平24(ワ)19524号 求償金請求事件

裁判年月日  平成26年 9月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平24(ワ)19524号
事件名  求償金請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2014WLJPCA09268016

要旨
◆信販会社である原告が、被告に対し、宝石購入代金等の借入れに係る保証委託契約に基づく求償金の支払を求めた事案において、被告が営業活動の一環として本件宝石の売買契約を締結したとはいえないから、適用除外を定める特定商取引法26条1項1号所定の「営業のために若しくは営業として」同契約がなされたとはいえず、また、被告は営業所である本件宝石店で本件売買契約締結の申込みをしたから、本件売買契約は同法2条1項1号の「訪問販売」には当たらないものの、被告は同項2号の「特定顧客」に当たるとして本件売買につき特定商取引法の適用を認めた上で、本件売買契約書は被告がクーリングオフの通知書を発するまで記載不備のままであったから、被告のクーリングオフにより本件売買契約は解除され、被告は同解除事由を原告にも対抗できるとして、請求を棄却した事例

参照条文
民法459条1項
民法555条
特定商取引に関する法律2条1項
特定商取引に関する法律4条
特定商取引に関する法律5条1項
特定商取引に関する法律9条1項
特定商取引に関する法律26条1項1号
特定商取引に関する法律施行規則3条
割賦販売法30条の4

裁判年月日  平成26年 9月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平24(ワ)19524号
事件名  求償金請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2014WLJPCA09268016

大阪市〈以下省略〉
原告 株式会社アプラス
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 保木野秀明
千葉県松戸市〈以下省略〉
(従前の住所 川崎市〈以下省略〉)
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 流矢大士

 

 

主文

1  原告の請求を棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
被告は,原告に対し,300万1581円及びこれに対する平成24年2月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要等
1  事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,宝石購入代金等の借入れに係る保証委託契約に基づく求償金の請求をしている事案である。
2  前提となる事実(証拠等を掲げた事項以外は当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により容易に認められる。)
(1)  当事者等
ア 原告(旧商号「株式会社アプラスフィナンシャル」)は,割賦購入あっせん,信用保証及び金銭貸付等を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
原告及び株式会社アプラスフィナンシャル(旧商号「株式会社アプラス」。以下「旧アプラス」という。)は,平成21年5月26日,旧アプラスを分割会社,原告を承継会社として,平成22年4月1日を効力発生日として,旧アプラスが行う事業のうち,消費者金融事業の一部及び信用保証事業のうち住宅ローンに係るものを除く一切の事業に関して,旧アプラスが有する権利義務を原告に承継する旨の吸収分割契約を締結した。
イ 被告は,昭和29年○月○日生まれの女性であり,平成19年1月当時,東京都内に居住していた(甲1)。
被告は,同月当時,寝具類及び健康寝具の販売等を営業目的としている株式会社a(以下「a社」という。)の会員として,同社の商品を購入する顧客を同社に紹介し,同社からコミッション収入を得ていた(乙12)。
ウ 「b店」(以下「本件販売店」という。)は,大阪府泉佐野市に所在するcビル24階にある宝石等の販売店であり,B(以下「B」という。)が個人経営している店舗である(甲1,11)。
(2)  保証委託契約の締結等
ア 本件販売店訪問
被告は,平成19年1月26日,Bに対してa社の商品の説明等をするため,C(以下「C」という。)と共に(甲4,乙12)本件販売店に行った。
イ 契約書への署名等
(ア) 被告は,上記アの本件販売店訪問の際,本件販売店において,後記(イ)の内容が記載された契約書(旧アプラスが作成した定型の契約書用紙に,契約者,勤め先,支払口座,商品名,商品の引渡時期,支払金額及び期間等を手書きで書き込んだもの。以下「本件契約書」といい,同契約書に係る契約を「本件保証委託契約」という。)(甲12)に署名した。ただし,押印はしなかった。
(イ) 被告は,本件販売店からPTダイヤリング1点(本件契約書の「商品(役務)名・型式」欄には「PtDリング」とのみ記載されている。以下「本件指輪」という。)を代金260万円(消費税込)で購入する(以下,本件指輪に係る売買契約のことを「本件売買契約」という。)に当たり,次のaないしcの約定の下に,金融機関(以下「本件融資会社」という。)から金員を借り受けるとともに,旧アプラスに対し,同借受金を代理受領した上本件販売店に購入代金の支払をすること,及び旧アプラスが被告の本件融資会社に対する借受金債務につき連帯保証することを委託する(甲1)。
a 支払総額及び返済方法
支払総額は314万6000円(上記購入代金260万円及び分割払手数料54万6000円の合計額相当額)。
返済方法は,平成19年2月から平成24年1月まで,毎月27日限り5万2400円宛(ただし,初回は5万4400円),60回の割賦弁済(本件融資会社が返済金の取立て及び受領を旧アプラスに委任し,被告は,返済金を旧アプラスに対して支払う。)。
b 保証債務の履行・求償権の行使
被告が割賦金の支払を怠った場合,旧アプラスは,被告に通知・催告することなく,旧アプラスが本件融資会社に対して負担する残債務の全部を代位弁済し,旧アプラスは,被告に対し,代位弁済額と同額の求償権を取得することができる。
c 支払停止の抗弁
被告は,本件売買契約について本件販売店に対して生じている事由があるときは,その事由が解消されるまでの間,当該事由について,旧アプラスに対する分割支払金の支払を停止することができる。
ウ 旧アプラスによる意思確認
本件販売店は,被告が本件販売店にいる間,旧アプラスに本件契約書をファクシミリ送信し,さらに,旧アプラスに要請されて,被告の保険証及びクレジットカードのコピーもファクシミリ送信した(甲3,9)。
これを受け,旧アプラス(担当者)は,本件販売店に架電し,被告に代わってもらい,意思確認のため,被告と話をした。なお,その際,被告は,本件売買契約や本件保証委託契約の成立を否定するような発言はしなかった。
エ 本件契約書への押印及び投函等
(ア) 被告は,本件販売店から退去する際に本件契約書(なお,本件契約書の被告の控えには,クーリングオフについてのお知らせが記載されている。)を持ち帰り,その後,本件契約書に押印し,平成19年1月30日,本件契約書を投函した。
旧アプラスは,同年2月5日の朝までには本件契約書の原本を受け取った(甲3)。
(イ) なお,本件契約書は,上記ウの本件契約書のファクシミリ送信よりも後に,① 返済時期につき,平成19年3月を初回とするものに記載が変更され,被告は上記投函までに当該箇所に訂正印を押しており(甲1),② 分割払手数料54万6000円の内訳が,本件融資会社に対する支払利息17万1621円及び旧アプラスに対する保証委託手数料37万4379円である旨も記載された(甲1)。
(3)  クーリングオフの通知
被告は,平成19年2月5日,本件販売店(B)に対し,本件指輪の購入を取りやめる旨のいわゆるクーリングオフの通知書を発した(乙1)。
被告は,同日,旧アプラスに対しても,本件指輪のクレジットでの購入を取りやめる旨のいわゆるクーリングオフの通知書を発した(乙2)。
(4)  指輪の発送及び受取拒否
本件販売店は,平成19年2月5日,宅配便を用いて,当時の被告宅に指輪(なお,本件指輪か否かについては当事者間に争いがある。)を発送した(希望配達日同月6日)(甲10)が,被告は受取りを拒否した。
(5)  再度のクーリングオフの通知
被告は,代理人弁護士を通じ,平成19年5月10日,旧アプラスに対し,本件保証委託契約につき,改めていわゆるクーリングオフをする旨の通知書を発した(乙3の1)。
(6)  強迫を理由とする取消しの意思表示
ア 被告は,平成19年5月10日,旧アプラスに対し,上記(5)と同じ書面により,本件保証委託契約を,Bらによる強迫を理由にこれを取り消す旨の意思表示を発し,同意思表示は,同月14日に旧アプラスに到達した(乙3の1・3)。
イ 被告は,平成19年5月10日,Bに対し,上記アと同内容の書面により,本件売買契約を,Bらによる強迫を理由にこれを取り消す旨の意思表示を発し,同意思表示は,同月12日にBに到達した(乙3の1・2)
(7)  保証債務の履行
旧アプラスは,被告が本件保証委託契約に基づく債務の支払を全くしなかったため,平成19年7月末日までに,本件融資会社に対し,連帯保証人として,300万1581円(314万6000円から未経過利息14万4419円を控除した金額)を代位弁済した(甲2)。
(8)  原告による権利義務の承継
原告は,上記(1)ア第2段落記載の吸収分割契約により,平成22年4月1日,本件保証委託契約に基づく旧アプラスの被告に対する一切の権利義務を承継した。
(9)  消費者契約法4条3項による取消しの意思表示
被告は,平成26年4月10日の本件弁論準備手続期日において陳述された準備書面をもって,原告に対し,消費者契約法4条3項により本件保証委託契約を取り消す旨の意思表示をした(当裁判所に顕著)。
3  主たる争点
本件の主たる争点は,次の被告の主張が認められるか否かである。
(1)  クーリングオフによる本件売買契約(抗弁の接続)ないし本件保証委託契約の解除又は申込みの撤回
ア 平成19年2月5日に発したクーリングオフ
イ 平成19年5月10日に発したクーリングオフ
(2)  強迫を理由とする取消し
ア 本件売買契約の取消し(抗弁の接続)
イ 本件保証委託契約の取消し
(3)  消費者契約法4条3項による本件保証委託契約の取消し
(4)  本件請求の信義則違反
(5)  本件売買契約の同時履行の抗弁権(抗弁の接続)
4  被告の主張
(1)  争点(1)(クーリングオフによる本件売買契約[抗弁の接続]ないし本件保証委託契約の解除又は申込みの撤回)について
ア 旧特定商取引法上のクーリングオフの規定(9条)の適用があること
(ア) 旧特定商取引法2条1項1号
本件売買契約及び本件保証委託契約については,被告が,平成19年1月30日,本件販売店(営業所)以外の場所で本件契約書に押印し,それを投函する方法により,契約締結の意思表示をしたものであり,被告は,当時の特定商取引法(以下,その後の改正前の同法のことを「旧特定商取引法」という。)9条の「販売業者・・が営業所等以外の場所において指定商品・・につき売買契約・・を締結した場合におけるその購入者」に該当する(本件指輪の販売は,同法2条1項1号の「訪問販売」に当たる。)。
よって,被告は,同法9条に基づき,クーリングオフをすることができる。
(イ) 旧特定商取引法2条1項2号
仮に,Bが本件販売店(営業所)において被告からの契約締結の申込みを受けたのだとしても,被告が本件販売店(営業所)を来訪したのはCから電話で要請されたからであるところ,その際,宝石類の売買契約の締結について勧誘をするためであることを告げられていなかったから,被告は,旧特定商取引法2条1項2号の「特定顧客」に当たり,したがって,同法9条の「販売業者・・が営業所等において特定顧客から指定商品・・につき売買契約・・を締結した場合におけるその購入者」に該当する。
よって,被告は,同法9条に基づき,クーリングオフをすることができる。
イ クーリングオフの期間について
(ア) 本件売買契約及び本件保証委託契約が成立した時期は,被告が本件販売店を訪問した平成19年1月26日ではなく,被告が押印して投函した本件契約書(前記前提となる事実(2)エ(イ)のとおり,返済時期の記載が変更されている。)が到達した時点,すなわち,本件売買契約については早くとも同月31日,本件保証委託契約については同年2月5日である。
(イ) また,そもそも,被告は,クーリングオフについての説明を受けておらず,同年1月30日には,Bから「26日にもう金は動いている。指輪は中古品になる。責任を取れ。もうクーリングオフなんかできない。」旨言われて威迫され,クーリングオフを行使することを妨げられている。
(ウ) よって,本件の各クーリングオフは期間の要件を満たしている。
ウ 本件売買契約は「営業のために若しくは営業として」締結されたものではないこと
本件売買契約は,a社の商品の販売とは何ら関係がなく,原告が主張する旧特定商取引法26条1項1号の「営業のために若しくは営業として締結する」取引には当たらない。
(2)  争点(2)(強迫を理由とする取消し)について
被告は,廃墟同然の雰囲気であったcビル24階にあった本件販売店において,Bを含むやくざ風の男性3名及び大柄で目も座っているCに囲まれ,平成19年1月26日午後1時頃から午後7時半頃まで拘束され,指輪の購入を執拗に迫られ,その際,「Bは,ピストルを突きつけられ命を狙われながらも外国から宝石を採って来た。」,「お金のことでいろいろな人が泣きついてくるのでやくざな社会と渡り合って話をつけた。」などと言われて畏怖し,また,同月30日には,Cから何度も執拗に電話を受け,Cに命じられるままBに電話したところ,Bから,凄みのある恐ろしい声で上記(1)イ(イ)記載の発言をされ,さらに畏怖し,自己の生命や身体に危険を感じ,本件契約書への押印及び本件契約書の投函に至ったものであり,被告の本件売買契約及び本件保証委託契約の締結についての意思表示はBらの強迫によるものである。
(3)  争点(3)(消費者契約法4条3項による本件保証委託契約の取消し)について
被告は,平成19年1月26日,本件販売店において,指輪の購入を執拗に迫られていた際,Bらに対し,指輪を購入する意思がないことを何度も伝え,また,何度も退去する旨の意思を示していたにも関わらず,Bらは,上記(2)のとおり,被告に心理的な圧迫を加え,被告を畏怖させて退去させず,これにより困惑した被告は,やむを得ず本件契約書に署名した。そして,本件契約書への押印及び本件契約書の投函に至った経緯は上記(2)のとおりである。
以上によれば,本件保証委託契約は,消費者契約法4条3項により取り消し得る。
(4)  争点(4)(本件請求の信義則違反)について
信販会社である旧アプラスないし原告(以下,この項において,両者を特に区別せず「原告」という。)は,信義則上,加盟店管理義務を負っているところ,この義務に違反している。すなわち,原告は,加盟店が脅迫又は詐欺的な手段を用いて販売行為を行わないように指導・監督すべき義務及び加盟店が脅迫又は詐欺的な手段を用いて販売行為を行った場合には,与信を行ってはならない義務を負っていたところ,本件販売店の被告に対する販売手法は上記(2)及び(3)のとおりであり,原告がこれらの義務に違反していたことは明らかである。また,原告は,被告の主張する抗弁事由について十分調査を行い,その調査結果を被告に伝える義務,被告からの抗弁の申立ての処理を長期間放置しない義務及び調査の結果に基づき支払請求を行う場合には予め被告に通知すべき義務を負っていたところ,原告がこれらの義務に違反していたことは明らかである(なお,本件提訴の日は平成24年3月23日である。)。
また,原告は,Bが脅迫又は詐欺的な手段を用いて販売行為が行われたと推知されたにも関わらず,漫然とBに与信を与え,Bの不法行為を助長したものであるから,被告に対して不法行為責任を負う立場にある。
このような事情からすれば,原告の被告に対する本件請求は信義則に反する。
(5)  争点(5)(本件売買契約の同時履行の抗弁権[抗弁の接続])について
ア 仮に,本件売買契約及び本件保証委託契約が有効であるとしても,被告は,本件指輪の提供を受けていないので,本件指輪の提供を受けるまで,本件売買契約に係る売買代金の支払を拒むことができる。
したがって,被告は,抗弁の接続により,本件指輪の提供を受けるまで,原告の本件請求を拒む。
イ なお,原告が,本件指輪であると主張する指輪(前記前提となる事実(4)の指輪。甲7号証及び甲8号証に記載されている指輪)は,本件指輪ではない。
5  原告の主張
(1)  争点(1)(クーリングオフによる本件売買契約[抗弁の接続]ないし本件保証委託契約の解除又は申込みの撤回)について
ア 旧特定商取引法上の「訪問販売」の規定は適用されないこと
本件売買契約は,被告が,a社の商品の営業活動の一環として,顧客の要望に応じて締結したものであり,被告が「営業のために若しくは営業として」締結したものであるから,旧特定商取引法上の「訪問販売」の規定の適用はない(同法26条1項1号)。
イ 旧特定商取引法上の「訪問販売」に当たらないこと
(ア) 旧特定商取引法2条1項1号
被告は,本件販売店(営業所)において,本件指輪を購入する旨の意思表示及び本件保証委託契約の申込みの意思表示をしているのであり,本件売買契約は旧特定商取引法上の「訪問販売」に当たらない。
(イ) 旧特定商取引法2条1項2号
本件販売店への来訪を要請したのは,以前から被告と交流のあったCであって,本件販売店ではないから,被告は「特定顧客」(旧特定商取引法2条1項2号)には当たらず,本件売買契約は旧特定商取引法上の「訪問販売」に当たらない。
ウ クーリングオフの期間が経過していること
本件売買契約は,平成19年1月26日に締結されており,本件売買契約のクーリングオフの通知の発送はクーリングオフの期間(8日間)を経過している。
エ 本件保証委託契約のクーリングオフの主張についても争う。
(2)  争点(2)(強迫を理由とする取消し)について
本件売買契約及び本件保証委託契約の締結についての被告の意思表示が強迫によるものであることは否認ないし争う。
(3)  争点(3)(消費者契約法4条3項による本件保証委託契約の取消し)について
ア 被告は,自らの営業活動の一環として本件保証委託契約を締結したのであるから,「事業として又は事業のために」契約当事者となったものである。したがって,被告は「消費者」ではなく,本件保証委託契約は「消費者契約」ではないから,消費者契約法に基づく取消しはできない。
イ Bらが,被告の退去を妨害したり,被告を困惑させた事実はなく,消費者契約法上の取消原因はない。
(4)  争点(4)(本件請求の信義則違反)について
本件請求が信義則違反である旨の被告の主張は否認ないし争う。
(5)  争点(5)(本件売買契約の同時履行の抗弁権[抗弁の接続])について
本件指輪は,甲7号証及び甲8号証に記載されている指輪であり,前記前提となる事実(4)のとおり,被告は正当な理由なく受取りを拒絶したのであるから,被告が同時履行の抗弁権を主張することはできない。
第3  当裁判所の判断
1  証拠(甲3,4,11,乙1,2,9,12,証人D,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)  Cはa社の会員であり,平成19年1月26日以前から被告及び本件販売店(B)の双方と面識があった。
(2)  被告は,Cから,a社の商品の購入を希望しているEという人物への同商品の売買手続をするため,CやEとつきあいのある大阪のお店に一緒に来てもらいたい,また,同店の社長にも商品を説明してもらいたい旨電話で要請され,平成19年1月26日,新幹線で大阪に向かった。なお,Cからは,「同店の社長が宝石の購入を勧誘するため被告の来店を要望する。」などといった説明はなかった。
被告には,a社の商品が売れることにより,a社から被告に対してコミッションが支払われることへの期待もあった。
Cは,事前に,被告に対し,C及びEは名古屋駅で合流する予定である旨告げていたが,当日,Cは,Eは都合が悪くなったなどと説明した上,Cのみが被告に合流した。そして,2人で本件販売店を訪れた。
(3)  被告及びCは,本件販売店に数時間滞在した。
被告は,本件販売店において,Bに対し,a社の商品の説明もした。
B及び本件販売店の従業員は,被告に対し,宝石購入を勧め,最終的に,被告は,本件契約書に署名した。なお,被告は印鑑を持参していなかった。
被告は,旧アプラス(担当者)による意思確認(前記前提となる事実(2)ウ)の際,本件契約の主立った記載事項が読み上げられたことに対して,「はい」などと答えた。その際,本件売買契約や本件保証委託契約の締結については検討中である旨などの発言はしていない。
Cは,同日,本件販売店において宝石を購入していない。
(4)  Bは,旧アプラス担当者に対し,本件売買契約につき,Cは紹介者である旨を述べ,また,被告の商売に協力する旨のいわゆるバーターの約束はない旨を述べている。
(5)  a社の商品については,健康肌ケット及び敷きパット(シングル)の価格は36万2250円,健康肌ケット及び敷きパット(ダブル)の価格が39万9000円という値段設定であった。
(6)  本件契約書の他に,本件売買契約の契約書は作成されていない。
2  前記前提となる事実及び上記認定事実に基づき検討する。
(1)  旧特定商取引法26条1項1号に関する検討
① 指輪それ自体はa社の商品の販売等に寄与するものではないこと,② a社の各商品の値段からうかがわれる被告のa社からのコミッション収入の額との関係において,本件指輪の購入に係る約定の総支払額である314万6000円は非常に高額といえること,③ Bは,旧アプラス担当者に対し,いわゆるバーターの約束はない旨を述べていること等の事情に鑑みれば,a社からコミッションが支払われることへの期待が被告にあったことや,被告がBに対してa社の商品の説明をしたことを踏まえても,本件売買契約が,被告において「営業のために若しくは営業として」締結したものであると認めることはできない。
(2)  旧特定商取引法2条1項1号に関する検討
① 被告は,本件販売店に滞在中,宝石購入を勧められ,結局は本件契約書に署名をしたこと,② 被告は,旧アプラス(担当者)からの意思確認に対し,契約締結に異議を述べたり,契約を締結するか否か検討中である旨を述べたりはしていないこと等の事情に鑑みれば,被告の内心は格別,外形的には,平成19年1月26日に,本件販売店(営業所)において,被告から本件販売店に対して本件売買契約締結の申込みがなされたものと認めることが相当である。
(3)  旧特定商取引法2条1項2号に関する検討
① BとCとは従前から面識があり,Bは,旧アプラス担当者に対し,本件売買契約につき,Cは紹介者である旨を述べていること,② B及びCは,平成19年1月26日より前に,被告がCとともに本件販売店(店舗)を訪れるよう被告に伝えることを合意していたと推認されること,③ Bが②の合意をしたのは,被告に対して宝石の購入を勧誘するためであり,そのことはCも分かっていたと推認されること(弁論の全趣旨),④ ②の合意に基づき,Cは,被告に対し,平成19年1月26日に一緒に「大阪のお店」すなわち本件販売店に行くことを電話で要請し,その際,③の目的の説明はしなかったこと等の事情に鑑みれば,被告は,旧特定商取引法2条1項2号にいう「特定顧客」に当たるものと認められる。
(4)  クーリングオフの期間についての検討
クーリングオフは,旧特定商取引法4条又は5条の書面(以下「法定書面」という。)を受領した日から起算して8日を経過すると行使できなくなる(同法9条1項)ところ,法定書面には「商品・・の代金・・の支払時期及び方法」,「商品名及び商品の商標又は製造者名」及び「商品の型式又は種類」等の事項の記載が必要とされている(同法4条,5条1項,同法施行規則3条)。
本件売買契約については,本件契約書の他に契約書の作成(被告への交付)はされていないから,法定書面に記載を要する事項が本件契約書に記載されていることが必要となると解されるところ,本件契約書には,① 本件販売店への本件売買代金の支払の時期及び方法についての記載はなく(甲1,12),本件保証委託契約に基づく支払の時期及び方法に関する記載はあるものの,平成19年1月26日に旧アプラスにファクシミリ送信された時点での記載は,その後同月30日までの間に変更されており(前記前提となる事実(2)エ(イ)。なお,当該記載の変更がなされた具体的な日は本件証拠上不明である。),② 「商品名及び商品の商標又は製造者名」及び「商品の型式又は種類」の記載としては「PtDリング」との記載しかない(前記前提となる事実(2)イ(イ))。
そうすると,本件契約書は,本件売買契約の法定書面としては,上記①の点については,少なくとも上記記載の変更がされた日までは記載不備であったといえ,上記②の点については,被告が同年2月5日にクーリングオフの通知書を発するまで記載不備のままであったといえるのであり,このような記載不備の書面を被告が受領していたというだけでは,本件売買契約については,同法9条1項の規定するクーリングオフの行使期間の起算日が同年1月26日(ないし同月28日以前)であるということはできない(被告は,本件契約書の記載事項の変更や本件指輪がいかなる指輪であったかについても問題として主張しており,法定書面の不備についての主張も黙示的にしているものと解することができる。)。
(5)  以上によれば,被告による本件販売店に対する平成19年2月5日のクーリングオフにより本件売買契約は解除されたといえ,被告は,本件販売店に対する同抗弁事由を原告に対しても対抗できる。
よって,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。
3  結論
以上の次第であり,原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 大竹貴)

 

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