平15(ワ)302号・平16(ワ)248号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成17年 3月10日  裁判所名  静岡地裁浜松支部  裁判区分  判決
事件番号  平15(ワ)302号・平16(ワ)248号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容、一部棄却  上訴等  確定  文献番号  2005WLJPCA03106006

裁判年月日  平成17年 3月10日  裁判所名  静岡地裁浜松支部  裁判区分  判決
事件番号  平15(ワ)302号・平16(ワ)248号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容、一部棄却  上訴等  確定  文献番号  2005WLJPCA03106006

平成15年(ワ)第302号 損害賠償請求事件
平成16年(ワ)第248号 損害賠償請求事件

静岡県浜松市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 藤森克美
広島県廿日市〈以下省略〉
平成15年(ワ)第302号事件被告 株式会社ファインナック(以下「被告ファインナック」という。)
同代表者代表取締役 Y1
広島県廿日市〈以下省略〉
平成15年(ワ)第302号事件被告 Y1(以下「被告Y1」という。)
広島県廿日市〈以下省略〉
平成15年(ワ)第302号事件被告 株式会社販売力学研究所(以下「被告販売力学研究所」という。)
同代表者代表取締役 Y2
広島県廿日市〈以下省略〉
平成15年(ワ)第302号事件被告 Y2(以下「被告Y2」という。)
広島県廿日市〈以下省略〉
平成16年(ワ)第248号事件被告 Y3(以下「被告Y3」という。)
上記5名訴訟代理人弁護士 臼田耕造
西本聖史

 

 

主文

1  被告ファインナック及び被告Y3は、原告に対し、連帯して金873万3960円及び内金853万3960円に対する平成15年3月10日から、内金20万円に対する平成15年5月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告の被告ファインナック及び被告Y3に対するその余の請求並びに被告Y1、被告販売力学研究所及び被告Y2に対する請求をいずれも棄却する。
3  訴訟費用は、原告に生じた費用の5分の4と被告ファインナック及び被告Y3に生じた費用を被告ファインナック及び被告Y3の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告Y1、被告販売力学研究所及び被告Y2に生じた費用を原告の負担とする。
4  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  主位的請求
被告らは原告に対し、連帯して金1037万3000円及び内金987万3000円に対する平成15年3月10日から、内金50万円に対する平成15年5月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  予備的請求
被告ファインナックは原告に対し、金823万3000円及びこれに対する平成15年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は、化粧品の製造販売等を営む被告ファインナックの従業員である被告Y3から化粧品等購入の電話勧誘を受けた原告が、大量の化粧品等を購入したところ、被告Y3の勧誘行為は、原告が知的障害者で理解力や判断力が不足しているのに乗じたものである上、特定商取引法等に違反し、詐欺・強制的なものである等として不法行為に当たるとし、さらに、被告Y3は、原告が弁護士に相談して支払済みの売買代金の返還を求めようとしたのを妨害したとして、被告Y3に対し民法709条に基づき、同被告の使用者である被告ファインナックに対しては民法715条に基づき、さらに、被告ファインナックの代表者である被告Y1に対しては、違法な販売行為を企画推進し、販売担当者に違法な販売行為を指揮命令していたとして、民法709条、719条に基づき、または監督不行き届きとして同法715条2項に基づき、被告販売力学研究所に対しては、同被告が被告ファインナックの違法な販売行為を企画推進し、販売担当者に違法な販売行為を指揮命令していたとして、民法715条1項、719条に基づき、そして、被告販売力学研究所の代表者である被告Y2に対しては、その従業員に被告ファインナックの違法な販売行為を企画推進し、指揮命令していたとして、民法709条、719条に基づき、原告が被告ファインナックに支払った売買代金額相当の823万3000円の損害のほか、慰謝料132万円、弁護士費用82万円の合計1037万3000円とこれに対する不法行為発生以降支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め、予備的に、上記売買契約について、消費者契約法による取消し、詐欺による取消し、錯誤、公序良俗違反による無効等を主張して、被告ファインナックに対して、不当利得返還請求権に基づき、支払済みの売買代金823万3000円とこれに対する最終支払日以降の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1  前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)
(1)  当事者
① 原告は、昭和24年○月生まれの独身女性で、株式会社aホテルに雇用されて、同ホテルでパートタイマーとして稼働している者である。
② 被告ファインナックは、化粧品の製造及び販売等を目的として平成元年11月10日に設立された資本金3000万円の会社であり、被告Y1は、被告ファインナックの代表者である。
③ 被告販売力学研究所は、企業の各種人材育成のための教育業務等を目的として昭和63年10月24日に設立された資本金1000万円の会社であり、被告ファインナックのコンサルタント業務をしている。被告Y2は、被告販売力学研究所の代表者であり、被告Y1の夫でもある。
④ 被告Y3は、被告ファインナックの取締役で、8年間被告ファインナックの化粧品等の販売活動を行っている者である。
(2)  原告と被告ファインナック間の化粧品等の売買取引の概要
① 平成15年1月18日午後1時30分ころ、被告ファインナックの社員Aが原告方に電話し、電話に出た原告に対し、砲弾型新商品発表記念キャンペーンと称して1000円の化粧品ミニセットの購入を案内し、原告がこれに応じたので、被告ファインナックは、早速宅配便を利用して上記商品を原告に送付し、原告は上記代金を支払った(丙3(1枚目)、同4、同10)。
② 被告Y3は、同年1月27日、原告方に電話し、原告に対して被告ファインナックの化粧品の特性等について案内して化粧品セット1箱(商品代金18万6480円)の購入を勧誘し、これに応じた原告は同商品の購入注文を出し、同商品は、翌日、ヤマト運輸の宅配便でもって原告に配達され、原告は、上記商品代金を配達員に渡して代金引換の方法により支払った。
③ 被告Y3は、その後も度々原告方に電話して原告に対し化粧品などの購入を勧誘し、原告は右電話勧誘に応じて化粧品などの購入の注文を出し、その結果、原告は、上記①、②の購入も含めて、別表1被害一覧表中の契約番号3から33記載のとおり、平成15年1月18日から同年3月6日までの間に、合計31回にわたり、化粧品や健康茶を購入し、その商品代金総額は915万3465円となり、そのうち、番号15の化粧品セット(数量4、商品代金92万0465円)を除いて、全て代金引換による現金払いの方法により商品代金を支払い、その総額は823万3000円となり、上記番号15の化粧品セットについては信販会社の立替払契約を利用したものであった。
2  原告の主位的請求の根拠
(1)  不法行為Ⅰ
① 特定商取引法(以下「取引法」という。)違反
被告ファインナックの原告に対する販売方法は、電話で売買契約の締結について勧誘したもので、取引法2条3項に定める「電話勧誘販売」に該当し、同法の適用を受ける。本件売買契約は1個で540日分と推定できる化粧品セット(計算根拠は別表2(1)のとおり。)を毎日のように契約させられており、電話勧誘行為により商品売買契約を締結することが通例になっているとは考えられず、次々販売による一連の契約行為であると考えられる。よって、本売買契約の回数は合計34回であるが、全て取引法26条3項2号の適用除外には当たらない。
イ 書面交付義務違反
本件では代金引換宅配便を利用しての契約について、被告ファインナックは原告に対し、取引法に基づく法定書面を交付していない。被告ファインナックは「ファインナック商品ご購入安心システム」と「納品書」をもって法定書面と主張するが、原告は、「ファインナック商品ご購入安心システム」を受領していないし、同書面には法定必須記載事項の申込年月日及び契約締結年月日の記載がない。よって、取引法所定の法定書面が交付されたとは言えず、同法18条若しくは19条違反に該当する。
クレジット契約については、被告Y3の指示により法定書面は破棄させられているが、原告の手元に残った「取次店様用」の契約書には、法定必須記載事項の申込年月日及び契約締結年月日、商品の数量、商品引渡時期、支払期間の記載がなく、しかも、被告ファインナック及びクレジット会社にある契約書面についても、商品の数量、商品の引渡時期、支払期間の記載がない。よって、取引法に基づく法定書面が交付されたとは解されず、取引法18条違反に該当する。
ロ 禁止行為違反
a 不実告知
被告Y3は、原告に「顔がつるつるになる。1、2年間は当社の化粧品を使わなくてはならないので、今日届けた化粧品では量がまだ足りない。」「この健康茶を飲むと体に良い。」と告げて、本件売買契約を締結させた。しかし、段ボール箱約100箱、約70年分の化粧品、約9年分の健康茶は一人で消費するには過量過ぎることは明白である。また、健康茶を賞味期限(約2年3か月)内に消費しようとすると、一人1日に7から10リットルの健康茶を飲まなければならず(計算根拠は別表2(2)②に記載のとおり。)、健康を害する飲量である。以上の被告Y3の行為は、取引法6条1項の定める不実告知に該当する。
b 迷惑を覚えさせる勧誘
被告Y3は、商品の到着確認を口実に原告に電話し、原告が「要らない。」と断ったにもかかわらず執拗な勧誘を続け、短期間の間に常識を逸脱した契約回数と過量な化粧品購入を契約させた。この被告Y3の行為は、取引法通商産業省令7条1項で定める禁止行為「迷惑を覚えさせる勧誘」に該当する。
c 判断力の不足に乗じた契約の締結
原告は知的障害者であり、被告Y3は原告の理解力・判断力・意思力の不足に乗じて、化粧品の必要性、必要量や金額の妥当性が理解できないまま売買契約を締結させた。この被告Y3の行為は、取引法7条3項通商産業省令2項で定める禁止行為「判断力の不足に乗じた契約の締結」に該当する。
② 詐欺行為及び契約の強制
被告Y3は、原告の判断力・意思力の不足を奇貨として、「顔がつるつるになるには、1,2年間は当社の化粧品を使わなくてはならない。今日届けた化粧品では量がまだ足りない。」「糖尿病に良いお茶がある。私の親戚は、このお茶を飲んで糖尿病がよくなった。」等と虚言を申し向け、原告にその旨誤信させた。更に、原告が理解力・判断力・意思力に劣ることに付け込み、契約を強制し、原告が「要らない」との意思表示をした後も、意思力、表現力が劣る原告に対し、被告Y3は執拗な勧誘を続け、拒否する技術を持たない原告をして困惑させ、契約の承諾へと追い込んだ。そして、被告Y3は原告に被告ファインナックとの総額915万3465円の化粧品等の売買契約を締結させ、代金引換宅配便を利用して原告に823万3000円を支払わせた。
③ 薬事法違反
被告ファインナックの化粧品のリーフレットには、火傷にフェイスパックを塗ると水ぶくれにならず、痛みもなくなり元通りになるという内容の体験談が記載されている。また、健康茶のリーフレットには、SOD作用で老化を防ぐ効果がある等と読みとれる内容の記載がある。以上の記載は薬事法68条の「承認前の医薬品の広告の禁止」に該当する。
(2)  不法行為Ⅱ
被告Y3は、原告が平成15年3月15日にB弁護士に支払済みの本件売買代金の返還交渉を委任したのであるから、法的には原告への直接接触が許されないものであるところ、このことを承知しながら、以下のとおり、原告の知的障害、拒否能力の欠如に付け込んで、執拗に原告に働きかけて原告を翻意させようとし、被告らに有利な証拠を取ろうとして原告を欺罔したり強要したりしたもので、これは不法行為に該当する。
① 被告Y3は、原告が誓約書を読むことも内容を理解することもできないことを承知の上で、原告に誓約書(丙9)の内容や意義(署名すると被告ファインナック化粧品をキャンセルできなくなるということ)を告げず、ただ「大切な書面」とのみ説明し、誓約書に署名しなければ原告に不利益なことがあるかの如く原告を欺罔し、平成15年3月20日に原告に上記誓約書を送付し、誓約書が原告に届いた頃を見計らって電話して原告に署名させ、同年3月25日、その誓約書を返送させた。
② 被告Y3は、被告ファインナックの方針で原告に対してはクーリングオフを適用しないことを知りながら、同年3月26日、電話でもって原告に対し、浜松信用金庫の原告の預金口座に被告ファインナックから返金があるかの如き説明をし、その旨原告を欺罔した。
③ 被告Y3は、同年3月26日及び27日の両日原告に電話して、原告から、B弁護士への委任は原告の意思とは関係がなくリフォーム屋が勝手にやったという内容の言質を執拗に取ろうとした。
④ 被告Y3は、同年5月7日、原告に電話して、原告に対し、原告代理人弁護士が原告のことを精神障害者である等と言っているなどと虚偽の事実を告げて、原告と原告代理人弁護士との間の信頼関係を喪失させて、原告が原告代理人弁護士を解任するよう画策し、また、原告から原告が知的障害者ではないとの言質を取ろうとし、さらに、原告に対して繰り返し化粧品を使用していることを確認し、原告に返品の意思のないことの証拠としようとした。
(3)  被告らの責任原因
① 被告Y3
同被告の原告に対して化粧品等の売買契約を締結させた行為は、取引法に違反し、更に詐欺に該当し、知的障害、拒否能力欠如に付け込んだ悪質な不法行為であり、同被告は民法709条の不法行為責任を負う。
② 被告ファインナック
同被告は、被告Y3の使用者として、民法715条に基づき、被告Y3の不法行為により原告が被った損害を賠償する責任があると共に、民法44条に基づく法人自体としての不法行為責任を負う。
③ 被告Y1
被告ファインナックの代表者である被告Y1は、取引法違反と上記詐欺・強制的販売行為を企画推進し、販売担当者に本件販売行為を指揮命令していたもので、民法709条、719条に基づく損害賠償責任、または、監督不行届きとして同法715条2項に基づく損害賠償責任を負う。
④ 被告販売力学研究所
同被告は、被告ファインナックの取引法違反と上記詐欺・強制的販売行為を企画推進し、本件販売行為を指揮命令していたもので、民法715条1項、719条に基づく損害賠償義務を負う。
⑤ 被告Y2
被告販売力学研究所の代表者である被告Y2は、被告販売力学研究所の従業員をして被告ファインナックの取引法違反と上記詐欺・強制的販売行為を企画推進させていたもので、民法709条、719条に基づく損害賠償責任を追う。
(4)  原告の損害(請求額合計987万3000円)
① 実損害
原告は、被告ファインナックに代金引換の宅配便を利用した本件売買契約を締結させられたため、ヤマト運輸の配達員に化粧品代として合計823万3000円を支払い、同額の損害を被った。
② 慰謝料
原告は、被告ファインナックの販売担当者から知的障害により判断力が不足していることをいいことに、内容虚偽の害悪の告知を受けて欺罔かつ畏怖困惑させられ、生活の平和を奪われ、これによる原告の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は82万円が相当である。また、知的障害で判断力・理解力・意思力が不足する原告は、弁護士に委任して以降も、被告Y3に執拗に翻意させられようとし、その証拠となる発言を強いられようとしたことにより、原告は多大な精神的苦痛を被ったもので、これを慰謝するための慰謝料は50万円が相当である。
③ 弁護士費用
82万円が相当である。
(5)  よって、原告は被告らに対し、不法行為による損害賠償として、連帯して、1037万3000円及び内金987万3000円に対する不法行為Ⅰ発生の日以降である平成15年3月10日から、内金50万円に対する不法行為Ⅱ発生の日である平成15年5月7日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3  被告ファインナックに対する予備的請求(不当利得返還請求)の根拠
(1)  本件売買契約の無効等
① 公序良俗違反
被告Y3は、理解力・判断力・意思力が乏しく化粧品の必要量や金額の妥当性が判断できない原告に付け込み、連日電話をかけ、約70年分の化粧品と約9年分の健康茶等の売買契約を次々と締結させたものであることや上記取引法違反、薬事法違反の点を考慮すると、本件売買契約は、社会通念上許容できる範囲を逸脱する社会的妥当性を欠いた公序良俗に反するものであり、無効である。
② 錯誤無効
上記のとおり、原告は被告Y3による欺罔行為により約70年分の化粧品と約9年分の健康茶等が必要であると誤信させられて本件売買契約を締結したもので、民法95条の要素の錯誤に該当し無効である。
③ 消費者契約法による取消し
本件売買契約締結に関する原告の意思表示は、被告Y3に「当社の化粧品を使いさえすれば顔がつるつるになる。」と将来変動が不確実な事項につき断定的に告げられ誤認したことによってなしたものである。加えて、被告ファインナックが原告に販売した化粧品の量は、客観的には一人の女性が1、2年で消費できる量では到底ない。
よって、原告は被告ファインナックに対し、平成15年5月14日付通知書でもって消費者契約法4条に基づき全ての本件売買契約を取り消す旨の意思表示をし、これはそのころ同被告に到達した。
④ 書面不交付によるクーリングオフ
被告ファインナックは原告に対し取引法所定の法定書面を交付していない。よって、原告は同被告に対し、平成15年5月14日付通知書でもって、取引法9条に基づき、日付の古い契約から順番に全ての契約申込みを撤回する旨の意思表示をし、これは、そのころ同被告に到達した。
⑤ 詐欺による取消し
被告Y3は、原告の理解力・判断力・意思力の不足を奇貨として、「顔がつるつるになる。1,2年間は当社の化粧品を使わなくてはならないので、今日届けた化粧品では量が足りない。」「この健康茶を飲むと体に良い。」等と虚言を申し向け、原告にその旨誤信させて約70年分の化粧品と約9年分の健康茶等の本件売買契約を締結させたもので、本件売買契約における原告の意思表示は被告Y3の詐欺によるものである。そこで原告は被告ファインナックに対し、平成15年5月14日付通知書により本件売買契約を取り消す意思表示をし、これはそのころ同被告に到達した。
(2)  不当利得返還請求
以上のとおり本件売買契約は無効であるから、被告ファインナックは原告に対し、支払済みの売買代金合計823万3000円を返還する義務がある。よって、原告は同被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、上記823万3000円及びこれに対する最終支払日以降である平成15年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
4  被告らの主張
(不法行為責任関係)
(1) 取引法違反の主張に関して
① 継続的取引関係による取引法の適用除外
原告は、被告ファインナックとの間で、過去1年間に複数回の取引を行っているところ、化粧品の電話勧誘販売は広く一般に行われているものであって、それ自体消費者の利益を損なうものではないから、取引法26条3項2号の適用除外に該当し、そもそも書面交付義務(同法19条)、禁止行為(同法21条)及びクーリングオフ(同法24条)の適用はない。
② 書面交付義務(取引法18条もしくは19条)
被告ファインナックは、原告に対して、法定書面(「ファインナック商品ご購入安心システム」と題する書面及び「納品書」)を商品の入った段ボール箱の中に同封して交付している(丙2、3)。また、アコム株式会社のショッピングクレジットを利用した契約については、クーリングオフに関して赤字で記載された「クレジット契約について(ご注意)」及び「A お客様用」を交付している。
原告は、上記各書面には契約申込日及び契約締結日の記載がないので法定書面には該当しない旨主張するが、上記納品書には発行日が記載されているところ、発行日欄の記載をもって契約申込日及び契約締結日の記載は実質的になされているのであるから、法定の要件に欠けるところはない。また、原告は、商品の数量、商品の引渡時期、支払期間の記載もないとも主張するが、これらの記載はいずれも納品書に記載してあるのであるから、「ファインナック商品ご購入安心システム」と題する書面の「同封の『お申し込みの内容』と併せて、商品ご使用前に、必ずお読みください。」との記載と併せれば、法定の要件に欠けるところはない。
③ 使用・損耗による取引法の適用除外(取引法24条1項2号)
原告は、指定商品である化粧品の全部又は一部を使用しているから、同法24条1項2号によりクーリングオフできない。
(2) 不実告知に関して
被告Y3が原告に対し、「顔がつるつるになる。1,2年間は当社の化粧品を使わなくてはならないので、今日届けた化粧品では量がまだ足りない。」「この健康茶を飲むと体に良い。」などと告げたことはない。
また、原告の実際の化粧品の費消ペースから計算すると、本件で原告が購入した化粧品は約50か月分でしかなく、当時、被告ファインナックでは、創業17年目にして初めてのセールを行っていたことからすれば、サービス品が付くこの機会に、原告がある程度まとまった量の化粧品を購入しようと考えたことは、極めて合理的かつ自然な考えである。
(3) 迷惑を覚えさせる勧誘の主張に関して
被告Y3が原告に対して、原告が「要らない。」と断ったにもかかわらず執拗な勧誘を続けたことは一度としてない。実際、被告ファインナックは、原告に対して、代金引換の方法で化粧品を発送していたのであるから、原告が本当に化粧品が要らないと考えたのであれば、単に代金を支払わないだけで拒絶できたのである。にもかかわらず、原告は一度として化粧品の受領を拒んでいないというのであるから、原告が被告Y3に対して「要らない。」との意思表示をした事実がないことも明白である。それどころか、代金引換という商品の発送方法を採用していること自体が、被告ファインナックの化粧品販売方法の良心性を示す何よりの証左である。
(4) 判断力の不足に乗じた契約の締結の主張に関して
原告の被告Y3との会話内容はしっかりしていたし、また、原告は毎回商品代金を予め準備して自宅で定時に待つという行為を繰り返すなどしていたものであるから、判断力は十二分にあった。また、原告の親族自身も、原告の理解力・判断力・意思力・生活能力に不足がないと考え、自宅から僅か徒歩25分しか離れていない原告宅を長らく訪ねることもせず、電話を架けることすらしなかったもので、尚更である。
万一原告の判断力に不十分な点があったとしても、被告Y3は勿論、被告ファインナックの社員の誰もが、原告が第2種精神薄弱者に認定されていることを知らなかった上、原告も自ら「aホテルで働いている(ので信用して欲しい)。」旨述べるなど、自分が信用に値する人間である旨強調していたのであるから、被告Y3において、およそ原告の判断力不足に気づく余地はなく、勿論、これに乗じられる筈もなかった。
(5) 詐欺行為及び契約の強制の主張に関して
被告Y3が原告に対し詐欺行為を働いた事実はない。
(6) 薬事法違反の主張に関して
仮に、原告が主張するとおり、当該記載が薬事法に抵触したとしても、同法は単なる取締規定に過ぎず、何ら不法行為責任を基礎付けるものではない。
(7) 因果関係の不存在
仮に、原告が主張するとおり、取引法違反や薬事法違反の事実が存在したとしても、右違反と、原告が被告ファインナックからの本件化粧品等の購入の意思を形成したこと及び原告主張の損害との間に相当因果関係はない。
(8) 損益相殺の主張
被告らに不法行為責任が発生したとしても、原告は、代金と引き換えに商品を受領しており、代金相当額の商品の受益があるから、損益相殺を主張する。
(9) 不法行為Ⅱに関して
① まず、原告が弁護士を依頼したからといって、被告らが当該弁護士としか交渉してはならない旨の法的義務を課されるいわれはない。弁護士介入後に被告らが原告と直接交渉したことが違法性を帯びる場合は、せいぜい直接交渉が原告の意思に反し、かつ、社会的相当性を欠くような態様で行われた場合に限られるというべきところ、以下のとおり、原告との直接交渉は原告の意思に沿うものであるし、その態様も社会的に相当なものである。
② 原告は、被告Y3を浜松祭りに誘ったり、被告Y3からの手紙(誓約書)を本件化粧品のクーリングオフを迫るリフォーム業者に見付からないように隠したり、さらに、自分から被告Y3に電話したりする等被告Y3に対して親和の情を抱き、被告Y3からの電話を嫌がるどころか、歓待しているのであるから、被告Y3による直接交渉は何ら違法性を帯びるものではない。
③ 次に、直接交渉の態様も、非常識な時間に、執拗に電話を繰り返したり、罵声を浴びせたりというようなものではないから、直接交渉の態様自体も社会的に相当なものである。
殊に、本件の特殊事情として、B弁護士がリフォーム業者を実質的な依頼者とする原告の意思に反する代理人であったという事情がある。すなわち、被告らは、原告から、リフォーム業者から依頼を受けたB弁護士がリフォーム業者と組んで如何に原告の意思に反した行為しかしないかという行状を繰り返し聞かされていたため、実際にB弁護士が適法な代理人か否か疑念を抱かずにいられなかった。そこで、B弁護士が本当に適法な代理人なのか、むしろ原告を食い物にしているのではないか確認するため、例えば、B弁護士が通知してきた入金口座が真実原告の口座であるかを確認する必要があった。また、その後、被告Y3は、原告代理人が受任通知を送ってきた日にも原告に電話しているが、これも、従前、原告がB弁護士によって食い物にされそうになっていたことから、突如辞任通知が送られてくるや、その翌日に今度は原告代理人から受任通知が送られてくるという不可解な経緯を辿った上、当該受任通知には、B弁護士が全く触れていなかった「判断能力の不足」という記載があったのであるから、代理人選任意思及び原告の知的能力を確認するために、原告に急遽電話を架けたのは当然の行為であって、何ら違法性はない。
(10) 被告Y3及び被告ファインナックの不法行為責任に関して
上記のとおり、被告Y3の勧誘態様には何らの問題もなく、かつ、原告が自ら望んで購入した化粧品であるから、被告Y3が民法709条の責任を負う理由はない。したがって、被告Y3の使用者である被告ファインナックも、被告Y3の行為について民法715条の責任を負う理由はなく、また、被告ファインナック自身が民法44条に基づく不法行為責任を負ういわれもない。
(11) 被告Y1の不法行為責任に関して
同被告は、被告ファインナックの取引法違反と詐欺・強制的販売行為を企画推進し、販売担当者に不法行為を指揮命令していたことはない。
(12) 被告販売力学研究所の不法行為責任に関して
同被告は、被告ファインナックについて、コンサルタント業務をしているだけで、被告ファインナックの取引法違反と詐欺・強制的販売行為を企画推進し、本件販売行為を指揮命令していたということはない。
(13) 被告Y2の不法行為責任に関して
同被告は、被告ファインナックの指導・育成・経理を全て担当していると称したことはないし、勿論、被告販売力学研究所の社員に対して被告ファインナックの取引法違反と詐欺・強制的販売行為を企画推進したこともない。
(不当利得返還請求関係)
(1) 公序良俗違反の主張に関して
上記のとおり、被告Y3は、理解力・判断力・意思力の乏しい原告に付け込んだことはなく、公序良俗違反に当たる事由が存しない。また、原告主張の薬事法違反があったとしても、そのことから公序良俗に反するとはいえない。
(2) 錯誤無効の主張に関して
上記のとおり被告Y3が原告に対し欺罔行為をしたことはないし、また、原告は契約内容を理解した上で、各商品を購入したものであるから、錯誤は存しない。仮に、原告に70年分の化粧品と約9年分の健康茶が必要であるとの錯誤があったとしても、一般人であればそのような意思表示はしないのであるから、要素の錯誤には当たらないし、また、そのような錯誤に陥ったのであれば、原告には重大な過失が存する。
(3) 消費者契約法による取消しの主張に関して
① 断定的判断の提供に関して
上記のとおり、被告Y3が原告に対し「当社の化粧品を使いさえすれば顔がつるつるになる。」等と告げたことはない。仮に、原告の主張を前提にしたとしても、「将来変動が不確実な事項」とは、将来において消費者が財産上の利益を得るか否かを見通すことが契約の性質上そもそも困難である事項をいうから、「当社の化粧品を使いさえすれば顔がつるつるになる。」というのは、「将来変動が不確実な事項」には当たらず、主張自体失当である。
② 不実の告知
上記のとおり、被告Y3が原告に対し、段ボール98箱の化粧品が1、2年分の化粧品である旨告げたことはない。また、仮に、原告の主張を前提にしたとしても、主観的な評価であって、客観的な事実により真実または真正であるか否かを判断することができない内容は「事実と異なること」の告知の対象とはならないから、化粧品の使用量には個人差があり、客観的に判断できるものではない以上、主張自体失当である。
(4) 書面不交付によるクーリングオフの主張に関して
① 書面交付
上記のとおり、被告ファインナックは原告に対し、記載要件を充たした法定書面を商品と一緒に段ボール箱の中に同封して交付しており、したがって、同書面交付後8日間が経過したことにより、最早原告において本件売買契約をクーリングオフすることはできない。
② 使用・損耗による適用除外(取引法24条1項2号)
上記書面が法定書面の要件を充たしていなかったとしても、原告は、指定商品である化粧品の全部又は一部を使用しているから、取引法24条1項2号により、クーリングオフできない。
③ 継続的取引関係による適用除外(取引法26条3項2号)
上記のとおり、原告は被告ファインナックとの間で、過去1年内に複数の取引を行っているから、取引法26条3項2号によりクーリングオフできない。
原告は、本件では法定書面の交付がなかったので、日付の古い契約から順番に全ての申込を撤回することができ、結局、過去1年内の取引があったとは解されない以上、取引法26条3項2号の適用はない旨主張する。しかし、原告は、少なくとも最初から2回の平成15年1月18日付送付分と同月27日付送付分に係る商品の全部又は一部を使用しているから、上記使用・損耗による適用除外に該当する結果、上記平成15年1月18日付発送分の契約と同月27日付発送分の契約をクーリングオフすることはできず、そうであるとすれば、それ以降の契約については、全て過去1年内に2回以上の取引があったことになるので、何れにしろ取引法26条3項2号が適用され、クーリングオフできない。
(5) 詐欺による取消しの主張に関して
上記のとおり、被告Y3は原告に対し、「顔がつるつるになる。1、2年間は当社の化粧品を使わなくてはならないので、今日届けた化粧品では量がまだ足りない。」「この健康茶を飲むと身体によい。」と告げたことはない。
また、原告は、被告ファインナックに対し、自己の能力を信じさせるために詐術を用いていたものであるから、取消権を行使できない。
(6) 原告によるクーリングオフに基づく解除権、詐欺取消権等の放棄(抗弁)
原告は、平成15年3月下旬ころ、本件化粧品の購入が全て原告の真意に基づくものであることを確認しているのであるから(丙9)、真意に反して化粧品を購入させられたとの原告の主張には理由がなく、被告らに不法行為責任は生じない。また、原告は、同年3月下旬ころ、今後一切商品の返品・キャンセル・異議申立てをしない旨意思表示し(丙9)、クーリングオフに基づく解除権、詐欺取消権等を放棄した。
(7) クーリングオフによる解除権行使の権利濫用(抗弁)
原告は、本件売買契約締結当初より「aホテルで働いている(から信用して欲しい)。」旨強調し、真実不要な商品であれば容易に受取拒否できる代金引換の支払方法を自ら選択した上、自宅への自らの帰宅時間を想定して、商品配達時間を指定の上、代金を予め用意して、定時に自宅で商品が配達されるのを待つという行為を繰り返し、度々商品構成の変更を自ら申し入れ、何度も自ら進んで被告Y3に電話を架け、和やかな雰囲気で会話する等していたのであるから、このような原告によるクーリングオフに基づく解除権の行使は、被告ファインナックに対する不意打ちに他ならず、権利濫用に当たり許されない。
5  主たる争点
(1)  不法行為Ⅰの成否
(2)  不法行為Ⅱの成否
(3)  被告Y1、被告販売力学研究所及び被告Y2の不法行為責任の有無
(4)  不法行為による原告の損害
(5)  本件売買契約の公序良俗違反、錯誤による無効、詐欺による取消し
(6)  本件売買契約の消費者契約法による取消し、クーリングオフによる解除
(7)  原告のクーリングオフに基づく解除権、詐欺取消権等の放棄、クーリングオフによる解除権行使の権利濫用
第3  争点に対する判断
1  一連の本件売買契約締結の経緯等について
上記争いのない事実と証拠(甲B27、同33の1から6、同34の1、2、丙1から6、同10、同18から48、原告、被告Y3)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)  被告ファインナックは、上記のとおり、化粧品の製造販売等を目的として平成元年11月10日に資本金3000万円で設立された会社であるが、同被告では、その販売化粧品について、自然に恵まれた廿日市市栗栖を拠点に豊かな自然環境から生まれた無添加のスキンケア化粧品であるということを謳い文句にしていて、その販売は、店頭販売の方法はとらず、専ら電話勧誘と新聞や雑誌広告による販売の方法を採っている。そして、勧誘に応じて商品を購入した顧客を被告ファインナックの会員として、その後電話による勧誘を反復する方法を採っている。
(2)  ところで、被告ファインナックでは、化粧品の容器にバイヤル瓶(耐熱耐圧ガラス瓶)を使用し、また、防腐剤を使用していないため、容器開封後の化粧品の保存については、蓋に遠赤外線セラミックの微粉末を入れ込み(この蓋を「ツルキャップ」と称している。)、容器を逆さまにすることで遠赤外線セラミックが発する放射線を内容物に放射させることによる方法をとっていた。そのため、開封後の化粧品は、瓶を逆立ち状態にして保存する必要があり、被告ファインナックでは、化粧品を購入した顧客には、容器を逆さまにして保存するよう指導していた。しかし、瓶が平底のため瓶を逆さまにして保存する顧客が少なかったことから、平成13年4月ころ、容器を逆さまにして保存せざるを得ないようにするため新たに底の丸い砲弾型の容器を開発した。
(3)  被告ファインナックは、上記砲弾型容器の開発を期して、平成14年ころから「砲弾型新商品発表記念キャンペーン」と称して砲弾型容器入り化粧品の販売促進を展開するとともに、在庫として残っている旧来の平底瓶入りの化粧品の処理を図ることとした。そこで、その方法として、新製品である砲弾型容器入り化粧品のフルセット(洗顔パウダー90包・ベースローション・モイスチャーエンジェルの3種各12箱入り基礎化粧品)を購入した顧客に、旧来の平底瓶のフェイスパック12箱を無料で付けるという、抱き合わせ販売の企画を立て、そして、お試し用として、スキンケアミニセット(洗顔パウダー15包・ベースローション(化粧水)7・5mlの他に高級スクワラン100%のモイスチャーエンジェル7・5ml)を、1人1点に限り、定価2500円のところを1000円の特別価格で頒布するという内容の販売広告を打ち出した。
(4)  被告ファインナックの従業員Aは、新規の顧客獲得のために電話による勧誘を担当していたところ、平成15年1月18日に原告方に電話して原告に対し、被告ファインナックの化粧品の特性や砲弾型新商品発表記念キャンペーンをしていることを説明した上、上記ミニセットの購入を勧誘し、これに対して原告が購入の希望を出した。そこで、上記Aは、原告の氏名、住所、生年月日及び年齢(なお、原告は、昭和24年○月生まれの53歳と答えている。)、自宅の電話番号、上記商品の代金支払方法について確認し(原告は、郵便振替を希望した。)、早速、被告ファインナックの物流センターに原告方へのミニセット1箱の配送を依頼し、同日、同商品が出荷された。また、上記Aは、原告から得た上記情報を電話受付表(丙4)に記入した。その後、原告に会員番号(原告の会員番号〈省略〉)が付されて会員として登録され、顧客管理部門に回された。
(5)  被告Y3は、本件取引当時、被告ファインナックに入社して8年になっていたところ、この間、専ら電話による勧誘を担当し、そして、被告ファインナック化粧品花みずき店の店長を名乗っていた。なお、被告ファインナックでは、営業担当社員の給与については一部歩合制をとっていて、被告Y3の給与も一部歩合制であった。
ところで、被告Y3は、顧客管理部門から回されてきた上記電話受付表をもとに、平成15年1月27日原告方に電話して原告に対し、初対面の挨拶や被告ファインナックと同被告販売の化粧品の特徴について一頻り説明をし、また、上記お試しセットの使用心地を確認するなどした後、砲弾型新商品発表記念キャンペーンを紹介し、同キャンペーン期間中に上記フルセットを1セット購入すると、1箱6500円のフェイスパックが12箱無料で付き、1セット購入当たり7万8000円も得である、被告ファインナックでは創業以来値引販売や無料のサービス品を付けたりしたことはなかったのが、この度のキャンペーンでは特別にフェイスパック12箱を無料で付ける、平底瓶の在庫がある今のうちしか上記キャンペーンは実施されないので、今が購入のチャンスである、などと上記フルセットの購入を勧誘し、これを受けた原告は、即座にその購入を申し入れた。そこで、被告Y3は、代金の支払方法について、代金引換、クレジットカード払い、ショッピングクレジット払い、銀行振込の4種類を説明し、原告が代金引換を選択したので、商品を受け取った際に消費税込み代金18万6480円を支払うよう説明した。そして、原告が購入を申し入れた上記フルセット1セットは、フェイスパック12箱と共に翌1月28日原告方に配達され、原告は配達員に上記代金を現金で支払った。
(6)  被告Y3は、上記1月28日、上記購入商品が原告方に配送されたころを見計らって再び原告方に電話し、電話に出た原告に対して商品の到着を確認した上、被告ファインナック化粧品の使い心地を尋ね、原告から好印象の反応を得たことから再度上記フルセットの購入を勧誘して、原告から商品配送の了解を取り付け、代金支払の用意を指示し、同月30日、フルセット1セットがフェイスパック12箱と共に配達され、原告はその代金18万6480円を上記同様商品配達員に現金払いした。そして、その後も被告Y3は、ほぼ連日のように原告に電話して言葉巧に化粧品や後には健康茶の購入も勧め、これに対し原告も、勧められるままに化粧品や健康茶の配送を承諾し、被告Y3の指示した代金をその都度用意して代金引換で配達された商品を受領していったが、その結果、上記ミニセットを除き、別表1被害一覧表記載のとおり、原告は、平成15年1月27日から同年3月6日までの間、上記フルセットについて、前後26回にわたり、合計で47セット(代金合計876万4560円)の、シャンプー・ボディソープについて、1回に2セット(代金1万6800円)、健康茶について、2回にわたり2セット(代金合計19万6560円)の配達を受け、現金合計823万2000円を支払い、また、上記フルセット47セットのうち4セット分の代金支払については、アコム株式会社のクレジットを利用して立替払いし、アコム株式会社に対し分割手数料分を含めて92万0465円の債務を負った。
(7)  被告Y3は、上記のとおりしばしば原告方に電話しては原告に被告ファインナックの化粧品の良さを吹聴する中で、言葉巧に原告に取り入り、原告の歓心を買い、原告から浜松祭りを見にくるよう誘われたり、原告にその顔写真を送らせ、これは届かなかったものの、被告Y3は、原告から写真が送られた振りをして、原告が「吉永小百合」に似ているなどと原告の容姿を褒めちぎり、原告は、これを聞いて喜々としているというようなこともあった。
(8)  ところで、原告は、上記配達を受けた商品のうち、フルセットについて最初の2セットと健康茶については最初の1セット、それにシャンプー・ボディソープを開封して一部使用したが、その余については開封せず、配達を受けたままの状態で原告方の一室に山積み状態で保管している。そして、原告が被告ファインナックから購入した商品の量は、別表3原告購入商品の量記載のとおりで、フルセット中の洗顔パウダーを例にとると、原告の購入した洗顔パウダーの量は5万0760包で、同洗顔パウダーで毎日2回洗顔するとして約70年間、毎日5回洗顔するとしても27・8年間にわたって使用できる量であり、また、健康茶は3120包で、1包で1・8リットルのお茶ができるので、毎日健康茶を1・8リットル飲むとしても、8年間余り飲み続けることができる量であるが、健康茶の賞味期限は27か月であるので、賞味期限内に全量を一人で消費しようとすれば、1日に7リットル以上を飲まねばならない計算となる。
2  原告の生活歴、知的能力等について
上記争いのない事実と証拠(甲1、甲B9、同10、同13、同15、同16、同17、18の各1から3、同20、同22、証人C)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)  原告は、サラリーマン家庭の7人同胞の末子六女として昭和24年○月○日出生した。小学生時代に発達遅滞の指摘を受け、中学校は特殊学級で過ごし、中学卒業後、知的障害者が多く雇用されていた木工所に約28年間勤務し、その後家事手伝いを経て、公共職業安定所で株式会社aホテルからの障害者雇用促進法の趣旨に沿った求人を見て応募し採用され、平成7年から自宅近くの上記ホテル内のレストランでパートタイマーとして稼働するようになり、現在に至っている。そして、その間の平成5年4月、静岡県西部精神薄弱者更生相談所にて障害の程度Bの判定を受けて静岡県から療育手帳の交付を受けている。また、原告の母は昭和59年に、父は平成5年にそれぞれ死亡し、独身の原告は以後次姉のDと暮らしていたが、同女が平成14年10月に病気入院したことから、以降は独居生活となった。なお、原告の日常の生活費は、勤務先からの120万円足らずの年収で賄われていたが、原告の将来を心配した父や姉らが原告のために1800万円ほどを原告名義の預貯金の形で蓄えていて、父や上記Dがその管理をしていた。
(2)  ところで、原告は、上記独居生活となった後の平成14年11月22日から翌平成15年3月15日までの間、別表1被害一覧表記載のとおり、まず、三洋ペイント株式会社の社員から自宅外壁塗装の勧誘を受けて、平成14年11月22日、代金130万円で外壁塗装の請負契約を結んで130万円を支払い、次いで、アプスから自宅の耐震補強工事の勧誘を受けて同年12月8日に代金126万円で耐震補強工事を注文して120万円を支払い、さらに、上記のとおり被告ファインナックから本件の化粧品等購入の勧誘を受けて平成15年1月18日から同年3月6日までの間、前後30回にわたり商品代金合計915万3465円の化粧品や健康茶を購入して、右商品代金のうち823万3000円を現金払いし、そして最後に、株式会社アースリファインサービスから自宅の改装工事の勧誘を受け、同年3月7日から同月15日までの間に、自宅の屋根、床下工事、床暖房壁クロス、ユニットバス工事、システムキッチン工事、建具交換、床クロス貼りを次々と発注し、その代金額は合計1152万2700円に達し、そのうち685万円を現金払いした。なお、上記現金による各支払は、原告が独居後自分で管理するようになった預貯金の通帳や届出印を使用して上記金融機関から引き出した預貯金によるもので、上記支払のために頻繁に引き出したため、原告の預貯金の残高はほとんどなくなった。
(3)  上記のように原告は立て続けに各種契約を結んだ結果、その契約金額は合計2323万6165円に、既払い額は1758万3000円にも及んだが、このような事態が発生していることを平成15年4月末ころに知って驚いた原告の姉のEは、原告の財産の散逸防止を図るため、同年7月、原告代理人弁護士に依頼して原告について保佐開始の審判を静岡家庭裁判所浜松支部に申し立て(同裁判所平成15年(家)第662号ほか)、同裁判所は、同年9月30日、原告について保佐開始の審判をし、原告の保佐人に上記Eを選任した。
(4)  上記保佐開始の審判手続における原告の精神能力に関する鑑定人医師Fは、上記療育手帳の交付を受けた平成5年時点における原告の知能指数は55であったこと、原告の既往症及び現病歴としては、35歳ころに糖尿病を指摘され、以来、近所の医院に通院し、現在も内服薬による加療中であること、原告の意識/疎通性については、疎通性は良好であるが、複雑又は抽象的な会話は困難であること、記憶力については、自分や近親者の生年月日について正答したが、話の内容の復唱は短時間後でも困難な状態であること、見当識については、場所的見当識が不十分で、公共交通機関の利用は、降りる場所が分からず単独では不可能、計算力は、1桁の加減計算はできるが、2桁以上の加減計算はできず、掛け算、割り算は全くできないこと、理解・判断力については、平易な言葉を通じての理解はある程度可能であるが、抽象的な事柄の理解は困難で、金銭に関しては、単位の概念自体の理解が不十分であること、現在の性格の特徴としては、朗らか、大雑把、人がいいことが挙げられること、鈴木ビネー式知能検査による知能指数は55であったこと、そして、原告の知能指数、精神状態、特に記憶力、計算力、理解力、判断力などが低下した状態にあること、抽象的思考ができないことなどから、原告は知的障害者(軽度精神遅滞)と診断でき、日常生活は一応自立しているが、自己の財産を管理・処分するには常に援助が必要な状態にある、旨鑑定している(甲B10)。
3  争点(1)(不法行為Ⅰの成否)について
(1)  本件は、原告が被告Y3の勧誘で、被告ファインナックから短期間のうちに総額約900万円にも達する大量の化粧品や健康茶を購入したことを前提として、原告が、原告に対する被告Y3の化粧品等購入の勧誘行為や被告ファインナックの販売行為が不法行為を構成するものである旨主張するところ、原告がいくら大量、多額の商品を購入しても、それが原告の自由な意思と合理的な判断に基づくものならば、被告Y3の勧誘行為や被告ファインナックの販売行為が不法行為となることはないし、仮に、被告Y3の勧誘行為や被告ファインナックの販売行為に何らかの取締法規に抵触するところがあったとしても、それが故に直ちに不法行為を構成するということもできない。
(2)  ところで、原告は大量、多額の化粧品等を短期間の内に購入しているものであるが、その量は、上記認定のとおり、化粧品のうち洗顔パウダーを例にとれば、70年から短くとも28年分、健康茶が8年前後分に相当(尤も、化粧品にしても健康茶にしても、その消費量には個人差はあるが。)するもので、特別の希少価値でもあるならばともかく、化粧品にしろ健康茶にしろ上記のように大量に買い込まねばならないほどの希少価値があるとは考え難いし、健康茶には当然ながら賞味期限があるし、化粧品には賞味期限のようなものはないが、フレッシュ期間というようなものがあり、一般には新しいものほど良いとされ、年代物が珍重されるようなことはないから、販売目的や贈呈目的がない限り、原告のように短期間に、同種類の化粧品や健康茶を大量に購入し、しかも、多額のローンを組んでまでして購入する消費者が存するとは考え難く、したがって、以上のような原告の購入の仕方それ自体の中に、原告の不合理性、不自然性、異常性を十分見い出すことができる。そして、原告が、右のように不合理、不自然、異常な購入をしたのは、前掲2で認定した事実を勘案すると、原告の知的能力の問題、すなわち、計算能力、単位の概念自体の理解力、理解・判断力が著しく劣っていること、それに、原告の朗らか、大雑把、人が良いという人格特性に起因するものであることが明らかである。
(3)  ところで、以上のとおり原告の本件一連の化粧品等の大量購入は、原告の知的能力の欠如や人格特性に起因する異常な取引行為であるが、原告の勧誘に当たった被告Y3において、上記のような原告の知的能力の問題性や人格特性について容易に認識し得た状況がなかったならば、結果として被告Y3の勧誘により原告に大量の購入をさせることになったとしても、被告Y3の勧誘行為を直ちに違法なものとすることはできない。そこで、右の点につき検討するに、この点、被告らは、被告Y3が原告に対して、原告の意思に反して勧誘をしたことは一度としてないし、原告は一度として商品の受領を拒否したことはないこと、また、原告の被告Y3との会話内容はしっかりしていたし、原告は毎回商品代金を予め用意して自宅で定時に商品配達を待っていたこと等からも判断能力は十分であったこと、仮に原告の判断力に不十分な点があったとしても、被告Y3は勿論、被告ファインナックの社員の誰もが、原告の知的能力の欠如を知らなかった上、原告の判断力不足に気づく余地もなかった旨主張し、被告Y3は、その本人尋問において同様のことを述べる。
しかしながら、被告Y3は、上記のとおり本件売買取引当時既に被告ファインナックに入社して8年になっていて、店長の肩書を有するベテラン営業社員であり、かつ役員でもあったのであるから、本件売買取引開始当初はともかく、平成15年1月28日の被告Y3による第2回目の勧誘終了時には、原告の知的能力の程度の詳細までは知る由がなかったにしても、原告は御し易い、営業員の言いなりになる、都合の良い顧客であることは容易に分かったはずであり、それにもかかわらず、同被告は、商品の到着確認を口実に頻繁に原告に電話して、上記のような商品特性があり、一般消費者が短期間に大量購入することに不向きな商品の勧誘を続け、原告に適性な時期には到底消費できない大量な商品を購入させたもので、この被告Y3の一連の勧誘行為は、原告の判断力不足や断れない性格などの原告の弱点に付け込んだものであって、取引法通商産業省令7条1項で定めるところの迷惑を覚えさせる勧誘、取引法7条3項、通商産業省令2項で定めるところの判断力の不足に乗じた契約の締結にそれぞれ該当するばかりでなく、不法行為を構成する違法な行為に当たると認めるのが相当である。
そして、被告Y3の一連の勧誘行為のうち、化粧品購入の勧誘については、上記3回目(平成15年1月29日)以降の勧誘行為が、健康茶購入の勧誘については、2回目の勧誘行為が不法行為となるというべきである。
(4)  なお、原告は、不法行為を構成する被告ファインナックないし被告Y3の違法行為として、本件取引には取引法の適用があり、そして、取引法所定の法定書面の交付が欠如しているから18条ないし19条違反の違法があり、また、被告ファインナックの化粧品のリーフレットには火傷にフェイスパックを塗ると水ぶくれにならず、痛みもなく元通りになるという内容の体験談を載せていること等の点で、薬事法違反の違法がある旨主張するが、仮に、原告主張のような違法な点が認めるられるとしても、本件不法行為と相当因果関係のある違法行為とはいえない。
また、原告は、被告Y3の勧誘行為には詐欺行為や契約締結の強制に該当するところがあった旨主張するが、セールストークを超えた違法と評価し得るようなものがあったとまで認めるに足る証拠はない。
4  争点(2)(不法行為Ⅱの成否)について
(1)  証拠(甲B22、同23の1、2、同24から32、同44,同47の1、2、丙7から9、同15、同16、原告、被告Y3)によれば、次の事実が認められる。
① 原告は、上記認定のように、平成15年3月に入って株式会社アースリファインサービスから自宅の改装工事の勧誘を受け、自宅の屋根、床下、床暖房壁クロス張り替え等の工事をすることになったところ、上記会社の担当社員は、原告の自宅内に大量の化粧品等の段ボール箱を見い出して、原告が被告ファインナックから大量の化粧品を購入させられて大変なことになっているのでどうにかしなければならないと考え、上記会社を通じてB弁護士にその旨を相談し、これを受けた同弁護士は、原告からの依頼を取り付け、原告の代理人として被告ファインナックに対し、本件売買契約の取消しと支払済みの売買代金の返還交渉を申し入れ、その後、B弁護士と被告ファインナックや被告販売力学研究所との間で書面の遣り取りがなされた。
② ところで、被告Y3は、原告から依頼されたB弁護士が被告ファインナックに対して本件売買代金の返還を求めていることを知って、原告に働きかけて何とか原告に売買代金の返還要求を翻意させようと考え、原告が同被告にすっかり親和していて、同被告の思うがままに操ることができることを利用することにし、まず、原告に電話して、大切な書面を送るので、その書面に署名捺印して送り返して貰いたいと言葉巧に申し入れ、そして、「私は、貴社の商品を購入するにあたり、商品の内容、数量、金額の説明を受け、自分の意志で申し込みを致しました。また購入の際、販売担当のY3さんから何度も購入意思の確認を受けており、一切キャンセルしないというお返事をし、商品代の決済をした上で届けて頂きました。商品の購入は、すべて自らの意思による申込みであることに間違いありません。よって今後一切商品の返品・キャンセル、意義申し立てを致しませんことを誓約致します。ここにその意思を表すものとして署名捺印致します。」と記載した誓約書(丙9)を原告に送付した上、同書面が配達されたころを見計らって原告に電話し、再度原告に対し同書面に署名捺印して返送するよう仕向けた。これに対し原告は、同書面の内容を読むことも理解することもままならなかったが、被告Y3を信頼して、同被告に指示されたとおりに署名捺印し、同年3月25日ころ同書面を返送した。
③ 被告Y3は、同年3月26日及び27日の両日、原告に電話し、原告から、上記B弁護士への委任は原告の意思ではなくリフォーム屋が勝手になしたものであるとの内容の言質を執拗に取ろうとした。
④ さらに被告Y3は、原告から委任を受けた原告代理人弁護士が被告ファインナックに受任通知をした直後の同年5月7日にも原告に電話して、原告代理人弁護士が原告のことを精神障害者である等と言っているなどと言って、原告と原告代理人弁護士との間の信頼関係を毀損させて、原告が原告代理人弁護士を解任するよう仕向け、また、原告の知的能力に問題がないことを印象付けようと、原告から原告が知的障害者ではないとの言質を得ようとし、さらに、原告に商品返品の意思のないことの証拠固めをしようとして、原告に対して繰り返し化粧品を使用していることを確認する発言をした。
(2)  そこで、本件不法行為Ⅱの成否につき検討する。
原告の真意をどの程度のものと理解していたかはともかく、上記のとおり、被告Y3は、原告が本件売買代金の返還交渉を弁護士に委任していることを知りながら、原告に電話して売買代金の返還を翻意させようと働きかけるなどしたものであるところ、一般に、弁護士に委任していることを知りながら当該委任者と直接交渉することは好ましくないことが多かろうが、交渉したからといって、そのことが直ちに違法となるということはできず、相手方の意思に反して直接交渉をし、その手段、方法が社会的相当性を欠くような態様で行われた場合に違法性を帯びるものと考えられる。
そこで、以上の点を踏まえて本件について見るに、上記認定のとおり、原告は被告Y3に対して好意を持ち、同被告からの電話を嫌がっていたところはないし、同被告から原告への電話も、深夜早朝などの非常識な時間帯のものであるとか、執拗なものであったとか、その態様自体から違法と評価し得るようなものであったとはいえないが、しかしながら、上記認定の事実によれば、被告Y3は、原告に対するそれまでの一連の売買勧誘の経験を通して、原告が同被告に強く親和していて、原告を同被告の思うまま自由にコントロールできるものと確信し、このことを前提として、原告に売買代金返還要求を諦めさせ、二度と原告から法的紛争が被告ファインナック等に提起されることがないようにすることを企図し、そのために、原告が依頼した弁護士が必ずしも原告の利益には活動しないことを吹聴して依頼した弁護士との離反を図り、また、端的に、被告ファインナックに対する請求権を一切放棄させるべく、言葉巧に言って上記誓約書(丙9)に署名捺印させて同書面を返送させることまでしているのであり、以上のような被告Y3の一連の行為は、原告が弁護士に依頼して売買代金の返還請求をするのを知りながら、原告の無知、拒否能力の欠如等の弱みに付け込み、策を弄して翻意させようとしたものであり、その手段方法が社会的相当性を逸脱した違法なものといわねばならず、これは不法行為を構成するものというべきである。
5  被告らの抗弁(損害賠償請求権等の放棄)
上記のとおり、原告は、商品の購入はすべて自分の意思によるもので、今後一切商品の返品・キャンセル・異議申立てをしないことを誓約する旨の記載のある誓約書と題する書面(丙9)に署名捺印し、これを被告ファインナックに返送しているところ、被告らは、このことをもって原告が被告らに対する一切の請求権を放棄したものである旨主張する。しかしながら、既に検討したとおり、原告は被告Y3の指示のままに、上記書面の意味内容を十分に理解しないままに署名捺印したものであって、上記書面をもって原告が被告らに対する損害賠償債請求権を放棄したものと認めることはできず、他に、原告が損害賠償請求権を放棄したことを認めるに足る証拠はない。
6  被告Y3及び被告ファインナックの不法行為責任について
以上の認定説示したところによれば、被告Y3において、本件各不法行為について、民法709条に基づき、これにより原告が被った損害を賠償する責任があることは明らかである。そして、被告Y3の本件不法行為Ⅰは、被告ファインナックの従業員がまさにその業務そのものとしてなしたものであることが明らかであり、また、本件不法行為Ⅱは、本件売買の勧誘と関連した被告ファインナックの業務の執行につきなされたものというべきであり、したがって、被告Y3の使用者である被告ファインナックは、民法715条に基づき、被告Y3と連帯して本件各不法行為により原告が被った損害を賠償する責任がある。
7  被告Y1、被告販売力学研究所及び被告Y2の不法行為責任について
甲B11の1,2(静岡県弁護士会の照会に対する独立行政法人国民生活センターの回答書)によれば、平成5年4月から平成15年9月28日までの間にPIO-NETに入力された被告ファインナックに関する消費者から相談件数が17件あり、その中には本件と同様な、被告ファインナックから頻繁な電話による化粧品の購入を勧誘されて化粧品を次々と購入させられ、また、電話で勧誘されるままに多量、高額の化粧品を購入させられたというようなものが含まれていることが認められるが、右相談内容は、相談受付機関が要約したものである上、事実関係を確認した上でのものでもないから(甲B11の1)、にわかに上記回答書の記載内容を間違いないものとして扱うことはできないし、仮に間違いないものがあるとしても、そのことから直ちに、被告ファインナックでは、会社の方針として本件の場合と同様に常軌を逸した過量な商品の販売を従業員にさせていて、本件もその一場合に過ぎないものと認めることはできない。
また、甲B23の2(被告Y2の回答書)によれば、被告Y2は、B弁護士の質問に対して、原告の本件取引以上の購入金額の顧客もいるし、原告の購入金額に近い顧客は沢山いる、原告の購入金額と購入化粧品量も、被告ファインナックの販売状況の中では一般的なレベルである等と、原告の本件取引による化粧品等の購入量と金額が決して異常なものではない旨を回答していることが認められるが、右は、被告ファインナックが責任追及されるのを避けるために原告の本件化粧品等の購入が決して異常なものではないことを強調しているに過ぎないものであることが見て取れ、上記回答書の記載内容をもって、被告ファインナックでは組織的に従業員に過量な化粧品の販売をさせていたものと認定することはできない。
なお、先に認定のとおり、被告ファインナックでは新製品である砲弾型容器の化粧品の発売に当たって、陳腐化する化粧品の在庫を早期に売り捌く必要があったことは確かであり、そのために在庫品の消化促進を図っていたことは間違いないところであろうが、そうであるからといって、そのことから直ちに、被告ファインナックでは、原告が主張するような取引法違反による販売行為や詐欺的・強制的販売行為の推進を企画し、これを販売担当者に指揮命令していたということはできず、また、被告ファインナックでは、被告Y3の本件一連の勧誘行為について、それがまさになされていた当時において、その内容を十分に把握していながらこれを放置し、さらには煽るようなことをしていたことを認めるに足る証拠はない。
以上によれば、結局、被告ファインナックが取引法違反の販売行為や詐欺的・強制的販売行為などの不法行為となるような販売行為を組織的になさしめていたとは認められず、そして、他に、原告の上記主張事実を認めるに十分な証拠はない。
そうとすると、さらに検討するまでもなく、被告ファインナックの代表者である被告Y1、被告販売力学研究所及びその代表者である被告Y2について不法行為責任を認めることはできないといわねばならない。
8  原告の損害について
(1)  不法行為Ⅰに関する物的損害
原告は、本件売買で被告ファインナックに対し売買代金として合計823万3000円を支払っているところ、既に認定説示したとおり、本件売買のうち、平成15年1月18日の化粧品ミニセット(商品代金1000円)、同年1月27日の化粧品セット(商品代金18万6480円)、同年1月28日の化粧品セット(商品代金18万6480円)、同年2月6日の健康茶(商品代金9万8280円)及び同年2月24日のシャンプー・ボディソープ2セット(商品代金1万6800円)の売買を除くその余の本件一連の売買取引(その支払商品代金総額は、上記823万3000円から上記1000円、18万6480円、18万6480円、9万8280円及び1万6800円を控除した774万3960円となる。)は不法行為を構成するというべきであるから、結局、原告は、右売買取引により出捐した上記商品代金相当の774万3960円の損害を被ったものと認めるのが相当である。
なお、被告らは、原告は支払った代金に見合う商品を受領しており、代金相当額の商品の受益があるから、これをもって損益相殺する旨主張する。しかしながら、本件は、違法な勧誘により化粧品等を購入させられ、その代金を支払わされたことを不法行為とするものであるから、原告が当該商品を受領したからといって、原告に損害がないとはいえないばかりでなく、上記のとおり、原告は、上記化粧品ミニセットほか4点を除く商品については、梱包状態のまま保管していて(甲B33の1から6)、被告ファインナックにその引き取りを求めているが、同被告がその引き取りを拒否している状況にあるのであるから、原告に代金相当額の商品の受益があるとはいえず、被告らの損益相殺の主張は理由がない。
(2)  不法行為Ⅰに関する慰謝料
原告は、被告Y3から知的障害により判断力が不足していることをよいことに内容虚偽の害悪の告知を受けて欺罔かつ畏怖困惑させられ、生活の平和を奪われて精神的苦痛を受けたとして、慰謝料85万円の支払を求めているところ、なるほど、本件売買により余りに大量の化粧品等を抱え込むはめに陥って困惑していることは確かであろうが、右による精神的苦痛は、結局、上記物的損害の回復が図られることにより満足される程度のもので、これを超える精神的苦痛による損害があることを認めるに足る証拠はない。
(3)  不法行為Ⅱに関する慰謝料
不法行為Ⅱにより、原告は、自己の権利の実現を違法に妨害され、これにより精神的苦痛を受けたものというべきところ、本件に顕れた諸般の事情を勘案すると、右精神的苦痛を慰謝するための慰謝料としては20万円をもって相当と認める。
(4)  弁護士費用
本件各不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害は79万円と認める。
9  結語
以上のとおりとすると、原告の本訴請求は、不法行為による損害賠償として、被告ファインナック及び被告Y3に対し、連帯して873万3960円及び内金853万3960円に対する不法行為Ⅰの発生終了後である平成15年3月10日から、内金20万円に対する不法行為Ⅱの発生後である平成15年5月7日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、被告ファインナック及び被告Y3に対するその余の請求並びに被告Y1、被告販売力学研究所及び被告Y2に対する請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法61条、64条、65条を、仮執行の宣言につき同法259条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 千川原則雄)

 

〈以下省略〉

 

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