であった。
また,a社は,本件リース契約締結日である平成16年12月14日の属する年度においては,総売上高が450万2000円に過ぎず,212万9366円の営業損失を計上しており,本件リース契約締結のわずか7か月後である平成17年7月31日には解散しており,法人としての事業実態がほとんどない零細業者であった。
以上より,本件リース契約は,通達によれば,被告の「営業のために若しくは営業として」締結されたものではなく,特定商取引法26条1項1号の適用除外に該当しないことは明らかである。
ウ クーリングオフによる解除がされた。
a社代理人司法書士Bは,西日本通信に対して,平成16年12月21日,クーリングオフの通知をし,当該通知は,同年12月27日に西日本通信へ到達した。
前記のとおり,通達によると,本件リース契約においては,原告,エヌ・エヌ・ティ及び西日本通信は,いずれも販売業者等に該当するものであるから,西日本通信に対するクーリングオフの通知も原告に対して効力を有する。なお,本件リース契約の契約書にはクーリングオフ条項は記載されていない。
また,被告は連帯保証人として,a社の有する取消権を援用しうるのであり,被告によるクーリングオフの主張は,a社のクーリングオフをなし得る権利の援用を包摂している。
原告は,書面交付義務を履行している場合であれば格別,これを怠っているにもかかわらず,a社が既に解散していることを奇貨として,クーリングオフ通知の存否を争っており,かかる主張は信義に反する。
以上より,本件リース契約については,既にクーリングオフによる解除がされている。
(原告の主張)
ア 本件リース契約は「訪問販売」にあたらない。
原告と西日本通信との間に直接の契約関係はない。また,リース会社の選択はユーザーないしサプライヤーの側に委ねられているところ,西日本通信では,リース契約の申込みを受けるにあたって,各リース会社に同時に与信をかけており,本件ではたまたま他のリース会社の審査が通らなかったために原告が契約者になったにすぎない。すなわち,本件のようなファイナンスリース契約は,あくまでユーザーに対する信用の供与という点にその本質があり,「リース提携販売」ないし「総合してみれば一つの訪問販売を形成していると認められる」場合とは全く異なる。
したがって,通達を前提としても,本件リース契約は,特定商取引法2条1項の「訪問販売」にあたらない。
イ 特定商取引法26条1項1号の適用除外規定が適用される。
本件リース契約の契約者はa社という法人であり,同契約当時は事業を継続していた。原告は消費者リースを扱っておらず,被告も当然に本件リース契約が事業用リースであるとの認識のもとに法人名で契約しているのであって,本件リース契約書(甲1)の「営業内容」欄にも「建築設計」と記入されている。
また,電話機は仕事の受注等のための必需品であり,それは,被告が事業との関連において電話機の回線に非常に興味を示していたことからも裏付けられている。そして,被告は,インターネット上にホームページを開設し,タウンページにも名前を載せていたのであって,本件リース物件が,被告の事業に関して,ホームページやタウンページを見た者からの問い合わせや申込みなどに使用されるものであり,被告の事業活動に使用することを予定して設置されたことは客観的にも明らかである。電話機が個人用・家庭用にも使用される場合があっても,それがために契約本来の性質が変わるものではない。
したがって,本件は「営業のため若しくは営業として」の契約として,特定商取引法26条1項1号の適用除外に該当する。
なお,被告は,企業規模が零細で法人とは名ばかりの個人営業であったと主張し,その根拠として自宅における営業で他に従業員はいなかったなどと述べているが,一般に,建築士の仕事は,図面を引く技術があれば,あとはパソコンや電話機等を備えることでどこでも開業可能なのであり,実際に,経費節減のため自宅において一人で営業している建築士は多い。
ウ クーリングオフによる解除はされていない。
通達は,特定商取引法の適用の有無に関して,同法2条の「販売業者等」の解釈基準を示しているにすぎないのであって,これは,クーリングオフの通知を何処に対してなすべきかとは全く次元の異なる話であるから,通達を根拠に,西日本通信に対する通知が原告に対しても効力を有するとはいえない。実質的にも,契約当事者たるリース会社に通知がなければ,リース会社もそれに応じた対応がとれないことは言うまでもなく,通達を前提としても,クーリングオフの通知は契約者たるリース会社に対してすべきは当然の帰結である。
したがって,a社は,本件リース契約に関して,未だクーリングオフの通知をしていない。
以上より,本件リース契約がクーリングオフによって解除されたとはいえない。
(2)  詐欺取消しの可否
(被告の主張)
ア 欺罔行為による本件リース契約の締結
平成16年12月,西日本通信のCからの電話で,光ファイバー化の勧誘を受けた被告は,光ファイバーに興味をもっていたことから,Cの話を聴くことにした。すると,同月7日ころ,Cは,「調査に寄せてもらう」と述べて被告宅に来訪し,工事の者も同日に来訪して一方的に本件リース物件である電話機を取り付けた。
被告は,上記経緯から光ファイバーを使用できるようになったと信じて,Cの求めに応じて,原告宛の契約書に必要事項を記入した。しかし,Cが原告宛の契約書を回収して帰った後,何ら光ファイバー化の工事はされておらず,設置された電話機は光ファイバー化とは関係がないものであることに気づいた。
このように,Cは,被告宅の地域は光ファイバー化されていない地域であることを本件リース契約当時知っていながら,光ファイバー化工事を行う旨被告を欺罔し,被告は,Cの欺罔内容を信じて,光ファイバー化工事がなされるものと思い,a社名義で光ファイバー化工事とは何ら関係のない本件電話機のリース契約を締結した。
イ 西日本通信に関する他の事案からの推認
独立行政法人国民生活センターには,西日本通信に関する苦情として,「光ファイバーが入ると言われて高額な電話機リースの契約をし,完済したが,光ファイバーは入っていない」,「昨年10月に2,3年のうちにこのあたり一帯が光電話になるので必要と言われて工事してもらったが違っていた」,「電話がかかってきて光通信について説明したいと言われて来訪された」等が寄せられている。
大阪簡裁平成16年10月7日判決(平成16年(ハ)第2169号リース料請求事件)は,西日本通信の前身である有限会社西日本通信の販売担当者が,光ファイバーを引くには電話回線を交換する必要があるという虚偽の説明をした事実を認定し,消費者契約法4条1項1号によるリース契約の取消しを認めた。この判決は,被告がCの勧誘を受ける平成16年12月7日のわずか2か月前に出された判決であり,この点からみても,西日本通信の担当者が,同時期に「光ファイバーにする」という同様の勧誘方法で詐欺行為を繰り返して契約を獲得してきたことが窺える。
西日本通信は,原告から不適切な勧誘を原因として販売業者の契約を解消されており,また,同社は,エヌ・エヌ・ティと販売特約店契約を締結し,NTT商品に関する商談の開始から売買契約の締結,商品の納入,設置工事まで自らの名でしていたが,エヌ・エヌ・ティもNTT西日本から特約店契約を解消されている。これは,西日本通信の担当者が,NTTの商品に関して,問題のある勧誘を繰り返していたことを示すものである。
これらの状況を総合的に勘案すると,本件リース契約の締結に際しても,「光ファイバーにする」と言って勧誘するという,上記と同様の勧誘方法が用いられたと推認するのが常識的な判断である。
ウ 原告の責任
西日本通信は,原告の代理人として,原告に代わってリース契約を締結する権限を有している。それゆえ,西日本通信の虚偽説明につき,顧客が善意無過失であれば,原告はその責任を負う。
仮に,西日本通信が使者であるとしても,原告が詐欺の事実を知らなければ責任がないとの主張は成り立たず,西日本通信の行為について表見責任を負わなければならない。
また,原告と西日本通信との間には極めて密接な関係が認められ,信義則上,原告は西日本通信の行為につき責任を負わなければならない。
さらに,原告は,工事完了後に契約意思確認と検収を同時に行っており,これは販売業者の強引な販売を助長する方式であるから,西日本通信の行為に対して責任を負わなければならない。
エ 以上より,Cの行為は詐欺に該当し,a社は取消権を有するので,被告はこれを援用する。
(原告の主張)
前記のとおり,原告と西日本通信との間に直接の契約関係はなく,もちろん代理関係も存しないのであって,今回はたまたま原告がリース会社として選択されたにすぎない。原告では,契約の締結に際して,他のリース会社に比しても厳格な手続の履践を義務付けている。
また,そもそも本件における西日本通信の勧誘行為自体に問題はない。すなわち,Cは,被告に対して「光ファイバーに換えませんか」とは言っておらず,リース契約であることや月額リース料,支払総額等についても了解を得た上,納得してもらって契約書を書いてもらっている。
したがって,被告の詐欺取消しの主張は認められない。
(3)  暴利行為の有無
(被告の主張)
ア 本件リース料の総額が高額であること
本件リース物件の価格は,NTT西日本のホームページによると電話機4台でも25万円程度,販売業者のホームページの定価表示によると卓上電話機1台,コードレス1台の構成で21万2000円,工事費3万円であり,販売価格は16万8000円である。一方,本件リース料の総額は52万0380円であり,これは定価の2倍以上,販売価格の3倍以上の金額である。
そもそも,販売業者は大量仕入れによって定価や販売価格よりも大幅に安く物件を取得しているはずであり,本件リース料の総額が定価の2倍以上にも上るのは,まさに暴利以外の何物でもない。
なお,原告は,販売価格を付属品や設置費用を含まない中古価格であるとするが,販売価格はこれらを含んだ新品の価格である。
イ 原告が利益を得ること
本件リース料の総額が高額であることにより,販売業者のみならず原告も利益を得る。けだし,リース会社が取得する利益は,販売業者からの物件購入価格に一定料金を乗じて計算されるものであるところ,仮に料率自体が適正であったとしても,販売業者からの物件購入価格が本来の2倍,3倍となれば,リース会社がユーザーから得る利益も2倍,3倍となるのであって,ユーザーからみれば原告も販売業者同様の暴利を得ているといえるからである。
ウ その他の事情
a社には本件リース契約の締結につき何らの利益も必然性もない。原告は,リース物件の選択は契約者が行うと主張するが,欺罔によって申込みをさせられ,強迫を以て契約意思確認をさせられた本件において,被告の選択など存在しない。
エ 以上より,本件リース契約は暴利行為として無効である。
(原告の主張)
本件リース契約において,原告がサプライヤーに対して支払った物件価格は41万6115円(消費税込み)である。一般に,本件のような電話機のシステムを設置するには,一定の付属品や設置のための費用が必要となるが,これらの費用は実際の設置状況によって異なってくるのであり,当然のことながらカタログ定価にこれらは記載がない。被告主張の根拠たる定価や販売価格は,これらの費用を含まないカタログ定価や中古品価格であって,何ら暴利性の判断基準とはなり得ない。設置費用等を含めた物件代金総額に対する判断において,本件契約が暴利性を有するものでないことは客観的に明白である。
(4)  消費者契約法4条1項に基づく取消しの可否
(被告の主張)
ア 消費者契約法の適用又は類推適用
消費者契約法の適用対象は,個人である「消費者」と「事業者」との間で締結される「消費者契約」に限定されている。しかし,法人その他の団体の中には,規模が小さく,契約に関する情報や交渉力が乏しく,他の事業者に対して格差がある者も存在し,同法の目的に鑑みると,これらの団体も保護される必要がある。
特定商取引法と消費者契約法は,「国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」点は全く同一であるし,全体の趣旨も同様であるから,通達が示す特定商取引法26条1項1号に関する解釈の趣旨は,消費者契約法2条の解釈にも妥当するというべきである。
本件についてみると,a社では,被告が,住居用マンションの一室である自宅において1人で事業を行っていたのであり,直接契約にあたる者についていえば,まさに情報や交渉力が乏しく,他の事業者に対して格差がある場合に他ならない。また,被告は営業で外に出ることが多く,仕事の電話はほとんど携帯電話で済ませていたうえ,本件リース契約にかかる電話機のうち,主に利用していたコードレス機は,ほとんど家庭用に利用されていたのであるから,契約の効果を受ける者も情報や交渉力に乏しい個人そのものである。そして,a社は,前記のとおり,法人としての事業実態がほとんどない零細業者であって,本件リース契約締結のわずか7か月後には解散しており,通達の例示する状況そのものの状態が存在する。
このように,直接契約にあたる者の情報や交渉力が乏しく,他の事業者に対して格差があり,契約の効果を受ける者も個人そのものであり,購入商品や役務が,事業用というよりも主として個人用・家庭用に利用するためのものであった場合には,契約名義が法人であっても消費者契約法の適用又は類推適用が認められるべきである。
イ 取消しの意思表示
「事業者」たる原告は,「第三者」たる西日本通信に対し,リース提携販売契約の締結について「媒介をすることの委託」をしていたところ,被告は,西日本通信のCから「光ファイバーに換えませんか」という勧誘を受けて,本件リース契約を締結することにしたのであるから,Cの勧誘は,「消費者契約の締結について」なされたものといえる。
そして,光ファイバー化されることは,被告が本件リース契約を締結する決定的な動機となっていたが,被告宅は光ファイバー回線が敷設されていない地域にあるから,Cは,上記勧誘をするに際し,被告に対して「重要事項について事実と異なること」を告げたといえ,被告は,その告げられた内容が事実であると「誤認」して,本件リース契約の申込みの意思表示をした。
そして,被告は,西日本通信に対して,平成16年12月21日付内容証明郵便にて,契約の取消しの意思表示をし,同月27日に到達した。
以上より,本件リース契約は,消費者契約法5条1項及び4条1項により取り消されたといえる。
なお,上記書面には「消費者契約法第4条2項により取り消します。」と記載されているが,被告の意思を合理的に解釈し,被告の上記意思表示には,消費者契約法4条1項に基づく取消しの意思表示も含んでいると解すべきである。
ウ 以上より,本件リース契約につき,消費者契約法4条1項に基づく取消しが認められる。
(原告の主張)
消費者契約法の適用される「消費者契約」とは,「消費者」と「事業者」との間で締結される契約をいうところ,「事業者」とは,「法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」と規定されている(同法2条2項)。本件リース契約において,契約者たるa社が同法2条2項にいう「法人」に該当することは明らかであるが,仮に個人であっても,本件が「事業として又は事業のために契約の当事者と」なった場合に該当する。したがって,本件リース契約はそもそも消費者契約法の適用外である。
また,本件リース契約における西日本通信の勧誘行為に何ら問題はなく,原告はもちろん西日本通信においても不実告知の事実はない。
さらに,原告に対しa社から契約取消しの意思表示がなされていない。
以上より,いずれの点からしても,被告による消費者契約法に基づく取消しの主張は失当である。
(5)  消費者契約法4条2項に基づく取消しの可否
(被告の主張)
前述のとおり,本件リース契約については,消費者契約法の適用又は類推適用が認められる。
そして,Cが「光ファイバーに換えませんか」という虚偽の説明をしているところ,光ファイバーに換えるかどうかは被告にとって「重要事項」であった。
ところが,Cは,本件リース契約締結当初から,被告宅付近の地域では光ファイバー化が設置されている地域でなく,かつ,工事が予定されていない地域であることを知っていたにもかかわらず,光ファイバー化はされていないしされる予定もないという「不利益となる事実」を告げずに,「光ファイバーに換えませんか」と電話機を設置すれば,光ファイバーが使えるというような「利益となる事実」のみを告げて勧誘した。
それゆえ,本件において,Cは「重要事項について当該消費者の利益となる事実を告げ,かつ,当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実を故意に告げなかった」といえる。
そして,被告は,「光ファイバー化はされる」と「誤認」をして,本件リース契約の申込みの意思表示をした。
なお,実際に不実告知をしたのは西日本通信のCであり,原告ではないが,法5条1項により,被告は原告に対し,法4条2項に基づく取消しを主張できる。
そして,被告は,西日本通信に対して,平成16年12月21日付内容証明郵便にて,本件リース契約の取消しの意思表示をし,同月27日に到達した。
以上より,消費者契約法4条2項に基づく取消しが認められる。
(原告の主張)
前記のとおり,本件リース契約は消費者契約法の適用外であり,西日本通信による不利益事実不告知の事実はなく,原告に対する契約取消しの意思表示もないから,被告による上記取消しの主張は失当である。
第3  判断
1  前記争いのない事実等、証拠(甲1の1・2,2,3,5,6,乙1,7,9,10の1~4,31,34,証人C,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)  a社は,被告が昭和60年12月3日に設立した,建築設計業等を目的とする株式会社であり,被告は,本件リース契約締結当時,同社の代表取締役であった。同社の事務所は被告の自宅マンションの一室にあり,同所が本店所在地であった。a社では,設立当初から実質的には被告1名のみが設計業務に従事し,他に従業員はおらず,また,被告以外の役員は名目的なものにとどまっていて,報酬も支払われていなかった。被告は,上記自宅マンションの一室において設計業務を行っており,本件リース契約を締結する前は,家庭用電話機を設置しており,当該電話機を個人用と業務用の両方の用途で使用していたが,被告の業務を遂行するには,当該電話機と携帯電話があれば十分な状況にあった。
(2)  原告とエヌ・エヌ・ティとは,本件リース契約が締結されたころ,継続的な販売店契約を締結している関係にあり,エヌ・エヌ・ティは,西日本通信を代理店としていた。原告は,西日本通信を担当する従業員を社内に配置し,日頃から,西日本通信との間でリース契約に関する書類の授受を行ったりしており,本件リース契約締結当時,西日本通信が締結手続に関与するリース契約の3~4割は,原告とのリース契約であった。
(3)  平成16年12月初めころ,西日本通信の営業担当者であるCは,電話帳を用いて,a社の代表取締役である被告に電話をかけたところ,Cからの説明を受けて光ファイバー化に関心を示した被告から,被告宅を訪問する旨の約束を得た。
(4)  平成16年12月7日ころ,Cが,上記約束に基づいて被告宅を訪問し,ビジネスホン「NTT AX」を被告に紹介した。なお,この商品は,代表電話番号に架電があり,通話をしている際に,同一の代表電話番号に別の架電があった場合にも電話を取ることができる機能や,光ファイバーによるインターネット接続に対応する機能等を有するという特徴を有するものであった。被告は,この商品のリースを受けることとし,Cからリース料等についての説明を受けた後,同人が持参していたオリックス用のリース契約書に所定の事項を記入して,Cに渡した。しかし,オリックスから与信を受けることができず,オリックスとのリース契約を締結するには至らなかった。
(5)  平成16年12月13日,西日本通信は,NTTに対し,光ファイバーに関する現地調査を被告宅で実施することを依頼した。
(6)  平成16年12月14日,Cは,原告用のリース契約書(同書類の「販売店欄」にはあらかじめエヌ・エヌ・ティの住所,名称,電話番号等が印刷され,「販売代理店」欄には西日本通信の住所,名称及び電話番号のゴム印が押印されている。)を持参して被告宅を訪問した。被告は,Cから本件リース契約のリース料等について説明を受けて,同契約書に所定の事項を記入し,署名捺印をしてCに渡し,Cは,被告にその控えを渡した。その後,原告の担当者がa社へ電話し,被告に対してリースの実行を確認したところ,被告は,本件リース契約を中途解約した場合に残リース料を一括して支払わなければならないとは聞いていない等と主張して,本件リース契約のキャンセルを申し出た。これを受けて原告の担当者が西日本通信へ上記事情を説明したところ,Cが被告に電話をかけ,本件リース契約の内容を説明して被告から了承を得,その後,原告の担当者が被告へ電話をかけて再度リースの実行を確認したところ,被告はこれを了承した。こうして,リース料の総額を52万0380円とする本件リース契約が原告とa社との間で締結され,被告は,本件リース契約に基づくa社の一切の債務を連帯保証することとなった。
(7)  平成16年12月21日,a社の代理人である司法書士Bは,西日本通信に対し,本件リース契約を解除し,または消費者契約法4条2項により取り消す旨記載された書面を内容証明郵便にて送付し,同月27日,同書面は,西日本通信に到達した。
(8)  a社は,平成17年2月末日請求分のリース料を支払わなかった。
(9)  原告は,平成17年7月15日,a社に対し,その当時滞納していたリース料を同月25日までに支払うよう催告し,同日までに支払のない場合は本件リース契約を解除する旨の意思表示をし,同催告及び同意思表示は同月17日ころ到達した。
(10)  a社は,本件リース契約締結の日である平成16年12月14日の属する年度においては,総売上高が450万2000円であり,212万9366円の営業損失を計上し,本件リース契約の締結から約7か月後の平成17年7月31日に解散した。
2  これに対し,Cは,被告への本件リース契約の勧誘に際して,光ファイバーに換えませんかと言ったことがないとか,C自身から光ファイバーに関する話に触れたことがないとか,IP電話が使えたり,AXという商品をつけることで外線1番に電話がかかってきていても,2番で新たな電話を受けることができるという点をPRし,被告がこれに興味を示したなどと供述する。しかし,前記1(1)のとおり,被告は,1人で設計事務を行っており,a社には他に従業員がいないのであるから,被告が,外線1番,2番に興味を示したというのは不自然であるし,また,前記1(5)のとおり,西日本通信は,本件リース契約の締結に際し,NTTに対して,光ファイバーに関する現地調査を被告宅で実施することを依頼していることからも,Cの上記供述は信用できない。
3  争点1(特定商取引法9条1項に基づく解除の可否)について
(1)  本件リース契約が「訪問販売」にあたるか。
ア まず,本件リース契約に基づく電話機等のリースは,特定商取引法2条4項にいう「指定役務」にあたる(特定商取引法施行令3条3項 別表第3第2号ト)。
そして,前記1(2),(6)のとおり,原告とエヌ・エヌ・ティとは継続的な販売店契約を締結している関係にあり,エヌ・エヌ・ティは西日本通信を販売代理店としており,原告は,西日本通信を担当する従業員を社内に配置し,日頃から,西日本通信との間でリース契約に関する書類の授受を行っており,本件リース契約の契約書には,「販売店」及び「販売代理店」欄があり,「販売店」欄にはエヌ・エヌ・ティの住所,名称,電話番号等があらかじめ印刷され,「販売代理店」欄には西日本通信の住所,名称及び電話番号のゴム印が押印されており,西日本通信のCは,a社の代表者である被告との間で,リース物件の選定のみならず,本件リース契約のリース料,支払方法等の条件等についての説明を行い,被告から本件リース契約に係る契約書への署名捺印を得る等の契約締結手続を行っていて,原告と被告は,直接対面することなく本件リース契約を締結するに至っている。
これらの点を総合すると,原告は,エヌ・エヌ・ティ及びその販売代理店である西日本通信に対して,リース契約に係る事務手続の相当部分を継続的に依頼しているものと認められるから,原告,エヌ・エヌ・ティ及び西日本通信は,一体として特定商取引法2条1項1号所定の「役務提供事業者」であると認められ,a社の代表者であった被告に対して,「営業所等」以外の場所において,「役務提供契約」の申込みを受け,契約を締結したものと認められる。
よって,本件リース契約によるリースは,「訪問販売」にあたると解するべきである。
イ これに対し,原告は,西日本通信との間には直接の契約関係はないこと,リース会社の選択はユーザーないしサプライヤーの側に委ねられているところ,西日本通信ではリース契約の申込みを受けるにあたって各リース会社に同時に与信をかけており,本件ではたまたま他のリース会社の審査が通らなかったために原告が契約者になったにすぎないこと,本件のようなファイナンスリース契約は,あくまでユーザーに対する信用の供与という点にその本質があること等を主張し,原告,エヌ・エヌ・ティ及び西日本通信は,一体として「役務提供事業者」であるとはいえないと主張する。
しかし,前記1(4),(6)のとおり,原告は,本件リース物件のリースを受けるにあたり,Cからリース会社の選択を求められたとは認められず,リース会社を任意に選択したとはいえない。そして,原告と西日本通信との間に直接の契約関係がないこと,西日本通信が複数のリース会社と継続的な関係にあったこと,本件リース契約の本質がユーザーに対する信用の供与にあったことなどは,特定商取引法2条1項1号の適用にあたって,原告が,エヌ・エヌ・ティ及び西日本通信と一体として「役務提供事業者」であると認められることの妨げとなるとはいえない。
(2)  特定商取引法26条1項1号の適用除外に該当するか。
ア 本件リース契約の当事者は,a社と原告であり,a社が「営業のために若しくは営業として」本件リース契約を締結したのであれば,本件リース契約については,訪問販売に関する特定商取引法の規定は適用されない(特定商取引法26条1項1号)。そして,「営業のために若しくは営業として」とは,役務提供事業者と契約を締結する者が事業者である場合のすべてをいうのではなく,契約の目的・内容が営業のためのものである場合,又は営業としてのものである場合をいい,仮に事業者名で契約を行っていても,当該契約の対象となる商品又は役務が,当該事業者にとって営業のためのものでなく,かつ営業としてのものでもない場合は,同法26条1項1号は適用されないと解するべきである。
イ これを本件についてみると,前記1(1)のとおり,a社は,実質的には被告1名のみが設計業務に従事し,他に従業員はおらず,また,被告以外の役員は名目的なものにとどまっていて,報酬も支払われておらず,被告は自宅において業務を行っており,被告の業務を遂行するには,携帯電話と従前の固定電話があれば十分であり,被告宅では,固定電話は家庭用を兼ねていたところ,前記1(4)のとおり,本件リース物件である「NTT AX」には,代表電話番号に架電があり,通話をしている際に,同一の代表電話番号に別の架電があった場合にも電話を取ることができる機能や,光ファイバーによるインターネット接続に対応する機能を有するという特徴があるものの,前者の機能は,従業員等が複数いなければ特に意味のない機能といえるし,後者の機能は,光ファイバーが敷設されていない地域では活用できないため,被告1人のみが業務を行い,光ファイバーが敷設されていない地域に事務所を構えるa社においては,上記特徴を事業遂行上活かすことはできず,前記1(10)のとおり,a社は,本件リース契約締結日である平成16年12月14日の属する年度においては,総売上高が450万2000円に過ぎず,212万9366円もの営業損失を計上しており,零細な企業といえ,本件リース契約の締結から約7か月後の平成17年7月31日,同社は解散している。
以上の点を総合すると,本件リース契約による本件リース物件のリースは,特定商取引法を適用するにあたっては,a社の「営業のために若しくは営業として」締結されたものとはいえず,同法26条1項1号は適用されないと解するべきである。
ウ これに対し,原告は,本件リース契約の契約者がa社という法人であり,同契約締結当時,事業を継続していたこと,原告は消費者リースを扱っておらず,被告も当然に本件リースが事業用リースであるとの認識のもとに法人名で契約していること,リース契約書の「営業内容」欄にも「建築設計」と記入していること,電話機は仕事の受注等のための必需品であり,個人用・家庭用にも使用されるからといって契約本来の性質が変わるわけではないことなどを主張し,本件リース契約は,「営業のために若しくは営業として」締結されたものであると主張する。
しかし,「営業のために若しくは営業として」とは,事業者が契約当事者となる場合すべてをいうわけではないし,電話機は一般に業務上の必需品であるとはいえるものの,個人用・家庭用にも使用するものであり,原告の上記主張を採用することはできない。
(3)  クーリングオフによる解除の有無
ア 特定商取引法9条1項によると,役務提供事業者が営業所等以外の場所において役務提供契約の申込みを受けた場合,その申込者は,同法5条の書面を受領した日から起算して8日を経過するまでは,当該申込の撤回又は当該契約の解除をすることができる。そして,本件リース契約に係る申込書(甲1の1・2)は,同法5条の要件を満たす書面とはいえず,その他,同条の要件を満たす書面が交付されたと認めるに足りる証拠はない。
イ また,前記1(7)のとおり,本件リース契約につき,a社の代理人である司法書士Bが内容証明郵便によって行った解除の意思表示は,西日本通信に対するものであり,原告に対して直接されたとは認められない。しかし,前記1(3),(4),(6)のとおり,本件リース契約に係るa社との協議の主要部分は西日本通信が行っていて,原告は,本件リース契約に係る協議,同契約の締結及び履行にあたり,被告に対して姿を見せることは一度もなく,原告の担当者が被告に対して電話でリース実行の確認をした際に被告からキャンセルを主張されたときにも,自ら交渉をすることなく,その後の被告との交渉を西日本通信に委ねていたのであり,かかる事実関係の下では,西日本通信は,原告のために,本件リース契約の締結の手続をすることができたのみならず,a社又はその代理人による本件リース契約の解除の意思表示を,原告に代わって受領する権限をも有していたものというべきである。
ウ そうすると,本件リース契約は,平成16年12月21日,a社の代理人である司法書士Bが,西日本通信に対して送付し,同月27日に西日本通信に到達した内容証明郵便によって,a社による本件リース契約の解除の意思表示が原告に対して到達したというべきである。
以上より,本件リース契約は,特定商取引法9条1項により有効に解除されたということができる。
4  そうすると,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから棄却する。
大阪地方裁判所第12民事部
(裁判官 瀧華聡之)

 

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