平18(ワ)1633号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成20年 1月30日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平18(ワ)1633号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  上訴等  一部確定(控訴後、和解)  文献番号  2008WLJPCA01309013

要旨
◆被告呉服店の従業員である原告が、被告呉服店に対して、原告の支払能力を超える着物の立替払契約を締結させたことが公序良俗に反するなどとして立替金相当額の不当利得返還等を求めた事案において、被告呉服店が従業員に呉服を販売した行為は売上げ目標達成のために事実上購入を強要したものであるとして公序良俗違反を認め、これをもって信販会社の立替金請求に対抗できるとされた事例
◆呉服販売業者がその従業員に対し呉服等の自社商品を販売した行為が、従業員の支払能力に照らし過大であり、売上目標の達成のために事実上購入することを強要したものであるとして、公序良俗に反して無効であるとされた事例
◆事業者がその従業員に対して行う割賦販売について、割賦購入あっせん業者に対する抗弁を規定する割賦販売法30条の4の適用を除外する同法30条の6、8条5号の適用が否定され、呉服販売業者がその従業員に対して呉服等の自社商品を販売した行為が公序良俗に反して無効であることをもって、その売買代金の立替払債務の履行を請求する信販会社に対して、対抗することができるとされた事例

新判例体系
公法編 > 産業経済法 > 割賦販売法〔昭和三六… > 第三章 信用購入あっ… > 第一節 包括信用購入… > 第一款 業務 > 第三〇条の六 > ○準用規定 > (二)第八条 > A 非該当事例
◆事業者が従業者に対してその支払能力を超えることを知りながら売買を繰り返していた本件の場合、一般顧客と従業者とを区別して事業者の内部自治を尊重すべき理由は全くないから、割賦販売法第三〇条の六、第八条第五号は適用されない。

 

出典
裁判所ウェブサイト
判タ 1269号203頁
判時 2013号94頁

評釈
松井智予・ジュリ 1421号118頁
坂東俊夫・金商 1336号162頁(増刊:金融・消費者取引判例の分析と展開 潮見佳男・長谷川貞之・清水恵介編)
滝澤孝臣・ジュリ別冊 200号106頁(消費者法判例百選)

参照条文
民法90条
民法415条
民法704条
民法709条
民法719条
消費者基本法5条1項3号
割賦販売法8条5号
割賦販売法30条の4
割賦販売法30条の6
割賦販売法38条
特定商取引に関する法律9条1項

裁判年月日  平成20年 1月30日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平18(ワ)1633号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  上訴等  一部確定(控訴後、和解)  文献番号  2008WLJPCA01309013

主文
1  被告奈良松葉は,原告に対し,171万8604円及びうち160万36004円に対する平成18年3月3日から,うち11万5000円に対する平成19年7月14日から,各支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。
2  原告の被告奈良松葉に対するその余の請求並びに被告ニコス,同オリコ,同アプラス,同セントラルファイナンス及び同クオークに対する主位的請求をいずれも棄却する。
3  原告と被告ニコスとの間において,原告が,同被告から別紙1「クレジット月別支払一覧表(NO順)」のNO3ないし6記載の各立替払契約に基づく14万0400円,8万3200円,24万6800円及び22万7360円の各支払債務の履行の請求を受けたときは,これを拒絶することができる地位にあることを確認する。
4  原告と被告オリコとの間において,原告が,同被告から前項の一覧表のNO8ないし14記載の各立替払契約に基づく77万円,57万9600円,61万6400円,55万3000円,18万8700円,66万0800円及び8万円の各支払債務の履行の請求を受けたときは,これを拒絶することができる地位にあることを確認する。
5  原告と被告アプラスとの間において,原告が,同被告から第3項の一覧表のNO15及び16記載の各立替払契約に基づく12万9600円及び83万1600円の各支払債務の履行の請求を受けたときは,これを拒絶することができる地位にあることを確認する。
6  原告と被告セントラルファイナンスとの間において,原告が,同被告から第3項の一覧表のNO17記載の立替払契約に基づく28万9800円の支払債務の履行の請求を受けたときは,これを拒絶することができる地位にあることを確認する。
7  原告と被告クオークとの間において,原告が,同被告から第3項の一覧表のNO18記載の立替払契約に基づく109万8100円の支払債務の履行の請求を受けたときは,これを拒絶することができる地位にあることを確認する。
8  原告の被告ニコス及び同オリコに対するその余の予備的請求をいずれも棄却する。
9  訴訟費用は,これを10分し,その5を原告の,その3を被告奈良松葉の,その余を被告ニコス,同オリコ,同アプラス,同セントラルファイナンス及び同クオークの各負担とする。
10  この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1  請求
1  主位的請求
(1)  被告奈良松葉と被告ニコスは,原告に対し,連帯して,378万2864円及びうち321万6064円に対する訴状送達の日の翌日(被告奈良松葉につき平成18年3月3日,被告ニコスにつき同月4日)から,うち56万6800円に対する請求拡張(追加)申立書送達の日の翌日(平成19年7月14日)から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)  被告奈良松葉と被告オリコは,原告に対し,連帯して,153万5170円及びうち132万5670円に対する訴状送達の日の翌日(被告奈良松葉につき平成18年3月3日,被告オリコにつき同月4日)から,うち20万9500円に対する請求拡張(追加)申立書送達の日の翌日(平成19年7月14日)から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)  被告奈良松葉と被告アプラスは,原告に対し,連帯して,16万2450円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成18年3月3日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)  被告奈良松葉と被告セントラルファイナンスは,原告に対し,連帯して,12万7200円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成18年3月3日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)  被告奈良松葉は,原告に対し,163万8028円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成18年3月3日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)  原告の被告ニコスに対する別紙1「クレジット月別支払一覧表(NO順)」記載のNO1ないし6記載の各立替払契約に基づく債務がいずれも存在しないことを確認する。
(7)  原告の被告オリコに対する前項の一覧表のNO7ないし14記載の各立替払契約に基づく債務がいずれも存在しないことを確認する。
(8)  原告の被告アプラスに対する第(6)項の一覧表のNO15及び16記載の各立替払契約に基づく債務がいずれも存在しないことを確認する。
(9)  原告の被告セントラルファイナンスに対する第(6)項の一覧表のNO17記載の立替払契約に基づく債務が存在しないことを確認する。
(10)  原告の被告クオークに対する第(6)項の一覧表のNO18記載の立替払契約に基づく債務が存在しないことを確認する。
2  予備的請求
(1)  原告と被告ニコスとの間において,原告が,別紙1「クレジット月別支払一覧表(NO順)」記載のNO1ないし6記載の立替払契約に基づく残債務について,同被告からその履行の請求を受けたときはこれを拒絶することができる地位にあることを確認する。
(2)  原告と被告オリコとの間において,原告が,前項の一覧表のNO7ないし14記載の立替払契約に基づく残債務について,同被告からその履行の請求を受けたときはこれを拒絶することができる地位にあることを確認する。
(3)  原告と被告アプラスとの間において,原告が,第(1)項の一覧表のNO15及び16記載の立替払契約に基づく残債務について,同被告からその履行の請求を受けたときはこれを拒絶することができる地位にあることを確認する。
(4)  原告と被告セントラルファイナンスとの間において,原告が,第(1)項の一覧表のNO17記載の立替払契約に基づく残債務について,同被告からその履行の請求を受けたときはこれを拒絶することができる地位にあることを確認する。
(5)  原告と被告クオークとの間において,原告が第(1)項の一覧表のNO18記載の立替払契約に基づく残債務について,同被告からその履行の請求を受けたときはこれを拒絶することができる地位にあることを確認する。
第2  事案の概要
本件は,被告奈良松葉のパート勤務をしていた原告が,被告らに対し,以下の請求をする事案である。
1  被告奈良松葉に対する請求
(1)  被告奈良松葉が,加盟店契約を締結する信販会社から立替払いを受けて利益を得る目的で,被告奈良松葉の従業員である原告に対して,使用者という優越的地位を利用して,①売上ノルマを設定し,また②制服として着物着用を義務付け,原告の判断能力が低下していることを認識しながら,原告の支払能力を超える立替払契約を締結させた上で着物等を購入させたことが公序良俗に反するものであり,上記売買契約が無効であるとして,不当利得返還請求権に基づき,原告が信販会社との間の立替払契約に基づいて既に支払った立替金相当額の返還を求めるもの
(2)  被告奈良松葉が,従業員である原告に対し,使用者という優越的地位を利用して,①売上ノルマを設定し,また②制服として着物の着用を義務付け,自社商品を購入するのが当然であるとの職場環境を形成したことが,雇用契約に付随して信義則上認められる職場環境配慮義務に違反するとして,債務不履行による損害賠償請求権に基づき,前記(1)と同額の支払を求めるもの
(3)  被告奈良松葉が,前記(1)の事情下で原告に着物等を購入させたことが,後記2(1)の被告ニコス,同オリコ,同アプラス及び同セントラルファイナンス(以下,被告クオークをも含め総称して「被告信販会社」という。)との不法行為にあたるとして,共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告信販会社(被告クオークを除く。)と連帯して,前記(1)の既に支払った立替金相当額の損害,精神的損害及び弁護士費用の賠償を求めるもの
(4)  原告と被告奈良松葉との間の売買契約が営業所等以外の場所において契約されたものであり,特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)9条1項により解除したとして,不当利得返還請求権に基づき,原告が既に支払った立替金相当額の返還を求めるもの
(5)  原告と被告奈良松葉との間の売買契約のうち「大島紬」として販売されていたものが,実際には大島紬とは異なる「染大島」であり,①重要事項についての不実告知があったとして消費者契約法4条1項1号により上記契約の意思表示を取り消した,②詐欺(民法96条1項)にあたるとして上記意思表示を取り消した,③上記意思表示が錯誤により無効である(同法95条)と主張して,不当利得返還請求権に基づき,原告が信販会社に対して既に支払った立替金相当額の返還を求めるもの
2  被告信販会社に対する請求
(1)  被告信販会社(被告クオークを除く。)が,被告奈良松葉の前記1(1)記載のとおりの販売方法を知りながら,又は,それを知らなかったとしても,立替払契約上の善管注意義務又はそれに付随する信義則上の注意義務の一内容である,不適正な与信を防止し,加盟店を調査する義務及び過剰な与信を防止する義務に反して,原告との間で同契約を締結したことが,同契約における債務不履行となるとともに,前記1(3)の被告奈良松葉との不法行為に当たるとして,債務不履行または共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,上記被告信販会社に対し,被告奈良松葉と連帯して,既に支払った立替金相当額の支払を求めるもの
(2)  被告信販会社が,前記(1)記載の事情下において,原告との間で締結した立替払契約が公序良俗に違反して無効であるとして,被告クオークを除く被告信販会社に対し,不当利得返還請求権に基づき,既に支払った立替金相当額の支払とともに,被告クオークを含めた被告信販会社に対し,原告の立替金残債務が存在しないことの確認を求めるもの
(3)  割賦販売法30条の4に基づき又は信義則により,原告が被告信販会社から立替金の残債務の履行を請求されたときは,原告と被告奈良松葉との間の売買契約が前記1(1)のとおり公序良俗に反して無効であること等をもって対抗できるとして,原告の被告信販会社に対する立替払契約に基づく残債務が存在しないことの確認を求めるとともに,予備的に,原告が被告信販会社に対する立替払契約に基づく残債務の支払を拒絶することができる地位にあることの確認を求めるもの
第3  争いのない事実及び証拠によって容易に認定することのできる事実(以下「争いのない事実等」という。なお,証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。)
1  当事者
(1)  原告は,昭和16年生まれの主婦である。原告は,平成14年9月28日,被告奈良松葉「レインボー西大和店」(以下「西大和店」という。)の新規オープンと同時に被告奈良松葉に入社し,西大和店に勤務して接客,営業を担当していた。原告は,平成17年12月15日付けで,被告奈良松葉に対し,退職届(乙A8)を送付した。
訴外P(以下「P」という。)は,原告の姉であり,被告奈良松葉等が開催する着物などの展示販売会に参加していた。
(2)ア  被告奈良松葉
被告奈良松葉は,訴外株式会社松葉を中心とする「きもの松葉」グループ(以下「松葉グループ」という。)の一角を形成し,呉服の販売等を業とする株式会社であり,代表取締役は,訴外株式会社松葉の代表取締役でもある松葉哲雄である。
被告奈良松葉は,松葉グループの他社とともに,「きずな会」という,毎年1月と10月に開催される顧客との食事会を開催していた。また,松葉グループは,年4回(1月,4月,7月,10月),大阪市内の会場において,松葉グループ全店が参加する「大催事」という展示販売会を開催していた。
松葉グループにおいては,近隣の数店舗を「地区」として区分けしており,西大和店を含む奈良第2地区を統括する地区長は,Q(以下「Q」という。)であった。
イ  被告信販会社
被告信販会社は,いずれも,割賦購入あっせん等を業とする株式会社である。被告信販会社のうち,被告ニコス,被告オリコ及び被告セントラルファイナンスは,松葉グループの着物の展示販売会場に従業員を派遣しており,同会場において原告と面談して原告との各立替払契約を締結した。
被告アプラス及び被告クオークは,原告との間の各立替払契約締結時において,展示販売会場に従業員を派遣しておらず,原告と面談をしなかった。
2  原告と被告らの契約
原告は,平成14年11月から平成17年11月までの間に,被告奈良松葉から,別紙1「クレジット月別支払一覧表(NO順)」のNO欄1ないし23及びAないしDのとおり,訪問着,喪服等を購入し(以下,総称して「本件売買契約」といい,同表「NO」欄記載の番号順に「本件売買1」,「本件売買A」,「本件各売買」又は「本件売買契約1」,「本件売買契約A」などと表記する。),被告信販会社との間で,本件売買23を除く本件売買契約における売買代金の支払について,立替払契約を締結した(以下「本件立替払契約」といい,本件各売買に対応する立替払契約を「本件立替払契約1」,「本件各立替払契約」などと表記する。なお,別紙2「クレジット月別支払一覧表(契約日順)」は,別紙1「クレジット月別支払一覧表(NO順)」を売買契約締結日の順に並び替えたものである。)。
第4  争点及び当事者の主張
1  原告の被告奈良松葉に対する請求について
(1)  原告と被告奈良松葉との間の本件売買契約は,一連一体として公序良俗に反して無効か(争点1)。
【原告の主張】
原告は,被告奈良松葉との間で,本件売買契約を締結した。
被告奈良松葉は,従業員である原告に対し,①i使用者という原告に優越する地位を利用すること,ii売上ノルマ,動員ノルマの達成を強要すること,iii展示販売会やきずな会において,制服として着物の着用を義務付けることによって,従業員自らが被告奈良松葉の商品を購入することが当然であるという職場環境を作出し,②商品の属性,商品価値を偽って,明らかに不相当な金額で販売して,③原告の判断能力が低下していることを利用して,④着物等27件,支払総額1366万1644円に及ぶ,原告の生活を破綻させるほどの不相当に過大な量の商品の購入を強要したのであり,本件売買契約は,一連一体として公序良俗に違反して無効である。
ア ①従業員自らが被告奈良松葉の商品を購入することが当然であるという職場環境を作出して購入を強制したことについて
(ア) i被告奈良松葉が使用者という優越的地位を利用したことについて
被告奈良松葉は,従業員である原告を使用する者であり,優越的地位にある者である。この点,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律19条,不公正な取引方法(昭和57年6月18日・公正取引委員会告示第15号)14項2号は,事業者に優越的地位の濫用をして取引の実施において相手方に不利益を与えることを禁じている。また,大阪市消費者保護条例18条1項1号,消費者保護条例に基づく不当な取引行為の指定1(21)も,「消費者と雇用契約等の優越的な立場に乗じて,消費者に対して著しく不利益をもたらすおそれがある契約の締結を勧誘し,又は契約を締結させる行為」を禁じている。したがって,使用者という優越的な地位を利用して契約を締結させることは社会通念上許されない。
(イ) ii被告奈良松葉がノルマの達成を強要したことについて
被告奈良松葉は,松葉グループ全体,地区,店舗ごとの年間,月,展示会の売上ノルマ,各従業員ごとの売上ノルマと動員ノルマを設定して,各従業員に対し,従業員個人のノルマだけでなく,店,地区,松葉グループ全体のノルマの達成を求めた。被告奈良松葉においては,このノルマ達成のために厳しい叱責が行われ,怒号が飛ぶことも日常茶飯事であった。被告奈良松葉の従業員は,ノルマ達成の義務感を強く意識した。
また,被告奈良松葉は,前記ノルマ達成のために,地区長からパートの従業員に至るまでの給与を,その従業員が達成した売上に応じて変動するように定めた。したがって,原告は,自らの給与を確保するために,また購入した被告奈良松葉の商品の売買代金の支払のために,売上を上げること,ノルマの達成を余儀なくされた。また,地区長,店長は,自らの給与を確保するために,部下であるパート従業員に対して,ノルマの達成を執拗に要求した。
(ウ) iii被告奈良松葉が制服着用のために着物の購入を強制したことについて
被告奈良松葉は,原告に対し,大催事及びきずな会において,制服として,着物を着ることを義務付けることとして,原告に被告奈良松葉から着物を購入することを強要した。
原告を含む年配の従業員は,入社時において,嫁入りの時から持っていた着物しかなく,入社後に購入することを強いられる。また,被告奈良松葉の従業員は,大催事が7日間連続で開催され,接客等で汗をかくことや,女性の感覚からしても,連日同じ着物を着用することは不可能であり,複数枚の購入を強いられた。さらに,大催事においては,動き回ることから,訪問着ではなく,紬,小紋等である必要がある。他方,きずな会は,高級ホテルや料亭など屋内で行われるものと花見など屋外を回るものがあり,屋内で行われるものについては訪問着,付下げを着ていくことを求められ,屋外で行われるものは紬などを着ていくことを求められた。したがって,被告奈良松葉の従業員は,制服として着用するために,複数の種類の着物を複数枚購入することを強制された。
被告奈良松葉は,原告の採用の際に,大催事及びきずな会において従業員が着物の着用を義務付けられることを説明し,原告はこれに同意したと主張するが,そのようなことはなかった。
イ ②被告奈良松葉が商品の属性,商品価値を偽って,明らかに不相当な金額で販売したことについて
被告奈良松葉は,本件売買11において,売買目的物を「大島紬」として販売したが,同売買での実際の目的物は,大島紬とは別物である「染大島」であった。大島紬とは,先染め手織りであり,締機で手作業により経緯絣及び緯絣を加工し,手機で経緯絣及び緯絣を絣合わせて織り上げられるものである。染大島は,白生地を染色したものであり,大島紬とは異なる。
また,被告奈良松葉は,本件売買11を除く本件各売買においても,原告に対し,価格に見合わない粗悪な商品を販売した。
ウ ③被告奈良松葉が原告の判断能力が低下していることを利用したことについて
適合性の原則(消費者基本法5条1項3号)は,老人その他の者のように,判断能力が不足していることに乗じて商品を販売してはならないことをも要求するものである。ここでいう判断能力の不足とは,意思無能力者や成年被後見人の判断能力の程度に限られず,広く,断る気力の低下,計算能力・生活設計能力の低下,どんな話にも頷く傾向など,合理的経済人として損得を計算できる判断能力の不足を含むものである。
また,全国の消費生活条例は,消費者基本法の趣旨を具体化するために,判断能力の不足につけ込んだ勧誘を禁止している。大阪府消費生活条例16条1号,同施行規則5条別表1項ルは,「判断能力の不足に乗じる方法又は高齢者等の気力若しくは身体機能の低下等に乗じる方法で契約の締結を勧誘し,又は契約を締結させる行為」を禁じている。大阪市消費者保護条例18条1項1号,消費者保護条例に基づく不当な取引行為の指定1(15)は,消費者の判断能力の不足に乗じて契約の締結を勧誘し,又は契約を締結させることを禁じている。奈良県消費生活条例12条1項,同条例12条1項の規定による不当な取引行為の指定一5も同様の規制をしている。
さらに,社会通念に照らし,判断能力,抵抗能力,断る気力等が低下した高齢者等に対して,そのような状況につけ込んで,次々に商品を購入させるのは,許されない。
原告は,物事を客観的,多角的視点で捉えることが困難で,吟味力にも乏しく,現実対応能力が不十分であり,さらに対人場面において,必要以上に敏感である一方,適正な状況判断をなすことが困難であるとの傾向があった。これらは,被告奈良松葉の職場環境に抵抗することができない原因になっていた。また,原告は,60歳を超えて,気力,体力に充実しているとはいえなかった。被告奈良松葉は,原告の判断能力が低下していることを十分に認識していた。
エ ④原告の生活を破綻させるほどの不相当に過大な量の商品の購入を強要したことについて
(ア) 奈良県消費生活条例12条1項は,事業者は,その供給する商品等の取引に関し,消費者の知識,経験の不足に乗じて消費者を取引に誘引し,又は消費者に取引を強制する行為その他消費者の利益を害するおそれがある行為として知事が指定する行為(不当な取引行為)を行ってはならないとしている(適合性原則)。そして,奈良県知事は,奈良県消費生活条例第12条第1項の規定による不当な取引行為の指定二3において,消費者にとって不当に過大な量の商品等の購入を内容とする契約を締結させることを同条例12条1項によって禁じられる不当な取引行為と指定している。同条例は,事業者の従業員について適用除外規定を設けておらず,従業員を除外する根拠はない。
また,大阪市は,大阪市消費者保護条例18条1項2号,消費者保護条例に基づく不当な取引行為の指定2(3)において,「消費者が当面必要としない,不当に過大と思われる量の商品等を販売する内容の契約」を締結させる行為を禁じているほか,全国各地の地方自治体が消費者保護条例を制定して,過量販売を禁止している。消費者基本法5条1項3号で定める適合性原則は,過量販売の禁止を要請する。
(イ) 過量性の判断基準について
a 民事執行法152条1項2号が,国民の最低限度の生活を保障するために,原則として給料の4分の3に相当する金額を差し押さえ禁止としていることは,過量性判断の参考となる。また,貸金業の規制等に関する法律は,既存の債務残高と新たな貸付による債務残高が年収の3分の1を超えることになる貸付を禁止していることも,過量性判断の参考となる。
原告は,平均給与が月額16万円であり,毎月の支払が4万円を超える場合,債務の残高が年収の3分の1である64万円を超える場合には,過量販売となる。原告は,別紙1のとおり,本件各売買により,本件立替払契約における分割手数料を含めて支払総額1366万1644円に及ぶ着物等を購入した。そして,原告は,平成15年12月には,毎月の支払が4万円を超え,平成16年以降は毎月7万円を超えて,年金の支給が開始される平成17年に入ってから,平成18年7月までの1年半もの間,原告の平均手取額を超える額の支払が続いていた。また,本件各売買における2件目の契約である本件売買Bの契約締結によって,立替金残債務が82万6900円となった。
したがって,本件各売買は,一体として不相当に過大な量の販売に当たることは明らかである。
b また,被告奈良松葉は,多量販売及び過量販売について,残債権が300万円を超える場合は再販を禁止し,年間200万円以上の販売はしないとの内部基準を定めていた。かかる内部基準は,緩やかに過ぎ,過量性判断に用いるのは不適当であるものの,仮にこれによっても,本件各売買による原告の残債務は,平成16年6月の時点で300万円に達しており,その後,平成17年11月には約800万円に達しているほか,平成14年11月から平成15年10月までの1年間の総支払額は251万3600円,同年11月から平成16年10月までの1年間の総支払額は670万0734円,平成16年12月から平成17年11月までの1年間の総支払額は410万0510円に及んだのであり,本件売買が一体として不相当に過大な量の販売に当たることは明白である。
(ウ) 原告は,本件売買契約を締結した時には60歳を超えており,本件立替金債務の支払が完了する平成22年11月には69歳である。また,原告は,生活を維持する必要から被告奈良松葉で勤務し,夫も債務の返済のために,年金のほかにパートの収入を得る必要があった。原告は,自宅の土地を所有するが,これは老後の居住のための場であって,到底処分できるものではない。原告は,このような経済状況の下,本件立替払契約の債務の支払のために,水道高熱費までも支払うことができない状態にまで追い込まれた。
また,原告が購入した着物は,被告奈良松葉の制服として使用したものを除いて使用しておらず,不必要なものであった。
被告奈良松葉は,原告に売った商品の量,支払総額を容易に把握できたのであり,原告に対する,不相当に過大な量の販売を認識していたことは明らかである。
オ 以上のとおり,本件売買契約は,一体として公序良俗に違反して無効であるから,被告奈良松葉は,原告に対し,原告が既に支払った立替金に相当する金額を返還すべき義務を負う。
【被告奈良松葉の主張】
本件売買1,3,7,10,12,14,16のうち藍単衣,Aは,Pが買主であり,原告が契約したものではない。
本件売買契約は,いずれも公序良俗に反するものではない。
ア ①従業員自らが被告奈良松葉の商品を購入することが当然であるという職場環境を作出して購入を強制したことについて
(ア) i被告奈良松葉が使用者という優越的地位の利用したことについて
原告は,本件各売買において,いずれも自ら購入商品を決定し,Qなどに値引きを求めた上で購入した。したがって,被告奈良松葉は,原告に対して,雇用主という優越的地位を濫用して,執拗に自社商品の購入を要求したことやその購入を強制したことはない。
(イ) ii被告奈良松葉がノルマの達成を強要したことについて
被告奈良松葉は,月及び展示会ごとに,従業員の経験,過去の実績のほか従業員の希望を加味して,個人の販売目標数値,動員人数目標数値を設定していた。もっとも,被告奈良松葉は,当該従業員がその目標数値を達成できなかった場合においても,給与を減額するなどの不利益処分を科したことはない。
また,原告は,被告奈良松葉の従業員として関与した13回の大催事のうち4回目標値を達成しており,松葉グループにおいて従業員が目標値を達成するのが15.6%程度であることを考えると,優秀な成績であった。したがって,原告において目標値達成への心理的圧迫は低く,自ら自社商品を購入する動機とはなり得なかった。
(ウ) iii被告奈良松葉が制服着用のために着物の購入を強制したことについて
被告奈良松葉は,大催事において,着物の着用を義務付けたが,既に持っている着物を着用すればよいこととした。また,被告奈良松葉は,原告を採用する時において,原告に対し,制服として着用することを説明し,原告から同意を得ていた。したがって,被告奈良松葉は,原告に対し,着物の購入を強制してはいなかった。また,従業員は,大催事で制服として着用するために新たな着物を購入する必要が生じても,7日間の会期中に顧客は毎日入れ替わり,また接客のために立ったり座ったりの繰り返しであるため,高価な着物を複数枚購入する必要は全くなかった。そして,従業員で着物が必要な人は,大催事の前の説明会において,仕立て上がりやポリエステルの着物を安価に手に入れる機会が設けられていた。
また,きずな会は,顧客との食事会であり,接待役の従業員が着用する着物は,普段着(小紋等)であればよく,紬等の特段の指定はない。仮に,原告が恥ずかしくない着物を着て出席しなければならないと考えたとしても,年2回の1回1日の行事のことであるから,上等な着物を1着揃えればよく,高価な着物を何着も購入する必要はなかった。
イ ②商品の属性,商品価値を偽って,明らかに不相当な金額で販売したことについて
本件売買11の目的物は,染大島であり,いわゆる大島紬ではない。しかし,被告奈良松葉は,原告に対し,展示会の前に商品説明を行った。また,当該商品の価格設定は,染大島に2つの帯がセットされているので,価格的に高額というものではない。
さらに,そのほかの商品も,相当な小売価格の範囲内にあり,不当に高い価格で販売したということはない。
ウ ③原告の判断能力が低下していることを利用したことについて
原告は,60歳を超えていたが,判断能力が低下していたという兆候は全くなかった。
エ ④原告の生活を破綻させるほどの不相当に過大な量の商品の購入を強要したことについて
(ア) 原告は,奈良県消費生活条例,大阪市消費者保護条例を挙げて不相当に過大な量の商品を購入させることは許されないと主張するが,前記各条例は私法上の効力を否定する効果はない。また,原告は,被告奈良松葉の従業員であって,着物の知識が豊富であるほか,社員割引の恩恵を受けていたのであるから,本件において「消費者」には該当しない。
(イ) 原告は,被告奈良松葉からの給料として平均月額16万1674円を受領し,また平成18年5月分から月平均6万3650円の年金の支給を受けていた。さらに,原告は,路線価において1171万円を下らない無担保の約91坪の土地を所有し,Pに対して100万円の貸金返還請求権を有する。とすれば,原告において,本件立替金債務の支払が不可能であるとはいえなかった。
また,被告奈良松葉は,原告から,自宅の土地を親から相続したこと,夫がかつて1000万円程度の年収があったこと,原告の収入は自由に使えること等の話を聞いており,原告の生活はゆとりがあると認識していた。
(ウ) 着物の世界は奥が深く,一旦着物の魅力に取り付かれると,通,粋の極地まで極めたくなる美の世界である。着物を日常着用するために購入する場合もあれば,趣味嗜好のために購入する場合もある。したがって,原告が購入した物が日常生活に不必要であったからといって,被告奈良松葉の原告に対する販売に強制があったということはできない。
(2)  被告奈良松葉に職場環境配慮義務違反の債務不履行があるか(争点2)。
【原告の主張】
被告奈良松葉は,原告に対し,原告との間の雇用契約に付随して,信義則上,労働者が働きやすい職場環境を保つように配慮する義務(職場環境配慮義務)を負っている。
しかしながら,被告奈良松葉は,従業員に対して,使用者という優越的地位を利用して,売上等のノルマの達成,制服着用を強要して,松葉グループから着物等を購入するのが当然であるとの職場環境を形成したのであり,前記の職場環境配慮義務に違反した。原告は,被告奈良松葉による前記義務違反により,既に支払った立替金に相当する金額の損害を被った。
したがって,被告奈良松葉は,原告に対し,職場環境配慮義務違反の債務不履行責任に基づき,上記損害の賠償義務を負う。
【被告奈良松葉の主張】
原告の主張は争う。
被告奈良松葉は,従業員に対して,売上ノルマの達成等を強要して,松葉グループから着物等を購入するのが当然であるとの職場環境を形成したことはない。
(3)  被告奈良松葉による本件各売買が不法行為にあたるか(争点3)。
【原告の主張】
ア 被告奈良松葉は,従業員である原告に対して,①i使用者という原告に優越する地位を利用して,ii売上ノルマ,動員ノルマの達成を強要し,また,iii展示販売会やきずな会において,制服として着物の着用を義務付けて,従業員自らが被告奈良松葉の商品を購入することが当然であるという職場環境を作出し,②商品の属性,商品価値を偽って,明らかに不相当な金額で販売して,③原告の判断能力が低下していることを利用して,④着物等27件,支払総額1366万1644円に及ぶ,原告の生活を破綻させるほどの不相当に過大な量の商品の購入を強要したのであり,本件各売買は,一連一体として不法行為にあたる。
原告は,前記被告奈良松葉の不法行為により,既に支払った立替金に相当する金額の損害564万7684円,精神的損害100万円,弁護士費用58万8128円の合計723万5812円の損害を被った(このうち,560万7684円〔本件売買23を除く本件各売買に対応する本件立替払契約に基づいて被告信販会社に支払った総額に相当する額〕の支払義務は,後記2(1)の,被告クオークを除く被告信販会社の損害賠償債務と不真正連帯の関係にある。)。
イ 被告奈良松葉は,過失相殺を主張するが,原告は,何らの必要もないのに,被告奈良松葉の売上向上やノルマ達成,優越的地位を背景にした執拗な購入等により,やむなく着物等を購入させられたのであり,決して心底当該商品を気に入って購入したものではなかった。また,購入した着物等は,原告の生活上,何らの必要のないものであった。したがって,公平の原理からして,本件において過失相殺をすべきではない。
【被告奈良松葉の主張】
ア 被告奈良松葉は,原告に対し,売上等のノルマの達成を強要するなどして,松葉グループから着物を購入することを強制したことはない。したがって,被告奈良松葉は,原告に対し,不法行為責任を負うことはない。
イ 原告は,本件各売買にかかる商品を心底気に入って購入したのであり,原告ないしPを含む原告側に重大な過失がある。したがって,仮に被告奈良松葉が原告に対して不法行為責任を負うとしても,過失相殺をすべきである。
(4)  特商法9条1項による解除(クーリングオフ)の有効性(争点4)。
【原告の主張】
ア 原告は,被告奈良松葉から,営業所等以外の場所において,本件売買1ないし5,7ないし19の各売買契約を締結した。そこで,原告は,同被告に対し,平成19年1月22日付原告第8準備書面により,特商法9条1項に基づいて,前記各売買契約を解除する旨の意思表示をした。
この点,営業所等(特商法2条1項1号)には,一定期間にわたり,指定商品を陳列し,当該指定商品を販売する場所であって,店舗に類するものも含まれる(特定商取引に関する法律施行規則1条4号)。そして,店舗に類するものには,①最低2~3日以上の期間にわたって,②指定商品を陳列し,消費者が自由に商品を選択できる状態のもとで,③展示場等の販売のための固定施設を備えている場所で販売を行うものという。展示会における販売においても,販売員が取り囲む等消費者の自由意思で契約締結を断ることが客観的にみて困難な状況の下で販売が行われているときは,消費者が自由に商品を選択できる状態にあるとはいえず,前記②の要件を欠く。
被告奈良松葉においては,顧客を強引に展示会場に呼び込み,同所において長時間にわたって取り囲んで執拗な購入要求を行っていたのであり,前記展示会場は,「営業所等」に該当しない。
イ 本件売買1ないし5,7ないし19の契約書には以下のとおりの記載不備があるから,被告奈良松葉から原告への契約書の交付から8日間はまだ経過しておらず,前記解除の意思表示は有効である。
(ア) 本件売買1  事業者名,代表者名,商品名,引渡時期
(イ) 本件売買2  事業者名,代表者名,商品名,引渡時期
(ウ) 本件売買3  事業者名,代表者名,商品名
(エ) 本件売買4  事業者名,商品名,引渡時期
(オ) 本件売買5  事業者名,商品名
(カ) 本件売買7  事業者名,代表者名,商品名
(キ) 本件売買8  事業者名,代表者名,商品名
(ク) 本件売買9  事業者名,代表者名,商品名,代金の内訳
(ケ) 本件売買10 事業者名,代表者名,商品名,引渡時期,代金の内訳
(コ) 本件売買11 事業者名,代表者名,商品名
(サ) 本件売買12 事業者名,代表者名,商品名
(シ) 本件売買13 事業者名,代表者名,商品名,代金の内訳
(ス) 本件売買14 事業者名,代表者名,商品名
(セ) 本件売買15 事業者名,代表者名,商品名,契約日,引渡時期
(ソ) 本件売買16 事業者名,商品名,契約日,申込日,代金の内訳
(タ) 本件売買17 事業者名,代表者名,商品名
(チ) 本件売買18 事業者名,商品名,代金の内訳
(ツ) 本件売買19 事業者名,商品名,引渡時期
ウ 特商法26条1項5号は,従業員について同法9条1項の適用がないことを規定するが,適用除外の趣旨は,事業者がその従業員に対して訪問販売等を行うことは,通常は福利厚生の一環であり,団体自治に委ねるのが相当であるからである。しかしながら,本件では,使用者である被告奈良松葉が,従業員である原告に対して,優越的地位を利用して自社の商品を購入させていたのであり,福利厚生の一環ではなく,団体自治に委ねるのは相当ではない。したがって,本件においては,特商法26条1項5号の適用はない。
【被告奈良松葉の主張】
ア 原告は,被告奈良松葉の従業員であったのであるから,特商法26条1項5号により,同法9条の適用は除外される。したがって,原告は,本件売買契約を解除することはできない。
イ(ア) 本件各展示会場は,「一定期間にわたり,指定商品を陳列し,当該指定商品を販売する場所であって,店舗に類するもの」であり,特商法2条1項1号の「営業所等」に該当する。また,原告及びPは,本件展示会が呉服等の販売を目的とすることを熟知していたのであり,特商法2条1項2号の「特定顧客」に該当しない。
さらに,原告は,Pが契約当事者である本件売買1,3,7,10,12,14,16については,解除することはできない。
(イ) また,本件では被告奈良松葉から原告への契約書の交付から8日間を経過しており,原告は,上記本件売買の解除を主張できない。
この点,原告は,契約書に不備があり,被告奈良松葉から原告への契約書の交付から8日間はまだ経過しておらず,前記解除の意思表示は有効であると主張するが,原告は,本件立替払契約書と一体となった「お買上げ伝票」を自ら作成し,また,事業者名,代表者名等を当然知っていたのであるから,原告は,信義則上,書面不備を主張することはできない。
(5)  本件売買11の意思表示について,消費者契約法4条1項1号の不実告知を理由とする取消し及び詐欺を理由とする取消しができるか,錯誤により無効か(争点5)。
【原告の主張】
ア 被告奈良松葉は,本件売買11において,原告に対し,商品を,真実は大島紬とは異なる染大島であるにもかかわらず,「本場大島紬」として売った。このように,被告奈良松葉は,原告に対し,売買目的物の品質という重要事項について,不実の告知をしたのであり,原告は,平成18年11月24日付第6準備書面をもって,消費者契約法4条1項1号により本件売買11の意思表示を取り消した。
なお,原告は,本件売買11の商品が染大島であることを,平成18年10月26日に訴外弘部純一から告げられるまで知らなかったのであり,時効期間は徒過していない。
イ 被告奈良松葉の上記アの行為は詐欺にあたる。原告は,平成18年11月24日付第6準備書面をもって,詐欺(民法96条1項)を理由として本件売買11の意思表示を取り消した。
ウ 原告は,本件売買11の商品は,大島紬でないにもかかわらず,大島紬であると誤認して契約を締結した。よって,当該意思表示は,錯誤により無効である。
【被告奈良松葉の主張】
原告の前記各主張は,いずれも否認ないし争う。
本件売買11の商品は,染大島であり,いわゆる大島紬ではない。しかしながら,被告奈良松葉は,原告に対し,展示会の前にその旨の商品説明を実施した。
2  原告の被告信販会社に対する請求について
(1)  被告信販会社(被告クオークを除く。)は債務不履行責任又は不法行為責任を負うか(争点6)。
【原告の主張】
被告信販会社(被告クオークを除く。)は,原告に対し,加盟店である被告奈良松葉が違法,不当な行為を行わないように,継続的に加盟店が取り扱う商品,販売態様,信用状況等を把握・管理し,不適切な実態がある場合には是正を求め,悪質な加盟店に対しては与信を行わない義務(以下「加盟店管理義務」という。)及び与信の実行にあたり,消費者の支払能力,それまでの与信の総額等を調査し,返済能力を超える与信を行わないようにする義務(以下「過剰与信防止義務」といい,加盟店管理義務と併せて「不適正与信防止義務」という。)を負っていた。
被告信販会社(被告クオークを除く。)は,被告奈良松葉が前記1(1)のとおり不適切な販売方法をしていることを認識しながら,または,認識することができる立場にありながら,不適正与信防止義務を怠って与信を行うことにより,被告奈良松葉の違法行為を援助,助長,促進した。したがって,被告信販会社(被告クオークを除く。)は,原告に対し,被告奈良松葉と連帯して,債務不履行責任又は不法行為責任を負う。
ア 加盟店管理義務
(ア)a 前記のような不適正な与信の防止は,経済産業省(通商産業省)が昭和50年代から数次にわたって行政指導を繰り返したこと(昭和57年4月13日,昭和58年3月11日,平成4年5月26日,平成14年5月15日,平成16年12月22日),近時裁判例が不適正与信について指摘したこと,マスコミにおいて次々販売,不適正与信防止が取り上げられていること,日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)ほか各地の弁護士会が割賦販売法の改正を求めて決議,声明等を発していること,奈良県議会が割賦販売法の改正を求めて不適正与信防止を明記することを求めていることなどから,社会の強い要請となっている。
b また,加盟店は,クレジット制度の利用により,顧客に対して高額の商品を販売することが可能になる,売買代金を立替金として一括で受領できる,債権管理コストを負担する必要がなくなるとのメリットがある。よって,クレジット制度の本質は,加盟店の便宜を図る点にあるといえる。
そして,加盟店及び信販会社は,信販会社が加盟店に対して購入者に対するクレジットの利用の勧誘,申込手続,解約処理を代行させていることが多いこと,信販会社が加盟店から加盟店手数料を受領していること,信販会社が加盟店に対して奨励金を支払っている例があること,クレジット契約書と売買契約書が一体となっており,信販会社の承認を得ることにより売買契約の効力が発生するとされていること等から,法的,経済的に密接な関係にある。
c かかる状況下において,被告信販会社(被告クオークを除く。)は,原告に対し,準委任契約(原告が被告信販会社に対し商品の売買代金の立て替えを委任するというもの)である本件各立替払契約における善管注意義務又はそれに信義則上付随して発生する義務の一内容として,加盟店管理義務を負う。
(イ) そして,被告信販会社(被告クオークを除く。)は,加盟店との間における加盟店契約締結後において,以下の内容の加盟店管理義務を負っていた。
a 被告信販会社(被告クオークを除く。)は,被告奈良松葉との間の加盟店契約の締結後において,被告奈良松葉が取り扱う商品及び役務の内容並びに販売方法等を十分に調査し,把握しなければならなかった。そして,被告信販会社(被告クオークを除く。)が被告奈良松葉に対して行うべき調査の具体的内容は,以下のとおりである。
① 被告奈良松葉が過量販売等違法な行為を行っていないか,販売,勧誘マニュアル等を取り寄せて確認すること。
② 購入者等や消費者センターなどから被告奈良松葉に対する苦情,相談等を受けたときは,その内容等について十分な調査,分析を行い,その結果を被告奈良松葉の審査,管理に反映させること。
③ 被告奈良松葉に関し,割賦購入あっせんに係る契約件数と比した解約件数や抗弁の申立等が通常よりも高い場合等には,購入者の協力が得られる範囲内で契約締結に至った経緯等を購入者に確認する等,実態調査をすること。
④ 被告奈良松葉による商品,役務の効能,効果に係る説明等について苦情,相談を受けたときは,合理的根拠があるか被告奈良松葉に確認する等の把握をすること。
⑤ 名義貸し等のトラブルを防ぐために購入者等の契約申込意思の確認を徹底するとともに,被告奈良松葉に対して名義貸し等を行わせないよう徹底すること。
⑥ 被告奈良松葉が交付するクレジット書面について,必要書類が正しく記載されているか指導すること。
⑦ 販売されている商品等の代金について,その水準が他の同種の商品等の代金と比較して,適正な範囲内にあるかを把握すること。
⑧ その他の行政指導により定められた事項を遵守しているか被告奈良松葉に対する調査を行うこと。
b 被告信販会社(被告クオークを除く。)は,被告奈良松葉が過量販売等の公序良俗違反ないし不法行為となるような不適切な行為を行っていることを知っていた場合,原告との間で立替払契約を締結して与信を行うことは許されず,加盟店に対する勧告,加盟店契約の解除等の方策を講じる義務がある。
被告信販会社(被告クオークを除く。)は,本件各売買の後において,松葉グループとの取引を停止したこと,被告信販会社(被告アプラス,被告クオークを除く。)が松葉グループの展示販売会場に従業員を派遣していたこと,消費者センターや顧客からの苦情が相次いでいたことから,被告奈良松葉による過量販売等の公序良俗違反ないし不法行為になるような不適切な行為を行っていることを知っていたのであり,原告との間で立替払契約を締結して与信を行うことは債務不履行ないし不法行為に当たる。
c また,被告信販会社(被告クオークを除く。)は,被告奈良松葉の公序良俗違反ないし不法行為になるような不適切な行為を行っていることを知らなかった場合でも,被告奈良松葉の展示販売会場で被告信販会社の従業員を常駐させていた場合など,被告奈良松葉の不適切な行為を容易に知ることができた場合は,与信を行って不適切な行為を助長,促進,援助したことについて,重過失があると評価できるから,不適切な行為を知りながら与信が行われた場合と同視できる。
イ 過剰与信防止義務
(ア) 被告信販会社(被告クオークを除く。)は,原告に対し,前記ア(ア)a,bの事情のほか,以下の事情により,立替払契約における善管注意義務及びそれに信義則上付随する義務の一内容として,過剰与信防止義務を負う。
a 割賦販売法38条が,信用情報機関の利用等により得た正確な信用情報等に基づき,購入者の支払能力を超える与信を行わないように努めなければならないとして,審査の方法も具体的に示して,過剰与信の防止を信販会社の義務としていること。
b 奈良県消費生活条例12条1項により禁じられる不当な取引行為として,同条例第12条1項の規定による不当な取引行為の指定二4号は,「商品等の購入に伴って消費者が受ける信用がその者の返済能力を著しく超えることが明白であるにもかかわらず,そのような信用の供与と一体をなした契約を締結させること」を指定していること。このほか,全国各地の消費生活条例が過剰与信を禁じていること。
c 通商産業省が,昭和61年3月4日,平成7年8月9日において,信販会社に対して過剰与信の防止を求めたこと。
d 経済産業省が過剰与信防止義務に関する割賦販売法の改正を準備していること。
e 消費者基本法5条1項3号では,事業者の責務として,消費者との取引に際して,消費者の知識,経験及び財産の状況等に配慮することが定められており,同趣旨の規定は,特定商取引法においても存在すること。
f 日弁連が平成17年10月18日付「割賦販売法の改正を求める緊急意見書」において,クレジットの過剰与信等による被害の防止が重要である旨を指摘していること。その他,各地の弁護士会も意見書を採択していること。
(イ) 被告信販会社(被告クオークを除く。)は,過剰与信防止義務として,立替払契約の契約書,申込書の記載により,購入者の収入等を把握して信用情報機関である訴外株式会社シー・アイ・シーに必ず照会を行うなどの義務を負うほか,照会によって得られた登録情報と本人から得られた収入に関する情報に基づき,与信を行うことにより支払能力を超えることがないか慎重に検討する義務を負う。
そして,過剰与信防止義務として違法となる場合は,民事執行法152条1項2号が原則として給料の4分の3に相当する金額を差し押さえ禁止としていること,貸金業の規制等に関する法律が既存の債務残高と新たな貸付による債務残高が年収の3分の1を超えることになる貸付を禁止していることを参考にすべきである。
原告は,平均給与が月額16万円である。したがって,毎月の支払が4万円を超える場合,債務の残高が年収の3分の1である64万円を超える場合には,被告信販会社(被告クオークを除く。)は,過剰与信防止義務に違反して,債務不履行責任ないし不法行為責任を負う。
ウ 各被告信販会社(被告クオークを除く。)の不適正与信防止義務の懈怠について
(ア) 被告ニコスについて
a 加盟店管理義務違反
被告ニコスは,大阪市消費者センター,奈良県食品・生活相談センターから松葉グループに対する苦情について通報を受けていたのであり,被告奈良松葉が違法な販売方法をとっていることを知っていた。また,被告ニコスは,かかる苦情を調査,分析することで,被告奈良松葉が違法な販売方法を取っていることを容易に知ることができた。
被告ニコスは,被告奈良松葉の展示販売会場に従業員を派遣して,原告との間で立替払契約を締結しており,被告奈良松葉が違法な販売方法を取っていることを知っていた。
それにもかかわらず,被告ニコスは,原告との間で本件立替払契約1ないし6,19ないし21,A及びBを締結して与信を行い,加盟店管理義務を懈怠したのであり,原告に対し,債務不履行責任ないし不法行為責任を負う。
b 過剰与信防止義務違反
被告ニコスは,上記の立替払契約締結の際,原告に対し,支払能力について,詳細な聞き取りをしておらず,資料の提出を求めたこともなかった。そして,被告ニコスの与信は,別紙1及び2のとおり,平成14年11月から平成17年11月までの3年間にわたり合計11件,支払総額587万0424円に及んだ。原告の同被告に対する月別支払は,平成15年12月からは月額4万4500円に増え,その後,本件立替払契約19,Aを除く本件立替払契約1ないし6,20,21及びBの支払が開始することになっており,許されない過剰与信である。
したがって,被告ニコスは,過剰与信防止義務を懈怠し,債務不履行責任ないし不法行為責任を負う。
c 損害
原告は,別紙1及び2のとおり,被告ニコスに対し,既に378万2864円の立替金を支払っており,被告ニコスの債務不履行ないし不法行為により同額の損害を被った。
(イ) 被告オリコについて
a 加盟店管理義務違反
被告オリコは,大阪市消費者センター,奈良県食品・生活相談センターから松葉グループに対する苦情について通報を受けていたのであり,被告奈良松葉が違法な販売方法を取っていることを知っていた。また,被告オリコは,かかる苦情を調査,分析することで,被告奈良松葉が違法な販売方法を取っていることを容易に知ることができた。被告オリコは,被告奈良松葉の展示販売会場に従業員を派遣して,原告との間で立替払契約を締結しており,被告奈良松葉が違法な販売方法を取っていることを知っていた。
それにもかかわらず,被告オリコは,原告との間で本件立替払契約7ないし14,22,C及びDを締結して与信を行い,加盟店管理義務を懈怠したのであり,債務不履行責任ないし不法行為責任を負う。
b 過剰与信防止義務
被告オリコは,上記の立替払契約における与信審査において,原告の経済状況について詳細な事情聴取,資料の収集をしなかった。そして,被告オリコは,別紙1及び2のとおり,平成15年3月から平成17年7月までの短期間に合計11件,支払総額511万2470円の与信を行った。そして,同被告が原告に対して初めて与信を行った平成15年3月28日(本件立替払契約22)の時点で,原告は既に79万8000円の立替金債務を負っており,その後も,立替金債務が増え,月々の支払額が多額となる中で次々と与信を行っていたのであり,許されない過剰与信である。
したがって,被告オリコは,過剰与信防止義務を懈怠し,債務不履行ないし不法行為責任を負う。
c 損害
原告は,別紙1及び2のとおり,被告オリコに対して,既に153万5170円の立替金を支払っており,被告オリコの債務不履行ないし不法行為により同額の損害を被った。
(ウ) 被告アプラスについて
a 加盟店管理義務違反
被告アプラスは,大阪市消費者センター,奈良県食品・生活相談センターから松葉グループに対する苦情について通報を受けていたのであり,被告奈良松葉が違法な販売方法を取っていたことを知っていた。それにもかかわらず,被告アプラスは,原告との間で本件立替払契約15及び16を締結して与信を行い,加盟店管理義務を懈怠したのであり,債務不履行責任ないし不法行為責任を負う。
b 過剰与信防止義務
被告アプラスは,上記の各立替払契約締結の際,杜撰な与信審査を行い,別紙2のとおり,いずれの契約も,原告における本件立替金債務の月別支払額が4万円を超えている状況で開始されており,許されない過剰与信である。また,原告は,被告アプラスが原告に対して初めて与信を行った本件立替払契約15の締結前において,既に695万1600円の本件立替金債務を負っていた。
したがって,被告アプラスは,過剰与信防止義務を懈怠し,債務不履行ないし不法行為責任を負う。
c 損害
原告は,別紙1及び2のとおり,被告アプラスに対して,既に16万2450円の立替金を支払っており,被告アプラスの債務不履行ないし不法行為により同額の損害を被った。
(エ) 被告セントラルファイナンスについて
a 加盟店管理義務違反
被告セントラルファイナンスは,大阪市消費者センター,奈良県食品・生活相談センターから松葉グループに対する苦情について通報を受けていたのであり,被告奈良松葉において違法な販売方法が取られていることを知っていた。それにもかかわらず,被告セントラルファイナンスは,原告との間で本件立替払契約17を締結して与信を行ったのであり,債務不履行ないし不法行為責任を負う。
b 過剰与信防止義務
被告セントラルファイナンスは,杜撰な与信審査を行い,別紙2のとおり,原告において,本件立替払金債務の月別支払額が8万4200円であり,既に293万4400円の本件立替金債務を負っている状態で,本件立替払契約17を締結しており,許されない過剰与信である。
したがって,被告セントラルファイナンスは,過剰与信防止義務を懈怠し,債務不履行ないし不法行為責任を負う。
c 損害
原告は,別紙1及び2のとおり,被告セントラルファイナンスに対し,既に12万7200円の立替金を支払っており,被告セントラルファイナンスの債務不履行ないし不法行為により同額について損害を被った。
【被告信販会社(被告クオークを除く。)の主張】
ア 加盟店管理義務
本件立替払契約において被告信販会社が行う準委任事務の本旨は,立替払いをすることに尽き,被告信販会社が顧客に対して負っている善管注意義務もその範囲に限定される。また,信義則も本件立替払契約に基づく立替払いの履行のみに及ぶものであり,それを超えて広く契約一般の適否に及ぶものではない。さらに,被告信販会社と加盟店は別個の法主体であるところ,被告信販会社は,加盟店を規律する何らの法的権限を有しない。したがって,被告信販会社は,原告に対し,加盟店管理義務を負わない。
また,被告奈良松葉は,原告との間の本件売買において,不適切な販売方法を取っていなかった。
イ 過剰与信防止義務
本件立替払契約において被告信販会社が行う準委任事務の本旨は,立替払いをすることに尽き,被告信販会社が顧客に対して負っている善管注意義務もその範囲に限定される。また,信義則も本件立替払契約に基づく立替払いの履行のみに及ぶものであり,それを超えて広く契約一般の適否に及ぶものではない。したがって,被告信販会社は,原告に対し,過剰与信防止義務を負わない。また,割賦販売法38条や消費生活条例は,罰則の適用がない訓示規定であり,また行政指導も私法契約の効力に影響はない。したがって,被告信販会社は,原告に対して,過剰与信防止義務を負わない。
【被告ニコスの主張】
ア 加盟店管理義務について
被告ニコスの従業員は,被告奈良松葉の展示販売会場に臨場していたが,これはクレジット申込者と面談し,意思確認,本人確認を行うものであって,この場において被告奈良松葉の販売手法を知ることはできなかった。原告は,加盟店の従業員という立場で本件売買契約,本件立替払契約を締結していたのであるから,十分に契約内容を熟知して購入していた。
したがって,被告ニコスには加盟店管理義務の懈怠はなかった。
イ 過剰与信防止義務について
原告は,加盟店である被告奈良松葉の従業員であり,過去において立替払いを利用した経験を有すること,被告奈良松葉でもトップクラスの成績を上げていたこと,客に対して立替払契約を締結することを勧めていたこと等からすると,被告ニコスにおいて過剰与信がなかったことは明白である。したがって,被告ニコスには過剰与信防止義務の懈怠はなかった。
【被告オリコの主張】
ア 加盟店管理義務について
被告オリコは,被告奈良松葉と原告の本件各売買契約が公序良俗に反することは把握できなかった。原告主張にかかる,被告奈良松葉に関する消費生活センターへの相談が本件各売買よりも前にあったことを示すものは何もない。
また,被告オリコは,本件売買7ないし14の契約締結の際に,被告奈良松葉の販売会場に従業員を派遣していたが,同会場内での顧客との面談において,顧客の契約意思の確認,支払回数,支払総額,住所,生年月日,勤続年数,電話番号等の事項を確認するのみで,被告奈良松葉の販売手法を知ることはできなかった。また,被告オリコは,同面談において,被告奈良松葉の販売方法について調査する義務は何ら負わない。
したがって,被告オリコには加盟店管理義務の懈怠はなかった。
イ 過剰与信防止義務について
被告オリコにおいては,①原告はこれまで遅滞履歴がなかったこと,②昭和16年生まれで配偶者があり,家族所有の自宅があったことから一定の貯蓄を有していると想定できたこと,③被告奈良松葉の従業員であり一定の収入があったこと,④被告奈良松葉の従業員であり,売買契約において取引上の問題は想定できなかったこと等の諸点から与信を行ったのであり,適正な与信判断を行った。
したがって,被告オリコには過剰与信防止義務の懈怠はなかった。
【被告アプラスの主張】
ア 加盟店管理義務について
被告アプラスは,経済産業省(通商産業省)による行政指導に従って消費者保護を図っている。また,被告アプラスは,被告奈良松葉の展示会場に従業員を派遣しておらず,被告奈良松葉が展示会場において,どのような販売手法を取っていたかを把握することはできなかった。また,原告は,被告アプラスが本件立替払契約の内容等を確認した際に,本件売買契約の内容に問題がある旨の申告をしなかった。
したがって,被告アプラスは,加盟店管理義務を懈怠してはいない。
イ 過剰与信防止義務について
被告アプラスは,原告が被告奈良松葉の従業員であって安定した収入が見込まれたこと,被告奈良松葉の従業員として本件立替払契約の内容をよく理解していたこと,原告が被告アプラスのオートクレジット等を利用した経験があるなどクレジット制度について十分理解していたこと,さらに,原告から特に契約に問題があるとの申告がなかったことから,原告との間で本件立替払契約を締結した。したがって,被告アプラスは,適正な審査を行って与信したのであり,過剰与信防止義務の懈怠はない。
【被告セントラルファイナンスの主張】
ア 加盟店管理義務について
被告セントラルファイナンスは,従業員を展示会に派遣していたが,原告との面談では,本人確認,契約意思の確認を行ったに過ぎず,被告奈良松葉の販売手法,勧誘方法が不適切であるかを知ることはできなかった。被告セントラルファイナンスは,顧客からのクレームが多い加盟店,商品価格が不適切な加盟店及び構造的に連鎖販売を行っていることが明らかな加盟店について,加盟店,顧客及び消費者センターからのヒヤリングを考慮して,適宜加盟店契約を解除するなどして,消費者保護の実現に努力している。
本件では,被告セントラルファイナンスからの意思確認の際に原告から本件売買契約についてクレームはなかったこと,原告が被告奈良松葉の従業員であって十分に本件売買契約,本件立替払契約の内容を熟知していたことからすると,被告セントラルファイナンスにおいて加盟店管理義務違反はない。
イ 過剰与信防止義務について
被告セントラルファイナンスは,①原告の従前の取引状況,②勤務先,③家族関係,収入関係等を総合的に判断して,取引上問題のないものとして与信を行った。また,原告は,過去にクレジットを利用して自動車を購入するなどクレジット制度について十分な理解があった。
したがって,被告セントラルファイナンスには過剰与信防止義務の懈怠はなかった。
(2)  本件立替払契約は公序良俗に違反するか(争点7)。
【原告の主張】
ア 被告信販会社(被告クオークを除く。)は,前記(1)のとおり,不適正与信防止義務(加盟店管理義務,過剰与信防止義務)に違反したのであり,原告と被告信販会社との間の本件立替払契約は,公序良俗に違反して,無効である。
イ 被告クオークの不適正与信防止義務の懈怠について
(ア) 加盟店管理義務違反
被告クオークは,大阪市消費者センター,奈良県食品・生活相談センターから松葉グループに対する苦情について通報を受けていたのであり,被告奈良松葉が違法な販売方法を取っていることを知っていた。それにもかかわらず,被告クオークは,原告との間で本件立替払契約を締結して与信を行ったのであり,加盟店管理義務に違反した。
(イ) 過剰与信防止義務
被告クオークは,本件において杜撰な与信審査を行い,別紙2のとおり,原告において689万0300円もの本件立替金債務を負い,その月別支払額が20万1800円にも及んでいる状態において,原告との間で本件立替払契約18を締結したのであり,許されない過剰与信である。したがって,被告クオークは,過剰与信防止義務に違反した。
ウ 以上から,被告ニコスは,原告が既に支払った本件立替金378万2864円を返還する義務があり,また,原告と被告ニコスとの間の本件立替金契約1ないし6に基づく原告の被告ニコスに対する残債務は存在しない。
被告オリコは,原告が既に支払った本件立替金153万5170円を返還する義務があり,また,原告と被告オリコとの間の本件立替金契約7ないし14に基づく原告の被告オリコに対する残債務は存在しない。
被告アプラスは,原告が既に支払った本件立替金16万2450円を返還する義務があり,また,原告と被告アプラスとの間の本件立替金契約15及び16に基づく残債務は存在しない。
被告セントラルファイナンスは,原告が既に支払った本件立替金12万7200円を返還する義務があり,また,原告と被告セントラルファイナンスとの間の本件立替金契約17に基づく残債務は存在しない。
原告と被告クオークとの間の本件立替金契約18に基づく原告の被告クオークに対する残債務は存在しない。
【被告信販会社の主張】
被告信販会社は,前記(1)のとおり,不適正与信防止義務(加盟店管理義務,過剰与信防止義務)を負わない。また,被告信販会社は,かかる義務を負っていたとしても,その義務違反はない。
【被告クオークの主張】
ア 加盟店管理義務
信販会社と加盟店は,別個独立で対等な当事者であり,一方が他方を規律する関係にない。また申込者は,立替払契約を締結するか,現金で支払うかは自由に選択することができる。また,信販会社は,加盟店の営業実態を調査し,是正する法律上の権限を何ら有しない。
被告クオークは,被告奈良松葉の展示会に従業員を派遣していないのであり,本件売買において被告奈良松葉が不適切な販売方法を取っていることを知ることはできなかった。
また,被告クオークは,松葉グループの他の催事に従業員を派遣したことがあったが,それだけをもっても,被告奈良松葉が不適切な販売方法を取っていたことを知ることはできなかった。
したがって,被告クオークには加盟店管理義務の懈怠はなかった。
イ 過剰与信防止義務
立替払契約における委託者が,同契約書において自己の収入金額や資産状況を記入するのは,信販会社の貸し倒れリスクを回避するためであり,これが不備であっても被告クオークの義務違反とはならない。仮に被告クオークが過剰与信防止義務を負うとしても,被告クオークは,株式会社シー・アイ・シーに照会を行っており,過剰与信と認めるべき事実はない。
したがって,被告クオークには過剰与信防止義務の懈怠はなかった。
(3)  本件売買契約が公序良俗に反して無効であること等を被告信販会社に対抗することができるか(争点8)
【原告の主張】
ア 原告は,被告信販会社から本件立替金の支払の請求を受けたときは,被告奈良松葉との間の本件各売買契約が前記1(1)のとおり公序良俗に違反して無効であること等をもって対抗することができる(割賦販売法30条の4)。
本件各売買が,事業者がその従業者に対して行う割賦販売にあたるとしても,被告奈良松葉が自社の商品を販売する目的でパート従業員を雇用しており,被告信販会社が加盟店管理義務及び過剰与信防止義務を履行しなかったとの本件具体的事情を考慮すると,団体内部の自治を尊重するという適用除外規定(同法30条の6,8条5号)の趣旨に妥当しないから,本件において前記適用除外規定の適用はない。
イ また,本件において,割賦販売法30条の4の適用による抗弁権の接続が認められないとしても,割賦販売あっせん業者において販売業者の不履行に至るべき事情を知り若しくは知りうべきでありながら立替払いを実行したなどの,不履行の結果を割賦販売あっせん業者に帰せしめることを信義則上相当とする特段の事情があるときは,信義則上の抗弁権の対抗が認められる。
被告信販会社は,展示販売会場に従業員を派遣し,被告奈良松葉の不当販売,過量販売の実情を知り又は知りうべきでありながら,立替払契約を締結し,加盟店管理義務及び過剰与信防止義務を履行しなかったのであるから,前記特段の事情が存在し,信義則上,抗弁権の接続が認められる。
ウ したがって,原告は,被告ニコスとの間の本件立替払契約1ないし6,被告オリコとの間の本件立替払契約7ないし14,被告アプラスとの間の本件立替払契約15及び16,被告セントラルファイナンスとの間の本件立替払契約17並びに被告クオークとの間の本件立替払契約18に基づく各債務の履行を同被告らから請求された場合には,原告と被告奈良松葉間の本件売買契約が公序良俗に反して無効であること等をもって被告信販会社に対抗することができる。
【被告信販会社の主張】
本件売買契約には,公序良俗に反するなどの事情はなく,無効であるとはいえない。
また,原告は,被告奈良松葉の従業員であったのであり,割賦販売法30条の6,同法8条5号により,同法30条の4の適用はない。また,同法は,創設的に抗弁権の接続を規定しており,信義則を持ち出して適用範囲を広げるべきでない。
したがって,原告は,被告信販会社から本件立替払契約に基づく残債務の履行請求を受けたときに,原告と被告奈良松葉間の本件売買契約が公序良俗に反して無効であること等をもって対抗することはできない。
【被告オリコの主張】
原告は,従業員として被告奈良松葉の販売方法を熟知していたこと,売上成績が中上位にあったこと,経済的知識や契約に疎い一般消費者とは区別されるべきであること,被告奈良松葉の売上に寄与して給料とは別に金銭支給を受けうる利欲的立場にあったこと,企業内部の問題として被告オリコの認識が及びにくいこと,原告はこれまでクレジット契約を締結した経験を有することからすると,信義則上,抗弁権の接続を認めるべき特段の事情は存しない。
【被告クオークの主張】
信義則による適用があったとしても,被告クオークは展示会販売ではないから被告奈良松葉の販売が公序良俗に反するかは知り得ないし,また公序良俗に反するか否かは法的評価であり,被告信販会社はこれが無効であるとの認識を持ち得ない。
したがって,信義則により抗弁権が接続されることはない。
第5  当裁判所の判断
1  認定事実
前記争いのない事実等,証拠(甲4,5,11ないし31〔枝番を含む。以下同じ。〕,35ないし38,43ないし59,62ないし67,69ないし75,79,100ないし118,134ないし149,166,167,169,171,乙A1ないし8,10ないし54,56,証人Q〔ただし,乙A54,56,証人Qについてはいずれも措信できない部分を除く。〕,原告本人,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(1)  原告について
ア 原告(昭和16年生まれ)は,昭和35年3月に高等学校を卒業し,同年4月から,訴外大丸工業株式会社に勤めて事務の仕事に携わっていたが,昭和40年に婚姻し,昭和42年に前記職を退職して専業主婦となった。その後,原告は,パートとして,昭和63年5月から平成6年7月まで,訴外株式会社嘉納でラッピング等の仕事を,同年11月から,和菓子屋での店頭販売の仕事をした。しかし,同和菓子屋が平成14年8月に閉店となったため,原告は,前記職を退職し,同年9月,生活費を稼ぐために,被告奈良松葉の西大和店でパート従業員として勤務するようになった。
イ 原告は,平成17年8月ころまで,夫である訴外R「以下「R」という。)と2人で暮らしていた。原告とRとの2人の資産は,自宅の土地建物程度であり,預貯金はほとんどなかった。Rは,平成14年から,月平均22万7250円の年金を受給していたが(平成18年には減額されて月平均で20万円足らずである。甲58の1,2),年金のみでは生活費が足りないため,パート従業員として月6万2000円程度の給与を得ていた。
ウ 原告の姉であるP(昭和12年生まれ)は,夫を亡くした平成11年ころから,生活保護を受給していた。
(2)  被告奈良松葉について
ア 被告奈良松葉は,呉服の販売等を業とし,訴外株式会社松葉などと共同して着物の展示販売会等の開催,販売方法の策定,売上目標の設定などを行っていた。また,訴外株式会社松葉の代表取締役は,被告奈良松葉の代表取締役である松葉哲雄であり,被告奈良松葉の従業員は,「きもの松葉」,「株式会社松葉」と記載された名刺を所持して営業をしていた。したがって,被告奈良松葉は,訴外株式会社松葉などと実質的に一体であり,同社を中心とする松葉グループの一角をなしていた。
イ 原告が勤務していた西大和店は,近隣の4店舗とともに松葉グループにおける奈良第2地区に属し,同地区の地区長は,Q(平成18年4月末に被告奈良松葉を退社)であった。西大和店おいては,5人ほどのパート従業員が在籍していた。
ウ 被告奈良松葉は,着物等の販売を,店頭,外商及び展示販売会で行っていたが,展示販売会での売上が被告奈良松葉の売上の約9割を占めていた。そして,被告奈良松葉は,松葉グループに属する他社とともに,大催事,地区催事,前半催事などの展示販売会を開催していた。
大催事は,松葉グループにおける最大規模の展示販売会であり,大阪市内の会場を借り切って,関西各地の松葉グループの顧客を集め,毎年1月,4月,7月,10月の年4回(1月「新春・松彩会」,4月「希望展」,7月「松彩会」,10月「創業大感謝祭」などと銘打っていた。),7日間連日で開催された。
地区催事とは,松葉グループの近隣数店と合同で行われる展示販売会であった。前半催事とは,各店ごとに行う催事であり,西大和店においては1年間に8回程度開催されていた。
エ 被告奈良松葉は,松葉グループの他社とともに,顧客に着物を着る機会を提供し,また顧客との関係を保つことを目的として,一流ホテルや高級料亭等で「きずな会」というパーティーを開催した。
(3)  被告奈良松葉における売上や動員の目標値の設定とその達成について
ア 被告奈良松葉は,松葉グループの他社とともに,同グループ全体での年間の売上目標とともに,各地区,各店舗の年間,月間,展示会ごとの売上目標,さらには,各従業員の月間,展示会ごとの売上目標を設定していた。また,被告奈良松葉では,前記(2)ウのとおり,展示販売会における売上が同被告の売上の大部分を占めていたことから,各従業員に対し,担当する顧客から展示販売会へ来場する約束を取り付ける(松葉グループにおいては,これを「リザーブを取る」と呼んでいた。)よう指示し,各従業員に対し,顧客から来場する約束を取り付ける件数の目標(以下「顧客動員目標」という。)をも設定していた。
被告奈良松葉は,松葉グループの他社とともに,地区長,店長などの幹部に対し,「お前ら,異常さに気付いているのか?何の為の店長なのか?上記を何ヶ月も続けて,それでも店長(地区長)と呼べるのか?ええかげんに,営業部としてまとまろうや,成果の上がる仕事をもっともっとしようや!」といった通達(甲47)を送付したり,「売上倍増に創意を終結し,目標貫徹に突き進め。今日の最高値を明日の最低目標とせよ。」「常にシェアに目をむけ,拡大を狙え。」などの幹部心得を記載した幹部必携書(甲149の1,2)を交付するなどして,売上目標及び顧客動員目標の達成を徹底して求めていた。また,店長,地区長等の松葉グループの幹部は,各従業員に対して,顧客動員目標の達成のために,従業員の親族からも来場の約束を取り付けるように求め,来場した親族については,必ず松葉グループから商品を購入してもらうように指示していた。
イ 原告は,各従業員に設定された顧客動員目標の達成とともに,展示販売会場に来場した親族には必ず商品を購入してもらわなければならないとの指示に従うため,姉のPに展示会に来場してもらって,同人名義で本件売買契約1,3,7,10,12,14,16及びAを締結し,原告が前記各売買のために組んだ本件立替払契約の立替金債務を負担した。そして,原告は,前記各売買で購入した商品を自ら受領し,売上伝票についても,前記売買のうち本件売買契約1(P名義)以外は,原告名義で作成した。
ウ 原告は,平成17年12月に被告奈良松葉を退職するまでの間に,合計13回の大催事に従事した。原告の目標値は,当初は動員10名で売上100万円という数値であったが,その後,売上目標値が150万円から,200万円ないし250万円へと上がっていった。原告が売上目標値を達成したのは,平成14年10月(乙A10),平成15年1月(乙A11),同年10月(乙A14),平成17年1月(乙A19)の計4回であり,その他9回の大催事においては売上目標値を達成することができなかった。
もっとも,大催事において目標値を達成した従業員は,松葉グループ全体において15%程度であり,原告は,西大和店における従業員の中で2番目の売上を上げていた。
(4)  被告奈良松葉における給与体系について
ア 被告奈良松葉は,原告の入社時から平成16年1月まで,各パート従業員に対し,1時間あたり800円の給与と販売手当を支払っていた。もっとも,各従業員の給与額の算定において基礎となる勤務評価時間は,現実の勤務時間にかかわらず,売上によって決するものとし,例えば売上が月間70万円未満の場合の勤務評価時間は145時間としてこれを最低の勤務評価時間とし,売上が月間70万円以上90万円未満の場合の勤務評価時間は160時間とした。販売手当は,月間110万円以上の売上がある場合に,売上の金額によって8500円ないし30万円の手当が支給されることとなっていた。したがって,被告奈良松葉のパート従業員は,売上が月間70万円未満の場合,当月分の給与として11万6000円が支給されることとなり,これが最低額であった。
イ 被告奈良松葉は,平成16年2月から,各パート従業員に対する給与額の計算方法を改めて,基本月給額と販売手当から構成するものとした。基本月給額は,各従業員の3か月間の平均売上高により翌3か月間の基本月給額を決することとして,3か月間の平均売上が40万円未満の場合における月給額を10万円とした。販売手当は,3か月間平均現入金額が70万円以上の場合に支払うものとした。
ウ 原告は,被告奈良松葉から,平成14年9月から平成17年12月までの間,税金等を控除した手取額として月額12万2290円から25万7790円の給与を受領し,年間受給額(手取り)は,平成15年が213万3530円,平成16年が187万5850円,平成17年が181万3630円であった(このほかに賞与として年に2万8530円から4万3526円を受給した。乙A4ないし7)。
(5)  被告奈良松葉における従業員の制服着用について
被告奈良松葉は,大催事及びきずな会において,各従業員に対し,着物の着用を義務付け,その着物は各従業員が用意することとしており,大催事の際に着物を着用することは,各従業員に対し,採用面接の際に伝えていた。松葉グループの従業員は,大催事では,接客のため立ったり座ったりが頻繁にあり,また7日間連続して開催されるため,格のある訪問着ではなく,小紋,紬などを複数用意する必要があったが,他方,きずな会では,一流ホテルや高級料亭で開催されるため,訪問着などの格のある着物を用意する必要があった。
被告奈良松葉は,従業員が大催事,きずな会といった場や自己の年齢等に合う着物を所持していない場合には,着用する着物を松葉グループから購入することが当然であるとの雰囲気を形成した。
(6)  被告奈良松葉における従業員に対する自社商品の販売について
ア 被告奈良松葉は,従業員に対する自社商品の販売において,事前に店長,地区長等の承認を得て1割から2割の値引きをしていた。
イ 松葉グループにおける,平成15年3月,平成16年3月,平成17年3月及び平成18年3月の時点における在職期間ごとのパート従業員数は,別紙3①・②「パート従業員数」の表の上段の記載のとおりであり,そのうち松葉グループにおいて自社商品を購入したことがある者は,同表下段に記載のとおりであった。この表によると,松葉グループに1年以上在籍するパート従業員のうち,概ね8割以上は松葉グループから商品を購入していた。
西大和店では,売上げに占める従業員の購入額の比率は高く,半分程度に及んだときもあった。
また,別紙3③によると,松葉グループにおいて,平成14年ごろから平成19年ころまでに在籍したパート従業員のうち,自社商品の合計購入金額が400万円以上500万円未満の者は9人,500万円以上1000万円未満の者は13人,1000万円以上の者は5人いる。
なお,別紙3④のとおり,松葉グループでは,平成14年ないし平成17年に,パート従業員として採用した者のうち,3か月未満で退職した人数は採用者の概ね25ないし30%,1年未満で退職した人数は採用者の半数をはるかに超えていた。
ウ 本件における承認
原告は,地区長であったQなどから承認を得て社員割引価格で商品を購入することが多かった(乙A25,27,28,33ないし38,42ないし46,49,50)。
エ 上記ウのとおり,地区長であるQは,社員割引の承認をしたこともあって,原告の購入回数を把握していたし,また,支払金額についても概ね把握していた。
(7)  本件売買契約の締結並びにこれに伴う立替払契約に基づく債務及び返済の状況について
ア 原告は,前記(3)ウのとおり,退職するまでの間に合計13回の大催事に従事したが,このうち平成14年10月,平成15年1月,同年4月及び同年7月の大催事には,被告奈良松葉の商品を購入しなかったが,同年10月に本件売買A,平成16年1月に本件売買7,同年4月に本件売買2,同年7月に本件売買8,同年10月に本件売買3,平成17年1月に本件売買12,13,同年4月に本件売買23,同年7月に本件売買14,同年10月に本件売買5の各契約を締結して,被告奈良松葉の商品を購入した。
イ 本件売買契約8の締結時の状況について
原告は,平成16年7月28日,大催事において,喪服セットを代金65万円で購入した(乙A31)。原告は,平成15年3月28日,本件売買22において喪服を既に購入しており,姪が着用するかも知れないということで購入したが,姪はこの着物は不要であったため,平成17年10月の展示会において,前記喪服を返品してダイヤのリングと交換した(乙A32)。
ウ 本件売買契約15,16及び18の締結時の状況について
原告は,平成17年3月20日,風呂に入れるとゲルマニウムを発生させるという「マイナススーパーイオン」を,また,同年6月15日,オーストリッチのバッグ等を購入した(乙A40,41の1の1,2)。Qは,前記各売買時において,原告が既に多額の立替金債務を負っており,本件売買において既に立替払契約を締結した信販会社では審査が通らないことから,原告に対し,まだ契約を締結していなかった被告アプラスの利用を勧めた。原告は,上記各売買の代金支払について,被告アプラスとの間で,本件立替払契約15,16を締結した。
また,原告は,同年11月2日,本件売買18において,付下げ,塩沢紬を購入した(乙A43)。Qは,既に利用した信販会社では審査が通らないことから,原告に対し,まだ利用していなかった被告クオークの利用を勧めた。原告は,かかる売買の代金支払について,被告クオークとの間で本件立替払契約18を締結した。
エ 原告は,平成14年11月26日,被告奈良松葉から訪問着等を購入して被告ニコスとの間で本件立替払契約19を締結したのを皮切りに,平成17年11月4日までの約3年の間に,別紙1,2のとおり,被告奈良松葉から着物,帯,バッグ,貴金属等を次々に購入し,合計で27回の本件売買契約を締結し,その都度,立替払契約を締結した。
本件売買契約に対応する立替払契約(以下,エ項では番号のみで表記する。)に基づく債務額は,平成15年3月には100万円を超え,その後も,以下のとおり契約を重ねるごとに負債が急激に嵩んでいる。
平成15年 3月28日 契約22 直後の残債務 100万円超過
同年12月23日 契約 1 同         280万円程度
平成16年 6月 3日 契約17 同         300万円超過
同年 7月29日 契約 8 同         400万円超過
同年 9月17日 契約10 同         500万円超過
同年10月 8日 契約11 同         600万円超過
この負債の増加に伴い,各月の支払額も増え続け,別紙2のとおり,契約1の後は7万4300円あるいはそれ以上,契約17の後は8万1200円あるいはそれ以上,契約8ないし10の後(この間,契約しても直ちに支払が開始されないようになっている。)である平成16年10月の支払額は11万3730円であり,さらにその後は月額の支払が12万5560円,14万5064円,さらには20万円を遙かに超える支払額となった。
(8)  原告が本件各売買において購入した商品の使用状況について
原告は,本件売買5において購入した小紋着尺,袋帯について,被告奈良松葉から引き渡しを受けていないほか,本件売買1ないし3,9のうちのルースヒーリング,14,16,17,18,20ないし22において購入した商品(着物,帯,草履,バッグ。本件売買9についてはルースヒーリング)を使用しておらず,バッグには値札がついたままである(甲52)。
原告は,本件売買7において購入した羽尺,本件売買9において購入した皇袋帯,本件売買19において購入した訪問着はきずな会で,また,本件売買11において購入した大島紬は大催事でそれぞれ着用した。
(9)  原告の判断能力について
原告は,平成17年12月ころ,クレジットの返済に窮するようになったことから,自律神経失調症と同様の状態に陥り(甲36),平成18年9月に大阪府立精神医療センターを受診した。同センターにおける心理検査の結果,原告は,物事を客観的,多角的な視点で捉えることが難しく,吟味力にも乏しいため,現実対応能力が不十分であること,さらに対人場面においては,必要以上に敏感である一方,適正な状況判断及び対処をなすことが困難な傾向があることが示され,抑うつ状態であると診断され,この病状の原因として,職場環境に抗することができず,多額の着物等を購入し支払に行き詰まったことが考えられるとされた(甲79)。
(10)  消費生活センター等への松葉グループに関する相談について
全国の消費生活センターには,平成7年4月1日から平成18年3月23日までの間に,「松葉」「きもの松葉」「松葉グループ」「奈良松葉」「なにわ松葉」「千寿苑松葉」に関する相談が185件寄せられ,その中には,従業員が購入を強制されたとする被害事例も含まれていた(甲35の2〔事例番号5,9,31,32〕)。
大阪府消費生活センターは,平成12年から平成18年まで,「株式会社松葉」「株式会社きもの松葉」に関する相談を21件受け,その中には従業員が購入を強制されたとする被害事例も含まれていた(甲167〔事例番号1,3,4,5〕)。
大阪市消費生活センターには,平成14年から平成19年1月31日までの間に「株式会社松葉」「きもの松葉」「松葉グループ」「千寿苑松葉」「奈良松葉」に関する苦情が30件寄せられ,その中には従業員が松葉グループから商品を購入したことによるトラブルに関する事例も含まれていた(甲169,事例1,9,14,21,22)。大阪市消費生活センターは,消費者からの被害相談があったときには,松葉グループに通報していた。
(11)  被告奈良松葉における過量販売に対する社内ルールの策定について
被告奈良松葉では,販売後のトラブルが増加していることを受けて,総務部が,平成15年10月15日付けでクレジット契約における社内ルール(高齢者契約,社員購入契約及び多重販売契約のガイドライン。多重販売契約では,残債権額が年収の1.5倍から2倍の範囲を超えないことを目安とするというものである。)を設けた(甲149の2)。また,被告奈良松葉は,松葉グループの他社とともに,平成17年8月13日,緊急営業本部通達をもって,過量販売についての自主ルールを設定し,販売の基本原則として「多重販売,過量販売は,今後一切禁止…お客様の支払能力を超えて販売をしては行けない(原文ママ)」とし,不均等払いによる立替払契約の締結の禁止,残債権が300万円を超えて60回払いを使用した場合において,残債権が300万円を下回るまで再び販売することの禁止などを決めた(乙A26)。そして,松葉グループは,幹部必携書における第46期(平成18年5月1日から1年間)の営業方針の中で,「少ないお客様が年間に何回も100万クラスの買い物を繰り返すことによって,短期間でお客様を食いつぶしてしまう結果を引き起こしています。」,「昨今の消費者保護の立場から,一部のお客様に頼り続けると,きもの松葉の将来はなくなってしまいます。」(甲149の1)などと注意を喚起した。
2  本件売買契約が公序良俗に反して無効か否か(争点1)について
前記1において認定した事実をもとに,本件売買契約の効力について検討する。
(1)  前記1(7)エのとおり,原告は,平成14年11月26日からの約3年という期間において,被告奈良松葉から着物,帯,バッグ,貴金属等を次々に購入し,合計で27回の本件売買契約を締結し,これに対応する立替払契約に基づく債務も,平成15年3月には100万円を超え,同年12月23日に約280万円に達し,平成16年6月3日に300万円を超え,その後の1年4月の間に600万円を超えるまで急激に増加しているのであり,これに伴い,各月の返済額も7万円ないし8万円から20万円以上にまで急激に膨らんでいる。
一方で,前記1(1)で認定したとおり,原告あるいは夫であるRの資力は乏しく,年金やパート収入に頼った生活を送っていたのであり,そもそも原告が被告奈良松葉でパートとして働き始めた経緯が生活費を捻出するためであって,前記1(4)ウで認定したとおり,原告の給与収入額はせいぜい年収が213万円程度から181万円程度(月平均で17万円から15万円程度)にすぎなかったのである(なお,被告奈良松葉は,本件売買契約1,3,7,10,12,14,16のうちの藍単衣及びAは,Pが契約当事者であり,原告が契約したものではないと反論するが,前記1(3)イのとおり,売買目的物はPではなく原告が受領し,立替払契約の支払も原告がし,かつ,売上伝票もほとんどが原告名義であるのであり,これらの事実に照らすと,前記売買は原告が買主であったと認められるし,少なくとも,経済的負担の多寡を論ずる場合には上記売買の主体を原告と見なして差し支えないというべきである。)。
そうすると,原告が繰り返した本件各売買とそれに伴う立替払契約は,返済がおよそ不可能な状況下でされたものというべきである。
(2)  上記のような事態に陥った点について,被告奈良松葉は,いずれの売買も,原告が自ら購入商品を決定し,地区長であるQらに値引きを求めて購入した結果である,原告は優秀な成績を収めており,売上目標値達成への心理的圧迫などはなく,同被告が自社商品の購入を強制したことはなかった旨主張し,証人Qの供述等(乙A54,55)にはこれに沿う部分がある。
(3)  しかしながら,前記1(8)のとおり,原告が購入した商品の中には受け取ってから全く使用せずに保管してある着物,帯,さらにはバッグ(値札がついたままである。)があるのであり,使用した着物についても,大催事やきずな会で仕事の一環として着用したのみであるから,原告が自ら欲して上記商品を購入したとは言い難い。
かえって,前記1(3)アのとおり,被告奈良松葉は,地区長,店長など幹部や従業員に対して,売上目標及び顧客動員目標の達成を徹底して求めていた上,前記1(4)ア,イのとおり,売上によって勤務時間の評価が変動する給与システムを採用して,上記目標を達成することが給与に直接影響,反映する仕組みとなっていたのであるから,従業員が後の返済の負担を顧みずに目標を達成して給与を増額させようと自ら自社商品を購入するといった事態を招くのは,あながち不自然ではない。
また,前記1(5)のとおり,被告奈良松葉では,大催事及びきずな会に制服として着物を着用することを義務付けて,その場や当該従業員の年齢等に合う着物を所持していない場合において,着用する着物を松葉グループから購入するのが当然であるような雰囲気を形成していたのであり,このことも,従業員自らが自社商品を購入しようとする職場環境作りとしての意味をもっていたというべきである(被告奈良松葉は,制服としてはポリエステル等の安い着物を購入する機会があったと主張し,証人Qはこれに沿う供述をするが〔乙A56も同旨。〕,売上額を意識するのであれば,そのような安価な商品をクレジットを組んで購入してもさほど有効ではないというべきであるから,反論としては意味をなさないというべきである。)。
以上の諸点に照らすと,原告が過大な債務を負担するような本件売買とこれに伴う立替払契約を繰り返した原因は,原告の購買意欲にあったわけではなく(社員割引を利用したからといって,それは負担を少しでも軽減しようとする極めて自然な態度であって,購買意欲があることを示すものというわけではない。),被告奈良松葉の売上目標達成優先の営業方針とそのための給与体系を採っていたことに起因したものというべきである。
もっとも,原告は,前記1(9)のとおり,適正な状況判断をすることが困難な傾向があるという診断を受けているが,この診断は,本件立替金債務の返済に窮するようになった後の状況であること,前記1(6)イのとおり,松葉グループにおいて自ら自社商品を購入する従業員が非常に多かったこと,また,前記1(10)のとおり,各地の消費生活センター等に松葉グループの従業員が着物を購入して債務の支払に困惑しているとの相談が多数寄せられていたことに照らすと,原告の個人的な資質が過大な債務負担の原因であるとはいえないというべきである。
(4)  さらに,前記1(6)ウ,エのとおり,被告奈良松葉にあっては,地区長であるQやその他の幹部が商品購入の際に社員割引の承認をしていたことなどから,原告の購入回数や月々の支払金額も概ね把握していたのであり,その購入回数や毎月の返済額が非常を多いことは認識していたというべきである。また,前記1(7)ウのとおり,本件売買15,16及び18の際には,既に利用した信販会社では審査が通らない程度に立替金債務が膨らんでいたことを認識していたことが認められるのである。
このように,被告奈良松葉は,原告の商品購入やその債務負担額について幹部を通して把握していたのであるし,また,当然ながら,原告に支給される給与額についても把握し,原告の実情は認識していたというべきである。事実,同被告は,前記1(11)のとおり,消費生活センターに寄せられた苦情に配慮して,平成15年10月15日付けで社内ルールとして多重販売契約等のガイドラインを設け,残債権額が年収の1.5倍から2倍の範囲を超えないようにすることとしていたのであるから,原告について,従業員とはいってもこのガイドラインを超えているということは十分認識していたものというべきである。被告奈良松葉は,その上で,原告に対し,なおも売上目標の達成を徹底して求め,同被告の利益を図ったということができる。
この点,被告奈良松葉は,原告は余裕のある生活を送っているものと認識していたと主張し,証人Qはこれに沿う供述をするが,Qにおいてそのような認識を持つ客観的な裏付けがあったわけではなく,前記認定事実に照らすと到底措信することはできない。
(5)  以上,本件各売買とこれに伴う立替払契約に基づく立替金債務が極めて過大であり,原告の資力等に照らして到底支払不能であったこと,そのような事態を引き起こした原因が被告奈良松葉の営業方針にあった上,同被告も原告の上記実情を十分認識して,売上目標の達成を徹底して求めていたという事情を総合すると,本件売買に至らせた被告奈良松葉の行為は,売上向上や売上目標の達成のために,原告の従順な人柄を利用し,原告に対し,自社商品を購入することを事実上強要したものというべきであり,その結果,同被告は,従業員である原告の過大な債務負担のもとで会社としての利益を得たということができる。そうすると,同被告の上記行為は,原告が負う上記債務の程度によっては社会的相当性を著しく逸脱したものとなるというべきである。
そこで,さらに判断すると,平成16年6月3日の本件売買契約17及び本件立替払契約17を締結するまでに,別紙2のとおり,すでに残債務額が293万4400円あり,上記各契約の締結により立替払契約の残債務額が300万円を超え,各月の返済額も8万円を超え(8万4200円ないし8万1200円),向こう1年以上にわたって各月の返済額が月平均の給与の半分を超える状態に至ることとなったのであり,その後の本件売買によって,さらにその状況は著しく悪化し,残債務も平成16年の原告の年収額の1.5倍を超えるようになっている。そうすると,本件売買契約17の締結以降において締結した本件売買契約,すなわち,本件売買契約3ないし6,8ないし18,21,23及びDは,原告の支払能力を超えるものであっていずれも公序良俗に反して無効であるというべきである。
なお,原告は,本件売買契約は,一連一体として公序良俗に違反して無効であると主張するが,本件においては,各売買契約は,それぞれ別個に契約締結がなされ,前記のとおり,原告の支払能力を超える量の購入をさせた以降において公序良俗に反すると認めるべきであるから,原告の上記主張は,採用することができない。
(6)  以上検討したところによれば,被告奈良松葉が本件売買3ないし6,8ないし18,21,23及びDに基づいて受領した売買代金は法律上の原因がない利得(605万7200円)であり,他方,原告は,既に上記売買契約に対応する立替払契約に基づいて合計155万8604円を支払い,これについては返還を求めることはできないのであるから損失であると認められる。したがって,被告奈良松葉は,原告に対し,不当利得返還債務として155万8604円を返還する義務がある。
3  被告奈良松葉に職場環境配慮義務違反の債務不履行があるか(争点2)について
原告は,被告奈良松葉が使用者という優越的地位を利用して,売上ノルマの達成,制服着用を強要して,松葉グループから着物等を購入するのが当然であるとの職場環境を形成したことが,原告との間の雇用契約に付随して信義則上生じる職場環境配慮義務に違反するとして,被告奈良松葉は債務不履行責任を負う旨主張する。
しかし,前記2のとおり,被告奈良松葉の行為を社会的相当性を著しく逸脱して公序良俗に反するものとしたのは,職場の環境形成の側面だけでなく,生活を維持できなくなるような過大な商品購入を,その認識を有しながら原告に行わせたという本件売買契約の過大性をも考慮した結果であって,売上目標達成や制服着用のために自社商品を購入することが当然であるという職場環境を同被告が形成したこと自体が,直ちに社会的相当性を著しく逸脱した違法なものとなるというわけではないし,上記職場環境の形成行為と本件売買契約に伴う立替払契約に基づいて立替金を支払ったこととの間に相当因果関係があるとも言い難い。
したがって,被告奈良松葉は,原告に対し,雇用契約に付随する職場環境配慮義務に違反したことを理由とする債務不履行責任に基づく損害賠償債務を負うとはいえない。
4  本件売買が被告奈良松葉の不法行為にあたるか否か(争点3)について
(1)  被告奈良松葉は,前記2のとおり,平成16年6月3日に締結された本件売買契約17以降,次々と本件売買契約3ないし6,8ないし18,21,23及びDを締結させ,その結果,原告は300万円以上の立替金支払債務を負担し,毎月8万円以上,ひいては10万円以上の支払を余儀なくされたものであり,これは,被告奈良松葉において,原告が経済的に逼迫した状態に陥ることを十分認識し,かつ,原告の従順な人柄を把握した上で,売上のノルマを課したり制服として着物の着用を義務付けたことの,いわば当然の成り行きないし結果であるということができる。したがって,本件売買契約17以降の本件各売買を締結させた被告奈良松葉の行為は不法行為に当たる。
(2)  そうすると,本件売買3ないし6,8ないし18,21,23及びDの各売買の代金支払のために締結された立替払契約に基づいて原告が既に支払った立替金に相当する額155万8604円が相当因果関係にある損害であると認められる。もっとも,これに加えて,上記損害のてん補だけでは補えない慰謝料を認めるべき事情は見出し難い。なお,前記1の認定事実及び弁論の全趣旨によれば,原告が被告奈良松葉の不法行為による損害を回復するため,本訴を提起せざるを得なかったことは明らかであり,本件訴訟の難易度,認容額等の事情に照らし,被告奈良松葉の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は16万円が相当であると認められる。
(3)  この点,被告奈良松葉は,原告は,本件各売買にかかる商品を心底気に入って購入したのであり,原告ないしPを含む原告側に重大な過失があったとして,過失相殺を主張する。しかしながら,前記(1)のとおり,原告は,売上を上げるために,不必要な商品まで購入することを余儀なくされたのであり,使用した着物等も着用を義務付けられた展示会等に着用した程度であることに照らすと,原告ないし原告側に過失ないし落ち度があったと認めるに足りる証拠はない。よって,この点に関する被告奈良松葉の主張は採用することができない。
(4)  したがって,被告奈良松葉は,原告に対し,不法行為責任に基づく損害賠償として,171万8604円及びうち160万3604円に対する不法行為の後である平成18年3月3日から,うち11万5000円に対する平成19年7月14日から,各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
5  特商法9条1項による解除(クーリングオフ)の可否(争点4)について
(1)  原告は,本件売買1ないし5,7ないし19の売買契約について,特商法9条1項により解除の意思表示をしたとして,上記各売買の代金の既払立替金相当額の不当利得の返還を求めている。
もっとも,前記2のとおり,上記売買のうち本件売買3ないし5並びに8ないし18は,公序良俗に反して無効であり,原告は,かかる売買についての既払立替金相当額の不当利得返還請求権を有するのであるから,これらの売買契約については,特商法9条1項の解除の有効性を判断するまでもない。
(2)  そこで,その余の本件売買1,2,7及び19について,その解除の有効性を検討する。
原告は,上記契約が締結された展示会場は,営業所等以外の場所に該当すると主張する。
ところで,「営業所等」とは,営業所,代理店その他の経済産業省令で定める場所をいい(特商法2条1項1号),一定期間にわたり,指定商品を陳列し,当該指定商品を販売する場所であって,店舗に類するものも含まれる(特定商取引に関する法律施行規則〔昭和51年11月24日・通商産業省令89号〕1条4号)。これは,①最低2,3日以上の期間にわたって,②指定商品を陳列し,消費者が自由に商品を選択できる状態のもとで,③展示場等販売のための固定的施設を備えている場所で販売を行うものをいうと解される(「特定商取引に関する法律等の施行について」平成16年11月4日経済産業省大臣官房商務流通審議官発 各経済産業局長及び内閣府沖縄総合事務局長あて)。
そこで検討すると,前記1(2),同(7)のとおり,本件売買2,7は,7日間会場を借り切って行われる大催事において締結されたものであり,また,証拠(甲148,証人Q)によれば,その他,本件売買1及び19の各売買契約も,数日の間開催される展示会において締結されたものであると認められる。よって,本件売買1,2,7及び19の各売買が締結された展示会場は,上記①ないし③の要件を具備するものといえ,営業所等以外における販売であるとは認められない。
これに対し,原告は,被告奈良松葉が顧客を強引に展示会場に呼び込み,長時間にわたって取り囲んで執拗な購入要求を行っていたとして,上記展示会場は営業所等以外の場所に該当すると主張するが,本件証拠を精査しても,被告奈良松葉が,原告を強引に展示会場に呼び込んだとか,長時間にわたって取り囲んだといった事実を認めることはできないから,「営業所等」に関する解釈の当否を検討するまでもなく,原告の上記主張は採用することができない。
(3)  したがって,原告は,特商法9条1条により本件売買契約1,2,7及び19を解除することはできず,原告の請求は理由がない。
6  不実告知,詐欺,錯誤を理由とする本件売買の意思表示の瑕疵の有無(争点5)について
前記2のとおり,本件売買契約11は,公序良俗に反して無効であり,これについての既払金相当額の利得金返還請求権が認められるのであるから,さらに上記契約の意思表示について,不実告知による取消しの可否,詐欺取消しの可否,錯誤無効に当たるのかの判断をするまでもない。
7  被告信販会社(被告クオークを除く。)の債務不履行責任又は不法行為責任の有無(争点6)について
(1)  原告は,立替払契約上の善管注意義務ないしこれに付随して信義則上発生する注意義務の一内容として,被告信販会社には,加盟店である被告奈良松葉の販売態様等を調査し,不適切な実態がある場合には是正を求め,悪質な加盟店に対しては与信を行わない義務(加盟店管理義務)及び与信の実行にあたり,消費者の支払能力,それまでの与信の総額等を調査し,返済能力を超える与信を行わないようにする義務(過剰与信防止義務)を負うとした上で,被告クオークを除く被告信販会社は上記各義務に違反したことを理由に債務不履行責任ないし不法行為責任を負う旨の主張をする。
(2)  そこで,検討すると,まず,立替払契約は,売買契約において買主が負う代金支払債務の支払を信販会社に委託するという準委任契約であり,被告信販会社は,売主に対する売買代金の支払という準委任事務の履行において,善良なる管理者の注意をもって処理する義務を負う。しかし,原告が主張する加盟店管理義務や過剰与信防止義務とは,信販会社が一般的に加盟店の販売方法を調査,是正することや信用情報機関への照会等による支払能力の調査をして与信の可否を判断することを内容とするものであり,これは準委任事務の処理の範囲を超えるものである。したがって,被告信販会社は,準委任契約であるということから導かれる善管注意義務の一内容として不適正与信防止義務(加盟店管理義務及び過剰与信防止義務)を負うとはいえない。
(3)  また,原告は,信義則上加盟店管理義務が発生する根拠として,通商産業省(経済産業省)が,昭和50年代から数次にわたって不適正与信の防止を求める行政指導を繰り返していること,日弁連ほか各地の弁護士会が割賦販売法の改正を求めて決議,声明等を発していること,奈良県議会が割賦販売法の改正を求めて不適正与信防止を明記することを求めていること,クレジット制度の本質が加盟店の便宜を図ることにあり,信販会社は加盟店と経済的に密接な関係にあることを指摘する。
しかしながら,行政指導とは,行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導,勧告,助言その他の行為であって処分に該当しないものをいうのであって(行政手続法2条6号),直ちに私法上の義務を発生させるものではない。また,日弁連の決議や県議会の決議等も同様に私法上の義務を生じさせるものではない。
また,割賦販売法30条の4は,売主に対して生じている事由をもって,割賦販売あっせん業者に対抗することができると規定して消費者保護を図っているが,その効果は支払拒絶に止まるものであり,支払拒絶の効果を超えて,割賦販売あっせん業者が購入者に対して加盟店管理義務まで負うことまでは予定していないというべきである。
以上の次第で,被告信販会社は,信義則に基づいて加盟店管理義務を負うものでもなく,原告の上記主張は立法論の域を出ないものといわざるを得ない。
(4)  さらに,原告は,信義則上の過剰与信防止義務の発生根拠として,割賦販売法38条,奈良県消費生活条例,通商産業省の行政指導,消費者基本法5条1項3号,日弁連の意見書があること等を指摘する。
しかしながら,割賦販売法38条は,割賦販売あっせん業者は,信用情報機関を利用すること等により得た正確な信用情報に基づき,それにより購入者が支払うこととなる賦払均等が当該購入者の支払能力を超えると認められる割賦販売,割賦購入あっせんを行わないよう努めなければならないと規定するものであり,また,消費者基本法5条1項3号は,事業者は,消費者との取引に際して,消費者の知識,経験及び財産の状況等に配慮する責務を有すると規定するものであり,いずれも,事業者に対し,私法上,直ちに消費者の財産状況等に配慮する義務や購入者の支払能力を超える割賦購入あっせんを行ってはならない義務を負わせるものではない。
同様に,消費者の利益を害するおそれがある行為の禁止を定めた奈良県消費生活条例12条1項も,直ちに事業者が消費者に対して,返済能力を著しく越える信用供与と一体をなした契約を締結させないという私法上の義務を負わせるものではない。
また,過剰与信を防止すべきであるという近時の社会的要請や同旨の行政指導がされているということも,私法上の義務ないし法的責任を直ちに導くものではない。
(5)  もっとも,被告信販会社が被告奈良松葉が不適切な販売方法を取っていることを知って与信を行っていた場合には,前記4の被告奈良松葉の不法行為を助長したものとして,個別に不法行為を構成する場合がありうる。
そこで検討すると,証拠(乙C1,証人Q,原告)によれば,被告奈良松葉は,大催事において,300畳以上の会場において,相当数の顧客に対して商品の購入を勧誘しており,被告信販会社(被告アプラス及び被告クオークを除く。)は,その一角に従業員が待機するクレジットコーナーを設けていたにすぎないことが認められる。以上の認定事実からすると,被告信販会社(被告アプラス及び被告クオークを除く。)の従業員は,仮に,展示会場において,Q等による原告に対しての着物等の購入の勧誘行為を現認したとしても,その勧誘行為が直ちに不法行為に当たるような不適切な販売であると判断することはおよそできなかったというべきである。
また,前記1(10)のとおり,全国の消費生活センターに対し,被告奈良松葉に関する苦情(従業員が購入を強制されたというもの)が寄せられていたとはいえ,消費者センターが,本件立替払契約の締結より前に,前記相談を被告信販会社に対して通報したことを示す的確な証拠はない。さらに,各被告信販会社ごとの与信審査において,原告の被告信販会社ごとの立替払債務の総額と月別の返済額から,原告への過剰与信であると判断できるものとも認めがたいところである。
したがって,被告奈良松葉が原告に対し公序良俗に反する販売をしていたことを被告信販会社が認識していたと認めることはできないから,被告信販会社に不法行為責任は認められない。
(6)  以上のとおり,被告信販会社は,不適正与信防止義務(加盟店管理義務及び過剰与信防止義務)違反を理由とする債務不履行責任ないし不法行為責任を負うとはいえない。
8  本件各立替払契約は公序良俗に反して無効か否か(争点7)について
前記7のとおり,被告信販会社は,原告に対して,不適正与信防止義務(加盟店管理義務及び過剰与信防止義務)を負わないのであり,本件立替払契約が公序良俗に反して無効であるということもできない。
したがって,この点に関する原告の主張は理由がなく,採用することができない。
9  本件売買契約が無効であること等を被告信販会社に対抗することができるか否か(争点8)について
(1)  前記2のとおり,本件売買契約3ないし6,8ないし18,21及びDは公序良俗に反して無効であるが,同法30条の4は,購入者は売主に対して生じている事由をもって,割賦販売あっせん業者に対抗することができると規定して割賦販売あっせん業者からの支払請求を拒むことができるとあるので,上記売買契約に伴う本件立替払契約のうち,原告の被告信販会社に対する立替金支払債務が存続している本件立替払契約3ないし6,8ないし18について検討する。
(2)  被告信販会社は,原告が被告奈良松葉の従業員であったから,同法30条の6,8条5号により,同法30条の4の適用はない旨主張する。
同法が,従業員に対して行う割賦販売を抗弁権の接続の規定の適用除外とした趣旨は,事業者の内部自治を尊重するところにあると解せられる。しかしながら,本件では,前記2のとおり,被告奈良松葉が,従業員である原告に対し,原告の支払能力を超えることを知りながら売買を繰り返させていたところ,それが従業員に対する販売目標達成の徹底を強く求めるといった同被告の営業方針ないし労働環境に起因していたのであるから,このような場合にあっては,一般顧客と従業員とを区別して事業者の内部自治を尊重すべき理由は全くない。
したがって,原告は,同法30条の4に基づき,被告信販会社に対して,本件売買契約3ないし6,8ないし18が公序良俗に反して無効であることをもって,被告信販会社の履行請求を拒むことができるというべきである。
なお,本件立替払契約14は,2月以上の期間にわたり,かつ3回以上に分割して売買目的物の金額を受領するものではなく,割賦購入あっせんに該当しない(同法2条3項2号)。しかしながら,本件売買契約14が公序良俗に反して無効であるという事情や,同時期に繰り返された他の本件売買契約に基づく立替金債務の履行請求は拒むことができるという事情に照らすと,信義則上,本件立替払契約14の履行請求についてもこれを拒むことができると解するのが相当である。
(3)  したがって,原告は,被告ニコスとの間の本件立替払契約3ないし6,被告オリコとの間の同契約8ないし14,被告アプラスとの間の同契約15及び16,被告セントラルファイナンスとの間の同契約17並びに被告クオークとの間の同契約18に基づいて発生した残債務の履行の請求を受けたときは,本件売買契約が公序良俗に反して無効であることをもって,上記被告信販会社に対抗することができる。
10  結論
(1)  原告と被告奈良松葉間の本件売買契約3ないし6,8ないし18,21,23及びDは,公序良俗に反して無効であり,被告奈良松葉は,原告に対し,原告が上記売買契約に対応する立替払契約に基づいて支払った立替金相当額である155万8604円の返還及び同金員のうち144万3604円に対する訴状送達の日の翌日である平成18年3月3日から,うち11万5000円(本件売買契約Dの分)に対する請求拡張(追加)申立書送達の日の翌日である平成19年7月14日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
また,被告奈良松葉は,原告に対して,不法行為による損害賠償債務として,上記155万8604円及び弁護士費用相当額である16万円の合計171万8604円及びうち160万3604円に対する不法行為の後である平成18年3月3日から,うち11万5000円に対する平成19年7月14日から,各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある(これら被告奈良松葉の両債務は重なり合う限度で選択的関係にある。)。
(2)  また,原告と被告ニコスとの間の本件立替払契約3ないし6,原告と被告オリコとの間の同契約8ないし14,原告と被告アプラスとの間の同契約15及び16,原告と被告セントラルファイナンスとの間の同契約17並びに原告と被告クオークとの間の同契約18に基づいて発生した,原告の各残債務については,前述した割賦販売法30条の4の規定の趣旨に照らし,不存在であるということはできないから,その旨の確認を求める主位的請求は理由がないが,上記各債務の履行請求を拒絶することができるから,その旨の確認を求める予備的請求は理由がある。
11  よって,原告の請求は,主文の限りで理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小西義博 裁判官 岡山忠広 裁判官 猪坂剛)
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