平26(ワ)5137号 動産引渡等請求事件

裁判年月日  平成27年 9月15日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(ワ)5137号
事件名  動産引渡等請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2015WLJPCA09158007

要旨
◆被告に本件売渡絵画及び本件各動産を売り渡した本件売買契約につき、特定商取引に関する法律58条の14第1項に基づき解除又は消費者契約法4条に基づき取り消す旨の意思表示をした原告が、被告に対し、本件売買契約の解除に伴う原状回復請求権又は所有権に基づき、本件売渡絵画は本件絵画と同一である旨主張して、本件絵画の引渡し、引渡しの執行が不能になったときは履行に代わる代償として800万円の支払を求め、また、本件各動産の引渡しの履行に代わる代償として10万円の支払を求めたほか、本件売買契約をクーリングオフした旨の通知書に対して被告は不当に応じず、何ら応答しなかったなどとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において、本件売買契約は、特定商取引に関する法律58条の14第1項の規定により解除されたとした上で、本件売渡絵画が、本件絵画の真作で、両者が同一とは認められないとし、また、本件各動産は引渡執行が不可能であるとして、本件各動産の価格を9万円と認定する一方、本件売買契約の解除に伴う被告の一連の行為によって原告に経済的損害の填補に加えてさらに慰謝されるべき精神的損害が生じたとは認められないとして、請求を一部認容した事例

参照条文
特定商取引に関する法律58条の4
特定商取引に関する法律58条の14
特定商取引に関する法律58条の17
民法709条

裁判年月日  平成27年 9月15日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(ワ)5137号
事件名  動産引渡等請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2015WLJPCA09158007

東京都目黒区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 三島枝里香
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 株式会社古美術永澤
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 平沢郁子
同 加藤由美

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,9万円を支払え。
2  原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3  訴訟費用は,これを100分し,その1を被告の,その余を原告の,各負担とする。
4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  被告は,原告に対し,別紙物件目録2記載の絵画を引き渡せ。
2  前項の引渡執行が不能となったときは,被告は,原告に対し,その引渡しに代えて800万円を支払え。
3  被告は,原告に対し,30万円及びうち20万円に対する平成25年11月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  訴訟物
(1)  原告は,被告に対し,別紙物件目録1記載の各動産(以下「本件売渡動産」という。)を売り渡した(以下「本件売買」といい,これに係る売買契約を「本件売買契約」という。本件売渡動産のうち,同目録1記載1の「B名の入った絵画」と別紙物件目録3記載の絵画(以下「本件売渡絵画」という。)は同じものである。)。
(2)  原告は,本件売買は特定商取引に関する法律(以下「法」という。)58条の4に規定する訪問購入に該当するとして,法58条の14第1項に基づき解除(いわゆるクーリングオフ)するとともに,被告が,重要事項について原告に対して事実と異なることを告げたとして,消費者契約法4条により取消す旨の意思表示をした。
(3)  本件は,原告が,被告に対し,①a 本件売買契約を解除し又は取り消したところ,本件売渡絵画は別紙物件目録2記載の絵画(以下「絵画○○」という。)と同一であると主張して,本件売買契約の解除に伴う原状回復請求権又は所有権に基づき,絵画○○の引渡しを求め,引渡しの執行が不能になったときは履行に代わる代償として800万円の支払を求め,b 本件売買契約の解除に伴う原状回復請求権又は所有権に基づき,本件売渡動産のうち別紙物件目録1記載2ないし47の動産(以下「本件各動産」という。)の引渡しの履行に代わる代償として10万円の支払を求め,② 原告が被告に対して本件売買契約をクーリングオフした旨の通知書を送付したにも関わらず,被告はこれに対して不当に応じず何ら応答しなかったために精神的苦痛を受けたなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償として20万円(精神的損害に対する慰謝料10万円及び弁護士費用10万円の合計額)並びにこれらに対する本件売買契約の日の翌日である平成25年11月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2  前提事実(当事者間に争いのない事実,各項末尾に掲記の証拠又は弁論の全趣旨によって容易に認められる事実及び当裁判所に顕著な事実。各項末尾に証拠が掲記されていない事実は,当事者間に争いがない。)
(1)  当事者等
ア 原告は,原告訴訟代理人の母である。
イ 被告は,美術品,骨董品,絵画,宝飾品,貴金属の販売及び輸出入並びに古物の売買業等を目的とする株式会社であり,「古美術永澤」との屋号で古美術商を営んでいる者である。被告は,法58条の4に定める「物品の購入を業として行う者」(購入業者)に当たる。(甲1の1・2,弁論の全趣旨)
(2)  原告は,本件売買契約締結当時,本件売渡動産を所有していた。
(3)  絵画○○は,著名な画家であるB(昭和2年生,平成16年4月6日没。)の昭和31年ころの作品である「○○」と題する絵画である。絵画○○の概要は,別紙物件目録2に記載のとおりである。(甲11,12,弁論の全趣旨)
(4)  本件売買の概要
ア 原告は,平成25年11月3日,被告に対し,原告の自宅において,本件売渡動産を10万円で売り渡し,被告はこれを買い受けた。
イ 原告代理人は,本件売買契約締結に立ち会った。(弁論の全趣旨)
ウ 本件売買は,法58条の4に定める「訪問購入」に当たる。
エ 被告は,本件売買契約を締結した際,原告に対し,本件売買契約に係る法58条の8に定める書面(以下「58条の8書面」という。)を交付しなかった。
オ 本件各動産は,執行が可能な程度に対象を特定することができない。(弁論の全趣旨)
(5)  原告は,同月4日,被告に対し,本件売買契約をクーリングオフの規定により解除する旨の通知を発送し,同通知は,同月6日,被告に到達した。(甲3の1・2)
(6)  原告は,平成26年4月1日の本件第1回口頭弁論期日で陳述された本件訴状により,本件売買契約を消費者契約法4条1項1号により取り消す旨の意思表示をした。(顕著な事実)
(7)  原告が,期日において,被告に対して本件売渡絵画を任意に提出するよう求めたのに対し,被告は,理由を明らかにしないままこれに応じず,本件売渡絵画の所在も明らかにしていない。(顕著な事実)
(8)  原告は,当初,本件売渡絵画の引渡し及び引渡執行が不能となったときは被告が原告に対して160万円を支払うことを求めていたが,その後,絵画○○の引渡しを求め,引渡執行が不能となったときは被告が原告に対して800万円を支払うことを求める旨の訴えの変更をした。(顕著な事実)
3  本件の争点
(1)  本件売買契約の解除又は取消しの可否
ア 法58条の17第2項1号の適用除外事由の有無
イ 消費者契約法4条1項1号に基づく取消しの可否
ウ 絵画○○に係る引渡義務の有無
(2)  (1)が認められる場合の代償請求の価格
(3)  不法行為の成否
4  争点に関する当事者の主張
(1)  本件売買契約の解除又は取消しの可否
ア 法58条の17第2項1号の適用除外事由の有無
【被告】
被告は,ラジオ放送における被告のコマーシャルを聞いた原告から,物品の処分を希望するとの依頼を受け,原告宅を訪問した。よって,本件売買契約は,「その住居において売買契約の申込をし又は売買契約を締結することを請求した者に対して行う訪問購入」(法58条の17第2項1号)に当たる。よって,同項本文により,法58条の14第1項の規定は適用されないから,同項の規定により売買契約を解除することができない。
【原告】
否認ないし争う。原告は,被告に対し,本件売渡動産の査定を依頼するため原告宅を訪問するよう求めたのであって,原告宅で売買契約の申込をし又は売買契約を締結することを請求して原告宅を訪問するよう求めたものではない。
イ 消費者契約法4条1項1号に基づく取消しの可否
【原告】
被告担当者であるC(以下「被告担当者」という。)は,原告に対し,本件売渡絵画について,絵画○○の真作であるかどうかは不明であり,真作である可能性もあったにもかかわらず,本件売渡絵画について「コピー品であるとして扱うしかない。」と述べ,本件売渡絵画が紙箱に入っていたことについて「本物であれば,木箱に入っているはずだ。」と述べて,本件売渡絵画が絵画○○の真作である可能性もあるという重要事項(消費者契約法4条4項)について事実と異なることを告げた。よって,原告は,同条1項1号に基づき,本件売買契約を取り消す。
【被告】
否認する。本件売渡絵画は保証書もなく,紙箱に入った状態であったため,被告担当者は,原告に対し,保証がないものなのでその様に扱うしかない,本物であれば木箱に入っていることが多いと説明し,本件売買契約を締結した。よって,同条4項に定める重要事項について事実と異なることを告げていない。
ウ 絵画○○に係る引渡義務の有無
【原告】
本件売渡絵画はBの真作であるから,絵画○○と同一である。よって,被告は,原告に対し,絵画○○を返還すべき義務を負う。
【被告】
否認ないし争う。
(2)  (1)が認められる場合の代償請求の価格
【原告】
ア 絵画○○の価格について
本件売渡絵画はBの真作である絵画○○であり,その価格は800万円を下らない。
イ 本件各動産の価格について
被告は業者であり,本件各動産を転売することを予定していたことからして,本件売渡動産の買取値段である10万円は,その時価の半分にも満たない。本件各動産のうち,① 別紙物件目録1記載29の「ダイヤモンドリング(0.5カラット)」は,別の業者により2万円と査定されたことがある。被告は,本件売買契約において,② 同19の「コースター3個セット(純銀製)」,③ 同27の「ダンヒル ライター 2個」及び④ 同28の「カルティエ ライター」は,同29の「ダイヤモンドリング(0.5カラット)」と同じく値がつくものと分類した。よって,本件各動産の価格は10万円(=2万円×5)を下らない。
【被告】
いずれも否認ないし争う。
(3)  不法行為の成否
【原告】
原告は,本件売買契約締結の1,2時間後に,被告担当者に対し,本件売買契約を取りやめたい旨を申し入れたが,被告担当者は,本件売買契約はクーリングオフの対象外であるとして不当にこれに応じなかった。また,被告は,原告の本件売買契約を解除する旨の通知(前提事実(5))にも,何ら応じなかった。
このような被告の対応により,原告は精神的苦痛を受け,これを慰謝すべき損害賠償額は10万円を下らない。また,原告が本件訴訟において上記損害賠償請求を遂行するための弁護士費用は,10万円を下らない。よって,原告は,被告に対し,20万円の損害賠償請求権を有する。
【被告】
被告担当者が,原告から本件売買契約を取りやめたい旨の電話を受けた際,本件売買契約は原告の依頼で買い取ったものであるから,クーリングオフができないと告げたことは認め,その余は否認ないし争う。
第3  当裁判所の判断
1  争点(1)(本件売買契約の解除又は取消しの可否)について
(1)  法58条の17第2項1号の適用除外事由の有無
本件売買契約は,法58条の4に定める訪問購入に当たるところ(前提事実(4)ウ),購入業者である被告の営業所以外の場所である原告の自宅において締結されたものであるから(同(4)ア),58条の8書面を原告に対して交付する必要がある(法58条の8第1項本文)。そして,被告が原告に対して58条の8書面を交付していないことについては当事者間に争いがなく(同(4)エ),原告は,書面により本件売買契約を解除する旨の通知をし,同通知が被告に到達したから(前提事実(5)),法58条の14第1項の規定により本件売買契約は解除された。
これに対し,被告は,本件売買契約は,「その住居において売買契約の申込をし又は売買契約を締結することを請求した者に対して行う訪問購入」(法58条の17第2項1号)に当たり,法58条の14第1項に基づく解除の規定は適用されないから,同項の規定により解除し得ないと主張する。
しかしながら,法58条の17第2項1号の適用除外事由があるというためには,相手方が契約の申込み又は締結をする意思をあらかじめ有し,その住居において当該契約の申込み又は締結を行いたい旨の明確な意思表示があることが必要であり,見積もりを依頼した場合など,相手方が明確な取引意思を有しないまま,契約準備に当たる行為のために購入業者に対して自宅への来訪を求めた場合は,これに当たらないと解すべきである。
本件において,原告は,本件売渡動産の査定を依頼する趣旨で自宅への来訪を求めたものであるとして,上記のごとく売買契約を申込み又は締結する意思をあらかじめ有しておらず,自宅においてこれを申込み又は締結したい旨の明確な意思表示があったことを否認しており,原告がこれらの意思をあらかじめ有しており,上記明確な意思表示があったことを裏付ける証拠はない。原告が本件売買の前日である平成25年11月2日に被告以外の業者に本件売渡動産の出張査定を依頼していること(甲6)からしても,原告がこれらの意思をあらかじめ有しており,上記明確な意思表示をしたとは認められず,本件売買が法58条の17第2号1号に該当するということはできない。
よって,被告の上記主張は採用できない。
(2)  以上のとおり,本件売買契約は解除されたから,消費者契約法4条1項1号に基づく取消しが可能であるかについて判断するまでもなく,被告は,原告に対し,本件売買契約の解除に伴う原状回復請求権又は所有権に基づき,本件売渡動産のうち本件各動産を返還すべき義務を負う。
(3)  絵画○○に係る引渡義務の有無について
次に,被告が原告に対して絵画○○を返還すべき義務を負うか否かについて,本件売渡絵画と絵画○○の同一性の有無,すなわち,本件売渡絵画が絵画○○の真作であるか否かについて検討する。
ア 認定事実(本件の証拠又は弁論の全趣旨により認められる事実)
(ア) 原告は,本件売渡絵画の前所有者(故人)からこれを譲り受けたものであるところ,本件売渡絵画の前所有者がいかなる経緯でこれを所有するに至ったかは明らかではなく,本件売渡絵画の前所有者はもちろん,その前々所有者がこれをいくらで購入したかなども不明である。(弁論の全趣旨)
(イ) 原告は,本件売買以前,本件売渡絵画が真作かもしれないと考えていたが,原告訴訟代理人は,本件売渡絵画が真作であることに懐疑的であった。(弁論の全趣旨)
(ウ) 本件売渡絵画は,木箱に入っておらず,紙箱に入っていた。また,本件売渡絵画には保証書がなく,原告は,本件売買以前に,本件売渡絵画について専門家の鑑定を受けたこともなかった。(弁論の全趣旨)
(エ) 絵画○○は,Bの比較的初期の作品である。Bは,昭和20年代ないし30年代には鳥を描いた作品が多く,昭和50年代以降は猫又は牡丹を描いた作品が多い。B作品の所定鑑定機関は有限会社a・D(Bの長男)であるところ(甲20),Dの妻であるEが把握しているだけでも,Bの作品の贋作は少なくとも2,30点製作されているが,それは主として昭和50年代以降の作品を題材としたものであった。(甲13)
(オ) Eは,本件売渡絵画の現物を見ておらず,写真を見て判断しただけであり,その真贋について100パーセント確実なことはいえないとした上で,① 本件売渡絵画にはBの初期の作品の特徴(鳥の羽の描き方,月の表現の仕方及び「揉み紙」という背景の技法(甲14))が表れていること,② 絵画○○はBの初期の作品であるところ,初期の作品の贋作を見たことがないこと,③ 一般的に,日本の画家は初期の作品は価格が低いため,贋作の題材として選ばれないことなどから,本件売渡絵画は絵画○○の真作である旨の意見(以下「E意見」という。)を述べている。そして,Eが上記意見を述べるに至った本件売渡絵画の写真は,絵画の中央部分にカメラのフラッシュと思われる反射光があり,○○の顔の部分が見えず,反射光の周辺が暗くて色合いがはっきりしないなど,状態が良くないものであった。(甲13)
イ 判断
(ア) 上記アのとおり,① 本件売渡絵画の来歴は不明であり(認定事実(ア)),② 原告は,本件売買以前,本件売渡絵画が真作ではないかと考えていたが,確信していたわけではなく,原告の娘である訴訟代理人は真作であることに懐疑的であって(同(イ)),③ 本件売渡絵画には保証書がなく,原告及び原告の前所有者も本件売渡絵画を紙箱に入れており,著名な画家の高価な絵画にふさわしい程度に慎重かつ丁寧に取り扱った形跡がなく(同(ウ)),④ Bの作品には贋作が多い(同(エ))。そして,⑤ E意見は本件売渡絵画の現物ではなく状態の良くない写真を見た限りでされたものであり(同(オ)),Eも100パーセント確実なことはいえないとしているところ,経験則上,絵画の真贋は現物を確認しないと判断できないものであると認められるから,E意見をもって,本件売渡絵画が絵画○○の真作であると推認することはできない。本件において,E意見以外,本件売渡絵画が絵画○○の真作であることをうかがわせる証拠はない。
以上のとおりであるから,E意見を考慮しても,本件売渡絵画が絵画○○の真作であると認めることができない。
(イ) これに対し,原告は,被告が合理的な理由もなく本件売渡絵画の所在を明らかにした上でこれを任意に提出することに応じず,証明妨害をしているから,文書提出命令又は検証に関する民事訴訟法224条又は232条の規定を準用し,本件売渡絵画が絵画○○の真作であるとの原告の主張を真実であると認めるべきであると主張する。
しかしながら,被告が理由を明らかにしないまま本件売渡絵画の所在を明らかにせず,任意の提出にも応じないのは訴訟手続における当事者の態度として不誠実であるといわざるを得ないが,前記(ア)のとおり,原告の主張によっても本件売渡絵画の来歴が不明であるなど本件売渡絵画が絵画○○の真作であることがうかがえない以上,このような被告の訴訟手続における態度をもって,本件売渡絵画が絵画○○の真作であると推認することはできない。原告は,民事訴訟法224条又は232条の規定の準用により,本件売渡絵画が絵画○○の真作である旨の原告の主張が真実であることが擬制されるべきであると主張するが,原告が文書提出命令の申立ても検証の申出もしておらず,これらの申立て又は申出ができない事情もうかがえないのであるから,これらの規定を準用することはできないといわざるをえない。
(ウ) 以上のとおり,本件売渡絵画が絵画○○の真作であり,両者が同一であると認めることができないから,被告は,原告に対し,絵画○○を引き渡すべき義務を負わない(なお,原告は,被告に対し,本件売渡絵画の引渡しを求めていない(前提事実(8))。)。
2  争点(2)((1)が認められる場合の代償請求の価格)について
(1)  絵画○○の価格について
前記1(3)のとおり,本件売渡絵画が絵画○○と同一であると認めることができず,被告が原告に対してこれを返還すべき義務を負わないから,絵画○○の価格について判断するまでもなく,絵画○○に係る代償請求は理由がない。
(2)  本件各動産の価格について
① 本件売買契約における本件売渡動産の代金が10万円であったこと(前提事実(4)),② 本件売渡絵画が絵画○○の真作であると認められないとしても一定の経済的価値があると認められるが,原告がその引渡請求及び代償請求をしていないことから,本件売渡動産の代金相当額から本件売渡絵画の価格を控除すべきことなど,本件にあらわれたすべての事情を考慮し,本件各動産の価格は9万円と認められる。
(3)  まとめ
以上のとおり,被告は,原告に対し,本件各動産を返還すべき義務を負うところ,本件各動産は執行が可能な程度に対象を特定することができないから(前提事実(4)オ),引渡執行が不能であることは明らかである。よって,被告は,原告に対し,本件各動産の価格相当額である9万円を支払う義務を負う。
3  争点(3)(不法行為の成否)について
原告は,① 被告が本件売買契約をクーリングオフすることはできないとしてこれに応じなかったこと,② 本件売買契約を解除する旨の原告の通知に対して何ら応答しなかったことなど,本件売買契約の解除に伴う被告の各行為によって精神的苦痛を受けたと主張する。
しかしながら,前記1及び2のとおり本件売買契約は解除され,原告は,本件各動産の現物の引渡し又はそれが功を奏しない場合の代償請求を受けることができ,経済的損害は填補される。また,本件売渡絵画については,原告はその引渡しを求めていないから,これに係る経済的損害が填補されないとしても,これによって精神的損害を受けたことを考慮することはできない。よって,本件売買契約の解除に伴う被告の一連の行為によって,原告に経済的損害の填補に加えてさらに慰謝されるべき精神的損害が生じたとは認められない。
よって,その余の点について考慮するまでもなく,原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
第4  結論
以上のとおり,原告の請求は,被告に対し,本件各動産の価格相当額である9万円の支払を求める限度で理由があるが,その余の請求はいずれも理由がないからこれらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 清野英之)

 

〈以下省略〉

 

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