平27(レ)582号 売買代金請求控訴事件

裁判年月日  平成27年11月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(レ)582号
事件名  売買代金請求控訴事件
裁判結果  控訴棄却  文献番号  2015WLJPCA11258017

裁判年月日  平成27年11月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(レ)582号
事件名  売買代金請求控訴事件
裁判結果  控訴棄却  文献番号  2015WLJPCA11258017

東京都北区〈以下省略〉
控訴人 X
同訴訟代理人弁護士 岩上公一
同 古市暁
同 佐々真喜子
同 池田大介
同 北野さやか
東京都北区〈以下省略〉
被控訴人 Y
同訴訟代理人弁護士 坂田洋介

 

 

主文

1  本件控訴を棄却する。
2  控訴費用は控訴人の負担とする。

 

事実及び理由

第1  控訴の趣旨
1  原判決を取り消す。
2  被控訴人は,控訴人に対し,117万2000円及びこれに対する平成21年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  本件は,株式会社aから宝飾品販売を受託した控訴人が,主位的に,控訴人が被控訴人に対し,別紙売買契約一覧表の「商品の種類」欄記載の9点の宝飾品(以下「本件宝飾品」という。)を販売したと主張して,被控訴人に対し,本件宝飾品を目的物とする売買契約(以下「本件各売買契約」という。)に基づき,残代金のうち117万2000円及びこれに対する被控訴人が代金の分割弁済を怠り期限の利益を喪失した日の翌日であるとする平成21年6月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,予備的に,本件各売買契約がa社と被控訴人との間に成立したとしても,控訴人がa社に対して本件宝飾品の代金を立替払したことにより,被控訴人はa社に対する代金債務を免れたと主張して,不当利得返還請求として,上記残代金の一部である117万2000円相当額の支払を求める事案である。
原審は,控訴人と被控訴人との間に本件各売買契約が成立したとは認められず,控訴人がa社に対し本件宝飾品の代金を立替払したとも認められないとして,控訴人の請求を全部棄却したところ,控訴人がこれを不服として控訴した。
2  前提事実(証拠を付記しない事実は,当事者間に争いがないか弁論の全趣旨より容易に認められる。なお,証拠について枝番を全て挙げる場合には,枝番の記載を省略する。)
(1)  控訴人は,宝飾品の販売を業とするa社から宝飾品の販売を受託し,顧客に対してa社が指定する価格で宝飾品を販売することを業としていた者である(甲8,15)。
(2)  控訴人は,平成26年2月28日頃,被控訴人に対し,平成18年2月に販売した宝飾品の代金が平成21年4月30日以降支払われていないとして,10日以内に残代金117万2000円の支払を求める通知(以下「本件通知」という。)をした(甲2)。
その後,控訴人は,平成26年5月16日,本件訴訟を提起した。
(3)  被控訴人は,平成26年7月11日の原審第2回口頭弁論期日において,控訴人に対し,本件宝飾品の引渡債務の不履行を原因として本件各売買契約を解除するとの意思表示をした。
(4)  被控訴人は,平成26年11月7日の原審第4回口頭弁論期日において,控訴人に対し,本件宝飾品の代金債務につき商事消滅時効を援用するとの意思表示をした。
また、被控訴人は,上記期日において,控訴人に対し,特定商取引に関する法律(以下「法」という。)9条に基づき,本件各売買契約を解除するとの意思表示をした。
3  争点及び争点に関する当事者の主張
(1)  控訴人と被控訴人との間で本件各売買契約が成立したか否か(争点1)
【主位的請求】
(控訴人の主張)
控訴人は,別紙売買契約一覧表の「日時」欄記載の日に,被控訴人との間で,同人に対し,「商品の種類」欄記載の宝飾品(本件宝飾品)を,「売買代金」欄記載の代金で売り渡すとの本件各売買契約(以下,同一覧表の番号1の売買契約から順に「本件売買契約①」等という。)を締結し,本件宝飾品を被控訴人に引き渡した。
しかし,被控訴人は,本件宝飾品の代金のうち118万円を控訴人に支払ったのみで,残代金を支払わない。
(被控訴人の主張)
被控訴人は,控訴人との間で本件各売買契約を締結したことも,本件宝飾品の引渡しを受けたこともない。なお,被控訴人はかつて控訴人から宝飾品を購入したことがあったが,本件宝飾品とは別のものであり,代金の支払は完了している。
また,控訴人が本件各売買契約の成立の根拠とする申込書控(甲3)の宛名はa社となっており,控訴人主張の契約内容を前提としても,本件宝飾品の売主は控訴人ではなくa社である。
(2)  被控訴人が本件宝飾品の残代金相当額の不当利得返還義務を負うか否か(争点2)【予備的請求】
(控訴人の主張)
本件各売買契約がa社と被控訴人との間に成立したとしても,控訴人は,被控訴人に本件宝飾品を引き渡し,a社に同宝飾品の代金を立て替えて支払ったところ,被控訴人は控訴人に同宝飾品の代金のうち118万円を支払ったのみで残代金を支払わない。
したがって,被控訴人は,控訴人のa社に対する立替払により,a社に対する本件宝飾品の代金債務を免れる利益を受け,控訴人は上記残代金相当額の損失を被った。
(被控訴人の主張)
仮に,a社と被控訴人との間で本件各売買契約が成立していたとしても,控訴人がa社に本件宝飾品の代金を支払ったかどうかは明らかではないから,控訴人の損失及び被控訴人の利得はない。
(3)  本件各売買契約の解除の可否(争点3)【主位的請求に対する抗弁】
(被控訴人の主張)
ア 債務不履行解除
本件各売買契約においては,本件宝飾品の引渡しが先履行となるところ,被控訴人は,控訴人から同宝飾品の引渡しを受けていないから,控訴人には同契約に基づく債務の不履行がある。
イ 法9条に基づく解除
(ア) 控訴人の主張する本件各売買契約の内容を前提とすると,下記(イ)のとおり,本件各売買契約は「訪問販売」(法2条1項)に該当し,下記(ウ)のとおり,法9条の適用除外事由はない。そして,被控訴人は控訴人又はa社から法5条の書面の交付も受けていないから,法9条に基づき本件各売買契約を解除し得る。
(イ) 本件各売買契約のうち,本件売買契約①の契約締結場所は「JR王子駅付近の銀座コージーコーナーの店内カフェ」であり,同⑥も「王子」であるから,上記各契約は「訪問販売」に該当する。また,その他の契約は「展示会」において締結されたとされているところ,各展示会は,控訴人又はa社において1日のみ開催されたものであり,店舗として固定的な信頼の基礎が形成され得る最低期間継続していなかったから,同展示会は「店舗に類するもの」(法施行規則1条4号)には該当しない。したがって,その他の契約も「訪問販売」に当たるというべきである。
(ウ) 控訴人及びa社は,店舗での営業活動を行う者ではないから「店舗販売業者」(法施行令8条2号)に該当しない。また,本件各売買契約は,被控訴人の「住居を訪問して」(同号,同条3号)締結されたものでもないから,同条2号及び3号の要件を充足しない。よって,本件各売買契約について法26条5項が定める法9条の適用除外事由はない。
また,控訴人が主張する事情によって,法9条による解除が信義則違反や権利失効の原則により認められなくなるものではない。
(控訴人の主張)
ア 債務を履行したこと
控訴人は,本件各売買契約を締結した時に,本件宝飾品を被控訴人に引き渡したから,本件宝飾品の引渡義務の不履行はない。
イ 法9条に基づく解除が認められないこと
(ア) 本件各売買契約が「訪問販売」に該当しないこと
本件売買契約②から⑤まで及び⑦から⑨までが締結された展示会は,数か月に一度定期的に開催され,販売業者が顧客に招待状を発行して顧客が自由意思に基づき来訪して宝飾品を購入するという仕組みで,販売業者と顧客の間の継続的かつ高度の信頼関係に基づき運営されていたものであり,法施行規則1条4号の「店舗に類するもの」に該当するから,「営業所等」(法2条1項1号,法施行規則1条)において締結された本件各売買契約②から⑤まで及び⑦から⑨までは,「訪問販売」に該当せず,法9条により解除することはできない。
(イ) 法26条5項により法9条の適用がないこと
a 本件各売買契約は,事前に被控訴人に連絡し,その要請を受けて,待ち合わせ場所や時間を決めて面会するか展示会に招待して本件宝飾品を販売したものであり,控訴人が住居での取引を求めた場合と異ならないから,法26条5項1号の定める訪問販売に該当する。
したがって,本件各売買契約に法9条は適用されないから,被控訴人は同条に基づく解除をすることはできない。
b 控訴人は,店舗において宝飾品の販売を行っているa社の委託を受けて宝飾品の販売を行っていたから,控訴人も「店舗販売業者」(法施行令8条1号)に該当する。
そして,控訴人は,被控訴人から宝飾品の紹介の依頼を受けて,宝飾品を持参して被控訴人に販売していたから,本件各売買契約は,法26条5項2号及び法施行令8条1号の定めるいわゆる御用聞き販売に該当し,法9条の適用はなく,被控訴人は同条による解除をすることはできない。
c 控訴人と被控訴人は,少なくとも2か月に1回は面会して代金支払等の取引を行い,1年に2回以上の売買取引を行っていたから,本件各売買契約は,販売業者と消費者との間の信頼関係に基づく継続的取引関係の一環として締結されたものであり,上記aのとおり住居における取引と異ならないことから,法26条5項2号並びに法施行令8条2号及び3号に該当し,法9条の適用はない。
(ウ) 被控訴人は,控訴人と長年にわたって宝飾品の売買を繰り返していた間,クーリングオフを行うとの意思表示やクーリングオフに関する書面の提示を求めたことはなかったのであり,本件訴訟に至って初めて行われたクーリングオフの意思表示は,信義則に反し,又は権利失効の原則により無効である。
(4)  商事消滅時効の成否(争点4)【主位的請求に対する抗弁】
(被控訴人の主張)
ア 控訴人が主張する本件各売買契約の内容によれば,いずれの売買契約も第1回の代金支払期日が契約締結月の末日であり,支払を怠ると控訴人の被控訴人に対する請求の有無にかかわらず翌月末日の経過により期限の利益を喪失するとされており,その時から消滅時効が進行すると解されるから,別紙売買契約一覧表の「日時」欄記載の月の翌々月1日から5年(最後に締結された本件売買契約⑨については平成25年6月1日)の経過により,商事消滅時効が完成した。
なお,被控訴人は控訴人との間で,本件宝飾品の代金支払方法につき,控訴人が主張するような代金全体についての割賦払いの合意をしたことはないから,各代金債務の消滅時効は期限の利益喪失の日から個別に進行する。
イ 控訴人が主張する被控訴人による弁済の事実は否認する。
(控訴人の主張)
ア 被控訴人は,本件各売買契約において,1つの売買契約に基づく代金債務の支払を完了する前に新たな売買契約を締結して代金債務の総額が増加した場合でも,控訴人に対し,新たな契約締結前と同様の支払を継続すればよく,各回の支払金額に大きな変更がされることはなかった。このことからすれば,控訴人と被控訴人との間には,個別の売買契約の代金債務に関する割賦払いの合意ではなく,本件各売買契約に基づく代金債務全体についての割賦払いの合意が成立していたというべきである。したがって,控訴人が請求する本件各売買契約に基づく代金債務の消滅時効は被控訴人の割賦金支払の不履行後に割賦金全額について請求があったときから進行する。
控訴人は,被控訴人に対し,本件通知以前に割賦金全体の支払請求をしたことはないから,本件各売買契約に基づく代金債権全体の消滅時効は同通知の時点から進行することになり,消滅時効は完成していない。
イ 債務承認による中断
被控訴人は,平成21年4月まで本件各売買契約の代金の一部を分割弁済して代金債務を承認したから,これにより代金債務の消滅時効は中断した。控訴人は,同中断から5年が経過する前に本件通知を行い,同通知から6か月以内に本件訴訟を提起したから,消滅時効は完成していない。
第3  当裁判所の判断
1  争点1(控訴人と被控訴人との間で本件各売買契約が成立したか否か)について
(1)  本件売買契約①及び⑦の成否について
控訴人は,被控訴人との間で本件売買契約①及び⑦を締結して宝飾品を被控訴人に引き渡した旨主張し,控訴人本人は原審において同人が記載したとの手帳の記載(甲4の1・6)に基づきこれに沿う供述をする(甲11,15)。しかしながら,後述する他の売買契約と異なり,上記各売買については,申込書控等の被控訴人が控訴人との間で売買契約を締結したことを示す客観的証拠が存在しない。上記手帳の記載はせいぜい面談の日付や場所を認定できるにとどまるもので,その際に売買契約が締結されたとの事実やその内容を特定して認定することはできないといわざるを得ない。そうすると,控訴人本人の原審における供述が上記手帳を根拠にするものであることを考慮しても,同人が当該供述をしたことから上記各契約の成立を認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
なお,本件売買契約①及び⑦については,被控訴人とa社との間においても契約が成立したと認めるに足りる証拠はない。
(2)  本件売買契約②,③,④,⑥及び⑨の成否について
ア 控訴人は,被控訴人との間で本件売買契約②,③,④,⑥及び⑨を締結して宝飾品を被控訴人に引き渡した旨主張し,控訴人本人も原審で手帳の記載(甲4の2・3・5,5の2)に基づきこれに沿う供述をするとともに,被控訴人が上記各契約の申込みの意思表示をしたことを証する証拠として申込書控(甲3の1・2・3・5・7)を提出する。
しかしながら,証拠(甲15)によると,本件売買契約②,③及び⑥の申込書控の「申込人」欄の記載は控訴人が行ったものであると認められる。これに,被控訴人が控訴人主張の平成18年における売買契約の成立を否認していること,本件において他に被控訴人が上記各契約の申込みをしたことや,同契約に基づく商品の受領あるいは代金の支払をしたことを裏付ける証拠が存在しないことを考慮すると,控訴人が同人作成の手帳の記載(なお,その記載内容から売買契約の成立及び内容を直接認定できないことは,上記(1)で説示したとおりである。)に基づき被控訴人との売買契約が成立した旨及び被控訴人に依頼されて代筆した旨を述べていることを考慮しても,本件売買契約②,③及び⑥に関し,被控訴人が売買契約の申込みをしたとの事実を認定することは困難である。
イ 他方,証拠(甲3の3・7)及び弁論の全趣旨(本件記録中の被控訴人作成の各訴訟委任状を含む。)によれば,本件売買契約④及び⑨に係る申込書控の「申込人」欄に記載された被控訴人の氏名及び住所等は被控訴人が自書したものと推認される。
しかしながら,前掲証拠によれば,上記各申込書控の「申込日」欄には,いずれも控訴人が主張する契約締結日である平成18年ではなく「平成6年」又は「平成8年」の日付が記載されている。証拠(甲11,15)及び弁論の全趣旨によれば,平成6年から平成8年当時に控訴人と被控訴人とが宝飾品の売買を行っており,その代金は平成12年頃に完済されたことが認められることからすれば,上記申込書控は「申込日」欄記載の頃に作成されたものである可能性が否定できない。
この点,控訴人は2006年あるいは2008年の意味で記載したものであると主張し,各申込書控の「商品番号」欄記載の商品が平成18年あるいは平成20年に売上げられたとのa社の商品ファイル(甲9の3・7)を提出する。しかしながら,本件売買契約⑨の目的物は申込書控によれば18Kホワイトゴールドダイヤリングであるにもかかわらず,これに対応する商品ファイルの商品はK18サファイアピアスとされている(前掲各証拠)。これに,上記各申込書控の「申込日」欄には「平成」の文字が印字され,空白部分に記入する形式となっていること及び同欄に「平成18年」や「平成20年」の記載がされたものがあること(前掲各証拠)などに照らすと,本件売買契約④及び⑨に係るとされる申込書控が平成18年以降に作成されたものと認めることは困難である。他に,被控訴人が控訴人に対し上記各契約の申込みの意思表示をしたと認めるに足りる証拠はない。
ウ 以上によれば,控訴人と被控訴人との間で本件売買契約②,③,④,⑥及び⑨が成立したとは認められない。
なお,上記で認定説示したところによれば,被控訴人とa社との間に上記各契約が成立したとも認められない。
(3)  本件売買契約⑤及び⑧の成否について
控訴人は,被控訴人との間で本件売買契約⑤及び⑧を締結して宝飾品を被控訴人に引き渡した旨主張し,控訴人本人も原審でこれに沿う供述をするとともに(甲15),同契約の申込みの意思表示があったことを証する証拠として申込書控(甲3の4・6)を提出する。そして,これらの申込書控の「申込人」欄に記載された被控訴人の氏名及び住所等は,上記(2)イで説示したと同様の理由で,被控訴人が自書したものであると推認される。そうすると,被控訴人は上記各契約締結の申込みをしたことになるから,控訴人主張の契約が成立するようにも思われる。
しかしながら,上記申込書控は,「申込人」欄が左側にある用紙の右上に「株式会社a御中」と記載され,その体裁からは申込みの意思表示はa社に宛ててされたものと解されるものであり,控訴人については「担当」欄に記載があるにすぎない(甲3の4・6)。これに,上記各契約が締結されたのがa社の開催した展示会においてであること(甲15),控訴人とa社との間では,控訴人がa社から宝飾品の貸与を受けて顧客に対する販売を受託するとされていたこと(甲8)等を併せ考慮すると,被控訴人の申込みの意思表示の相手方はa社であったと認めるのが相当である。
この点,a社の代表者であるAは,販売員と顧客との間に契約が成立する旨陳述するが(甲12,16),上記体裁の申込書を利用して販売員に販売を行わせている以上,販売員から宝飾品を購入する顧客に対してはa社として申込みを受ける意向を表明していたといわざるを得ず,申込書の体裁にかかわらず販売員と顧客との間で売買契約を締結するとの合意が成立したと認めるべき事情がない限り,a社と顧客との間に売買契約が成立すると認めるのが相当である。代金回収の方法等の取決めは,a社と販売員との契約関係に基づくものであり,上記で認定した売買契約の当事者を左右するものではない。そして,本件においては,申込書の体裁にかかわらず販売員と顧客との間で売買契約を締結するとの合意が成立したと認めるべき事情は存在しない。
したがって,被控訴人と控訴人との間で本件売買契約⑤及び⑧が成立したとは認められない。
(4)  以上によれば,控訴人と被控訴人との間で本件各売買契約が成立したとは認められず,本件各売買契約に基づき代金債務の支払を求める控訴人の主位的請求は理由がない。
2  争点2(被控訴人が本件宝飾品の残代金相当額の不当利得返還義務を負うか否か)について
(1)  上記1で認定説示したところによれば,本件各売買契約のうち,本件売買契約⑤及び⑧を除く契約については,被控訴人とa社との間における売買契約の成立は認められない。したがって,その余の点を検討するまでもなく,これらの契約の残代金に関する不当利得返還請求は理由がない。
(2)  a社と被控訴人との間に成立したと認められる本件売買契約⑤及び⑧に係る不当利得の成否
控訴人は,本件売買契約⑤及び⑧に係る代金を被控訴人に替わってa社に支払った旨主張し,控訴人本人も原審でこれに沿う供述をするとともに(甲15),a社の代表者であるAも上記各代金が支払済みである旨の陳述書(甲12,16)を提出する。
しかしながら,a社が作成した控訴人による入金状況を記録したとする書面(甲14)をみても,本件売買契約⑤に関する記載はない。同契約に係る申込書控(甲3の4)の記載内容からはその代金は現金一括払により処理されたことが窺われ,控訴人が自ら出捐してa社に対する支払を行ったことを証する客観的証拠は存在しない。Aの陳述は控訴人がa社に支払った金員の原資を明らかにするものではなく,控訴人の供述も自ら出捐したその原資を明らかにしていないから,これらにより控訴人自身が出捐して立替払を行ったと認めることは困難である。
他方,証拠(甲14の5)によれば,本件売買契約⑧の代金については,控訴人が販売した商品の代金として控訴人からa社に入金されたとの処理がされている事実が認められるが,上記書面はa社と控訴人との間における代金の処理について作成されたものであり,控訴人が入金した原資を明らかにするものではない。そして,被控訴人が控訴人からの請求に応じて支払可能な金額の弁済をしていたと主張し,控訴人も少なくとも平成21年4月まで被控訴人から弁済を受けていたとしていることに照らせば,控訴人がa社に対し本件売買契約⑧の代金相当額を入金したとの事実をもって,直ちに同支払の原資を控訴人が出捐したと認めるには足りないというべきである。本件において他に控訴人によるa社への本件売買契約⑧の代金相当額の入金が控訴人の出捐によることを認めるに足りる証拠はない。
(3)  したがって,控訴人が本件売買契約⑤及び⑧の代金を被控訴人に代わってa社に立替払したとの事実は認められず,控訴人に同額の損失が生じたと認めることはできないから,不当利得に基づく予備的請求も理由がない。
第4  結論
以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,控訴人の請求はいずれも理由がないから,これを棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 倉地真寿美 裁判官 小崎賢司 裁判官 蕪城真由子)

 

〈以下省略〉

 

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