平24(ワ)2709号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成26年 9月12日  裁判所名  京都地裁  裁判区分  判決
事件番号  平24(ワ)2709号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2014WLJPCA09126001

要旨
◆原告が、被告らと密接な関係を有する提携販売店から不当勧誘を受け、被告らとの間で不必要なリース契約を締結させられたとして、主位的に損害賠償を、予備的に不当利得の返還を求めた事案において、原告は本件各契約を締結するために必要な判断能力を欠いておらず十分理解して各契約を締結したとして、各契約の成立を認めた上で、別個の法人格である被告らと販売店の各行為を同一視することはできず、被告らが販売店につき信義則上の管理義務等を負うものでもなく、また、原告に必要か否かはリース料支払債務に影響を及ぼすものでなく、他に代理権授与、使用者責任、クーリングオフによる契約解除、心裡留保、公序良俗違反等をいう原告の各主張は採用できないとして、請求を棄却した事例

参照条文
民法1条2項
民法90条
民法93条
民法99条
民法703条
民法704条
民法709条
民法715条
特定商取引に関する法律6条1項(平20法74改正前)
特定商取引に関する法律9条1項(平20法74改正前)
特定商取引に関する法律26条1項1号(平24法59改正前)

裁判年月日  平成26年 9月12日  裁判所名  京都地裁  裁判区分  判決
事件番号  平24(ワ)2709号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2014WLJPCA09126001

京都市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 中隆志
同 河野佑宜
同 紀啓子
同 堀田康介
東京都港区〈以下省略〉
被告 三井住友トラスト・パナソニックファイナンス株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 吉野和昭
東京都港区〈以下省略〉
被告 三井住友ファイナンス&リース株式会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 森真二
同 松本久美子
東京都港区〈以下省略〉
被告 NECキャピタルソリューション株式会社
同代表者代表取締役 C
同訴訟代理人弁護士 香髙茂
同訴訟復代理人弁護士 小山田一彦
東京都新宿区〈以下省略〉
被告NECキャピタルソリューション株式会社補助参加人 株式会社ビジネスパートナー
同代表者代表取締役 D
同訴訟代理人弁護士 中森亘
同 覺道佳優

 

 

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
【主位的請求】
1  被告三井住友トラスト・パナソニックファイナンス株式会社は,原告に対し,116万6250円及びこれに対する平成23年9月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告三井住友ファイナンス&リース株式会社は,原告に対し,83万5725円及びこれに対する平成23年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  被告NECキャピタルソリューション株式会社は,原告に対し,130万7800円及びこれに対する平成23年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
【予備的請求】
1  被告三井住友トラスト・パナソニックファイナンス株式会社は,原告に対し,86万6250円及びこれに対する平成23年9月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告三井住友ファイナンス&リース株式会社は,原告に対し,65万5725円及びこれに対する平成23年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  被告NECキャピタルソリューション株式会社は,原告に対し,108万7800円及びこれに対する平成23年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
(以下においては,被告三井住友トラスト・パナソニックファイナンス株式会社を「被告パナソニック」,被告三井住友ファイナンス&リース株式会社を「被告SMFL」,被告NECキャピタルソリューション株式会社を「被告NEC」とそれぞれ呼称する。)
本件は,原告が,被告らと密接な関係を有する提携販売店から不当な勧誘を受け,被告らとの間で不必要な物品についてリース契約を締結させられ,損害を被ったなどと主張して,(1)主位的に不法行為よる損害賠償として,①被告パナソニックに対し,支払済みのリース料相当額86万6250円,慰謝料20万円及び弁護士費用10万円の合計116万6250円,②被告SMFLに対し,支払済みのリース料相当額65万5725円,慰謝料10万円及び弁護士費用8万円の合計83万5725円,③被告NECに対し,支払済みのリース料相当額108万7800円,慰謝料10万円及び弁護士費用12万円の合計130万7800円の支払を求め,(2)予備的に不当利得返還請求として,被告らに対し,上記①ないし③に各記載の支払済みリース料の支払を求める事案である。
附帯請求は,主位的請求については,各リース料の最終支払日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払請求であり,予備的請求については,各リース料の最終支払日から支払済みまで民法704条所定の年5分の割合による法定利息の支払請求である。
1  前提事実
次の事実は,末尾に証拠番号を付したものを含めて,当事者間に争いがないか,争うことが明らかにされない事実である。
(1)  当事者
ア 原告(昭和25年○月○日生)は,「a店」という屋号で,自宅の一角にある店舗(以下「本件店舗」という。)において,茶の小売業を営む者である。
イ 被告らは,いずれも各種機械等のリース,賃貸借等を業とする株式会社である。
(2)  被告パナソニックとのリース契約
原告と被告パナソニックとの間では,別紙契約目録記載1及び2のとおり,各リース契約に関する契約書が作成された(甲1,2。以下,当該契約書に係る契約を,同目録の番号順にそれぞれ「契約①」「契約②」といい,対象物件をそれぞれ「リース物件①」「リース物件②」という。)。
被告パナソニックは,原告に対し,平成21年3月31日,リース物件①及び②を本件店舗において引き渡した(乙A1の2,2の2)。
(3)  被告SMFLとのリース契約
原告と被告SMFLとの間では,別紙契約目録記載3及び4のとおり,各リース契約に関する契約書が作成された(甲4,5。以下,当該契約書に係る契約を,同目録の番号順にそれぞれ「契約③」「契約④」といい,対象物件をそれぞれ「リース物件③」「リース物件④」という。)。
被告SMFLは,原告に対し,平成18年4月19日にリース物件③を,平成20年7月10日にリース物件④を,いずれも本件店舗において引き渡した(甲4,5,乙B6,7)。
(4)  補助参加人及び被告NECとのリース契約
原告と補助参加人との間では,別紙契約目録記載5及び6のとおり,各リース契約に関する契約書が作成された(甲6,7。以下,当該契約書に係る契約を,同目録の番号順にそれぞれ「契約⑤」「契約⑥」といい,対象物件をそれぞれ「リース物件⑤」「リース物件⑥」という。なお,契約①ないし⑥を総称して,以下「本件各契約」ということがある。)。
補助参加人は,被告NECに対し,平成20年10月1日,契約⑤及び⑥における貸主の地位を譲渡した(乙C1,11)。
被告NECは,原告に対し,同年9月26日にリース物件⑤を,同年10月2日にリース物件⑥を,いずれも本件店舗において引き渡した(乙C6,8,16,17)。
(なお,以下では,本件各契約にかかる販売店(ダイワ,サイバーコミュニケーションズ,アレクソン)を総称して「各販売店」ということがある。)
(5)  原告によるリース料の支払
ア 原告は,被告パナソニックに対し,本件各契約につき次のとおりリース料を支払った。
契約①:平成21年5月から平成23年9月までの間
合計56万7000円
契約②:平成21年5月から平成23年9月までの間
合計29万9250円
イ 原告は,被告SMFLに対し,各契約につき次のとおりリース料を支払った。
契約③:平成18年6月から平成23年8月までの間
合計40万3200円
契約④:平成18年9月から平成23年8月までの間
合計25万2525円
ウ 原告は,被告NECに対し,各契約につき次のとおりリース料を支払った。
契約⑤:平成20年10月から平成23年8月までの間
合計64万6800円
契約⑥:平成20年10月から平成23年8月までの間
合計44万1000円
2  争点及び争点に関する当事者の主張
(1)  原告の判断能力(争点1)
【原告の主張】
原告には,幼少時から精神発達遅滞の知的障害があり,見当識障害,計算障害,作業記憶障害等が認められる旨の診断を受けているのであるから,本件各契約のような複雑な契約関係を正確に理解できる判断能力はない。
【被告らの主張】
原告は,実母が亡くなった平成10年以降,本件店舗を一人で経営し,商品の仕入れ,日々の店舗における販売,帳簿の記帳等を行い,毎年の税務申告も自らしていたことなどに照らせば,原告の判断能力に何ら問題はないというべきである。
(2)  被告らと各販売店とを同一視することができるか,それによる不法行為責任の成否(争点2)
【原告の主張】
ア 本件契約が提携リースであること
リース契約の中で,サプライヤーである販売店がリース会社と提携し,顧客が割賦販売か立替払いかリースか,また取引するリース会社の選択の余地がないまま,リース契約を締結する形態のものがあり,提携リースと呼ばれている。提携リースにおいては,各販売店単独では販売が困難な顧客に対しても,販売店はリース会社のリース契約書を用いて販路を拡大し,利益を得ることができ,リース会社にとっても販売店の熱心な販売活動により利益が見込めることになり,リース会社と提携販売店との間には密接な依存関係が存在する。
本件はこのような提携リースの事案であり,被告らは,各提携販売店に対して,本件契約締結に関する各主要部分の決定権限を付与しており,各提携販売店がリース契約締結業務の一部ないし全部を行うことにより,被告らと各提携販売店は,共に利益を上げるという密接な依存関係,相互利用補充関係にある。
提携リースの場合には,典型的なファイナンスリース契約と同様のものとして理解したり,ファイナンスリースにおける法律関係をそのまま認めたりすることは妥当でない。
イ 提携販売店の行為との同一視
被告らと各提携販売店との間には,上記アのような密接な依存関係,相互利用補充関係があることからすれば,信義則又は報償責任の観点から,提携販売店の不法行為は,リース会社たる被告らの不法行為と同視すべきである。
ウ 各提携販売店の不法行為
各提携販売店であるダイワ(契約①②),サイバーコミュニケーションズ(契約③⑤⑥)及びアレクソン(契約④)の各担当者は,原告に対し,原告の判断能力が乏しいことや人柄につけ込んで,原告に本件各契約を締結する意思も適切に判断する能力もないことを知りながら,不当な利益を得る目的で,同人にとって全く不必要な高額な物件についてリース契約を締結させ,その結果,原告に無用なリース料債務を負担させている。
したがって,各提携販売店が原告にリース契約を締結させた行為は,不法行為に当たる。以上の行為は,リース会社である被告らとその各提携販売店の共同不法行為であり,両者の責任は不真正連帯債務の関係に立つ。
【被告らの主張】
原告の主張は,いずれも否認ないし争う。
本件各契約は,提携リースではなく,通常のファイナンスリース契約であり,被告らと各販売業者との間に,密接な依存関係,相互利用補充関係はない。被告らと各販売業者とは,それぞれ独立した企業体であり,系列会社の関係ではなく,資本上又は経営上の提携関係もない。
したがって,被告らの行為と各販売店の行為が同一視されることはあり得ない。
(3)  販売店の管理義務違反による不法行為の成否(争点3)
【原告の主張】
ア 被告らの販売店管理義務の存在
被告らは,信義則上,各提携販売店の管理につき,リース契約の勧誘方法及び営業実態を厳正に監督し,各提携販売店の不法行為を防止して,顧客らに不測の損害を与えることのないように配慮する義務を負っている。
具体的には,リース業務提携契約締結時,各提携販売店が取り扱うリース物件及び勧誘方法を把握し,リース業務提携契約締結後も勧誘方法について違法がないかを監督し,適正に契約をするよう指導する義務や,顧客に対して契約締結意思の確認を厳格に行い,契約締結意思に疑義がある場合には適切に対応する義務,リース契約の特殊性(特に顧客に不利益な点)について明確に説明する義務,顧客から提携販売店に対する苦情があったときにはその内容を迅速に調査し,適切に対応する義務等がある。
イ 被告らの管理義務違反,顧客に対する配慮義務違反
被告らは,上記アのとおり,提携販売店に対する管理義務や顧客に対する保護義務,配慮義務を負っているにもかかわらず,故意又は過失によってこれを怠り,原告について各提携販売店らが明らかに不当な契約を複数締結していることを放置し,何らの対応もとらなかった。被告らが,直接原告から販売店の勧誘行為について聴取し,当該物件についての契約締結の意思確認,リース契約の説明等を行っていれば,本件リース契約について直ちに疑義が生じたことは明らかであり,原告が契約締結させられることはなく,リース料を負担させられることもなかった。
したがって,被告らは,上記管理義務等の違反による不法行為責任を負い,被告らの責任と各提携販売店の責任とは不真正連帯債務の関係に立つ。
【被告らの主張】
否認ないし争う。
原告は,本件各契約について提携リースを前提とした主張をしているが,前記のとおり,本件は提携リースではない。被告らと各販売店とは,独立した当事者であり,被告らは,原告の主張するような各販売店に対する管理義務や,顧客に対する配慮義務を負わないから,かかる義務違反を内容とする不法行為が成立する余地はない。
(4)  代理人の不法行為に基づく被告らの不法行為責任の成否(争点4)
【原告の主張】
被告らは,各提携販売店に対し,被告らに代わってリース契約締結業務を一部ないし全部行う権限を付与しており,各提携販売店はリース契約の締結に関し被告らの代理人として行動しているものである。
したがって,リース契約締結過程において各提携販売店が行った不法行為は,いずれも各提携販売店が業務提携を行っているリース会社の代理人としての違法行為であり,その不法行為責任は本人である被告らが負う。
【被告らの主張】
被告らは,各提携販売店に対し,リース契約締結業務に関する代理権限を与えた事実はなく,事務代行を委託したにすぎない。被告らにおいて,契約の審査等をすべて独自に行っていたものである。したがって,被告らが代理人の不法行為についての責任を負う余地はない。
(5)  販売店に関する使用者責任の成否(争点5)
【原告の主張】
ア 指揮監督関係
被告らと各提携販売店との間には,具体的ないし一般的な指揮監督関係があり,使用関係が成立する。
イ 事業上の被用者の不法行為
前記のとおり,各提携販売店は,原告に対し,その判断能力が劣っている点につけ込んで,不必要なリース契約を締結させるという不法行為を行っている。
したがって,契約①及び②を原告に勧誘し締結させたダイワの不法行為については被告パナソニックが,契約③を締結させたサイバーコミュニケーションズ,契約④を締結させたアレクソンの不法行為については被告SMFLが,契約⑤及び⑥を締結させたサイバーコミュニケーションズの不法行為については被告NECが,それぞれ使用者責任を負う。
【被告らの主張】
被告らは,各販売店に対し,指揮監督関係を有しておらず,被告らと販売店との間に使用関係は存在しない。また,各販売店には,何ら不法行為は存在しない。したがって,被告らに使用者責任は成立しない。
(6)  契約の不成立(争点6)
【原告の主張】
リース契約はその構造が複雑な上,一般人には馴染みが薄く,正確にその内容を理解していることは少ない契約である。まして,発達障害のある原告には,リース契約についての正確な知識などなかった。
また,原告のもとを訪れた各販売店の担当者は,いずれも原告に対して,設置する物件やリース契約の内容を正確に説明することもなく,契約①ないし⑥の各契約書に署名押印等をさせた。
このように,原告は,契約書作成当時,本件各契約について,自分がいかなる物件についてどのような契約を締結するのかを理解しておらず,本件各契約を締結する意思などなかったものであるから,原告と被告らとの間には意思の合致がなく,本件各契約はいずれも成立していない。
【被告らの主張】
否認する。原告は,本件店舗の営業を全て仕切っていたものであり,リース契約を締結することについての判断能力に全く問題はない。
また,被告らは,本件各契約の締結の際,原告本人に対し,契約締結の意思を直接確認しており,原告の契約締結の意思は明らかである。
(7)  クーリングオフによる契約解除の可否(争点7)
【原告の主張】
ア 訪問販売に当たること
本件各契約は,いずれも平成21年12月1日施行の改正法による改正前の特定商取引法(以下,単に「特商法」という。)にいう「指定役務」に当たる(特商法施行令別表第三の2号ニ)。本件各契約においては,原告に対する各販売店によるリース契約の勧誘,各販売店からそれぞれのリース会社(被告ら)へのリース物件の販売,原告と被告ら間の本件各契約の締結は,全体として一体をなしており,かつ,被告らは,リース契約の勧誘から締結に至るまでそれぞれが業務提携している販売店をいわば手足として利用しているから,被告は特商法2条1項1号の「役務提供事業者」にあたる。
したがって,原告の所在地において締結された本件各契約は,いずれも特商法2条1項1号の「訪問販売」に該当する。
イ 特商法26条1項1号の適用除外には該当しないこと
原告は,自宅の一角にある本件店舗において,ごく小規模な茶の小売業を営んでいたにすぎず,本件各契約におけるリース物件のような高性能な各種システムは原告の営業には全く不必要なものであるから,「営業のために若しくは営業として」契約されたものでないことは明らかである。
ウ 特商法5条1項所定の書面の交付がないこと
被告らは,リース契約の勧誘に際して,特商法5条1項で定められた書面を交付する義務を負っている。しかし,本件各契約の契約書には,いずれも商品ごとの価格,商品の引渡時期,契約申込みの撤回に関する記載がないなど,特商法が定める記載(同法施行規則6条1項)がない。
したがって,本件各契約のクーリングオフ期間は未だ進行していない。
エ 原告は,平成23年11月8日,契約①及び②につき被告パナソニックに対し,契約④及び⑤につき被告SMFLに対し,契約⑤及び⑥につき被告NECに対し,特商法9条1項に基づく解除(クーリングオフ)の意思表示をした。
【被告らの主張】
本件各契約は,いずれもファイナンスリース契約であって,訪問販売ではなく,かつ前記のとおり,「リース提携販売」に該当する契約でもないから,特商法2条1項1号の適用はない。
また,原告は,事業者であり,本件各契約は,営業のためにされたものであるから,特商法26条1項1号の適用除外に該当する。
したがって,原告のクーリングオフによる解除は認められない。
(8)  心裡留保の成否(争点8)
【原告の主張】
原告は,本件各契約につき,リース契約を締結する意思を有していなかった。被告ら及び各提携販売店は,原告の判断能力に問題があり,各物件につきリース契約を締結する意思がないことを十分に認識し,若しくは少なくとも容易に知り得た。
したがって,民法93条ただし書により,本件各契約はいずれも無効である。
【被告らの主張】
否認ないし争う。原告の判断能力に問題はなく,原告が本件各契約について契約締結の意思を有していたことは明らかである。
(9)  公序良俗違反による無効の成否(争点9)
【原告の主張】
本件各契約は,いずれも被告らと業務提携をしている各販売店が,不当な利益を得る目的で,原告の判断能力が劣っている点やその人柄につけ込んで,原告にとって全く不必要な物件のリース契約を次々と締結させたものであり,その契約内容は,原告から金員を収奪する暴利行為である。
このように,本件各契約は,契約内容においても,契約締結過程の面においても,社会的に許容される範囲を大きく逸脱しており,公序良俗に反し無効である。
【被告らの主張】
本件各契約は,いずれもリース対象物件の価格も高額なものではなく,社会的に相当な契約内容であるし,契約締結過程にも何ら問題はないから,公序良俗違反には当たらない。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前記前提事実及び証拠(甲1,2,4~7,8の1~3,9の1~4,10の1~4,12~19,20の1,2,31,32,34,35,36の1~5,37~39,40の1~8,41,42,43の1~7,乙A1の1~6,2の1~6,5~9,乙B1~9,乙C1~19,21~24,丙2,3の1,2,4~17,証人E,同F,同G,原告)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)  原告の生活状況等
ア 原告は,幼い頃から知能の発達の遅れが疑われ,幼少の頃は周りから「あほぼん」と呼ばれていたこともあった。もっとも,原告は,平成24年以前は知的障害の有無等について医師の診断を受けたことはなく,小学校から高校まで普通学級に通っていた。
イ 本件店舗では,原告の母方祖父が茶の販売業を営み,同人が亡くなった後は,原告の母が本件店舗の経営を引き継ぎ,原告はその手伝いをしていた。平成10年に原告の母が亡くなった後は,原告が本件店舗の経営を引き継いだ。
ウ 原告は,平成10年以降平成23年8月までは,本件店舗を一人で経営し,問屋からの茶の仕入れや店舗での販売(茶の量り売り及び代金の授受等),日々の帳簿の記帳(納品書を確認して仕入れ金額を記帳し,売上伝票を確認して売上金額を記帳する等)を自ら行い,毎年の市民税・府民税の申告も,区役所の市民課の担当者と相談しながら自ら行っていた。また,本件店舗では,日通の宅配便も扱っており,原告は,たまに顧客から宅配便の依頼を受けることがあった。
原告は,午前7時半から午後7時半頃まで本件店舗を開店していたが,原告が母から経営を引き継いだ後は,徐々に客足が減るようになり,少ないときは週に1,2人の客しか来ず,茶の売上げも週に2000~3000円程度しかないこともあった。平成19年から平成23年までの本件店舗での年間の事業収入は,概ね60万円程度であった(甲43の2~6。なお,収入から必要経費を控除した所得でみると,年間概ね25万~29万円程度である〔甲36の1~5〕。)。
(2)  被告らと各販売店との関係等
ア 被告パナソニックとダイワとの関係等
被告パナソニックとダイワとの間に,資本上の提携関係や人事交流はない。
被告パナソニック(当時の商号:松下クレジット株式会社)とダイワは,平成13年3月,松下クレジット・リース制度取扱基本契約書を締結した(乙A5)。同基本契約には,①本契約の目的として,ダイワがその営業を推進するにあたり,被告の松下クレジット・リース制度を利用することにより,その販売を推進し,もって相互の事業の発展に資することを目的とすることが謳われ(第1条),②本制度の概要や対象商品に関する定め(第2条,第3条),③本基本契約の解除に関する定め(第8条),④信用情報機関に登録されたダイワの情報の利用に関する定め(第9条)等が置かれている。また,同基本契約書中の松下リース制度の概要を記載した箇所には,要旨,①松下リース制度の概要(被告パナソニックが審査の上承認したダイワの顧客とダイワとの間で予め選定された物件を顧客の依頼に基づき,被告パナソニックがダイワから買い受けた上当該顧客に対してリースする)に関する定め(第1条),②リースの申込みに関する定め(ダイワは,事前に被告パナソニックに対して物件等の名称,数量,仕様,納期,物件価格,リース期間等を連絡の上,同被告からリース料金等についての指示を受けるものとすること等)(第2条),③信用調査及びリース契約の成立に関する定め(被告パナソニックは,ダイワから連絡を受けた申込内容に基づき顧客の支払能力に関する信用調査を行い,その結果が同被告の基準を満たす場合は,速やかに「与信番号」をダイワに連絡し,この時をもって顧客と同被告とのリース契約が成立するものとすること等)(第3条),④ダイワ・被告間の物件の売買契約に関する定め(第4条),⑤物件の引渡しに関する定め(ダイワは,リース契約成立後,物件をリース契約書に記載の物件引渡場所に直接搬入の上,検査期限までに顧客の検査を受けるものとすること,被告パナソニックが顧客作成にかかる物件引渡確認証をダイワから受領したときに,当該物件のダイワから被告パナソニックに対する引渡し及び同被告の顧客に対する引渡しが完了するものとすること等)(第5条)等が置かれている。また,上記基本契約書には,被告パナソニックがリース契約締結に関する代理権をダイワに与える旨の規定はない。
なお,平成21年当時,被告パナソニックとダイワとの間では,1か月に2000万円前後の契約があった(証人F・2頁)。
イ 被告SMFLと各販売店(サイバーコミュニケーションズ,アレクソン)との関係等
被告SMFLと販売店であるサイバーコミュニケーションズ及びアレクソンとの間には,資本上の提携関係や人事交流はない。
被告SMFL(当時の商号:三井住友銀リース株式会社)とサイバーコミュニケーションズは,平成18年4月1日,事務協定書を締結した(乙B4)。同協定書には,①本協定が,サイバーコミュニケーションズ(以下「販売店」という。)が被告のリース契約等(以下「本契約」という。)を利用して販売促進を図り,被告は販売店が推薦する顧客と本契約を締結することにより,双方の事業の発展に資すること,また本契約の事務合理化を推進することを目的とすることが謳われ(第1条),②本契約の対象顧客に関する定め(個人事業者を含む事業者に限定すること)(第2条),③本契約の申込みと締結に関する定め(顧客より本契約利用の申出があったときは,販売店は顧客に被告SMFL所定の審査申込書に必要事項を記名,押印させ,同被告宛に申し込むこと,同被告は上記の申込みに基づき顧客の信用調査及び審査を行い,本契約締結の可否を決定すること,被告SMFLが本契約に必要な書類を受領し,所定の手続により顧客に対する契約の意思・検収確認及び連帯保証人に対する保証の意思確認をした後,同被告の指定する日を本契約の成立日とすること)(第3条)等が置かれている。また,上記事務協定書には,被告SMFLがリース契約締結に関する代理権をサイバーコミュニケーションズに与える旨の規定はない。
また,被告SMFLとアレクソンは,平成19年2月14日,上記と同内容の事務協定書を締結した(乙B5)。
被告SMFLは,契約③及び④が締結された平成18年及び平成20年当時,サイバーコミュニケーションズ及びアレクソンのいずれについても,リース物件の販売方法に問題があるといったクレームを特に聞いたことはなかった。
ウ 被告NEC及び補助参加人とサイバーコミュニケーションズとの関係等
被告NEC及び補助参加人とサイバーコミュニケーションズとの間には,資本上の提携関係や人事交流はない。
補助参加人とサイバーコミュニケーションズは,平成19年8月1日,NBリースに関する基本業務協定書を締結した(丙2)。同協定書には,①協定の目的(補助参加人とサイバーコミュニケーションズ(販売店)は,販売店が販売する商品について,補助参加人及び被告NECが与信審査を行い承認した販売店の顧客に対して「ベンダーファイナンスプログラム」(以下「本プログラム」という。)を適用するための事務手続に関する基本事項を定めることにより,良きパートナーとして互いに協力しあい,各々の業績の向上を図ることを目的すること)が謳われ(第1条),②対象契約の要件に関する定め(1顧客当たりのリース契約のリース料総額は500万円を限度とする,最長のリース期間は84か月とする等の要件を満たす必要があること等)(第2条),③本プログラムの基本的仕組みに関する定め(販売店は,本契約の定めに従いNBリース契約における補助参加人の地位を被告NECに譲渡するとともに,NBリース契約に基づく物件の所有権及びリース債権を同被告に売り渡し,同被告はこれを買い受けることを承諾し,顧客に以上の趣旨を承諾させること)(第3条),④譲渡前提手続に関する定め(販売店は,本プログラムを活用する顧客に,NBリース契約上の補助参加人の地位が被告NECに譲渡されることについての異議なき承諾を得ること,被告NECがリース契約上の貸主としてのすべての権利を有すること,物件の所有権は同被告に帰属すること,顧客は同被告に対してリース料の支払義務を負担すること等の十分な説明を行い,顧客の承諾を取り付けること)(第5条),⑤顧客の紹介・審査等に関する定め(販売店は,顧客の紹介に際し,所定の契約申込書を送付するが,この場合補助参加人は,契約申込書等をもとに,当該顧客との間のリース契約締結の可否につき与信審査を行うものとすること)(第7条)等が置かれている。また,上記基本業務協定書には,被告NECないし補助参加人がリース契約締結に関する代理権をサイバーコミュニケーションズに与える旨の規定はない。
(3)  契約③及び④の締結等
ア 原告は,平成13年頃,電話機のリースの勧誘を受けて,電話機を設置したことがあった。
その後,原告は,平成18年4月頃,サイバーコミュニケーションズから,リース物件③(卓上電話機及び主装置)の勧誘を受けた。リース物件③は,外線6チャネルと多機能電話機を10台まで収容可能な,小規模事業所向け通信システムであり,複数の電話事業者が提供するIP電話サービスに対応可能などの特長を持つ(甲15)。
原告は,同年4月11日,上記勧誘に従い,リース物件③に関するリース契約を申し込むこととし,契約③の契約書の「お申込者(借主)」欄の「会社名および代表者名」部分に「X・a店」と記入し,原告名の押印をした(甲4)。なお,同契約書の月額リース料欄の脇には,不動文字で「リース期間中は中途解約出来ません」との記載がある。
イ 原告は,平成20年6月頃,アレクソンから,パソコンを使うために必要であるなどとして,リース物件④の勧誘を受けた。リース物件④は,様々なウイルスやスパム(迷惑)メールからパソコンやサーバを防御するための総合セキュリティ機器である(甲16)。
原告は,同年6月19日,上記勧誘に従い,リース物件④に関するリース契約を申し込むこととし,契約④の契約書の「お申込者(借主)」欄の「会社名」部分に本件店舗の屋号を記載し,「代表者名」部分に原告の署名押印をした(甲5)。なお,同契約書の月額リース料欄の上部には,不動文字で「リース期間中は中途解約はできません。」との記載がある。
ウ リース物件③は,平成18年4月19日,本件店舗に設置された。被告SMFL(当時の商号は三井住友銀リース株式会社)の担当者は,同日午後4時19分頃,原告に電話をかけ,生年月日等で本人確認をした上で,予め定められた確認項目に従って,契約③の内容確認(リース物件名・台数,リース料額・リース期間・初回引落日,物件納入の有無,設置場所の確認等)及び原告の契約意思の確認を行ったところ,原告はいずれも間違いない旨を返答した(乙B6)。
リース物件④は,平成20年7月10日,本件店舗に設置された。被告SMFLの担当者は,同日午後4時29分頃,原告に電話をかけ,生年月日等で本人確認をした上で,同様に,契約④の内容確認及び原告の契約意思の確認を行ったところ,原告はいずれも間違いない旨を返答した(乙B7)。
(4)  本件店舗のホームページの開設等
原告は,平成20年頃,株式会社スカイネットという業者から,パソコンを使い,インターネット上に本件店舗のホームページを開設してはどうかとの勧誘を受けた。業者の説明によれば,ホームページを使って本件店舗の宣伝をしたり,茶の販売をすることができるということであったため,関心を持った原告は,当該業者にパソコンの購入を依頼し,併せて同業者との間で,平成20年10月1日,本件店舗のホームページの開設・管理等に関する契約を締結した(甲20の1,2)。
当該業者が作成した本件店舗のホームページ(トップページ)には,冒頭に「a店」という屋号と本件店舗の写真及び連絡先(住所・電話番号)が掲載され,原告店舗で販売されている茶が写真付きで紹介されているほか,商品を注文する際の問合せ用のメールフォームが開く仕様になっている。また,別ページには,「お茶の効能」「宇治茶の歴史」などを説明したページが存在する(乙B1)。
原告は,購入したパソコンで,時々インターネットを利用し,本件店舗のホームページを見たり,その他のウェブサイトを閲覧したりしていた。もっとも,本件店舗のホームページを見たことをきっかけとして,原告に商品の注文をしてくる客はいなかった。
(5)  契約⑤及び⑥の締結等
ア 原告は,平成20年9月頃,サイバーコミュニケーションズから,リース物件⑤の勧誘を受けた。リース物件⑤のうち,卓上電話機及び主装置は,多彩なビジネスホン機能,セキュリティ製品との連携機能,IPネットワーク機能を強化した,中小規模事業所向けビジネスホンであり,多機能電話機を最大8台まで収容可能である(甲17)。また,同物件には,無停電電源装置(入力電源が断たれても一定時間電力を供給し続けることを可能にする装置)も含まれている。
原告は,同年9月19日,上記勧誘に従い,リース物件⑤に関するリース契約を申し込むこととし,契約⑤の契約書の「リース申込者(借主)」欄の「会社名または屋号名・代表者名」部分に本件店舗の屋号を記載し,原告の署名押印をした(甲6,乙C1)。なお,同契約書には,不動文字で「お客様がリースを申し込まれる物件は,事業用として使用する事を目的とし,本契約にお申込・ご契約下さい」と記載されている。また,原告は,同時に,契約⑤の概要(月額リース料・リース期間・リース料総額,契約の目的(契約⑤は営業のために利用される物件を対象としており,特定商取引法に定めるクーリングオフの適用がないこと),契約物件,途中解約の禁止等)が記載された「電話機リース契約確認書」と題する書面の各確認欄に丸印を付け,末尾の「お申込者氏名」欄に本件店舗の屋号を記載し,原告の署名押印をした(乙C5)。
イ 原告は,同じく同年9月頃,サイバーコミュニケーションズから,落雷などで停電しても電話機やコピー機,インターネットが影響を受けないように,サーバラック及び無停電電源装置を設置した方がよいなどとして,リース物件⑥の勧誘を受けた。リース物件⑥は,ネットワーク機器,通信機器やサーバ類の収納が可能な中小企業向けの小型サーバラックであり,サーバデータ損失防止のための無停電電源装置を備えている(甲18)。
原告は,同年9月20日,上記勧誘に従い,リース物件⑥に関するリース契約を申し込むこととし,契約⑥の契約書の「リース申込者(借主)」欄の「会社名または屋号名・代表者名」部分に本件店舗の屋号を記載し,原告の署名押印をした(甲7,乙C11)。同契約書には,契約⑤と同様に,不動文字で「お客様がリースを申し込まれる物件は,事業用として使用する事を目的とし,本契約にお申込・ご契約下さい」と記載されている。また,原告は,同時に,契約⑤の場合と同様,契約⑥の概要が記載された「電話機リース契約確認書」と題する書面の各確認欄に丸印を付け,末尾の「お申込者氏名」欄に本件店舗の屋号を記載し,原告の署名押印をした(乙C15)。
ウ リース物件⑤は,平成20年9月26日,本件店舗に設置された。被告NEC(当時の商号はNECリース株式会社)の担当者は,同日午前9時21分頃,原告に電話をかけ,本人確認をした上で,予め定められたマニュアル(乙C7)に従って,契約⑤の内容確認(販売店名,リース物件名・台数,月額リース料・リース期間・リース料総額,本件リース契約が事業用であること,設置場所及び物件の納入状況,リース開始日等の確認,クーリングオフの適用がないことの確認)及び原告の契約意思の確認を行ったところ,原告はいずれも間違いない旨を返答した(乙C8)。
リース物件⑥は,同年10月2日,本件店舗に設置された。被告NECの担当者は,同日午前9時26分頃,原告に電話をかけ,本人確認をした上で,契約⑤の場合と同様に,契約⑥の内容確認及び原告の契約意思の確認を行ったところ,原告はいずれも間違いない旨を返答した(乙C17)。
(6)  契約①及び②の締結等
ア 原告は,平成21年3月頃,ダイワの担当者から,リース物件①(カラー複合機)のリース契約締結の勧誘を受けた。リース物件①は,デジタルフルカラー複合機であり,「高画質」「高効率コピー」「高機能ネットワークスキャナ」「多彩なファクス機能」「高度なセキュリティ性能」「高効率ドキュメントファイリング」等をうたい文句にしている(甲12)。
原告は,インターネット上に作成した本件店舗のホームページを印刷するなどの用途に使用したいと考え,リース物件①に関するリース契約を申し込むこととし,同年3月18日,契約①の契約書の「賃借人」欄に本件店舗の屋号を記載するとともに,署名押印した(甲1,乙A1の1)。なお,同契約書のリース期間欄の横には,不動文字で「期間中の解約はできません」との記載がある。
また,原告は,同時にダイワの担当者から,併せてリース物件②(防犯カメラ一式)のリースを勧誘された。リース物件②は,防滴赤外線カメラ及びデジタルビデオレコーダーからなる防犯カメラ一式であるが,この防犯カメラは,赤外線暗視機能と防水性等を備え,最大1週間の連続録画や,パソコンによる外部からの遠隔操作が可能なシステムである(甲13)。
原告は,防犯カメラの設置の必要性を特に感じてはいなかったものの,担当者が契約①とセットでのリース契約を強く勧めたことから,リース物件②に関する契約を申し込むこととし,同月23日,契約②の契約書の「賃借人」欄に本件店舗の屋号を記載するとともに,署名押印をした(甲2,乙A2の1)。なお,同契約書のリース期間欄の横には,不動文字で「期間中の解約はできません」との記載がある。
イ リース物件①及び②は,同月31日,本件店舗に設置された。同日午後1時50分頃,被告パナソニック(当時の商号は住信・松下フィナンシャルサービス株式会社)の法人営業担当であったF(以下「F」という。)は,原告本人に電話をかけ,生年月日等で本人確認をした上で,原告に契約書控えを手元に準備してもらい,契約確認マニュアル(乙A7)に従って,契約①の内容確認(商品名・品番・数量・設置場所の確認,リース物件の動作確認(検収),リース料の月払額・支払期間・口座振替開始月・支払総額の確認等)及び原告の契約意思の確認を行ったところ,原告はいずれも間違いない旨返答した(乙A1の3)。Fは,同日午後3時25分頃,再び原告に電話をかけ,同様に,契約②の内容確認及び原告の契約意思の確認を行ったところ,原告はいずれも間違いない旨返答した(乙A2の3)。Fは,契約①及び②のいずれについても,原告との電話でのやり取りにつき,特に不自然さや違和感を感じたことはなかった。
ウ 原告は,契約①の開始後,リース物件であるカラー複合機を継続的に利用し,1か月に平均800枚程度を印刷していた(原告13頁)。
(7)  平成23年8月19日の出来事等
ア E(以下「E」という。)は,原告といとこの関係(原告の母とEの母が姉妹)にある者であるが,平成15年に原告の父の葬儀で原告と会った後は,平成23年8月までの間,原告と会ったり連絡を取ったりすることはなかった。
イ Eは,平成23年8月19日,原告宅の隣人から,原告の様子がおかしいので至急来てほしいとの電話連絡を受け,原告宅に駆けつけた。Eが原告宅に入ると,原告が脱水症状を起こして土間に倒れており,原告の衣服には排泄物等がこびり付き,ひどく汚れていた。Eは,すぐに救急車を呼び,原告を近くの病院まで連れて行った。
本件店舗部分を含む原告宅には,所狭しと様々な物品が放置され,室内には異臭が立ちこめていた。また,ある部屋には,コピー機やビジネスホン,コンピュータ関係の機器類が山積みになっていた。
ウ Eは,同年9月以降現在に至るまで,原告宅において原告と同居し,原告の日常の世話をしたり,本件店舗の営業をするなどして生活している。
(8)  被告らに対する通知書の送付
原告は,被告ら及び補助参加人並びに各販売店に対し,平成23年11月8日付け内容証明郵便により,本件各契約につきクーリングオフを行使すること及び支払済みのリース料の返還を通知し,同通知は同月9日に被告ら及びアレクソンに,同月10日に補助参加人,ダイワ及びサイバーコミュニケーションズにそれぞれ到達した(甲8の1~3,9の1~4,10の1~4)。
(9)  原告は,平成24年7月4日,神経内科において,精神発達障害,認知症,糖尿病及び心筋梗塞との診断を受けた(甲19)。同診断書には,「見当識,計算障害あり。言語性に比べて優位の視覚性記憶障害,空間認知,注意障害,近時記憶障害が目立つ。日常生活での意思決定,判断が困難な場面が多々見受けられる。」との記載がある。
2  争点1(原告の判断能力)について
(1)  前記認定事実によれば,原告は,実母が亡くなった平成10年以降,本件店舗を一人で経営し,問屋からの茶の仕入れや店舗での販売,日々の帳簿の記帳(納品書を確認して仕入れ金額を記帳し,売上伝票を確認して売上金額を記帳する等)を自ら行っていたものである。特に,帳簿の記帳に関しては,複数の仕入れ先からの納品書を確認して,帳簿に仕入れ金額を記帳するとともに,仕入れ代金を支払った際はその支払金額を記帳し,日々の売上については売上伝票を確認して売上金額を記帳するといった相当高度な知的作業を自ら行っているし(甲40の1ないし8,41),毎年の市民税・府民税の申告も,区役所の担当者と相談しながらも自ら行っていた。
また,原告は,その本人尋問の全体を通じて,各質問者の質問の趣旨をきちんと理解し,質問に対応した分かりやすい供述をしていることが当裁判所に顕著である。そして,原告は,リース契約について「分割という意味だと思ってたんですわ」(原告4頁)と答え,毎月のリース料が原告名義の預金口座から毎月引き落とされていることも認識している(同14頁)など,本件各契約(リース契約)の概要について理解していることがうかがわれるし,クーリングオフの意味についても,「ある期間までの間にやったら,メーカー側に返すことができるということですな」(原告25頁)と供述しており,相当程度的確に説明することができている。なお,前記認定のとおり,契約①ないし④の各契約書には,中途解約ができない旨の記載があり,契約⑤及び⑥については,被告NECの担当者から原告に対する契約意思確認の電話連絡の際にクーリングオフの適用がないことの確認がされていることに照らせば,原告は,本件各契約についてクーリングオフの適用がないことも認識していたものと認められる。
以上の事実によれば,原告が本件各契約を締結するために必要な判断能力に欠けるところはないというべきであり,原告は,本件各契約の要点を十分理解した上で,別紙契約目録記載の各契約日に,本件各契約を締結したものと認めるのが相当である。
(2)  原告は,原告には精神発達遅滞の知的障害があり,見当識障害,計算障害,作業記憶障害等が認められ,本件各契約のような複雑な契約関係は理解できていない旨主張する。
しかし,本件各契約の締結当時,原告が各契約を締結するための十分な判断能力を有していたことは,上記(1)で説示したとおりである。
また,原告が主張の根拠とする診断書(甲19)は,本件各契約の締結から短いもので3年,長いもので6年以上も経過した後である平成24年7月4日に作成されたもの(甲44については本件訴訟提起後である平成26年5月29日に作成)であるから,これらは,本件各契約締結当時の原告の判断能力を左右するものではないというべきである。
したがって,原告の主張は採用できない。
3  争点2(被告らと各販売店の行為とを同一視することによる不法行為の成否)
(1)  本件各契約の性質
一般に,ファイナンスリース契約は,物件の購入を希望するユーザーに代わって,リース業者が販売業者から物件を購入の上,ユーザーに長期間これを使用させ,その購入代金に金利等の諸経費を加えたものをリース料として回収する制度であり,その実体はユーザーに対する金融上の便宜を付与するものである。
この点,本件各契約は,対象物件の種類・性質,本件各契約に係る契約書の記載内容,被告らと各販売店の関係を含む本件各契約の仕組み等に照らすと,ファイナンスリース契約に該当することが明らかである。
(2)  原告は,被告らが各販売店と密接な関係にあり,本件各契約が提携リースであることを前提として,各販売店の不法行為を被告らの不法行為と同一視すべきである旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,本件各契約において,被告らと各販売店との間に提携関係や密接な依存関係等はなく,かえって,一面では利害が相反する独立の当事者というべき関係にある(販売店は,契約が成立しさえすればリース会社から一括して物件の販売代金を受領できるのに対し,リース会社は,顧客に信用を供与することによりリスクを負担し,顧客からリース料総額に至るまでリース料の分割払を受けて初めて一定の利益を上げることができるという関係にある。)から,被告らと各販売店との行為を同一視することができる関係にあるとはいえない。そもそも,被告らと各販売店は,全く別の法人格であるから,各法人の行為は別個であるのが原則であり,本件において,被告らの行為と各販売店の行為を同一視することができるような特段の事情はうかがわれない。
したがって,本件各契約が提携リースであって被告らの行為と各販売店の行為とを同一視することができる旨の原告の主張は採用できない(その結果,仮に各販売店の勧誘行為に不適切な点があり,不法行為が成立する場合があるとしても,被告らが不法行為責任を負う根拠にはなり得ない。)。
(3)  原告は,各販売店が原告にとって全く不必要な物件についてリース契約を締結させた旨主張する。
しかし,前述したとおり,ユーザーに対する金融上の便宜を付与するというファイナンスリース契約の実体に照らせば,リース料の支払債務はリース契約の締結と同時にその全額について発生し,ユーザーに対して月々のリース料の支払という方式による期限の利益を与えるものにすぎず,リース物件の使用とリース料の支払とは対価関係に立つものではないと解されるから(最高裁判所平成5年11月25日第一小法廷判決・裁判集民事第170号553頁参照),原告と被告らとの間で本件各契約が有効に締結された以上,各リース物件が原告にとって必要であるか否かは,原告のリース料支払債務に何ら影響を及ぼすものではないというべきである。
したがって,この点に関する原告の主張も理由がない。
4  争点3(販売店の管理義務違反による不法行為の成否)
原告は,被告らは,被告らと密接な依存関係にある各提携販売店に対して,各販売店の不法行為を防止し顧客に不測の損害を与えることのないように配慮する信義則上の管理義務を負っている旨主張する。
しかし,前記説示のとおり,本件各契約において,被告らと各販売店との間に提携関係や密接な依存関係等はなく,かえって一面では利害が相反する独立の当事者というべき関係にあるから,被告らは各販売店に対し,原告が主張するような信義則上の管理義務ないし配慮義務を負うものではないというべきである。
したがって,かかる義務の存在を前提とする原告の上記主張は理由がない。
5  争点4(代理人の不法行為に基づく被告らの不法行為責任の成否)
原告は,各販売店は,本件各契約の締結に関し,被告らの代理人として行動している旨主張する。
しかし,前記認定事実によれば,各販売店は,本件各契約締結につき,リース会社たる被告らの事務代行をしているにすぎないものと認められる。被告らと各販売店との間で締結された基本協定書等にも,被告らが各販売店に代理権を授与する旨の規定はなく,その他被告らが各販売店に代理権を与えたことをうかがわせる証拠は一切ない。
したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものとして失当である。
6  争点5(販売店に関する使用者責任の成否)
(1)  原告は,被告らと各販売店との間には,具体的ないし一般的な指揮監督関係があり,使用関係が成立するから,被告らは使用者責任を負う旨主張する。
しかし,前記説示のとおり,被告らと各販売店との間には提携関係や密接な依存関係は認められず,被告らと各販売店とは独立した事業者同士と認められ,本件において,被告らが各販売店に対して使用関係に立つことをうかがわせる事情は何ら認められない。
したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものとして失当である。
(2)  以上の1ないし6で判示したところによれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の主位的請求(不法行為に基づく損害賠償請求)は理由がない。
7  争点6(契約の不成立)
原告は,本件各契約について,いかなる内容の契約を締結するのかを理解しておらず,販売店の担当者の十分な説明のないままに各契約書に署名押印させたものであるから,原告と被告らとの間には,契約締結について意思の合致がなく,本件各契約は成立していない旨主張する。
しかし,前記説示のとおり,本件各契約を締結するについて原告の判断能力に特段問題はなく,原告は,契約①ないし⑥の内容が記載された各契約書に署名押印した上で,被告らからの契約意思を確認する電話において,本件各契約を締結することに間違いはない旨答えているのであるから,本件各契約の内容を理解した上で,契約を締結したものと認められる。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
8  争点7(クーリングオフによる契約解除の可否)
(1)  特商法2条1項1号該当性について
物品のリース契約は,特商法施行令別表第三の2号にいう「物品の貸与」に該当し,特商法2条1項1号,同条4項の「指定役務」に当たるものと解される。そこで,本件各契約におけるリース物件①ないし⑥が,上記施行令別表第三の2号イないしワに該当するか否かを検討する。
リース物件①(カラー複合機)は,同号ロの「複写機」に該当し,リース物件③及び⑤(卓上電話機及び主装置)は,同号トの「電話機及びファクシミリ装置」に該当するものと解される。
リース物件②(防犯カメラ一式)は,同号ニの「防犯警報器その他の警報装置」に該当する可能性がないではないが,防犯カメラは防犯機器ではあっても「警報器」ないし「警報装置」ではないから,同号ニには当たらないというべきである。したがって,契約②は「指定役務」には該当せず,特商法2条1項1号にいう「訪問販売」には当たらない。
リース物件④(総合セキュリティ機器)及び⑥(サーバラック及び無停電電源装置)は,パソコンの関連製品であるがパソコンそのものではないため,上記別表第三の2号チの「電子計算機」には当たらないと解される。また,リース物件④は事業用が想定されていることから,同号ヘの「家庭用電気機械器具」にも当たらないと考えられる。したがって,契約④及び⑥も「指定役務」には該当せず,特商法2条1項1号にいう「訪問販売」には当たらないことになる。
(2)  特商法26条1項1号の適用除外該当性について
仮に,本件各契約が,特商法2条1項1号,同条4項にいう「指定役務」に当たるとしても,役務提供契約の申込みをした者が「営業のために若しくは営業として」契約を締結した場合には,クーリングオフの規定(同法9条)は適用されない(同法26条1項1号)。
この点,本件各契約の対象物件であるリース物件①ないし⑥は,カラー複合機,防犯カメラ,ビジネスホン(主装置及び卓上電話機),インターネットのセキュリティ対策のための総合セキュリティ機器及びサーバラック並びに無停電電源装置であり,いずれも事業者を対象とした物品であること,前記認定のとおり,原告は本件店舗において茶の小売業を営む事業者であり,リース物件①ないし⑥は本件店舗に設置され,原告はこれらのリース物件を本件店舗において使用していたこと,本件各契約の締結に際してはクーリングオフの適用がないこと(中途解約ができないこと)が明示され,原告はこれを認識して本件各契約を締結したこと(前記第3の2(1))等に照らすと,本件各契約は「営業のために若しくは営業として」締結されたものと認められる。
したがって,本件各契約は,特商法26条1項1号の適用除外に該当し,同法9条1項(クーリングオフ)の適用はない。
(3)  以上により,原告の上記主張は採用できない。
9  争点8(心裡留保の成否)
原告は,十分な判断能力を持たず,本件各契約を締結する意思を有していなかったのであり,被告らは,原告が本件各契約を締結する意思がないことを認識しもしくは容易に知り得た旨主張する。
しかし,前記説示のとおり,原告の判断能力に欠けるところはなく,原告は,本件各契約を締結する意思を有していたものと認められるから,原告の主張はその前提を欠き失当である。
10  争点9(公序良俗違反による無効の成否)
(1)  原告は,本件各契約は,契約内容においても,契約締結過程においても,社会的に許容される範囲を大きく逸脱しており,公序良俗に反し無効であると主張する。
しかし,本件各契約は,いずれもリース料総額が53万円程度から最大でも155万円程度というものであって,各契約が対象とするリース物件の内容に照らしても,社会的に許容される範囲内の商取引であることは明らかであり,暴利行為には当たらない。また,前記認定事実によれば,被告らと原告との間の契約締結過程に,社会的に許容される範囲を逸脱するような問題点は認められない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(2)  以上の7ないし10で判示したところによれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の予備的請求は理由がない。
第4  結論
以上の次第で,原告の各被告に対する主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 川淵健司)

 

〈以下省略〉

 

*******

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。